《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

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第2-5話「転移石」

 モンスター騒動は、村にいた冒険者と村人たちの活躍によっておさまった。



 ケネスは宿に戻っていた。ミノタウロスに襲われた際に、派手にシリモチをついたので、尻が泥に汚れていた。着替える必要があるのだが、なんだかそれも億劫だった。とはいえ、そのままベッドに腰かけるのはもっと最悪なので、木造の床に座り込んでいた。



 人差し指に《ライト》を発生させて、ボーッとガラスの箱に封じられた、《転移石》を見つめていた。



「なんだか変なジジィに、目をつけられたな。ケネスよ」



 ヴィルザも一緒に、《転移石》を覗きこんでいた。



「魔術師学校。ハーディアル魔術学院だってさ」



「ンなもん、行くわけなかろう。だいたいマホ教というのは、魔術の神マディシャンを崇拝しておるところだ。この私を封じ込めた、1人だ。敵だ、敵」
 と、ヴィルザはあまり乗り気ではないようだった。



 だが、ケネスは、誘いの声に傾いていた。



「なんだ。もしかして、ケネス。魔術師学校に通いたいんじゃあるまいな?」



「いや。通いたいんだけど……」



「何故」
 と、ヴィルザがぐいっと顔を寄せてくる。まるで我が子の心配をするかのような紅の瞳が、ケネスの目を覗きこんできた。



「オレも、ヴィルザに頼ってばっかりじゃダメだと思うんだ。ヤッパリ自分でも魔法を使えるようになりたいし」



 何かあるたびに、ヴィルザに頼っているのは不安がある。魔神のチカラは、迂闊に行使して良いものではない。



「ケネスがそんな心配をすることはない。そのために、私がいるではないか。私のチカラをあたかも自分のチカラのように使えば良いのだ」



「だって、それはヴィルザのチカラであって、オレのチカラじゃないだろ」



 闘技大会の活躍も、ガルシア魔法長官が目をつけているのも、帝国の危機を救ったのもケネスのチカラではない。ケネスを媒介にした、ヴィルザのチカラだ。なんだかそれじゃあ、オレはいてもいなくても一緒じゃないか……と感じていた。



「ふむ。まあ、ケネスが行きたいと言うのであれば、まあ、私も行ってやっても良いがな。手ごたえのあるヤツがおるかもしれんし」



 ヴィルザは小首をかしげながらそう言う。ケネスの指先の《ライト》が、ヴィルザの白いウナジを照らしていた。



「ヴィルザに敵うような人はいないよ」



「かもしれんな」
 と、ヴィルザは得意気に微笑んだ。



「この《転移石》ってどうやって使うんだろ」
「触れれば良い。あれと同じだ」
「あれ?」



「ほれ。このあいだ、ゲヘナ・デリュリアスという老人に、仕掛けられていた転移魔法を、ケネスが踏み抜いたであろう。触れれば発動する」



「厭なことを思い出させるなぁ」



 だから、《転移石》は直接触れることが出来ぬように、ガラスの箱で封じられているのだろう。




「しかし、ホントウに行くのか? そのハーディアル魔術学院とやらに」



「学費も免除してくれるって言ってくれてるんだから、こんなチャンスはないだろ。不都合なことがあれば、出て行けば良いんだし」



 どうせ行く当てもない。
 帝国軍人に仕立て上げられれたり、戦争に駆り出されるよりかは、まだ学校に通っている方が良い。



 ケネスは、学校というものに通ったことがない。
 魔法を鍛えたいという思いとは別に、学び舎という場所にたいして憧憬のようなものを抱いていた。



「そうじゃな」
 と、ヴィルザは歳よりみたいにうなずいた。



 ときおり、そういった物言いになるのは、やっぱり見かけによらず歳を食ってるからかもしれない。



「じゃあ、触れるよ」
《転移石》を封じているガラス箱を開けようとした。



「あ、待て待て」
 と、ヴィルザがあわてたように言った。



「なに?」



「私も同時に触れなければならん。以前、ゲヘナ・デリュリアスの転移魔法に引っかかったときは、離ればなれになってしもうたであろうが」



「ああ。そっか」
「せーの、と合図するからな」



 ヴィルザは寄る辺のなさそうな表情で、ケネスの顔を見つめてきた。そしてケネスの手を握ってきた。



 ヴィルザは、かつて世界を恐怖のドン底に叩き落とした魔神だ。しかし、そんな魔神がもっとも怖れていることがある。孤独。1人になることを極端に嫌っているのだ。この不安そうな表情も、また離ればなれになってしまうことへの懸念なのだろう。



 こういう顔をしているヴィルザを見ると、愛おしく感じてしまう。ケネスの手を握ってくるヴィルザの手は、間違いなく少女の手のそれだった。



「せーの」
 ヴィルザが合図した。

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