うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

92話


「いやぁ、大漁大漁。でも、どうすんのこれ」

「テンションが上がったのは否めないけど、ね」

 平山の平原には、中古車のオークション会場かと思う程に一輪バイクとホバーボードが並べられている。

 ばあちゃんが預かってくれると言ってるものの、こんな大量に抱えておくわけにもいかない。

「売ればいいじゃないかい」

「そんな簡単な話じゃないだろ。工業製品って言うのか? 認可もない自作の乗り物扱いなわけだし」

 もう手に入らないと思って皆好き勝手に暴れたわけだが、結局扱いに困ると言うジレンマ。

 馬鹿正直に異力で動くバイクですと言って売れるならいいが、どう考えたって行政に詰められる。

 見た目的に超未来の物体であるし、タイヤ部分も何故か金属であるのに山道だろうと草原であろうとスムーズに走れるしで何から説明していいかわからん。

 泥棒が貴金属パクったけど売るコネを持ってないような状態である。

「どうするかわかんないけど、とりあえず赤髪界門の一層に10台ずつぐらい置いといてよ」

「そりゃあ構わないけど、他のはどうするんだい? 」

「ああ、そういや色々パクってきたんだっけか」

 俺の本命はゴーレムさんだが少女がテディベアを欲しがる感覚に似て、ただ可愛いから欲しかっただけで、ゲットした後にどうしようとか考えていない。

 プラモデルやフィギュアに使用方法を求めるのと同じ感覚だ。

 問題は青金属スケルトンさんと動物さん強化パーツ達と神化キョウコちゃんだけど、これらをどうするかだよな。

 生きてる……とは言わないのか? よくわからないが稼働している以上は敵対するだろうし結局潰してしまうしかない。

 従える方法などがあればいいが、現時点でそのようなスキルもないし、結局の所は……。

「とりあえずゴーレムさん出して貰っていい? 命令聞くのか試してみたい」

「はいよ。無理だと思うけどね」

 無骨なずんぐりとした全身鎧のゴーレムさんが登場し、赤紫色の光を漏らしながらに動き始める。

 ゴーレムさんはうんともすんとも言わずに踵を返して界門へ戻って行こうとするが、トキヤがふわっと浮かせて地面に叩きつけると、ジタバタと暴れ始める。

「一回全部バラしてみるか」

「だね。何かわかるかもしれないし」

 そして暫く自力スキルたる解体を駆使してサクサクゴーレムをバラして行くが、何一つとてわかることはない。

 多くの魔法陣を生み出す装置と、赤紫色の光を放つソフトボール程度の魔石を発見したのみで、命令系統云々などカケラもわからん。

「わからない時はその開門のスキルを全部取ってみりゃいいんだよ」

「そうかもしれんけど、また界門の中身が変わったっぽいしなぁ」

 ばあちゃんは凄く簡単に言うが、スキルに関してはこっちにも順番がある。
 今回は荒川初期メンの救済も兼ねての攻略であったので、ドロリッチ界門の物品の対処に回るのはまだまだ先の話になりそうだ。

