《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-25話「杖を狙う者」
「ないな」
ヴィルザはそう言って、ハンバーガーにかぶりついた。
男子寮自室。
今日は休日なので、朝から部屋にいる。休日でも校舎の1階では飲食物が売られているので、ハンバーガーを買って戻ってきたところだ。ヨナも何か買いに行ってるようで、部屋にはいない。
ヴィルザと二人きりだ。
それを良いことに、遠慮なくヴィルザはハンバーガーにかぶりつく。
「ないって何が?」
部屋が暗く感じたので、カーテンを開けた。昼の光が入り込んできた。窓の外には校舎の背中を見ることができる。
校舎裏と男子寮のあいだは庭園のようになっており、カップルがイチャついていた。小さな羨望とネチッとした嫉妬と、それから少し微笑ましいような、複雑な気持ちになって庭園のカップルから目をそらした。
ガブッ。
ケネスの手にあるハンバーガーに、ヴィルザが食いついてくる。
「じゃからな。私は女子寮をくまなく探ってみたが、どうも呪術のカギと思われるようなものはなかった」
「じゃあ、女子寮にカギがあるというのは、考え違いだったのかな」
「あるいは、誰かに先を越されたかじゃな」
ヴィルザの口の端にケチャップがついていたので、布で拭き取ってやった。ヴィルザは目を固くつむって、顔を突き出している。まるで子供だ。
「先を越されたってことは、ロレンスが持ってるかもしれない――ってことか」
女子寮からロレンスが出てきたこと。
印象的だったので、強く覚えている。
「何が先を越されたって?」
ヨナが戻ってきて、そう尋ねてきた。ハンバーガーを不自然に突き出すようなカッコウをしていたので、あわてて自分の口に詰め込んだ。「あー」とヴィルザが残念そうな顔をする。
「実は、気になることがあってさ」
「なになに?」
最近、ケネスとヨナは互いに打ち解けあっていた。互いに気性が荒くないので、気が合った。ヨナと話していると、穏やかな波の上に揺られているような心地がした。
そんなヨナだったから、ケネスは打ち明けることができた。マディシャンの杖を探していること。封印されているであろう部屋を見つけたこと。その部屋を開けるカギを探しているが、見つからないこと。そして、ロレンスが女子寮から出てきたこと。ただ、女子寮の中に入ったことは伏せておいたし、ヴィルザのことももちろん秘密だ。
「へえ。マディシャンの杖が隠されてる部屋を見つけたんだ?」
と、ヨナは興味深そうに食いついてきた。
ヨナはどうやら果物類を買ってきたらしく、リンゴやバナナを袋から取り出した。バナナを一本分けてもらった。バーガーばっかり食べてたら太るよ――とヨナから日々注意されているのだが、ケネスが食べているわけではないので、なんとも言えない。
「でも、開かない。押しても引いてもどうにもならない」
「それでカギを探してるんだ?」
「ああ」
「ロレンスが女子寮から出てきたってことは、もうカギを手に入れてるんじゃないかな」
「かもしれない」
「ってことは、ヤバいんじゃない?」
グイッとヨナが顔を寄せてくる。女性みたいな整った顔が迫ってきたので、ケネスが顔を後ろに下げた。
「ヤバい?」
「だって、ロレンスがカギを手に入れてるなら、もうマディシャンの杖も手に入れてしまってるかも」
「あ……」
女子寮からロレンスが出てきたのを確認してからは、たしかに封印のトビラを確認していない。もうあのトビラはとっくに開けられていて、マディシャンの杖はロレンスの手に渡ったのかもしれない。
「その封印のトビラがあるところまで、様子を見に行ったほうが良いかも」
「今日は休みだから、ロレンスも寮にいるか」
開けに行こうと思えば、行けるかもしれない
ヨナに言われて、急に焦燥感がわいてきた。
マディシャンの杖――。
