《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第2-20話「封印されたトビラ」

 男子寮は5階建てになっており、全階層が吹き抜けになっている。各部屋の壁沿いにだけ通路がつながっている。



 1階を見下ろすとマディシャンの石像がこちらを見つめていた。石像付近では生徒たちが談笑している様子が見える。こうして見るとシンプルな造りをしているようだが、ひとつトビラを開ければ、どこにつながっているのかわからないので、奥が深い。下手すると自分の部屋に戻って来られないかもしれない。ダンジョンよりも、迷宮だ。



「ここから、マディシャンの杖を探し出そうってのは、チョット無謀なんじゃないかな」



 今日のみならず、卒業するまで見つからないかもしれない。



「なにを言うておる。ケネスには《可視化》があるだろうが。それで辺りを見渡せば、壁を見通せるのだろう」



「ああ。その手があったか」



 がっくりとうなだれた。
 欄干にもたれかかかる。落っこちても問題ない。生徒たちは平気で欄干から身を投げ出す。それを魔法樹が支えてくれる。



「なんじゃ。あんまり嬉しそうでないな」
 と、ヴィルザはフワッと、ケネスの手前に回る。欄干の向こう。抜きぬけになっている空洞。ヴィルザのカラダは浮いている。



「オレの気持ちは、察してるんだろ。ヴィルザの封印を解くのは正直、乗気じゃないんだよ」



「わ、私が孤独のままでいても良いというのか」 ムスッと頬をふくらませている。



「この世に出てきたら、何するつもりか言ってみろよ」
「世界征服」



 即答だ。
 威張りながら答えた。



「ほら見ろよ。世界征服したいとか言うヤツの封印を解いてやりたいなんて、思えないだろ」



「世界を征服したら、少しは分けてやるではないか」



「そういう問題じゃないんだって」



 ケネスは人間だし、なるべく世界が平穏であって欲しいと思っている。戦争だって、好きではない。



 ケネスに戦う理由はないのだ。
 戦争なんて、国が勝手にやっているだけだ。



「案ずることはない。1つなら何も問題はない。私の封印は8つの呪痕が潰されたとき、完全に解けることになる。7つまでなら、何も問題はない」



 ヴィルザはケネスの耳元にその薄紅色の唇をよせて、やさしくそうささやいた。まさしく悪魔のささやきだった。 



「じゃあ、とりあえず、探してみる」
「おう。その調子じゃ」



《可視化》
 発現して周囲を見渡した。寮の壁が透けて見える。生徒たちの様子が見える。風呂に入っている者もいれば、もう就寝している者もいる。なかには勉強している者もいた。ロレンスは何をしているんだろうかと思ったが、ロレンスがどの部屋にいるのかわからなかった。



 視界を遮るものがない景色のなかに、ひとつだけ異様なものを見つけた。巨大な石のトビラで封じられた部屋だった。《可視化》でも、その奥を見通すことは出来ない。ケネスのスキルがまだ未熟だからというのもあるが、部屋からケネスの《可視化》に抗うようなチカラを感じた。



「見えない部屋がある」
 詳細を説明すると、ヴィルザはニンマリと笑った。



「案内せよ。そこにマディシャンの杖が隠されておるのかもしれん」



「わかった」



《可視化》があれば、滅多なことで迷うことはない。いくつものトビラを開けて、うねりにうねった通路を歩いて行くと、明かりのついていない通路にたどりついた。通路の手前には門番のように騎士の鎧が飾られていた。



「今にも動き出そうじゃな」
 と、ヴィルザが脅かしてきた。たしかに動き出しそうな生々しさを秘めていたので、さっさと通り過ぎることにした。



ライト》。暗闇を払いのけて、奥へと進む。すると、堅牢とたちはだかる石のトビラの前にたどりついた。トビラの高さは5メートルほどはあるかと思われた。見上げると首が痛くなる。



 あきらかに、何かを封印しているトビラだった。



 そのトビラの向こうは、《可視化》のスキルを持ってしても、見通すことが出来ないようになっていた。



「簡単には開きそうにないな」



「八角封魔術とはいかずとも、かなり強固な封印術がほどこされておるな」



「オレの《可視化》のスキルで、ヴィルザのことは見えるのに、それでも見えないなんて変じゃないか?」



 神の施した封印のほうが見えてしまうのは、筋が通らない。



「そりゃ八角封魔術は、もう何千年という時が経過しておるし、私のほうから見てもらおうと存在を主張しているからな。それに比べると、こっちの封印は新しいものじゃし、中にある物も存在を主張しておるわけでもなかろう」



「そういうもんか」



 たしかにヴィルザの主張は激しいもんな――と納得することにした。ヴィルザの存在が周囲に見えないことのほうが不思議だ。



「魔法陣を展開せよ。建物ごと吹き飛ばしてやる」



「そ、そんなことしたら、オレが退学になる」
 退学どころか、生徒が何人か死にそうだ。



「まどろっこしいことを言うなぁ」
 ヴィルザは眉をしかめて、下唇をつきだした。



「だいたい建物ごと吹っ飛ばしたら、中の杖だって潰れてしまうんじゃないか?」



「それで良い。私を封印している呪痕なら、どうせ潰さねばなるまい」



 神様の遺したものを潰そうとしているのだ。非常に罰当たりなことをしている気分になってくる。



 まあ良い――とヴィルザは肩をすくめた。



「今日は、この部屋の場所がわかっただけでも良しとしよう」



「ああ」
 そろそろ消灯時間。
 ロレンスとの約束がある。

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