《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

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第31話「救助」

 しばらく目を閉ざしていた。
 痛みは襲って来ない。
 おそるおそる目を開ける。



 ケネスに槍を突き出したはずの魔術師は、なぜか串刺しになっていた。地面から鉄の張りが突き出されていて、それが魔術師の尻から脳天めがけて貫いているのだった。



「うぇ」
 グロすぎる。
 吐き気がこみ上げてきた。



「コゾウ。無事であったか」



 聞きなれた声。
 その声を聞くだけで、込み上げてきた吐き気は下がってゆく。恐怖や怯えはたちまち色あせていく。



「ヴィルザか!」



「まったく転移魔法なんか踏み抜きおってからに。一時はどうなるかと思うたぞ」



 ケネスを閉じ込めていた鉄檻が溶けていった。おかげでケネスは檻から抜け出すことができた。



 火系最上位魔法の《溶解デソリューション》じゃ――と、わざわざ教えてくれる。



「助かった。殺されるところだった」



 ヴィルザは、空中にふわふわと飛んでいた。ケネスの近くにはロウソクが明かりとしてともされていた。ケネスや串刺しにされている魔術師の影は映しているが、ヴィルザの影はなかった。



「ホントウに心配をかけおってからに。私はコゾウがおらんと、この世界に干渉することが出来んのだから。また一人ぼっちになるかと思うたわ」



 ヴィルザの紅色の瞳には、涙が浮かんでいた。 数千年生きているのに、カワイイところもある。



「ありがとう」
 素直に感謝だ。
 あやうく殺されるところだったのだから。



「別に礼はいらん。ケネスのことを助けたのは、この私自身のためでもあるからな」



 ヴィルザはソッポを向いてそう言った。照れているのかもしれない。



 ひぇぇ――という悲鳴があがった。



 そう言えば、ケネスのことを見張っていた魔術師がもう一人いたのだ。腰をヌかしている。哀れになるほど怯えていた。



「そ、その檻には、ゲヘナさまがかけた呪術がかかっていたはずだ。どうやって、魔法を使ったッ」



 そう言えば、ゲヘナはそんなことを言っていた。



「どうやって――なんだろうか?」



 ケネスはヴィルザに話を振る。
 ケネスはヴィルザに話を振っているつもりでも、はたから見ればケネスが1人でブツブツ呟いているようにしか見えないのだろう。



「この程度の呪術で、この私の魔法を封じるとは笑わせてくれる。ついでに、この転移術式も潰しておくか」



 大空洞の床には、大きな六芒星の絵が描かれている。王国騎士が転移のために使っていた術式だ。



 ヴィルザは、ケネスに視線を送ってくる。アウンの呼吸で、魔法陣を展開する。……Fラン冒険者と、最強の魔神とでアウンの仲というのも、考えてみれば妙な組み合わせだ。



 ケネスが発動した魔法陣から、ヴィルザの魔法が放たれた。



 雲霞が晴れるかのように、洞窟の天井が切り開かれてゆく。空からはまばゆい陽光が落ちてくる。洞窟の天井にポッカリと穴が開いたのだ。



「うわぁ」



 あまりに規模の大きな魔法に、ケネスは感嘆の声を発した。



「まだまだ、こんなものではない」
 ヴィルザが得意気に微笑む。



 さらには地面が割れて、水流が跳びだしてきた。地面に描かれた術式は完全に崩れて行く。



「うわわっ」
 足元から水があふれてきて、ケネスも呑み込まれそうになった。



「案ずるな。水が押し上げてくれる」
「へ?」



 地面から吹き出してきた水が、ケネスのことをいっきに地上まで押し上げた。まるで空へと流れ落ちる滝だ。それに押し上げられるというのも、信じられないことだった。無事に洞窟から脱出できた。



 丘陵が広がっていた。
 久しぶりに地上に出た気がする。



 カラッとした丘陵を吹く風に当てられて、洞窟の中にジメジメとした空気が払拭される心地だった。



 すぐ近くには帝都を囲う城壁が見えているから、そんなに離れた場所に転移させられたわけじゃなさそうだ。

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