「別にばあちゃんも最近は晩飯狩るぐらいでしか潜ってないから預かっといてやるけど、売る時ゃきっちり手数料貰うからね」

「わかってますよって。最低限の礼儀ってヤツだしな」

「違うよ。あんたらが宝物庫やら手に入れたら出来なくなる商売だからね、今のうちに稼がせてもらうのさ」

 大金持ちだろうに商魂逞しく銭にがめついばあちゃんを見てると逆に安心してくる。

 自分自身が莫大な金銭を動かすようになってから、お金に対しての感覚が麻痺してくる中で、ちゃんと貪欲にお金が好きな人が近くにいると、ぐっと以前の感覚に戻してくれる。

「ところで鬼くん達は?」

「夜中に青面狐が連れて行ったよ? 時は来たとか言って」

「……そっか。ウニ詰めどうすっかな」

「一応は通いの働き手さん達には声がけしといたよ」

「そりゃありがたい。ファインプレーだな」

「どのみち人手は足りてないけどね」

 痛い問題である。
 求人誌効果で毎月何かと連絡は来るが、結局は山者か抜け者を優先して浜の子や余所者は後回しになってる。

 書類選考で俺が選ぶなんて言ってるけど履歴書すら見てないと言う……。

 そろそろアパートも完成するし、一般の受け入れ準備もしてみるかな。

 荒川初期メンはお狐ハウスの二階に住む流れになってるし、馬の世話の人員だけは別に余所者でも全く構わない。
 って言うか住み込みで三食昼寝付きで
 固定給3ヶ月更新でいい人材とかぶっちゃけ喉から手が出る程欲しい。

 今は午前午後の2パートで5千円ずつ払ってるから一人日当1万でシフトチェンジしても月30万は確定だし、解体とかも兼任してもらってるから過密過ぎる状態。

 25万で若者集めてほったらかしでいいとか楽でたまらん。

「あれ、余所者の履歴書ってどこにあるっけ?」

「PDFでファイル化してあるよ。原本は希望者には返送、他はシュレッダーにかけてる。春からって事も伝えてるから、それまでに仕事が決まったらキャンセルするようにも伝えてるけどね」

 来月には厩舎の馬達の登録も控えてるし、そろそろ本気で書類選考してもいい時期に差し掛かってる。

「でも、わざわざ余所者雇う必要あるのかな? 山者でも抜け者でも平山で働きたい人はまだまだいるよ」

「余所者だからこそいい。事情に通じてる人員は界門関連の仕事に回って貰いたい。幸いアパートも厩舎も竹林の向こう側だし、馬の世話に集中してもらうには丁度いい」

「そっか、それもそうだね。みんな馬の世話の合間に界門潜ったりしてるし」

「だろ? ウニの件に関しても、山者の人材を回して東大に全部任せられないかと思ってるんだ。SNSとか見てたら、あいつ個人で店舗とか出しまくって手広くやってるみたいだし」

 全部が全部俺が先頭に立っていられない規模になってきている。

 キッチンカーも名案であるとは思ったが、やはり店舗営業は俺には向いてない。

 儲けが減るとしても卸売が性に合ってる。
 瓶詰めに人権費と人手を割くぐらいなら、ウニだけドーンと渡して1瓶500円バックぐらいの方が都合がいい。

 鶏捌くより話が早いし、こちらの負担は狐面の変態と居候組ぐらいなもんだ。

 そうと決まったら話が早い。

 次に東大に会ったら全部押し付けちまおう。

「で、トキヤはこの後の予定は?」

「特に決めてないけど社長さんは?」

「おもいっくそ寝る」

「そっか。じゃあ牛狩りの手伝いでもしてこようかな」

 そして数日ぶりに爆睡こいてやったわけだが……。


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 タキオと入れ替わるようにして順に起き始めた荒川初期メンの面々であるが、布団でグッスリと爆睡した事により一段階冷静になったトーンで、面を向き合わせていた。

「まぁ、事情を理解した上で俺たちは雑魚だってのはよくわかったな」

 寝間着姿でタバコの煙を吐き出す歯抜けのジジイはバールさんである。

「それはこれからなんとかしよう。ティーさんの後追いをすれば短期間で強くなれるだろ」

 タキオから事情を聞いた上で自分達の弱さを改めて実感したわけであるが、このような状況になってしまった以上は少しでも鍛えるしかないと満場一致で決まりかけたタイミングで、デスサイズ兄弟Aのスマホがけたたましく鳴り響いた。

