《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第3-1話「帰郷」
デラル山と言われる、デラル帝国でイチバン大きな山がそびえ立っているのが見える。その山のふもとに白い雲がかかり、周囲一帯は刷毛で塗ったように青い空が広がっている。視線を下げれば緑の丘陵が波打つように続いているのだが、丘と丘のあいまのすり鉢状になっているところに、1つの村の全景を見下ろすことができる。
「ふぅ。ついた」
と、ケネスは額に浮かぶ汗を、黒い外套の袖でぬぐいとった。
「おおっ。あれが、ケネスの故郷か」
「シュネイの村。なぁんにもないところだけどな」
帰省していた。
帝国と王国による戦争がはじまったことによって、ハーディアル魔術学院は一時休校となった。セッカクなので、ケネスは故郷に戻ることにしたのだ。故郷に戻るのはずっと避けていた。今では、少しは成長した姿を親に見せることが出来ると思う。1年。魔術学院で学んだのだ。
魔術学院の2年生となって、特待生として扱われている。
「ノンビリした良いところではないか」
ヴィルザはプカプカとケネスの隣に並んでいる。浮かぶことで顔の位置を合わせているのだ。
「もしかしてオレ、チョット背が伸びたんじゃないか?」
「ふむ。たしかに1年前より、頭ひとつ分ほど大きくなったかもしれんな。もしかすると、もう1年すれば高身長になったりしてな」
ヴィルザはフザケてそう言ったのだろうが、ケネスにとっては一笑で済ますことはできなかった。
高身長――。
背が低かったケネスにしてみれば、憧れなのだ。
「ヴィルザは相変わらずだな」
「私は魔神だからな。歳など取らん。100年や200年など、アッという間に過ぎてしまう。人とは流れている時間が違うでな」
ヴィルザはそう言うと、すこし物悲しそうな表情をした。
「どうかしたか?」
「いや。ケネスだけ成長していって、私だけ置いてかれるかと思うと、チッと感傷的になってしまった」
「そっか。オレが死ぬときは、看取ってくれよ」
自分の死など、ケネスにとってはずっと先のことだし、気軽にそう言った。これがヴィルザには冗談として受け取れなかったようで、その紅色の瞳がうるんでいた。
「寂しいことを言うでないわ。ケネスが死んだら、私はまた1人ボッチになるではないか」
「そしたら、また新しくヴィルザのことを見つけてくれる人が出てくるかもしれないだろ」
「私が、ケネスの死を看取らねばならんのかぁ」
すこし湿っぽい感じになったので、「もうこの話はやめようか」と切り上げることにした。
「そうじゃ。セッカク故郷に戻ってきたのに、そんな悲しい話はやめだやめ」
丘陵には、草と石とワダチだけの道がある。馬車が通ってできたワダチだろう。そこをたどって下って行く。
青臭い風がケネスの頬をナでていった。着ている黒のトンガリ帽子と、外套をはためかせた。
丘陵をくだりきる。
木造の柵で囲まれた村が近くに見えてきたのだが、なにやらモメているようだった。帝国騎士と思われる黒い布の鎧をまとった連中が、村人と怒鳴り合っている。近寄ってみた。
『だから、今月の税金はもう払ったって言ってンだろうが!』
そう荒々しい声をあげているのは、亜麻色の髪の女性だった。ふんわりとした髪が、ゆるく肩にかかっていた。太っているわけではないが、頬がふっくらとしている。そのため、幼い顔に見える。ブリオーを着ているのだが、胸元が大きく膨らんでいる。優婉な雰囲気をまとっているくせに、口調が荒々しい。
『戦争がはじまってるんだ。税金が値上がりしたんだよ』
『ウソを吐くな! 自分の懐に入れようとしてンだろ』
『バ、バカを言うなッ。人聞きの悪い!』
――という案配である。
それにしても帝国騎士にたいして、怒鳴り返すとはずいぶんと果敢な女性だ……と、他人事のように見ていたら、ふとその荒々しい女性に幼馴染の面影を見た。同じシュネイの村で育ったロール・ステラという少女がいたのだ。
「すみませんが」
と、その争いに口をはさんだ。
「あァ?」
と、女性も帝国騎士も2人して不機嫌そうな顔を向けてきた。
「税金が値上がりしたなんて話、聞いてませんけど」
ケネスはそう言って、ネックレスを帝国騎士に見せた。ガルシアからもらったネックレスだ。水晶がつるされており、そこにはドラゴンの模様が刻まれている。帝国魔法長官の印であり、身分証明になると聞いている。
帝国騎士は目をこらして、そのネックレスを注視していたのだが、いったい何なのか気づいたようだった。
「げッ」
「税金。値上がりしたんですか?」
と、もう一度尋ねた。
「こ、これは……その……まさか帝国魔法長官の命令か何かでお越しに?」
「ええ。まあ」
と、適当にこたえた。
「失礼しましたァ!」
と、帝国騎士は逃げ帰っていった。
「あ! ヤッパリ自分の懐に金を入れようとしてやがったなァ」
と、残された女性が吠えていた。
その女性とケネスが残された。互いに顔を見合わせる。
「あんだよ」
と、女性は品定めするようにケネスのことを見ていた。
「もしかして、ロールか?」
と、ケネスのほうから切り出すと、女性はビックリしたような顔をした。
「あぁ! もしかしてお前、チンチクリンのケネスか!」
