《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-31話「仲直り」
翌朝。
起きると隣のベッドは空っぽになっていて、すこし寂しかった。
学校へ登校する前、身支度を整ていたら、ヨナの荷物から一通の手紙が出てきた。
「ケネスへ。この手紙を読んでいるということは、ボクはもうこの学校にいないと思う。もしかすると次は、戦場で会うことになるかもしれない。ここ数日、君と過ごせて楽しかった。ヨナより」
という、非常に短い手紙だった。
「ラブレターじゃな」
と、手紙を覗きこんでいたヴィルザが言った。
「そんなんじゃないだろ」
でも、うれしくって、手紙は大事に机のなかにしまっておいた。ヨナが王国のスパイだとわかってもなお、無事に逃げ出してくれたことが、嬉しかった。
「しかし、まさか女のくせに、男子寮にいたとはなぁ」
「それはたしかにビックリだけど」
今でも、女だという実感はなく。
友人、という意識のほうが強い。
「次会うときは、戦場。王国軍はやはり戦の準備をしているということだな」
「やだなぁ。戦場で会うのは」
3年後。もしも、ガルシアにケネス本来の実力が認められることになれば、ケネスも帝国魔術師部隊として入隊することになるはずだ。そうなれば、たしかに戦場で相対する可能性もなくはない。
「遅刻するぞ」
ヴィルザに言われて、想念を断ち切った。
「うん」
他の生徒たちに紛れて登校する。みんな黒い外套に黒のトンガリ帽子を身に着けている。黒い海のようだ。1限目は魔術実践学だったので、教室に荷物を置いて、そのまま校庭に出ることになった。
緑の芝に覆われた舞台にて、《発火》の魔法テストが行われることになった。
(そう言えば、テストをすると言ってたっけ)
ケネスは合格だった。もう一人、合格したのがロレンスだった。合格者は先に教室に戻って良いと言われた。生徒たちの賞賛を浴びながら、ロレンスとケネスは2人で教室に戻った。
「悪かったな。いろいろと」
教室に戻る道中――石造りの廊下で、ロレンスがそう切り出してきた。
「え?」
「いや。いろいろとイガみ合ってただろ」
「うん」
ロレンスのほうから親しげに話しかけてくるとは思わず、ケネスはたじろいでいた。どう返答すれば良いのかわからなかった。
「オレにはたしかに傲りがあった。自分の姉がイチバン強いと思ってたし、それしか見えていなかった。でも違ってた」
「何かあったのか?」
「ほら、先日の騒ぎ。マディシャンの杖が奪われそうになったの知ってるだろ?」
「いちおう、話だけは」
ケネスはあの場にはいなかったことになっている。あの事の顛末については、ロレンスがすべてを見ていて、それを先生たちに伝えてくれたようだった。
「怖ろしく強い漆黒の騎士を見たんだ。あれはオレの姉さんなんかよりも、もっと――いや、人間とは思えないレベルの強さだった。あの圧倒的な強さを見て、なんか目が覚めたって言うか。むしろ、清々しい気持ちになってさ。この世の中には、姉さん意外にももっと強い存在がいるんだ――って。それで、ケネスには謝っておこうと思って」
もしかして、その騎士の正体がオレだってバレてるんじゃないだろうか――とケネスは心配したのだが、どうやら、そういうわけでもなさそうだった。
「こっちも、まあ、色々とゴメン」
と、ケネスもいちおう謝っておいた。
ロレンスとはイガみ合っていたが、個人的に何かされたわけでもない。屋上で決闘をしたが、あのときはケネスが勝ったような形になった。
「《発火》のテスト合格者は、オレとお前だけだ。優秀な物同士、仲良くやろうぜ。まぁ、オレのほうが少しは優秀だけどな」
「オレは、優秀なんかじゃないよ」
と、ケネスはつぶやいた。
