《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第39話「決着」
ゲヘナは《透明化》を使って裏路地へと逃げ出した。ケネスの目は、それを見通していた。
「あのー。すみません」
木箱の片隅に隠れているゲヘナに声をかけた。ゲヘナはまさか見つかるとは思っていなかったようだ。「ひっ」という悲鳴を漏らして、あわてた様子で、飛びずさった。
「どういうわけか知らんが、見えているようじゃな」
「あ、はい。オレのスキルで――っと」
スキルのことを口走りそうになったが、あわてて口をつぐんだ。無闇にスキルのことを他人に教えてはいけないと、最近になって学習したのだ。自分のスキルがたいしたものだと考えていなかったし、別にそれほどの秘匿性を感じなかった。が、これからはちゃんと隠していく必要がある。まさか誰かに露見することはないだろうが、ケネスの目が魔神を見ていると知られると厄介だ。
「ワシは手を引く。王国軍にも撤退させる。コゾウのチカラには降参じゃ」
ゲヘナは両手をあげてみせた。
それでも、《透明化》だけはとかなかった。
「逃げるのは構わないんですけど、この瘴気を消す方法を教えてもらいたいんですけど」
「瘴気? まさか、見えておるのか」
「ええ」
紫色のモウロウとしたものが、漂っているのだ。《可視化》で見えているので、ほかの者には見えていないようだ。この瘴気は呪術によるものだ。そして、その呪術の発現者がゲヘナであれば、ゲヘナにも見えているのが筋だろう。
「なになに。案ずることはない。この瘴気はやがて時間が経てば来てくれる」
ゲヘナは何でもないことのように言った。
なら安心だと、胸をナでおろそうとしたとき。
「ウソだな」
と、ヴィルザが口をはさんだ。
もっともヴィルザの声は、ケネスにしか聞き取れない。
「ウソ?」
「うむ。あのゲヘナとかいうコゾウは、ウソを吐いておる」
「コゾウって……」
どう見ても、もう80歳は越えるような御老体である。だが、数千年も生きているヴィルザからしてみれば20歳だろうが、100歳だろうがコゾウなのかもしれない。
「おそらくだが、あの呪術師を殺さねば呪術が解けることはなかろう」
「それは厄介だな」
「それに敵の首謀者の首を捧げれば、コゾウの立場を少しは良くしてくれるかもしれんぞ」
ヴィルザの目には殺意がひそんでいた。それは憎悪や怨恨から殺意を抱くものの目ではない。殺すことを享楽と考えている者の目だった。ケネスはいまだにヴィルザにたいして、完全に心を許したわけではない。けれど、チカラを借りているし、何度も危ないところを救ってくれている。
今回の騒動で、少しは信用している。
「じゃあ、殺すしかないか」
人殺しは好きではない。
好きではないが、ここで今回の首謀者をみすみし取り逃がすほうが、帝国的には罪に問われそうだ。なにより、殺さねば術が解けないなら、やむを得ない。
「ま、待て。ワシを殺すというのは早計じゃ。ワシを殺せば、帝都にいる者たちもみんな死ぬことになるぞ」
その言葉は、ケネスを怯ませた。
「ウソだな。保身のためのタワゴトだ。人間というのは、自分の身を守るためには、どんなウソでも吐く」
たしかにその通りだ。
ケネスも王国軍によって檻に閉じ込められたとき、同じようなウソを吐いた。その経験からいっても、ゲヘナがウソを吐いているのはわかる。
「殺すか」
ベルモンド・ゴーランを殺した罪は、今回の奇襲作戦の敵の首をもってして許してもらうとしよう。
「おのれッ」
ゲヘナはこちらに完全に背中を見せて、走りだした。老人とは思えない速度の速さだ。とはいえこの裏路地は真っ直ぐ一本道。ケネスが魔法陣を展開する。ヴィルザが魔法を発動する。魔法陣からは巨大な鉄の槍が召喚される。
そして。
ゲヘナ・デリュリアスの背中へと突き刺さった。
「ぐっ……ぐほぉ」
と、ゲヘナ・デリュリアスは血反吐を吐いていた。がっくりとうなだれた。最後のチカラを振りしぼるかのように、首だけこっちへと向けた。アゴが血で染まっている。鬼気迫る凄絶な笑みが、その顔には浮かべられていた。
「わ、ワシを殺して、呪術はたしかに消える。しかし、帝都に死の嵐が吹き荒れるであろう」
そして、完全に弛緩した。
死んだようだ。
なんだかここ数日で、人の死体にも見慣れてしまった。今でも、あんまり気持良い感触は抱かない。けれどもう、死体を見て怖れる気持はなかった。
「あのー。すみません」
