《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-1話「甘える魔神」
「なぁ。ケネス。ケネスってば……。聞いておるのか? なぁ、私の話を聞いてくれても良いだろう。なぁ?」
宿屋。
決して良い部屋ではない。ヘンピな村にある、ヘンピな宿屋だ。
ベッド2台が並んで、部屋がそれだけでイッパイになっている。窓もない。物置にでもいるような気分だ。ところどころ壁に隙間があって、そこから生温かい隙間風が入り込んできていた。
有り金をはたいて借りた一部屋だ。1階の大広間で雑魚寝ならば、もうすこし安くついた。わざわざ1部屋借りたのは、ヴィルザがいるからだ。ヴィルザがやたら話しかけてくる。近くに人がいると話しづらい。
世界を地獄に叩きこんだ魔神――ヴィルザハード。
地獄の窯の底から燃え上がる炎のような、真紅の髪を長く伸ばしている。同じ色の瞳を宿しており、凶悪さを誇示するかのように、頭部からは立派な巻き角を生やしている。それだけなら、ただのモンスターだ。
風貌は13、4歳といったところか。肌は透明な羽で編みこんだかのごとく、玲瓏とすみきっている。背丈はケネスの腰辺りまでしかなく、ブリオーから覗かせた腕や脚には、少女らしい丸みが帯びられている。つつましい珠のような乳房を、そのブリオーにしまいこんでいる。まだ年端もいかぬ少女といった態なのだが、実は数千年も生きている魔神というのだから、ビックリだ。
「なんだよ。どうせロクでもないこと言うんだろ」
と、ケネスはしぶしぶ反応した。
これから眠ろうとしていたところだ。重たくなったマブタをこする。
「世界征服したくないか?」
「したくない」
「えーッ。私は世界征服がしたい。世界中の人間どもといじめ抜いて、悲鳴と涙の嵐にしたいんだ」
まるで子供が砂糖菓子を買ってくれとセガムかのように、ヴィルザはそう訴えてきた。
「世界征服をするつもりなら、オレはもうヴィルザと口をきかないよ」
「えぇぇぇッ」
「なんだよ、その不服そうな声は」
「酷いッ。酷いぞ、ケネス! 私をまたあの独りボッチの孤独に置き去りにしてやろうというのかッ」
紅玉のような瞳が、涙目になっている。
わざとやっているのか、それとも素でやってるのかわからないのだが、可愛く見えてしまう。
さりとて、
「うん。そうだねー。じゃあ、一緒に世界征服しようねー」
とはならない。
断じてならない。
「まあ、封印されてたのは、カワイソウだとは思うよ。八角封魔術だっけか?」
「うむ。そうだ。おのれッ8大神め。この私に、こんな残酷な封印をしおってからにッ」
ジダンダを踏んでいる。
が、その足は床をすり抜けていた。
ヴィルザを認識できるのは、ケネスだけなのだ。ヴィルザはケネスと出会うまで、ずっと独りボッチだった。誰にも認識されることがなく、浮世のまにまに一片の葉のごとく彷徨っていたという。
それに関しては、たしかに憐憫の念を抱くこともある。でも、冷静に考えて見れば、自業自得だろ、とは思う。なにせ人間を千切っては投げて、目に入るものを破壊しつくしていたと言うのだ。封印されても仕方ない。
「オレは人間なんだ。善良な、一般帝国臣民なんだ」
「人を殺しおったがな」
と、意地の悪い目を向けてきた。
「仕方ないじゃないか!」
ベルモンド・ゴーランは事故だった。ゲヘナ・デリュリアスはホントウに仕方がなかった。ゲヘナのことは仕方ないとしても、ベルモンド・ゴーランのことは、いまでもときおり、罪悪感とともに思い出す。
「闇落ちしてしまえ。人を殺して、悪に目覚めてしまえ。そして私と一緒に、世界征服!」
どうしても、そういう方向に話を運びたいらしい。
出会った当初は、もう少し控えめだったと思う。ケネスとの関係に慣れてきたのか、このごろはヴィルザはよくしゃべりかけてくる。いつもその声は、構って欲しそうな甘えた響きを帯びていた。
「……」
ケネスは呆れて、ベッドに潜りこんだ。
「なあー。ケネスってば。もっと、おしゃべりしようではないか。なあってばー。私の話を聞いてくれよ」
と、ヴィルザが甘えた声を発する。
(こんなキャラだったか? コイツ)
こんなキャラだったようにも思うし、もっと威厳があったような気もする。とにかく、構ってもらいたくて、仕方がないらしい。
急に、ふにっ、とした感触がフトンの中に潜りこんできた。甘いミルクのような香りが、フトンの中に立ち込める。
「もっとお話しようではないか」
と、ヴィルザの顔がすぐ近くにあった。
鼻先と鼻先が軽くブツかった。ケネスの鼻先で、ヴィルザの鼻がやわらかく潰れる感触があった。柑橘系の匂いのする吐息が、ケネスの鼻の頭をくすぐった。
「だ、だから、あんまりくっ付くなって言ってるだろ!」
あわてて上体を起こした。
「照れておる、照れておる」
と、ヴィルザはうれしそうだ。
ブリオーがはだけて、肩の白い肉がかいま見えていた。赤面をおぼえて、あわてて目をそらした。
「はぁ」
