うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
88話
八層の魔物はキョウコちゃんだった。
何を言ってるかわからないかもしれないが、キョウコちゃんが沢山いる。
当然オニーマンズは戦線離脱。
キョウコちゃんはブチギレてハサミを振り回しているが、液体金属さんがキョウコちゃんに擬態しているようである。
確かにこの中では彼女が一番強いので方向性は間違いではないと思うが、見た目だけ真似したとての話である。
キョウコちゃんの逆鱗に触れてハサミで挟まれる事なく叩き潰されて行く量産型キョウコちゃんには哀愁すら感じる。
人型の液体金属さんが機械に通されるとキョウコちゃんになって出てくる姿がなんとも言えない。
「もっと乳あるからなー!」
沸点がズレているが、楽を出来たので有難い限りである。
九層に降りると、またもやキョウコちゃん登場であるが、少し……いや、かなり動きが良くなっている。
「やっぱりドッペルできたかー」
数合打ち合って叩っ斬られているが、キョウコちゃんは敵に覚えがあるようである。
「ドッペルってドッペルゲンガー的な?」
「そうー。きらいだー」
要領を得ないので助けてヒョロ兄と見やると、任せなさいとタバコに火をつけながらに頷く。
「多重層での定番だが、一層で相手をコピーしながらに学習して一・五層で同系もしくは弱点になるであろうスキルを与えて完璧以上のコピーを作る魔物だ。キョウコちゃんがスキルを使わずに倒し続けていたのは手の内を晒さない為、すごいよな、俺の妹」
サラッと妹自慢を入れてくるが、それだと矛盾点が出てくる。
「じゃあ毎度スキルが変わるってことか?」
「いや、初潜行の中で強者が選定されて即座に作られる。つまり八層、九層にはこれから先ずっとキョウコちゃんのコピーが出てくる」
「身内狩りとかやりにくいなぁ」
「見た目だけだ。キョウコちゃんには遠く及ばない」
「なら戦えよ」
「アレと戦うなんてとんでもない」
意味がわからん奴である。
キョウコちゃんじゃないと否定しておきながらに、キョウコちゃんの見た目であるから戦えないとか矛盾も甚だしい。
階層のスキルが毎回変わるような矛盾よりも更に矛盾してる。
「速いし一撃もあるから気をつけろよー」
「それならもっと手加減して戦ってくれたら良かったのに」
「むちゃんこ手加減したけど、わしむちゃんこ強いからなー」
それは否定しない。
平山勢ではばあちゃんを除けばトキヤとキョウコちゃんがツートップだ。
キョウコちゃんは通いの働き手さんの色合いが強いから正確には平山勢ではないかもしれんが、そこは身内って事で大目に見ていいと思うの。
強くなったキョウコちゃんコピーをキョウコちゃんがぶっ殺し続けて先程と同じようにキョウコちゃん量産ラインを見届けて十層。
銀髪に神化したボインの大人版キョウコちゃんが登場した。
「あー、屋上コースー」
キレちまったのかな?
もう、丸眼鏡と三つ編みしかキョウコちゃんの特徴は残ってないけど、十層キョウコちゃんは結構強い。
大挟を大剣の如く振り回しながらに致命傷を避けながらに対応している。
十層にしては強すぎるだろうと思うが、金属音が何度か響くと四肢が切り離されて目から光を失った銀髪キョウコちゃんが地面に転がった。
断面を見るに、大挟でチョッキンチョッキンいかれてしまったのだろう。
「強そうに見えるけど雑魚いぞー。スキル使ってないからなー」
信用できないけど試しに鰐ガブやってみたら普通に粉砕できたので、速さにだけ対応できたらなんとかなりそうである。
そして十一層。
かなりハイペースであるが、休憩はしないようだ。
十一層は青い金属のスケルトンが歩いている精密機械を扱う工場のようなステージだ。
これまでとあまり変わりがないが白い明かりであるので、先ほどの青白とか雰囲気が変わる。
「なめてんなー」
見た目はただの青い金属の骨であるが、キョウコちゃんの怒りは収まらない。あの日なのかな?