手にすれば持主の魔力を何倍にも増幅することが出来るというが、その代わり、精神に異常をきたすのだという。そんなものを、ロレンスに持たせたら、どうなるかわかったもんじゃない。
「案内してよ」
「わかった」
ヨナを連れて、封印トビラのある部屋まで急いだ。今日は休日で寮にいる生徒は少なくない。なのに、封印トビラがある部屋まで来ると、ひと気がなくなった。非常に入り組んでいるため、ここまでたどり着ける生徒がいないのだ。トビラまでの道には依然として不気味な騎士の鎧が構えている。
「すごい気味の悪い鎧だね」
と、ヨナも見入っていた。
鎧の間を抜けた先は、依然として薄暗くて、トビラも堅牢にその口を閉ざしたままだった。ロレンスが来ているかと思ったが、どうやら早とちりだったようだ。
「よく見つけたね。この部屋を」
と、トビラを見てヨナが感心したように言った。
「まあ、チョットいろいろあってね」
スキル《可視化》があれば、簡単にたどりつくことが出来た。逆にこのスキルがなければ、来ることは出来なかったかもしれない。その証拠に、このトビラの前に立っているとき、誰かと居合わせたことはない。
「誰だ!」
ヨナが急に声をあげて振り向いた。人影がサッと走り去って行くのが見えた。わずかにプラチナブロンドの髪が見えた気がする。
「ロレンスか?」
「わからないけど。つけられてたのかも」
ロレンスは、まだこの部屋のことを知らなかったのかもしれない。今、この部屋の在り処を教えてしまったのかもしれない。じゃあ、ロレンスはカギを手に入れて、しかも、この部屋のことも知ってしまったことになるんじゃないか?
ケネスとヨナは、ジッと顔を見合わせていた。
「とりあえず部屋に戻ろう」
どちらからともなく、そう切り出した。
振り返る。
マディシャンの杖が封印されているかもしれない――という巨大な石のトビラ。いつにも増して不気味な禍々しい空気を放っている。黒くけぶって見えた。
ヴィルザはそう言って、ハンバーガーにかぶりついた。
男子寮自室。
今日は休日なので、朝から部屋にいる。休日でも校舎の1階では飲食物が売られているので、ハンバーガーを買って戻ってきたところだ。ヨナも何か買いに行ってるようで、部屋にはいない。
ヴィルザと二人きりだ。
それを良いことに、遠慮なくヴィルザはハンバーガーにかぶりつく。
「ないって何が?」
部屋が暗く感じたので、カーテンを開けた。昼の光が入り込んできた。窓の外には校舎の背中を見ることができる。
校舎裏と男子寮のあいだは庭園のようになっており、カップルがイチャついていた。小さな羨望とネチッとした嫉妬と、それから少し微笑ましいような、複雑な気持ちになって庭園のカップルから目をそらした。
ガブッ。
ケネスの手にあるハンバーガーに、ヴィルザが食いついてくる。
「じゃからな。私は女子寮をくまなく探ってみたが、どうも呪術のカギと思われるようなものはなかった」
「じゃあ、女子寮にカギがあるというのは、考え違いだったのかな」
「あるいは、誰かに先を越されたかじゃな」
ヴィルザの口の端にケチャップがついていたので、布で拭き取ってやった。ヴィルザは目を固くつむって、顔を突き出している。まるで子供だ。
「先を越されたってことは、ロレンスが持ってるかもしれない――ってことか」
女子寮からロレンスが出てきたこと。
印象的だったので、強く覚えている。
「何が先を越されたって?」
ヨナが戻ってきて、そう尋ねてきた。ハンバーガーを不自然に突き出すようなカッコウをしていたので、あわてて自分の口に詰め込んだ。「あー」とヴィルザが残念そうな顔をする。
「実は、気になることがあってさ」
「なになに?」
最近、ケネスとヨナは互いに打ち解けあっていた。互いに気性が荒くないので、気が合った。ヨナと話していると、穏やかな波の上に揺られているような心地がした。