ロールのほうもケネスのことを思い出したようだ。
チンチクリンという言葉が、ツボったようで、ヴィルザが腹を抱えて笑っていた。チンチクリンのヴィルザには笑われたくない。
「ふぅ。ついた」
と、ケネスは額に浮かぶ汗を、黒い外套の袖でぬぐいとった。
「おおっ。あれが、ケネスの故郷か」
「シュネイの村。なぁんにもないところだけどな」
帰省していた。
帝国と王国による戦争がはじまったことによって、ハーディアル魔術学院は一時休校となった。セッカクなので、ケネスは故郷に戻ることにしたのだ。故郷に戻るのはずっと避けていた。今では、少しは成長した姿を親に見せることが出来ると思う。1年。魔術学院で学んだのだ。
魔術学院の2年生となって、特待生として扱われている。
「ノンビリした良いところではないか」
ヴィルザはプカプカとケネスの隣に並んでいる。浮かぶことで顔の位置を合わせているのだ。
「もしかしてオレ、チョット背が伸びたんじゃないか?」
「ふむ。たしかに1年前より、頭ひとつ分ほど大きくなったかもしれんな。もしかすると、もう1年すれば高身長になったりしてな」
ヴィルザはフザケてそう言ったのだろうが、ケネスにとっては一笑で済ますことはできなかった。
高身長――。
背が低かったケネスにしてみれば、憧れなのだ。
「ヴィルザは相変わらずだな」
「私は魔神だからな。歳など取らん。100年や200年など、アッという間に過ぎてしまう。人とは流れている時間が違うでな」
ヴィルザはそう言うと、すこし物悲しそうな表情をした。
「どうかしたか?」
「いや。ケネスだけ成長していって、私だけ置いてかれるかと思うと、チッと感傷的になってしまった」
「そっか。オレが死ぬときは、看取ってくれよ」
自分の死など、ケネスにとってはずっと先のことだし、気軽にそう言った。これがヴィルザには冗談として受け取れなかったようで、その紅色の瞳がうるんでいた。
「寂しいことを言うでないわ。ケネスが死んだら、私はまた1人ボッチになるではないか」
「そしたら、また新しくヴィルザのことを見つけてくれる人が出てくるかもしれないだろ」
「私が、ケネスの死を看取らねばならんのかぁ」
すこし湿っぽい感じになったので、「もうこの話はやめようか」と切り上げることにした。
「そうじゃ。セッカク故郷に戻ってきたのに、そんな悲しい話はやめだやめ」
丘陵には、草と石とワダチだけの道がある。馬車が通ってできたワダチだろう。そこをたどって下って行く。
青臭い風がケネスの頬をナでていった。着ている黒のトンガリ帽子と、外套をはためかせた。
丘陵をくだりきる。
木造の柵で囲まれた村が近くに見えてきたのだが、なにやらモメているようだった。帝国騎士と思われる黒い布の鎧をまとった連中が、村人と怒鳴り合っている。近寄ってみた。
『だから、今月の税金はもう払ったって言ってンだろうが!』
そう荒々しい声をあげているのは、亜麻色の髪の女性だった。ふんわりとした髪が、ゆるく肩にかかっていた。太っているわけではないが、頬がふっくらとしている。そのため、幼い顔に見える。ブリオーを着ているのだが、胸元が大きく膨らんでいる。優婉な雰囲気をまとっているくせに、口調が荒々しい。
『戦争がはじまってるんだ。税金が値上がりしたんだよ』
『ウソを吐くな! 自分の懐に入れようとしてンだろ』
『バ、バカを言うなッ。人聞きの悪い!』
――という案配である。
それにしても帝国騎士にたいして、怒鳴り返すとはずいぶんと果敢な女性だ……と、他人事のように見ていたら、ふとその荒々しい女性に幼馴染の面影を見た。同じシュネイの村で育ったロール・ステラという少女がいたのだ。
「すみませんが」
と、その争いに口をはさんだ。
「あァ?」
と、女性も帝国騎士も2人して不機嫌そうな顔を向けてきた。
「税金が値上がりしたなんて話、聞いてませんけど」
ケネスはそう言って、ネックレスを帝国騎士に見せた。ガルシアからもらったネックレスだ。水晶がつるされており、そこにはドラゴンの模様が刻まれている。帝国魔法長官の印であり、身分証明になると聞いている。
帝国騎士は目をこらして、そのネックレスを注視していたのだが、いったい何なのか気づいたようだった。
「げッ」
「税金。値上がりしたんですか?」
と、もう一度尋ねた。
「こ、これは……その……まさか帝国魔法長官の命令か何かでお越しに?」
「ええ。まあ」
と、適当にこたえた。
「失礼しましたァ!」
と、帝国騎士は逃げ帰っていった。
「あ! ヤッパリ自分の懐に金を入れようとしてやがったなァ」
と、残された女性が吠えていた。
その女性とケネスが残された。互いに顔を見合わせる。
「あんだよ」
と、女性は品定めするようにケネスのことを見ていた。
「もしかして、ロールか?」
と、ケネスのほうから切り出すと、女性はビックリしたような顔をした。
「あぁ! もしかしてお前、チンチクリンのケネスか!」
ロールのほうもケネスのことを思い出したようだ。
チンチクリンという言葉が、ツボったようで、ヴィルザが腹を抱えて笑っていた。チンチクリンのヴィルザには笑われたくない。
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