《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-23話「封印の鍵の在処」
3年だ。
3年後までに、もっと強くならなくちゃいけない。その焦りがケネスに闘志をやどらせた。
とはいっても、急に何かが変わるわけでもない。
真剣に講義を受けて、空いた時間には、ヴィルザが見繕ってくれた魔法書を読むぐらいだ。歴史学のような、聞いていても仕方がないような講義のさいには、コッソリと魔法書を読んだり、机の下で魔法陣を展開してその練習をしたりしていた。
ヴィルザは、ご機嫌斜めだった。
「あの色ガキ女め。私のケネスを汚しおった。キスしおった。許せん。今度会ったら、くびり殺してやる」
と、憤慨しているのだ。
「そんなに怒るなよ」
と、なだめると、
「ケネスもケネスじゃ。良い気になっておるんじゃないぞ。私という女がありながら、堂々と他の女からのキスをもらうなんて」
と、飛び火を食らう。
下手なことは言えない。
ロレンスとの仲は相変わらずだが、別にケンカするような事態にもなっていない。お互いに接触を避けているのだ。
ある日の夜。
久しぶりに、ヴィルザが「マディシャンの杖」が封印されている部屋を見に行こうと言い出した。ここ数日、ヴィルザの機嫌の悪い日が続いていたので、お詫びにと思って、見に行くことにした。
消灯のすこし前の時間に、封印のトビラに向かった。
うねるような廊下を抜けて行くと、門番のごとく構えた騎士の鎧がある。その2体の騎士のあいだを抜ける必要があった。何度見ても不気味な鎧だ。通るたびに動き出すんじゃないかと心配する必要があった。
騎士の鎧を抜けた先に薄暗い通路が伸びている。その最奥にて、堅牢と巨大なトビラが立ちはだかっているのは、相変わらずだ。押したり引いたりしてみても、もちろん微動だにしない。
「カギとかあるのかな?」
「たしかに、カギを使って開けるタイプの呪術のようであるな。私は呪術に関してはそこまで詳しくないからなぁ」
ヴィルザはそう言うと、鍵穴を覗きこんでいた。
その鍵穴の周囲には黒々と怪しげな記号が描かれている。これが術式なのだろう。
「いい加減、あきらめたら?」
「諦められるものか。私の封印がかかっておるのだ」
「でも、そのマディシャンの杖が呪痕なのかも、ハッキリしないんだろ」
「たしかめてみる価値はある」
マディシャンの杖。持主の魔力を何十倍にもふくらませる能力があると言う。あらためて考えてみると、スバラシイ杖だ。
「でもさ、そんな便利な杖なら、使えば良いんじゃないか? ケリュアル王国との戦争にも役立つだろうし」
ケネスが手に入れることが出来れば、3年の努力もせずとも、ヴィルザやガルシアと同等のチカラを得ることが出来るかもしれないのだ。そう思うと、欲しいと思わないでもない。
「たしかに使えるじゃろうな。が、常人には使えぬ。『マディシャンの杖』をはじめとする《神の遺物》は都合8つしかない。8大神それぞれの遺物というわけじゃ。そして《神の遺物》と言われるものを手にした者は、マトモではおれんぞ」
「マトモではおれないって、どういうこと?」
「聖人君子だった者が、そのチカラに溺れて殺人鬼になったりする。精神が錯乱する者がいれば、自死する者もいる。まあ、神のチカラに触れようとする人間どもの末路というわけだ」
《神の遺物》。
その響きには男心の昂ぶりをおぼえるが、あまりにリスクが大きすぎる。
「要するに、危険、ってことか」
「戦争の形勢が不利になりはじめたら、使われるかもしれんがな」
なるほどね、とケネスは納得して、その大きなトビラにもたれかかった。トビラはドッシリと構えており、ケネスのカラダを支えてくれた。
「カギがあるとすれば、どこじゃろうなぁ」
「女子寮だったりして」
「なぜ、そう思う?」
「男子寮に『マディシャンの杖』があるんなら、そのカギは女子寮にあったらチョウド良いだろ」
男であればカギを取りに行くことはできない。女であれば、カギを手に入れることはできても、杖を手に入れることはできない。
「それだ!」
と、ヴィルザが叫んだ。
ヴィルザの声が薄暗い通路にグワンと響いた。もっとも、他の人には聞こえない声なので、幻聴のようなものだろうが。
「何が?」
「女子寮に行こうではないか」
「無茶言うなよ。オレは男だ」
見つかったら退学か、謹慎処分をくらうかもしれない。セッカクお世話になってるのに、そんな愚行は犯したくない。だいたい、女子寮に潜入して捕まるなんてダサすぎる。
「案ずるな。《透明化》の魔法をかけてやるではないか。それで見つかる心配はない」
「いや、でも……なぁ……」
男子禁制の花園だ。
気持ちの上でも、立ち入ることに勇気が必要だった。
「まさか、ヤらしい気持を抱いているのではあるまいな?」
「そんなんじゃないって」
「なら、行けるはずであろう」
「いやいや。行けないって、それは、やっちゃいけないこと――なんだしさ」
「私の封印がかかっておるのだ」
ヴィルザは自分の存在がかかっているから必死なのだとわかる。それに比べると、ケネスの女子寮に入ってはいけないという倫理観は、チッポケなものなのかもしれない。ヴィルザのためだと思うことにした。それが、大義名分。女子寮に入ってみたいという、淡い欲望もあったから、そうやって納得することにした。