そんなヨナだったから、ケネスは打ち明けることができた。マディシャンの杖を探していること。封印されているであろう部屋を見つけたこと。その部屋を開けるカギを探しているが、見つからないこと。そして、ロレンスが女子寮から出てきたこと。ただ、女子寮の中に入ったことは伏せておいたし、ヴィルザのことももちろん秘密だ。
「へえ。マディシャンの杖が隠されてる部屋を見つけたんだ?」
と、ヨナは興味深そうに食いついてきた。
ヨナはどうやら果物類を買ってきたらしく、リンゴやバナナを袋から取り出した。バナナを一本分けてもらった。バーガーばっかり食べてたら太るよ――とヨナから日々注意されているのだが、ケネスが食べているわけではないので、なんとも言えない。
「でも、開かない。押しても引いてもどうにもならない」
「それでカギを探してるんだ?」
「ああ」
「ロレンスが女子寮から出てきたってことは、もうカギを手に入れてるんじゃないかな」
「かもしれない」
「ってことは、ヤバいんじゃない?」
グイッとヨナが顔を寄せてくる。女性みたいな整った顔が迫ってきたので、ケネスが顔を後ろに下げた。
「ヤバい?」
「だって、ロレンスがカギを手に入れてるなら、もうマディシャンの杖も手に入れてしまってるかも」
「あ……」
女子寮からロレンスが出てきたのを確認してからは、たしかに封印のトビラを確認していない。もうあのトビラはとっくに開けられていて、マディシャンの杖はロレンスの手に渡ったのかもしれない。
「その封印のトビラがあるところまで、様子を見に行ったほうが良いかも」
「今日は休みだから、ロレンスも寮にいるか」
開けに行こうと思えば、行けるかもしれない
ヨナに言われて、急に焦燥感がわいてきた。
マディシャンの杖――。
手にすれば持主の魔力を何倍にも増幅することが出来るというが、その代わり、精神に異常をきたすのだという。そんなものを、ロレンスに持たせたら、どうなるかわかったもんじゃない。
「案内してよ」
「わかった」
ヨナを連れて、封印トビラのある部屋まで急いだ。今日は休日で寮にいる生徒は少なくない。なのに、封印トビラがある部屋まで来ると、ひと気がなくなった。非常に入り組んでいるため、ここまでたどり着ける生徒がいないのだ。トビラまでの道には依然として不気味な騎士の鎧が構えている。
「すごい気味の悪い鎧だね」
と、ヨナも見入っていた。
鎧の間を抜けた先は、依然として薄暗くて、トビラも堅牢にその口を閉ざしたままだった。ロレンスが来ているかと思ったが、どうやら早とちりだったようだ。
「よく見つけたね。この部屋を」
と、トビラを見てヨナが感心したように言った。
「まあ、チョットいろいろあってね」
スキル《可視化》があれば、簡単にたどりつくことが出来た。逆にこのスキルがなければ、来ることは出来なかったかもしれない。その証拠に、このトビラの前に立っているとき、誰かと居合わせたことはない。
「誰だ!」
ヨナが急に声をあげて振り向いた。人影がサッと走り去って行くのが見えた。わずかにプラチナブロンドの髪が見えた気がする。
「ロレンスか?」
「わからないけど。つけられてたのかも」
ロレンスは、まだこの部屋のことを知らなかったのかもしれない。今、この部屋の在り処を教えてしまったのかもしれない。じゃあ、ロレンスはカギを手に入れて、しかも、この部屋のことも知ってしまったことになるんじゃないか?
ケネスとヨナは、ジッと顔を見合わせていた。
「とりあえず部屋に戻ろう」
どちらからともなく、そう切り出した。
振り返る。
マディシャンの杖が封印されているかもしれない――という巨大な石のトビラ。いつにも増して不気味な禍々しい空気を放っている。黒くけぶって見えた。
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