うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

94話



 結局桜は平山の全ての界門にシェアサイクリングの勢いで一輪バイクとホバーボードを配置した。

 平山界門であらば二層の豚ゾーン。
 狐山界門には一層の米ゾーンの畦道。
 赤髪界門には一層の竹ゾーン。
 姫ロリ界門は一層の煙草雄羊ゾーン。
 ドロリッチ界門は四層杏ゾーン。

 それぞれにご自由にどうぞと言わんばかりに放置されているのだが、それらは不良サッカー部の格好のオモチャとなった。

 最初は自在に空を飛び回って遊び、次第に鬼ごっこを始めて楽しんでいたが、ある人物の気配を感じ取ると同時に全員は何事も無かったかのようにホバーボードの浮力を利用して牛を運び始めた。

「楽してやがんなぁ」

「ちが、ちがうす! 効率化す! 見てください、ほら」

 頭をガシッと掴まれた銀髪君は必死で抗いながらに足を震わせて牛を一人で持ち上げる。
 四人がかりで持っていたのに大進歩である。

「やっぱり勝手に潜ってやがったかぁ!」

「ビンタ?! なんか機嫌わるいすか!?」

 タキオである。
 ゴルゴみたいなサングラスをかけてスーパーヤカラのお兄さんを演出しているが、タキオが進んでいじめるのは銀髪君とシシオと金髪リーゼントぐらいである。

 豚運びと牛運びのハードトレーニングを課したままに放置していた癖に、久しく登場してはいきなりビンタとは頭がおかしいとしか思えない。

 しかし彼なりにも考えがあるのだろう。

「お前ら牛卒業。鰐行くぞ鰐!」

「まぁじすか! やった! みんな鰐だってよ! 鰐やっていいってさ!」

 不良達は踊り狂いながらに集合し、ホバーボードに乗ったままに五層へと向かう。

「まず、ここで友達になってくれる馬を探せ」

「別にコレでよくないか? 速いし楽だし」

「オーケーシシオ。俺と栗毛ちゃんにそれで勝てたら10万。やるか?」

「上等だよ。馬なんかに負けるかよ」

 タキオはニヤリと嗤って指笛を鳴らすと栗毛ちゃんがパカラッパカラッと嬉しそうに駆けつけてきてはタキオにヘッドバッドをかましてグリグリと頭を擦りつける。

 何してたんだよぉ寂しかったんだぞぉと声が聞こえて来そうな勢いである。

 空歩でサクッと跨ると、シシオもホバーボードを起動していつでも行けるぞと生意気に笑うと、空気を読んだ銀髪が鉈を真上に投げ飛ばす。

「アレが落ちたらスタートすよ」

 鉈が地面に到着すると同時にタキオは消えた。

 まるでお話にならない。

 栗毛ちゃんの【襲脚】【疾風】とタキオの【加速】【豪腕】【怪力】を【連動】させただけであるが、五つのスキルを連動させ、人馬一体となった栗毛ちゃんとタキオに、オモチャごときが勝てる道理などない。

 過去にはトキヤですら追いつけなかったのに、更にパワーアップしているのだからどれだけ速くなっているかは一目瞭然。

「栗毛ちゃん走った後クレーターみたいになってるすね」

「シシオ10万没収かー。ふっかけられたら100万でもノッてたろうな。タキオさん変なとこで優しいから」

「あの人のお陰で自分らも馬鹿みたいに稼げてるすからね。俺達は言われた通りに相棒探しましょう」

 シシオが十一層に到着すると、既にバンブーハウスで海パンとアロハシャツに着替えてトロピカルジュースを飲むタキオの姿があった。

 全てジュンペー達の置き土産であるが、シシオはあまりの差に膝下から崩れ落ちて地面を叩いた。

「っかしいだろ! こっちは飛行機乗ってんだぞ!」

「だから。馬じゃなくて魔物なの。スキル使えるの。わかる?」

 今更であるが、ただの鶏が分厚い鉄板を軽々貫通させてしまうのが魔物である。

 簡単に勝てるようになってしまったから舐め腐ってはたかが馬であると言っても、スキルは常識の壁を簡単に超えてくる。

「一応うちは馬殺しご法度だから、相棒を選ぶスタイルにしてんの。マジで速くて便利で可愛いからお前も選んでこい」

「……わかったよ」

 シシオと入れ違いになる形でチラホラと不良達が十一層に到達し、タキオに何を教えられるでも無く、馬を繋ぎとめた後は山羊を狩ってはエッホエッホと運び、山積みにすると例の罠に仕掛けてポンポンと池に放り投げて行く。

