《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第3-3話「平和な村」

 シュネイの村は、周囲を丘で囲まれた盆地になっている。夏は暑く、冬は牡丹雪が降り積もる。


 狭い村なので、村民たちはだいたい知り合いだ。村民たちも、村の雰囲気も、ケネスの記憶にあるものとなんら変わっていなかった。寒暖差ははげしくて、気候は安定しないが、いつも村中にノンビリとした雰囲気が漂っている。良くも悪くも、それがシュネイの村だった。



 穏和なのは良いことだけれど、このノンビリとした雰囲気では、夢や希望といったものが見いだせない。土地を耕すか、家畜を育てるぐらいしか、やることがないのだ。平和が熟成していて、心のなかまで、腐らされる。これが厭で、ケネスは跳びだしたのだった。



「変わってないなぁ。この村」
「そりゃ1年、2年じゃ変わらないさ。この村は」



 屋根の補修をしているゴルという若大工がいた。「よぉ」とロールが手を振る。「よぉ」と若大工がカナヅチを手にしたまま振りかえす。「こいつ。ケネス。帰ってきたんだってよ」と言うと、「へぇー。あのチンチクリンかい。ずいぶんと変わったなァ」と、声が返ってきた。



 どうやらこの村人たちは、ケネスのことを完全に「チンチクリン」と認識しているらしい。



 ケネスは軽く会釈しておいた。



「村の雰囲気は変わってないけど、ロールの雰囲気は変わったよな。昔は煙草なんか吸ってなかったし」



「なんだよ。文句あんのかよ」
「もっと淑やかな女性だったじゃないか」



 ケネスと同い年のなかでは、ロールは数少ない女性だった。ケネスの初恋の相手でもあるのだ。清楚な女性だった。今みたいな荒々しい口調でもなかった。



 人は子供のままではないとはいえ、いくらなんでも変わり過ぎた。花の香りがするロールはどこにもおらず、カラダからは龍の葉の焼けた臭いばかり漂っていた。



「村を出て行ったくせに、私の性格に口出ししてんじゃないよ」
「……ゴメン」



 たしかにお節介だったかな、と思った。性格を直せと言うつもりもないし、煙草を吸うなとも言うつもりはない。ただ、その変わりようにビックリしただけだ。



 すこし気まずい空気が流れた。



 村はずれに、ケネスには見覚えのない建物が建っていた。木造のドーム状の建物だった。帝都にも同じような造りのものがあるし、各村でも見かけることがあった。冒険者ギルドだ。ドーム状になっている屋根の上には、剣と盾の模様のはいった旗がなびいていた。



「村を出ることなんてなかったのによ。もう少し待っていれば、ここにも冒険者ギルドが出来てたんだ」



「でも、当時は、まさかこの村に冒険者ギルドが出来るなんて思ってなかったし」



「平和だったからな」
「今は、そんなにモンスターが出るのか?」



「まだ人的被害は出てない。ゴブリンやスライムが、夜な夜なやって来ては、畑を荒らしやがるんだ」



「国がどうにかしてくれれば良いんだけどな」



「モンスターは民間に任せきり。この国は戦争のことしか考えてやがらねェ」



 ロールは、吸ってた煙草を投げ捨てた。
 軽く踏みつぶしていた。臓器をこぼしたモンスターの死骸のように、煙草からは龍の葉がこぼれ出ていた。



 冒険者ギルドに入った。



 部屋は円形になっており、中央にはドーナツのように中央に穴の開いたテーブルが置かれている。その穴のところに、冒険者ギルドの受付嬢がいる。



 受付嬢はたいてい、ケモミミ族と言われる人と動物の混血の女性だった。天井にはいくつもの梁が通されており、梁の上にはゴゴと言われる多色で真ん丸な鳥がとまっている。



 冒険者ギルドは情報のヤリトリに、そのゴゴと言われる鳥を使うことが多い。魔法の《通話》も便利だが、《通話》は見知った相手にしかヤリトリできないうえに、魔法を使えない者には連絡できないという不便がある。その点ゴゴは、世界各地あらゆるところに飛んで行けるというわけだ。冒険者ギルドで郵便物などを取り扱ってくれるのも、ゴゴを飼い慣らしているから出来ることだ。



「さすがに帝都ほど、人はいないな」
 と、ケネスは呟いた。



 帝都の冒険者ギルドは、冒険者たちで押し合いへし合い状態だ。それに比べると、ここは数人しかいない。



「そりゃこの村には旅人だって滅多に来ない。冒険者になってるのも、ここの村人ぐらいだからな」



「帝都はすごかったよ。クエストもらうだけでも、セイイッパイって感じだった。まぁ、オレは薬草集めぐらいしかして来なかったけどね」



「楽しかったかよ、帝都の暮らしは」



「楽しいことばかりじゃなかったけど、まあ、良いこともあった」



 帝都で暮らしたなによりの収穫は、ヴィルザと出会ったことだ。ヴィルザと出会って、ケネス・カートルドという歯車が回りはじめた感がある。


 そのヴィルザはふてくされたように黙り込んでいた。ケネスが女性と話をしていると、ヴィルザは決まって不機嫌になる。今では、あまり気にしないことにしている。後で小言を与えられるだろうけれど、どうせすぐに機嫌をなおす。



「私も――」
「え?」



「どうして1人で行ったんだよ。私も一緒に連れて行ってくれても良かったのにさ」



 ヤケにしんみりとした声音で、ロールはそう言った。



「そりゃ……だって……」



 当時のケネスは、可憐なロールに恋をしていた。会うのが辛いほどだった。ロールと会わなくなって、安堵すら感じたぐらいだ。そんな可憐な少女を、無謀な上京に付き合わせるわけにはいかない。



 その話が深入りしようとしたところで、声をかけられた。



「よォ。ロール。それから……誰だ?」



 ケネスと同じ黒髪の青年だった。ただ、やたらと目つきが悪い。ロビン・クレイ。彼もまた、ケネスと同じ世代の男子だった。

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