木箱の片隅に隠れているゲヘナに声をかけた。ゲヘナはまさか見つかるとは思っていなかったようだ。「ひっ」という悲鳴を漏らして、あわてた様子で、飛びずさった。
「どういうわけか知らんが、見えているようじゃな」
「あ、はい。オレのスキルで――っと」
スキルのことを口走りそうになったが、あわてて口をつぐんだ。無闇にスキルのことを他人に教えてはいけないと、最近になって学習したのだ。自分のスキルがたいしたものだと考えていなかったし、別にそれほどの秘匿性を感じなかった。が、これからはちゃんと隠していく必要がある。まさか誰かに露見することはないだろうが、ケネスの目が魔神を見ていると知られると厄介だ。
「ワシは手を引く。王国軍にも撤退させる。コゾウのチカラには降参じゃ」
ゲヘナは両手をあげてみせた。
それでも、《透明化》だけはとかなかった。
「逃げるのは構わないんですけど、この瘴気を消す方法を教えてもらいたいんですけど」
「瘴気? まさか、見えておるのか」
「ええ」
紫色のモウロウとしたものが、漂っているのだ。《可視化》で見えているので、ほかの者には見えていないようだ。この瘴気は呪術によるものだ。そして、その呪術の発現者がゲヘナであれば、ゲヘナにも見えているのが筋だろう。
「なになに。案ずることはない。この瘴気はやがて時間が経てば来てくれる」
ゲヘナは何でもないことのように言った。
なら安心だと、胸をナでおろそうとしたとき。
「ウソだな」
と、ヴィルザが口をはさんだ。
もっともヴィルザの声は、ケネスにしか聞き取れない。
「ウソ?」
「うむ。あのゲヘナとかいうコゾウは、ウソを吐いておる」
「コゾウって……」
どう見ても、もう80歳は越えるような御老体である。だが、数千年も生きているヴィルザからしてみれば20歳だろうが、100歳だろうがコゾウなのかもしれない。
「おそらくだが、あの呪術師を殺さねば呪術が解けることはなかろう」
「それは厄介だな」
「それに敵の首謀者の首を捧げれば、コゾウの立場を少しは良くしてくれるかもしれんぞ」
ヴィルザの目には殺意がひそんでいた。それは憎悪や怨恨から殺意を抱くものの目ではない。殺すことを享楽と考えている者の目だった。ケネスはいまだにヴィルザにたいして、完全に心を許したわけではない。けれど、チカラを借りているし、何度も危ないところを救ってくれている。
今回の騒動で、少しは信用している。
「じゃあ、殺すしかないか」
人殺しは好きではない。
好きではないが、ここで今回の首謀者をみすみし取り逃がすほうが、帝国的には罪に問われそうだ。なにより、殺さねば術が解けないなら、やむを得ない。
「ま、待て。ワシを殺すというのは早計じゃ。ワシを殺せば、帝都にいる者たちもみんな死ぬことになるぞ」
その言葉は、ケネスを怯ませた。
「ウソだな。保身のためのタワゴトだ。人間というのは、自分の身を守るためには、どんなウソでも吐く」
たしかにその通りだ。
ケネスも王国軍によって檻に閉じ込められたとき、同じようなウソを吐いた。その経験からいっても、ゲヘナがウソを吐いているのはわかる。
「殺すか」
ベルモンド・ゴーランを殺した罪は、今回の奇襲作戦の敵の首をもってして許してもらうとしよう。
「おのれッ」
ゲヘナはこちらに完全に背中を見せて、走りだした。老人とは思えない速度の速さだ。とはいえこの裏路地は真っ直ぐ一本道。ケネスが魔法陣を展開する。ヴィルザが魔法を発動する。魔法陣からは巨大な鉄の槍が召喚される。
そして。
ゲヘナ・デリュリアスの背中へと突き刺さった。
「ぐっ……ぐほぉ」
と、ゲヘナ・デリュリアスは血反吐を吐いていた。がっくりとうなだれた。最後のチカラを振りしぼるかのように、首だけこっちへと向けた。アゴが血で染まっている。鬼気迫る凄絶な笑みが、その顔には浮かべられていた。
「わ、ワシを殺して、呪術はたしかに消える。しかし、帝都に死の嵐が吹き荒れるであろう」
そして、完全に弛緩した。
死んだようだ。
なんだかここ数日で、人の死体にも見慣れてしまった。今でも、あんまり気持良い感触は抱かない。けれどもう、死体を見て怖れる気持はなかった。
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コメント
ノベルバユーザー301626
頑張ってくださいね( ´ ▽ ` )ノ
執筆用bot E-021番
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