「滅多にない機会ではあるけどさ……」
3年後までに、もっと強くならなくちゃいけない。その焦りがケネスに闘志をやどらせた。
とはいっても、急に何かが変わるわけでもない。
真剣に講義を受けて、空いた時間には、ヴィルザが見繕ってくれた魔法書を読むぐらいだ。歴史学のような、聞いていても仕方がないような講義のさいには、コッソリと魔法書を読んだり、机の下で魔法陣を展開してその練習をしたりしていた。
ヴィルザは、ご機嫌斜めだった。
「あの色ガキ女め。私のケネスを汚しおった。キスしおった。許せん。今度会ったら、くびり殺してやる」
と、憤慨しているのだ。
「そんなに怒るなよ」
と、なだめると、
「ケネスもケネスじゃ。良い気になっておるんじゃないぞ。私という女がありながら、堂々と他の女からのキスをもらうなんて」
と、飛び火を食らう。
下手なことは言えない。
ロレンスとの仲は相変わらずだが、別にケンカするような事態にもなっていない。お互いに接触を避けているのだ。
ある日の夜。
久しぶりに、ヴィルザが「マディシャンの杖」が封印されている部屋を見に行こうと言い出した。ここ数日、ヴィルザの機嫌の悪い日が続いていたので、お詫びにと思って、見に行くことにした。
消灯のすこし前の時間に、封印のトビラに向かった。
うねるような廊下を抜けて行くと、門番のごとく構えた騎士の鎧がある。その2体の騎士のあいだを抜ける必要があった。何度見ても不気味な鎧だ。通るたびに動き出すんじゃないかと心配する必要があった。
騎士の鎧を抜けた先に薄暗い通路が伸びている。その最奥にて、堅牢と巨大なトビラが立ちはだかっているのは、相変わらずだ。押したり引いたりしてみても、もちろん微動だにしない。
「カギとかあるのかな?」
「たしかに、カギを使って開けるタイプの呪術のようであるな。私は呪術に関してはそこまで詳しくないからなぁ」
ヴィルザはそう言うと、鍵穴を覗きこんでいた。
その鍵穴の周囲には黒々と怪しげな記号が描かれている。これが術式なのだろう。
「いい加減、あきらめたら?」
「諦められるものか。私の封印がかかっておるのだ」
「でも、そのマディシャンの杖が呪痕なのかも、ハッキリしないんだろ」
「たしかめてみる価値はある」
マディシャンの杖。持主の魔力を何十倍にもふくらませる能力があると言う。あらためて考えてみると、スバラシイ杖だ。
「でもさ、そんな便利な杖なら、使えば良いんじゃないか? ケリュアル王国との戦争にも役立つだろうし」
ケネスが手に入れることが出来れば、3年の努力もせずとも、ヴィルザやガルシアと同等のチカラを得ることが出来るかもしれないのだ。そう思うと、欲しいと思わないでもない。
「たしかに使えるじゃろうな。が、常人には使えぬ。『マディシャンの杖』をはじめとする《神の遺物》は都合8つしかない。8大神それぞれの遺物というわけじゃ。そして《神の遺物》と言われるものを手にした者は、マトモではおれんぞ」
「マトモではおれないって、どういうこと?」
「聖人君子だった者が、そのチカラに溺れて殺人鬼になったりする。精神が錯乱する者がいれば、自死する者もいる。まあ、神のチカラに触れようとする人間どもの末路というわけだ」
《神の遺物》。
その響きには男心の昂ぶりをおぼえるが、あまりにリスクが大きすぎる。
「要するに、危険、ってことか」
「戦争の形勢が不利になりはじめたら、使われるかもしれんがな」
なるほどね、とケネスは納得して、その大きなトビラにもたれかかった。トビラはドッシリと構えており、ケネスのカラダを支えてくれた。
「カギがあるとすれば、どこじゃろうなぁ」
「女子寮だったりして」
「なぜ、そう思う?」
「男子寮に『マディシャンの杖』があるんなら、そのカギは女子寮にあったらチョウド良いだろ」
男であればカギを取りに行くことはできない。女であれば、カギを手に入れることはできても、杖を手に入れることはできない。
「それだ!」
と、ヴィルザが叫んだ。
ヴィルザの声が薄暗い通路にグワンと響いた。もっとも、他の人には聞こえない声なので、幻聴のようなものだろうが。
「何が?」
「女子寮に行こうではないか」
「無茶言うなよ。オレは男だ」
見つかったら退学か、謹慎処分をくらうかもしれない。セッカクお世話になってるのに、そんな愚行は犯したくない。だいたい、女子寮に潜入して捕まるなんてダサすぎる。
「案ずるな。《透明化》の魔法をかけてやるではないか。それで見つかる心配はない」
「いや、でも……なぁ……」
男子禁制の花園だ。
気持ちの上でも、立ち入ることに勇気が必要だった。
「まさか、ヤらしい気持を抱いているのではあるまいな?」
「そんなんじゃないって」
「なら、行けるはずであろう」
「いやいや。行けないって、それは、やっちゃいけないこと――なんだしさ」
「私の封印がかかっておるのだ」
ヴィルザは自分の存在がかかっているから必死なのだとわかる。それに比べると、ケネスの女子寮に入ってはいけないという倫理観は、チッポケなものなのかもしれない。ヴィルザのためだと思うことにした。それが、大義名分。女子寮に入ってみたいという、淡い欲望もあったから、そうやって納得することにした。
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