 牛運びのお陰で力がついているのでタキオの頃より何倍も効率のいい作業である。

 ジャンケンで勝った者が最優先となるようで、長身ドレッド君が一番手。
 銀髪君達は鰐が釣れてドレッド君がツルハシでサクッと締めた個体を運びだし、皮を剥いで肉にしては積み上げていく。

 罠に掛かった鰐を締め終えると肉を池に次々と放り投げて、興奮して陸に上がってきた個体をドレッド君がツルハシで殺して行く。

「お前ら初めてじゃないだろ」

「いや、実は山羊狩りのバイトをさせてもらってたすよ。それで手順は覚えてたんす」

「あー、なるほどな。俺もそれがよかったな」

 鰐肉を喰わせれば興奮して陸に上がるのを知ったのは後半、タキオはひたすらに自分で山羊を狩り、再利用できるように工夫しながら鰐を釣り続けていた事を思い出して苦笑いする。

「でもな、俺はもっと楽させてやれるぞ」

 今は手数が増えている。
 スキル獲得の要とも言える【誘引】があれば、鰐肉を喰わせる作業をカットして次々と鰐を引き寄せることができる。

「解体は後回しだ。狩れるだけ狩まくれよドレッド君!」

「無理。こんないっぱい無理!」

 しかし【誘引】は少々敵を寄せすぎる。

 波のように鰐が押し寄せる姿には、流石に命の危険を感じてしまったようで及び腰となってしまうが、タキオはドレッド君のベルトを掴んでしっかり立たせると深呼吸を促す。

「手札と流れを読んで冷静に対処しろ。攻め気が強い個体は突出する。どの個体が一番近いかを把握する、どうやったら倒せるかを考える。危ないと思えば距離をとればいい」

 口を開けて遅いかかってきた個体の口にツルハシを咬ませて頭を踏みつけてから頭を割る。

「鰐は口を閉じる力が強いが開く力は弱い。近づいてきたら口を使わせて押さえつけて殺す。鰐の死骸をバリケードにして距離を稼ぐ、また確殺個体を見定めて殺す。大丈夫だ。深呼吸しろ。危なくなったら俺がカバーしてやる」

 そう言いながらに鰐はタキオを目指してやってくるので、タキオが近くにいる限りは地獄が続くのだが、ドレッド君はそんな事もわからずに、ツルハシを強く握る。

 ほかの連中は安全圏でグループに分かれて普通の鰐釣りを開始しているが、ドレッド君は修羅場の只中にいる。

「距離を取りすぎるのもよくない。ああ見えて本気で走ったらそれなりに速いからな。スピードが乗らない程度の距離を保つ。足元にも気をつけろ。水溜りは基本底なしだと思え」

 足場の確認、距離感、状況把握。

 限界を超えた緊張感の中で、ドレッド君は少しずつ感覚を掴み始める。

 何をしていいか、何をしたらダメなのかを自身の体験をもって急速に吸収して行く。

「慣れてきたな。サッカーボール守りながらやったら練習になるか?」

「絶対死ぬ。それは絶対死ぬから」

 半分マジであるが、ドレッド君はタキオが緊張を和らげる為に冗談を言ってくれているのだと、謎の勘違いをしながらに次々と鰐を狩って行く。

「がんがんダンジョンハイ入れてっていいからな。ぶっ倒れたら上に寝かせに行ってやる」

「それ聞いて安心、かな。ぶっちゃけ上がりっぱなしでヤバいから」

 低層から鰐狩りに移行した初期の登竜門である。
 急速な位階上昇に興奮が抑えられなくなる。

 単独であらば、位階上昇が停滞したと同時にぶっ倒れるので自殺行為でしかないが、今回のタキオのように補助に回ってくれる人員が居るのなら、むしろガンガンダンジョンハイになって、体を作り変えた方が後々に楽である。