こいつらがただのスケルトンであるとしたら、此方には既に赤髪界門にスケルトンが存在するのでガッカリであるが、素材の面ではこちらの方が美味しいと割り切ろう。
キョウコちゃんがお怒りなので戦闘せずともサクサク進めるのが有難い。
十二層に降りると相変わらずにステージは一緒、当然でてくる魔物さんも青メタルスケルトンさんであるが、次の彼らはモニター室でキョウコちゃんの映像を映し出しながらに、レーザープリンタのように量産中の青メタルさんにデータを焼き付けている。
近未来SFの領域かな? サイバーパンク化してきたな。
データ入力してるだけの青メタルスケルトンをキョウコちゃんがガッチャガチャに潰して行くのは何か理由があるのだろうか。
キョウコちゃんの熱量とは正反対に、涼しさすら感じる冷静さで十三層へ。
もう慣れてきた。
内容は違えど、構造は大体同じだ。
次は少し肉付けしたスケルトンさんだ。
どちらかと言えば一層から五層の人形のパーツをつけたような。
グレードアップとでも言えばいいのかな?
のっぺらぼう人形さんよりは、よりリアルな人間臭さがある。
一層から五層の人形はブリキのオートマタだとしたら、こちらは流曲線状の美しいフォルムだ。
動きも洗練されてより人間っぽいし、力強くなってる。
顔面は髑髏のままだけど。
「んにゃろーがー」
多分、より完璧なキョウコちゃんを作ろうとしているのだろう。
これはトキヤを連れて来なくて正解だったかもしれない。
キョウコちゃんはこの手の界門に一過言あるようだし、トキヤが何も気にせずに重力操作とかやりまくってたら無理ゲーの難易度になってた可能性もある。
パーツ作製と組み立ての生産ラインを見ながらに十三層へ。
一昔前なら十三層なんて恐ろしくて絶対に足を踏み入れられなかったが、ミノさんを殺しまくったせいか、不思議と恐怖心は薄れてる。
人間性を失い始めてるんじゃないかと勘ぐってしまいそうになるが、思い返せてるだけマシだろう。
この層では液体金属でコーティングしてより人間っぽい見た目になっている。
それなら液体金属単体のコピーで良かったんじゃないかと思うが、芯があるので動きが更に洗練されているし、出力がまるで違う。
神化バージョンに近い見た目であるが、強化されているのは確実だ。
特殊な金属なのかコアが厳重に保護されているので潰すまでに一手間増えている。
まぁ、残念ながら敵ではない。
ぶっちゃけ俺でもなんとかできるラインだ。
鰐ガブのゴリ押しになるのは言わずもがなであるが。
そして十四層。
コピーカラーリングでは無く、皮膚、眼球、頭髪などを生産しているようだ。
全裸であるが、見た目は完全に銀髪銀眼の神化キョウコちゃんになった。
骨格の時点でこれに気付いてたとかキョウコちゃん何者なんだろう。
「そんなに巨乳じゃねー!」
貧乳にキレたり巨乳にキレたりと忙しい限りである。
でも大挟が無いから台無しである。
あの大きなハサミがあるからこそのキョウコちゃんである。
つまり十五層は予想通りに青い金属の大挟の生産ラインとなり、十層の神化キョウコちゃんがよりパワーアップした個体との戦いになるわけだが——
「そのハサミいいなー。くれよー、よこして死ねよー、なぁー?」
——俺たちの活躍の場は一向に訪れません。
俺キョウコちゃんの事ポヤポヤした眼鏡娘だと思ってたけど、結構激しい子なのね。
おもてたんと全然違う。
図書館でウサギのぬいぐるみを枕にして寝てそうな子だと思ってたけど、ぬいぐるみをハサミで切り刻んで爆笑してそうな子にイメージ変更。
「おにー、これ全部持ってて」
「サイコちゃん、ハサミそんなにいらないでしょ」
