《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-20話「封印されたトビラ」
男子寮は5階建てになっており、全階層が吹き抜けになっている。各部屋の壁沿いにだけ通路がつながっている。
1階を見下ろすとマディシャンの石像がこちらを見つめていた。石像付近では生徒たちが談笑している様子が見える。こうして見るとシンプルな造りをしているようだが、ひとつトビラを開ければ、どこにつながっているのかわからないので、奥が深い。下手すると自分の部屋に戻って来られないかもしれない。ダンジョンよりも、迷宮だ。
「ここから、マディシャンの杖を探し出そうってのは、チョット無謀なんじゃないかな」
今日のみならず、卒業するまで見つからないかもしれない。
「なにを言うておる。ケネスには《可視化》があるだろうが。それで辺りを見渡せば、壁を見通せるのだろう」
「ああ。その手があったか」
がっくりとうなだれた。
欄干にもたれかかかる。落っこちても問題ない。生徒たちは平気で欄干から身を投げ出す。それを魔法樹が支えてくれる。
「なんじゃ。あんまり嬉しそうでないな」
と、ヴィルザはフワッと、ケネスの手前に回る。欄干の向こう。抜きぬけになっている空洞。ヴィルザのカラダは浮いている。
「オレの気持ちは、察してるんだろ。ヴィルザの封印を解くのは正直、乗気じゃないんだよ」
「わ、私が孤独のままでいても良いというのか」 ムスッと頬をふくらませている。
「この世に出てきたら、何するつもりか言ってみろよ」
「世界征服」
即答だ。
威張りながら答えた。
「ほら見ろよ。世界征服したいとか言うヤツの封印を解いてやりたいなんて、思えないだろ」
「世界を征服したら、少しは分けてやるではないか」
「そういう問題じゃないんだって」
ケネスは人間だし、なるべく世界が平穏であって欲しいと思っている。戦争だって、好きではない。
ケネスに戦う理由はないのだ。
戦争なんて、国が勝手にやっているだけだ。
「案ずることはない。1つなら何も問題はない。私の封印は8つの呪痕が潰されたとき、完全に解けることになる。7つまでなら、何も問題はない」
ヴィルザはケネスの耳元にその薄紅色の唇をよせて、やさしくそうささやいた。まさしく悪魔のささやきだった。
「じゃあ、とりあえず、探してみる」
「おう。その調子じゃ」
《可視化》
発現して周囲を見渡した。寮の壁が透けて見える。生徒たちの様子が見える。風呂に入っている者もいれば、もう就寝している者もいる。なかには勉強している者もいた。ロレンスは何をしているんだろうかと思ったが、ロレンスがどの部屋にいるのかわからなかった。
視界を遮るものがない景色のなかに、ひとつだけ異様なものを見つけた。巨大な石のトビラで封じられた部屋だった。《可視化》でも、その奥を見通すことは出来ない。ケネスのスキルがまだ未熟だからというのもあるが、部屋からケネスの《可視化》に抗うようなチカラを感じた。
「見えない部屋がある」
詳細を説明すると、ヴィルザはニンマリと笑った。
「案内せよ。そこにマディシャンの杖が隠されておるのかもしれん」
「わかった」
《可視化》があれば、滅多なことで迷うことはない。いくつものトビラを開けて、うねりにうねった通路を歩いて行くと、明かりのついていない通路にたどりついた。通路の手前には門番のように騎士の鎧が飾られていた。
「今にも動き出そうじゃな」
と、ヴィルザが脅かしてきた。たしかに動き出しそうな生々しさを秘めていたので、さっさと通り過ぎることにした。
《灯》。暗闇を払いのけて、奥へと進む。すると、堅牢とたちはだかる石のトビラの前にたどりついた。トビラの高さは5メートルほどはあるかと思われた。見上げると首が痛くなる。
あきらかに、何かを封印しているトビラだった。
そのトビラの向こうは、《可視化》のスキルを持ってしても、見通すことが出来ないようになっていた。
「簡単には開きそうにないな」
「八角封魔術とはいかずとも、かなり強固な封印術がほどこされておるな」
「オレの《可視化》のスキルで、ヴィルザのことは見えるのに、それでも見えないなんて変じゃないか?」
神の施した封印のほうが見えてしまうのは、筋が通らない。
「そりゃ八角封魔術は、もう何千年という時が経過しておるし、私のほうから見てもらおうと存在を主張しているからな。それに比べると、こっちの封印は新しいものじゃし、中にある物も存在を主張しておるわけでもなかろう」
「そういうもんか」
たしかにヴィルザの主張は激しいもんな――と納得することにした。ヴィルザの存在が周囲に見えないことのほうが不思議だ。
「魔法陣を展開せよ。建物ごと吹き飛ばしてやる」
「そ、そんなことしたら、オレが退学になる」
退学どころか、生徒が何人か死にそうだ。
「まどろっこしいことを言うなぁ」
ヴィルザは眉をしかめて、下唇をつきだした。
「だいたい建物ごと吹っ飛ばしたら、中の杖だって潰れてしまうんじゃないか?」
「それで良い。私を封印している呪痕なら、どうせ潰さねばなるまい」
神様の遺したものを潰そうとしているのだ。非常に罰当たりなことをしている気分になってくる。
まあ良い――とヴィルザは肩をすくめた。