魔神なのか少女なのか。信用して良いのか、警戒するべきなのか。ケネスの処女雪のような男心を踏み荒らしてくる小さくて大きな存在。この奔放な魔神をどうとらえるべきなのか、ケネスの心は定まらなかった。
宿屋。
決して良い部屋ではない。ヘンピな村にある、ヘンピな宿屋だ。
ベッド2台が並んで、部屋がそれだけでイッパイになっている。窓もない。物置にでもいるような気分だ。ところどころ壁に隙間があって、そこから生温かい隙間風が入り込んできていた。
有り金をはたいて借りた一部屋だ。1階の大広間で雑魚寝ならば、もうすこし安くついた。わざわざ1部屋借りたのは、ヴィルザがいるからだ。ヴィルザがやたら話しかけてくる。近くに人がいると話しづらい。
世界を地獄に叩きこんだ魔神――ヴィルザハード。
地獄の窯の底から燃え上がる炎のような、真紅の髪を長く伸ばしている。同じ色の瞳を宿しており、凶悪さを誇示するかのように、頭部からは立派な巻き角を生やしている。それだけなら、ただのモンスターだ。
風貌は13、4歳といったところか。肌は透明な羽で編みこんだかのごとく、玲瓏とすみきっている。背丈はケネスの腰辺りまでしかなく、ブリオーから覗かせた腕や脚には、少女らしい丸みが帯びられている。つつましい珠のような乳房を、そのブリオーにしまいこんでいる。まだ年端もいかぬ少女といった態なのだが、実は数千年も生きている魔神というのだから、ビックリだ。
「なんだよ。どうせロクでもないこと言うんだろ」
と、ケネスはしぶしぶ反応した。
これから眠ろうとしていたところだ。重たくなったマブタをこする。
「世界征服したくないか?」
「したくない」
「えーッ。私は世界征服がしたい。世界中の人間どもといじめ抜いて、悲鳴と涙の嵐にしたいんだ」
まるで子供が砂糖菓子を買ってくれとセガムかのように、ヴィルザはそう訴えてきた。
「世界征服をするつもりなら、オレはもうヴィルザと口をきかないよ」
「えぇぇぇッ」
「なんだよ、その不服そうな声は」
「酷いッ。酷いぞ、ケネス! 私をまたあの独りボッチの孤独に置き去りにしてやろうというのかッ」
紅玉のような瞳が、涙目になっている。
わざとやっているのか、それとも素でやってるのかわからないのだが、可愛く見えてしまう。
さりとて、
「うん。そうだねー。じゃあ、一緒に世界征服しようねー」
とはならない。
断じてならない。
「まあ、封印されてたのは、カワイソウだとは思うよ。八角封魔術だっけか?」
「うむ。そうだ。おのれッ8大神め。この私に、こんな残酷な封印をしおってからにッ」
ジダンダを踏んでいる。
が、その足は床をすり抜けていた。
ヴィルザを認識できるのは、ケネスだけなのだ。ヴィルザはケネスと出会うまで、ずっと独りボッチだった。誰にも認識されることがなく、浮世のまにまに一片の葉のごとく彷徨っていたという。
それに関しては、たしかに憐憫の念を抱くこともある。でも、冷静に考えて見れば、自業自得だろ、とは思う。なにせ人間を千切っては投げて、目に入るものを破壊しつくしていたと言うのだ。封印されても仕方ない。
「オレは人間なんだ。善良な、一般帝国臣民なんだ」
「人を殺しおったがな」
と、意地の悪い目を向けてきた。
「仕方ないじゃないか!」
ベルモンド・ゴーランは事故だった。ゲヘナ・デリュリアスはホントウに仕方がなかった。ゲヘナのことは仕方ないとしても、ベルモンド・ゴーランのことは、いまでもときおり、罪悪感とともに思い出す。
「闇落ちしてしまえ。人を殺して、悪に目覚めてしまえ。そして私と一緒に、世界征服!」
どうしても、そういう方向に話を運びたいらしい。
出会った当初は、もう少し控えめだったと思う。ケネスとの関係に慣れてきたのか、このごろはヴィルザはよくしゃべりかけてくる。いつもその声は、構って欲しそうな甘えた響きを帯びていた。
「……」
ケネスは呆れて、ベッドに潜りこんだ。
「なあー。ケネスってば。もっと、おしゃべりしようではないか。なあってばー。私の話を聞いてくれよ」
と、ヴィルザが甘えた声を発する。
(こんなキャラだったか? コイツ)
こんなキャラだったようにも思うし、もっと威厳があったような気もする。とにかく、構ってもらいたくて、仕方がないらしい。
急に、ふにっ、とした感触がフトンの中に潜りこんできた。甘いミルクのような香りが、フトンの中に立ち込める。
「もっとお話しようではないか」
と、ヴィルザの顔がすぐ近くにあった。
鼻先と鼻先が軽くブツかった。ケネスの鼻先で、ヴィルザの鼻がやわらかく潰れる感触があった。柑橘系の匂いのする吐息が、ケネスの鼻の頭をくすぐった。
「だ、だから、あんまりくっ付くなって言ってるだろ!」
あわてて上体を起こした。
「照れておる、照れておる」
と、ヴィルザはうれしそうだ。
ブリオーがはだけて、肩の白い肉がかいま見えていた。赤面をおぼえて、あわてて目をそらした。
「はぁ」
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