「サイコー? わしキョウコだぞー?」
心の声が漏れてしまっていたようだ。
角兄がハサミを大量に持たされているが、バレないように一つずつ捨てて行く所作が面白い。
忍び足ならず忍び捨て。
絶対重いもんな、頑張って角兄。
そして十六層。
荒廃した市街地エリアとなり、全ての高層ビルから無数の金属の鳥が飛び出しては襲いかかってくる。
そこは敢えて神化キョウコちゃんにしてオートマタ感演出しろよと思うが、この銀色の鳥が結構厄介である。
四方八方からひっきりなしに上下関係なく襲いかかってくるので、気を抜けば抜かれる。
抜かれたら【透過】、基本鰐ガブと【貫通】で対処しながらに、いよいよヤバくなったら【決闘】で一対一を強制して、距離を取ってから壊して鰐ガブ。
テツミチは低空飛行で距離を取りながらに蹴りと拳一発で波状の衝撃波を起こして一掃している。
「なにそれ羨ましい」
「【飛躍】と【拳撃】と【蹴撃】でございやす。一応はゴブリンキングのスキルのようでやすが、使い勝手がいいでやすよ」
うちにそんな魔物は出ないはずだが、もしかしたら狐山界門の十六層以降に存在してるのか?
でも、十七層への門を通ろうとしたら狐面の変態に阻止されるって聞いてたけど……なんかやり方でもあるのかな? 今度調べてみよう。
まぁ……界門なんだから、ただの食料庫ってことはないよな。
「オテツに殺されるゴブリンキングて。ゴブリンキングも落ちたなぁ」
「いや、そうではないんでやすがっ! キリがないでございやすね」
「これなんの鳥だろうなぁ。鳩かな?」
「カラスでやしょう」
「おまえら学ないなー、カササギだろー」
言われても知らんたる事態。
カササギってなに? ムササビの親戚?
アララギさんなら知ってるんだけどな。
「あ、オテツ、竜巻やってみ。前に撮っただろ。赤髪のぬしから」
「構いやせんけど、コレ使い勝手悪いでやすよ」
直後に小さな竜巻が起こり、テツミチが重ねがけしていくと特大の竜巻になるが、鳥も街も巻き込んで災害状態になる。
弾き飛ばされて高速で飛来する鳥を鉈で切る謎野球の状態になってしまった。
「やっぱいいや、やめろそれ」
「いや、これ暫く出っ放しなんで御座いやす」
「なんだそのゴミスキル!」
「だから使い勝手が悪いんでやすよ」
使い所が限定されるスキルである。
真夏にパリピが海岸で野外フェスとかしてる時にかまして塩の雨とか振らせたら面白そうではある。
機材とか台無しになるだろうけど。
でもパリピ ってDJが『なめ茸!イェーイ! なめ茸ぇ!』とか言っててもノリノリで『フォー!』とか言いそうだよな。
「さて、ゴミスキルとか言いながらも竜巻のお陰で余裕が出来たわけだが」
「さっさと次に行きやしょう。空の黒い影全部鳩でやすよ」
「くそ、コンパクトカラスめ」
「だからカササギだってのー」
駆け足で十七層への階段を探して降りる。
相変わらずの市街地であるが、これはまた何というか……。
「諦めたのかな? なんで動物シリーズ?」
次はメカのチーターが沢山います。
チートのチーターじゃなくて、ネコ科のチーターだ。
あの顔だけ可愛いやつ。
しかもちょっと小柄、子供なのかな?
勿論四肢を切り落としてしまえば活動できないわけでして……。
そろそろ特殊効果対策してくれないと、マジで行けちゃいそうな気がしてくるんだがっと、危なっ。
「気ぃぬくなよー。今背中いかれそうだったぞー」
「ああ、ごめん。ありがとう」
このままだとやばいな……緊張感が無いと逆に危ない気がする。
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