 ディスプレイに表示されるのは『マミー』の文字。

「おかんだ」

 Aは何を気にするわけでもなく、平然と応答にスライドし、当たり前のように耳に当てた。

『あ、生きてた?』

「おうさ。今おかもっちゃんと旅行してる」

『旅行? どこまで行ってるの?』

「東北の方。ビラ配りとか皿洗いのバイトして北海道行ってくるから!」

『バイタリティ溢れて結構だけど、あんた中学生なんだから補導されないようにね。おかもっちゃんのママにはあんたが無理矢理連れてったって話しとくから』

「うん、頼むね」

 なんとも軽いオカンである。
 その実はもう心配で堪らないだろう。
 しかし子供に嫌われないように面白いママを演じている事など、息子は知らない。

「ファンキーなおかんでラッキー」

 息子は剽軽はモノである。
 育て方を間違えたつもりは無くとも、グレる子供はグレるのだ。
 当人はただ今を楽しんでいるだけでグレたつもりは無くとも、義務教育にも関わらず学校へも行かず、自由気ままに家出して旅行するなど他人からすればグレていると思われて仕方ない。

 学校だけは行く約束をしているのに、それすら守らずに遊び呆けているにも関わらず優しく対応してくれるのは、息子がどうにか生きる術を身につけてしまったのではないかと怒りよりも心配が勝ってしまっているなど予想だにしないだろう。

「多分俺もBも当面は大丈夫。じゃあどうする? 何からする? 」

「言われた通りに鶏を狩るのは良しとしても、その後だな。不本意とは言え全国指名手配予備軍を匿ってもらう以上はどうにか貢献してやりたい」

「と言っても鉄パイプさんのお爺さん連れて来てスクラップ屋やってもらうぐらいしか俺たちには人脈は無いわけだが」

 そこでスコップさんが仏頂面のままに小さく手を挙げる。

「ある程度鍛えたら他のダンジョンを探す囮になればいいんじゃないか? 実際俺たちは襲われまくったわけだし」

「それは黒陣営だったから白陣営に襲われたって話だろ? もう山神陣営になったんだから、あそこまで激しく襲われる事はないだろう」

 鉄パイプさんの反論に納得したのかスコップさんは舌で頬を舐めながらに頷く。

「でも場所は覚えてる。その土地に白陣営のダンジョンがあるのは間違いない。そうだろ? スコップさん」

「……うん。場所をピックアップして報告するだけでも全然違うとは思う。このゲームの勝敗を分けるポイントは海外勢が育つ前に日本のダンジョンを全て手中に収めておくかどうかに掛かってくるだろうし、腹の内に敵を抱えるよりは海を隔てて防衛戦を張れる方が効率がいい」

「15年のアドバンテージがあるってのに攻め気があるのは平山だけって話だしな。専守防衛が如何に不利かってのを良くわからせてくれる」

 ボーガンさんとスコップさんの意見交換の最中、Bが発した一言が波乱を巻き起こす。

「他の山に喧嘩売って降しちゃえばいいんじゃないの? 実際狐山ってとこは降して、みんな働いてるって言ってたし」

「いや、しかし一枚岩の結束があると聞いた矢先に離間工作をするような真似は……どうなんだろうな?」

「そうなるように仕向けちゃえばいいじゃん。要はこっちが被害者になればいいわけでしょ?」

 十人十色とはよく言ったものであるが、多くの人間が揃えば悪知恵を働かせる者は必ず出てくる。

 平山にとってはそれが少年Bであっただけのこと。

「まぁ、タイミング見て情報集めておくよ。ここには色んな山から働きに来てる人がいるみたいだしさ」

 荒川初期メンの目標は鍛えた後に、白陣営の界門位置のマッピング、そして揉め事に発展させられそうな山と平山をぶつけるの二点に決まったが、彼らは知らない。

 平山界門の鶏狩りが地獄すら生温い荒業である事を、今はまだ知らないのだ。

 これより彼らは我を忘れて修羅となる。

 夢の中でも鶏の首を刎ね飛ばすようになるまで、毎日毎日一人二万羽を越える数を狩らされるなど思いもしていないのだ。

 彼らは早々に気付く事になる。

 この山の連中がどれだけぶっ壊れた奴らであるかという事を……そして、彼らもまたタキオに愛すべき大馬鹿野郎どもと呼ばれる程の変態である本質を発揮するのは、もう少し後のお話である。



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