「今日は、この部屋の場所がわかっただけでも良しとしよう」
「ああ」
そろそろ消灯時間。
ロレンスとの約束がある。
1階を見下ろすとマディシャンの石像がこちらを見つめていた。石像付近では生徒たちが談笑している様子が見える。こうして見るとシンプルな造りをしているようだが、ひとつトビラを開ければ、どこにつながっているのかわからないので、奥が深い。下手すると自分の部屋に戻って来られないかもしれない。ダンジョンよりも、迷宮だ。
「ここから、マディシャンの杖を探し出そうってのは、チョット無謀なんじゃないかな」
今日のみならず、卒業するまで見つからないかもしれない。
「なにを言うておる。ケネスには《可視化》があるだろうが。それで辺りを見渡せば、壁を見通せるのだろう」
「ああ。その手があったか」
がっくりとうなだれた。
欄干にもたれかかかる。落っこちても問題ない。生徒たちは平気で欄干から身を投げ出す。それを魔法樹が支えてくれる。
「なんじゃ。あんまり嬉しそうでないな」
と、ヴィルザはフワッと、ケネスの手前に回る。欄干の向こう。抜きぬけになっている空洞。ヴィルザのカラダは浮いている。
「オレの気持ちは、察してるんだろ。ヴィルザの封印を解くのは正直、乗気じゃないんだよ」
「わ、私が孤独のままでいても良いというのか」 ムスッと頬をふくらませている。
「この世に出てきたら、何するつもりか言ってみろよ」
「世界征服」
即答だ。
威張りながら答えた。
「ほら見ろよ。世界征服したいとか言うヤツの封印を解いてやりたいなんて、思えないだろ」
「世界を征服したら、少しは分けてやるではないか」
「そういう問題じゃないんだって」
ケネスは人間だし、なるべく世界が平穏であって欲しいと思っている。戦争だって、好きではない。
ケネスに戦う理由はないのだ。
戦争なんて、国が勝手にやっているだけだ。
「案ずることはない。1つなら何も問題はない。私の封印は8つの呪痕が潰されたとき、完全に解けることになる。7つまでなら、何も問題はない」
ヴィルザはケネスの耳元にその薄紅色の唇をよせて、やさしくそうささやいた。まさしく悪魔のささやきだった。
「じゃあ、とりあえず、探してみる」
「おう。その調子じゃ」
《可視化》
発現して周囲を見渡した。寮の壁が透けて見える。生徒たちの様子が見える。風呂に入っている者もいれば、もう就寝している者もいる。なかには勉強している者もいた。ロレンスは何をしているんだろうかと思ったが、ロレンスがどの部屋にいるのかわからなかった。
視界を遮るものがない景色のなかに、ひとつだけ異様なものを見つけた。巨大な石のトビラで封じられた部屋だった。《可視化》でも、その奥を見通すことは出来ない。ケネスのスキルがまだ未熟だからというのもあるが、部屋からケネスの《可視化》に抗うようなチカラを感じた。
「見えない部屋がある」
詳細を説明すると、ヴィルザはニンマリと笑った。
「案内せよ。そこにマディシャンの杖が隠されておるのかもしれん」
「わかった」
《可視化》があれば、滅多なことで迷うことはない。いくつものトビラを開けて、うねりにうねった通路を歩いて行くと、明かりのついていない通路にたどりついた。通路の手前には門番のように騎士の鎧が飾られていた。
「今にも動き出そうじゃな」
と、ヴィルザが脅かしてきた。たしかに動き出しそうな生々しさを秘めていたので、さっさと通り過ぎることにした。
《灯》。暗闇を払いのけて、奥へと進む。すると、堅牢とたちはだかる石のトビラの前にたどりついた。トビラの高さは5メートルほどはあるかと思われた。見上げると首が痛くなる。
あきらかに、何かを封印しているトビラだった。
そのトビラの向こうは、《可視化》のスキルを持ってしても、見通すことが出来ないようになっていた。
「簡単には開きそうにないな」
「八角封魔術とはいかずとも、かなり強固な封印術がほどこされておるな」
「オレの《可視化》のスキルで、ヴィルザのことは見えるのに、それでも見えないなんて変じゃないか?」
神の施した封印のほうが見えてしまうのは、筋が通らない。
「そりゃ八角封魔術は、もう何千年という時が経過しておるし、私のほうから見てもらおうと存在を主張しているからな。それに比べると、こっちの封印は新しいものじゃし、中にある物も存在を主張しておるわけでもなかろう」
「そういうもんか」
たしかにヴィルザの主張は激しいもんな――と納得することにした。ヴィルザの存在が周囲に見えないことのほうが不思議だ。
「魔法陣を展開せよ。建物ごと吹き飛ばしてやる」
「そ、そんなことしたら、オレが退学になる」
退学どころか、生徒が何人か死にそうだ。
「まどろっこしいことを言うなぁ」
ヴィルザは眉をしかめて、下唇をつきだした。
「だいたい建物ごと吹っ飛ばしたら、中の杖だって潰れてしまうんじゃないか?」
「それで良い。私を封印している呪痕なら、どうせ潰さねばなるまい」
神様の遺したものを潰そうとしているのだ。非常に罰当たりなことをしている気分になってくる。
まあ良い――とヴィルザは肩をすくめた。
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