《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

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第19話「孤独の放浪者 帰還」

 刹那ーー。


 スライムの腕に魔法陣があらわれた。スライムの腕輪のようなカッコウだった。スライムの腕が溶けてゆく。そのおかげで、テイラは解放された。マスクが助けてくれたのかと思った。しかし、マスクはまだスライムと格闘中だった。



 1人。
 魔法陣を展開している人物がいた。



 ケネス・カートルド。
 戦力にならないと思って、まるで換算していなかった。



 スライムたちの足元に魔法陣が展開されていく。鉄の槍が地面から突き出してきた。スライムは串刺しにされていった。串刺しにされたスライムは、次から次へと溶けてゆく。串刺しをまぬがれた数匹のスライムが、ケネスに踊りかかる。



 ケネスは魔法陣をさらに展開すると、スライムたちを一瞬にして溶かしてしまった。



 ウソ……。
 驚愕を通り越して、唖然である。



 テイラは魔法についてそこまで詳しい知識を持っていない。それでも、それがスゴイことだとはわかる。鉄の槍を地面から突き出していた。鉄を使う魔法は、土系上位魔法だ。なによりも最後の魔法。炎や風を出すことなく、スライムを溶かしていった。自然界のものを出現させずに、現象だけを起こすその魔法は――。



「最上位魔法……」



 上位魔法を使える魔術師ですら、尊敬に値する。基礎魔法を使いこなすマスクだって、尊敬されて良いレベルなのだ。最上位魔法を使える魔術師なんて、帝国内でも100人いるかいないか――という程度だと聞いたことがある。



 見間違いか?
 そんなわけない。



 実際、彼の魔法がテイラたちを救ったのである。周囲に溶けているスライムが、何よりの証拠だろう。



「うぉぉぉッ。すげぇェェッ」
 と、絶叫を放ったのはマスクである。



 もはや普段の口調の片りんもない。
 そんな声になるのもムリはない。



 最上位魔法なんて見たのは、はじめてだった。そんなスゴイ人と一緒に仕事をする機会なんて、そうそうありはしないのだ。強い人は、もっと難しい仕事を行うものだ。



「大丈夫ですか?」



 そのケネスが、テイラのことを引っ張り起こしてくれる。都合の良い話かもしれないが、圧倒的なチカラを見せて、助け起こされると、彼の姿が輝かしい王子のように見えた。



「ありがとう。いえ、ありがとうございます。それと、申し訳ありませんでした」



「え、何が?」



「Fランク冒険者だと聞いていたから、弱いと思ってしまっていて、侮ってしまっていました」



 ケネスは、照れるような仕草をした。



「うん。まぁ……オレは強くないですからね」



「それは御謙遜ですッ。しかし、それだけのチカラがありながら、どうしてFランク冒険者なんですか?」



「あー」
 と、ケネスは応えあぐねているようだ。



「テイラよ。余計なセンサクはやめておこう。きっと、何か事情があるのだろう」



 ガルがそう言った。
 事情――。
 そう聞いて、脳裏にひらめくものがあった。



 きっと、何かチカラを隠さなければならない事情があるのだ。だから弱いフリをしていたのだろう。そうとわかれば、彼のいかにも小物めいた姿にも納得がいくのだった。



「も、申し訳ありません。余計なセンサクでした」



「別にそんな謝ることないですよ。それより、ここを出てしまいましょう。また、スライムが来るとも限りませんから」



 ケネスのその言葉を聞いて、ハッとした。
 たしかに、その通りだ。



 また、あのスライムに襲われたらひとたまりもない。食われそうになった恐怖は、鮮明にテイラの脳裏に焼き付いていた。しかし、恐怖の色が濃厚だっただけに、助けられた感動も強く記憶されるのだった。

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