「慣れたらペース上げろ。他にも12人もいるんだからな」

「わかってる。わかってるけど、そんな簡単じゃない」

 連続して鰐を殺し続け、群れを分断したと思えば次の群れが来る。
 休まる暇などありゃしない。

 ヒットアンドアウェイを繰り返し、終わりのない鰐狩りを続けると【顎門】を獲得する前に過度の緊張とオーバードーズでぶっ倒れてしまったので、山羊層に放置。

「くそ、位階上昇が停滞する前に倒れやがった」

 ドレッド君がぶっ倒れても生贄はまだまだ存在する。

 不良サッカー部全員がぶっ倒れる頃には、トキヤが事務の仕事を終えて学校に行かせようと拾いに来る。

「これまた派手にやったね」

「まな。これから毎日派手に行くぞ」

「じゃあ豚と牛は私がやっておこうか?」

「いや、風巻の連中がそろそろ鶏コンプだから代わりにやらせる」

「りょーかい。鰐の解体はどうするの?」

「山積みにしといて、今日の放課後にこいつらにやらせる」

 大体の方針がトキヤとの井戸端会議で決定し、後はタキオが狩り散らした鰐を邪魔にならない場所に積み上げて完了である。

「あいつら戻ってくるまで山羊集めといてやろう。ついでにスキルもゲットできるし」

 効率厨の界門狂いである。

 まだまだ元気が溢れているタキオはそのまま十層で山羊狩りを敢行するが、チラホラとお腹が大きい個体や、赤ん坊がいる事に気がついてテンションが上がる。

「そういや繁殖期にいれる実験とかしてたよな」

 山羊にはカボチャシャーベットを与えればいいのではないかと話されていたが、ジュンペー達は鰐狩りのついでに山羊だけにはカボチャシャーベットを与え続けていたのである。

 つまり実験は成功。

 一層 鶏【乾燥唐黍】
 二層 豚【唐黍シャーベット】
 三層 牛【唐黍フリーズドライ】
 四層 唐黍
 五層 馬【乾燥トマト】
 六層 猪【トマトシャーベット】
 七層 鹿【トマトフリーズドライ】
 八層 トマト
 九層 鴨【乾燥南瓜】
 十層 山羊【南瓜シャーベット】
 十一層 鰐【南瓜フリーズドライ】
 十二層 南瓜
 十三層 雉【乾燥茄子】
 十四層 蛇【茄子シャーベット】
 十五層 羊【茄子フリーズドライ】
 十六層 茄子

 と、予測された理論の内、

 一層 鶏【乾燥唐黍】

 五層 馬【乾燥トマト】

 十層 山羊【南瓜シャーベット】

 の三つは実証できた事になる。

 テンションの上がったタキオはまだ生まれたての子山羊を両脇に抱えて栗毛ちゃんと共に地上へ向かい、野に放つととんぼ返りで十層へと向かった。

 謎の行動過ぎるが故に、やはりあのお方からストップがかかる。

「タキ、あんた何してんだい。親元から離したら可愛そうじゃないさ」

「いや、ばあちゃん。山羊は金になるんだ。子供の頃から懐かせておけば、それなりのビジネスになる」

「だからってねぇ。お乳もあげなきゃならないようなのを連れ去るってもね」

「いや、ばあちゃん。これは魔物だ。シビアに行こう。もうわけわからんぐらいぶっ殺しちゃってるから、今更かわいい山羊さん扱いできないの」

 妙に真剣である。
 そうでもして割り切らないと色々と保てないのだろう。
 動物であると定義したなら、下手したら日本で一番動物を殺してる男になりかねない。

 魔物と割り切りどこまでも冷酷になる必要があるのだろう。

「俺、ばあちゃんが馬は別って割り切った気持ちわかってきたかもしんない」

「ただ懐いたから可愛がってるだけだよ。で、山羊はどうするんだい?」

「人馴れさせてレンタルする。草刈りとかで山羊のレンタルが流行ってきてるんだって。前にネットで見た」

 そして大抵の自治体が山羊が可愛くて7万円程で買い上げてくれるらしいので、最初だけバタバタすれば儲かる。

 これはタキオが鰐狩りをやっていた時からの構想であるので、微々たる儲けしかなくとも是非やりたいのだ。

 金に変えれるものは全部金にして行くスタイルである。

「なんかしょっぱそうな話だね」

「ただ鰐の餌にするよりはいいでしょ。多少罪悪感も薄れるし。俺は慣れたけど、これから鰐狩りをする人のなかでは絶対ダメージでかい人もでてくるはず」

 精神的な問題の解決にも繋がるのだろう。
 山羊はかわいいのだ。
 致し方なしと餌としているが、中には壊れてしまう人も出てくるかもしれない。
 だが、山羊の子供を育てて保護もしているとすれば、少しくらいは気分も変わるだろう。

 それから仕方なしと桜も山羊っ子回収を手伝い、矛盾するようであるが狩り殺してストックを積み重ねて行く。

 雄の個体ばかりを狙うのは、今後の子宝を見越してのことだろう。

「つかカボチャシャーベットどうすっかな」

 何をするにも人手が足りないのである。

「よし、不良どもにトマトも狩らせよう」

 そして面倒な事は全て不良達に丸投げして行くスタイルである。


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