が、その声はロレンスには聞こえなかったようだ。
「で――さ、ちょっと頼みがあるんだけど」
と、首に腕をからませてきた。
「な、なんだよ」
「マディシャンの杖の封印の部屋を見つけ出したのは、お前だろ」
「うん」
「この学院のどこかに、漆黒の騎士がいるはずなんだ。怖ろしく強いバケモノみたいなヤツが。それを探し出してくれねェかな。お前にしか見つけ出せない気がするんだ」
それが本音なのだろう。
だから、仲直りを仕掛けてきたわけだ。
ロレンス・スプラウド。またひとり、ヴィルザの魅力にとりつかれた人間が増えた。姉弟そろって、その青い瞳を輝かせて、魔神のチカラを探し求めている。やっぱり、血は、争えない。
「こやつ、怖ろしく鋭い男じゃな」
と、ヴィルザは変なものでも見るような目で、ロレンスのことを見ていた。
たしかに、鋭い。
ヨナがスパイだと知ったわけでもないのに、何か異質なものを感じ取っていたようだったし、今度はケネスに魔神の気配を嗅ぎ取ったようだ。そういう勘の働かせかたは、優秀な姉の血を引いているのかもしれない。
「見つけてどうするんだよ」
「もちろん弟子入りする。魔法を教えてもらうんだ。そしたらきっと、姉さんに追いつくことが出来る」
「まぁ、探してはみるけど」
と、適当に返事しておいた。
「この学院には、潜んでやがるんだ。神に匹敵する魔術師のバケモノがよ」
ロレンスは、浮かれたような声音で歌うようにつぶやいていた。
いくら勘が働いても、さすがにすぐ隣にその神の亡霊がいるとは思わないだろう。赤い髪をした亡霊は、機嫌良く鼻歌をくちずさんでいた。
オレも――。
オレもこの魔神から、魔法を教えてもらう。そしてこの場所で、いつかその亡霊と対等に立てる場所へ立つのだ。
決意を秘めて、歩みを進めるのだった。
起きると隣のベッドは空っぽになっていて、すこし寂しかった。
学校へ登校する前、身支度を整ていたら、ヨナの荷物から一通の手紙が出てきた。
「ケネスへ。この手紙を読んでいるということは、ボクはもうこの学校にいないと思う。もしかすると次は、戦場で会うことになるかもしれない。ここ数日、君と過ごせて楽しかった。ヨナより」
という、非常に短い手紙だった。
「ラブレターじゃな」
と、手紙を覗きこんでいたヴィルザが言った。
「そんなんじゃないだろ」
でも、うれしくって、手紙は大事に机のなかにしまっておいた。ヨナが王国のスパイだとわかってもなお、無事に逃げ出してくれたことが、嬉しかった。
「しかし、まさか女のくせに、男子寮にいたとはなぁ」
「それはたしかにビックリだけど」
今でも、女だという実感はなく。
友人、という意識のほうが強い。
「次会うときは、戦場。王国軍はやはり戦の準備をしているということだな」
「やだなぁ。戦場で会うのは」
3年後。もしも、ガルシアにケネス本来の実力が認められることになれば、ケネスも帝国魔術師部隊として入隊することになるはずだ。そうなれば、たしかに戦場で相対する可能性もなくはない。
「遅刻するぞ」
ヴィルザに言われて、想念を断ち切った。
「うん」
他の生徒たちに紛れて登校する。みんな黒い外套に黒のトンガリ帽子を身に着けている。黒い海のようだ。1限目は魔術実践学だったので、教室に荷物を置いて、そのまま校庭に出ることになった。
緑の芝に覆われた舞台にて、《発火》の魔法テストが行われることになった。
(そう言えば、テストをすると言ってたっけ)
ケネスは合格だった。もう一人、合格したのがロレンスだった。合格者は先に教室に戻って良いと言われた。生徒たちの賞賛を浴びながら、ロレンスとケネスは2人で教室に戻った。
「悪かったな。いろいろと」
教室に戻る道中――石造りの廊下で、ロレンスがそう切り出してきた。
「え?」
「いや。いろいろとイガみ合ってただろ」
「うん」
ロレンスのほうから親しげに話しかけてくるとは思わず、ケネスはたじろいでいた。どう返答すれば良いのかわからなかった。
「オレにはたしかに傲りがあった。自分の姉がイチバン強いと思ってたし、それしか見えていなかった。でも違ってた」
「何かあったのか?」
「ほら、先日の騒ぎ。マディシャンの杖が奪われそうになったの知ってるだろ?」
「いちおう、話だけは」
ケネスはあの場にはいなかったことになっている。あの事の顛末については、ロレンスがすべてを見ていて、それを先生たちに伝えてくれたようだった。
「怖ろしく強い漆黒の騎士を見たんだ。あれはオレの姉さんなんかよりも、もっと――いや、人間とは思えないレベルの強さだった。あの圧倒的な強さを見て、なんか目が覚めたって言うか。むしろ、清々しい気持ちになってさ。この世の中には、姉さん意外にももっと強い存在がいるんだ――って。それで、ケネスには謝っておこうと思って」
もしかして、その騎士の正体がオレだってバレてるんじゃないだろうか――とケネスは心配したのだが、どうやら、そういうわけでもなさそうだった。
「こっちも、まあ、色々とゴメン」
と、ケネスもいちおう謝っておいた。
ロレンスとはイガみ合っていたが、個人的に何かされたわけでもない。屋上で決闘をしたが、あのときはケネスが勝ったような形になった。
「《発火》のテスト合格者は、オレとお前だけだ。優秀な物同士、仲良くやろうぜ。まぁ、オレのほうが少しは優秀だけどな」
「オレは、優秀なんかじゃないよ」
と、ケネスはつぶやいた。
が、その声はロレンスには聞こえなかったようだ。
「で――さ、ちょっと頼みがあるんだけど」
と、首に腕をからませてきた。
「な、なんだよ」
「マディシャンの杖の封印の部屋を見つけ出したのは、お前だろ」
「うん」
「この学院のどこかに、漆黒の騎士がいるはずなんだ。怖ろしく強いバケモノみたいなヤツが。それを探し出してくれねェかな。お前にしか見つけ出せない気がするんだ」
それが本音なのだろう。
だから、仲直りを仕掛けてきたわけだ。
ロレンス・スプラウド。またひとり、ヴィルザの魅力にとりつかれた人間が増えた。姉弟そろって、その青い瞳を輝かせて、魔神のチカラを探し求めている。やっぱり、血は、争えない。
「こやつ、怖ろしく鋭い男じゃな」
と、ヴィルザは変なものでも見るような目で、ロレンスのことを見ていた。
たしかに、鋭い。
ヨナがスパイだと知ったわけでもないのに、何か異質なものを感じ取っていたようだったし、今度はケネスに魔神の気配を嗅ぎ取ったようだ。そういう勘の働かせかたは、優秀な姉の血を引いているのかもしれない。
「見つけてどうするんだよ」
「もちろん弟子入りする。魔法を教えてもらうんだ。そしたらきっと、姉さんに追いつくことが出来る」
「まぁ、探してはみるけど」
と、適当に返事しておいた。
「この学院には、潜んでやがるんだ。神に匹敵する魔術師のバケモノがよ」
ロレンスは、浮かれたような声音で歌うようにつぶやいていた。
いくら勘が働いても、さすがにすぐ隣にその神の亡霊がいるとは思わないだろう。赤い髪をした亡霊は、機嫌良く鼻歌をくちずさんでいた。
オレも――。
オレもこの魔神から、魔法を教えてもらう。そしてこの場所で、いつかその亡霊と対等に立てる場所へ立つのだ。
決意を秘めて、歩みを進めるのだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
93
-
-
124
-
-
969
-
-
768
-
-
63
-
-
2813
-
-
381
-
-
159
-
-
0
コメント