うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

86話


 えっ、ちょ、まっ。

 逃走中だった極悪犯の動画がテレビで流されてるんだが、モザイクがかかってるながらにも荒川初期メンに似てる気がするのは気のせいだろうか?

 この鬼々しい鬼は赤髪であるからして赤鬼くんっぽくはあるが、こんな強そうなイケメンの鬼は知らん。

 うちの鬼くん達は基本小柄でコスプレ的な鬼であって、こんな如何にも鬼と言った鬼ではない。

 つまりは皆他人の空似って事で丸く収まるわけだ。

「社長さん、赤鬼くんが黒陣営の人達連れて帰ってきたよ?」

「あーね、そうなるよね」

 すまん、白々しいよな。
 わかってたんだ、赤鬼くんが荒川初期メンのみんなといるって動画を見て一発でわかった。

 だってテレビではモザイクかかっててもSNSで爆散してる動画はみんな普通に写ってるしね。

 さて、愛すべき馬鹿野郎達に挨拶をするのは勿論だが、俺の状況をどうやって説明したものかな。

 てかさっきトキヤが黒陣営って言ってなかった? 

「嗚呼、まさかの……」

 外に出るとレンタカーのワンボックスがアイドリングの状態でヘッドランプを点けっぱなしにしているが、運転席から金髪の坊主のおっさんが降りてくる。

 誰やねんお前と思いながらにも、彼がボーガンさんであるのは一目でわかる。

 しかし、どう言う風の吹きまわしでのイメチェンであろうか。
 彼は元ムキムキスパッツメンであり、如何にもアスリートと言った見た目の好青年もとい好中年であったが、何故か金髪坊主のヤカラ化しているのが不思議でならない。

 ウーバ◯でスポーツバイクシャカリキ漕ぎ回してそうなボーガンさんは何処に行ってしまったのやら……。

 笑っていいのかな? ダメな気がするから我慢しよう。

「ブフォッ」

「絶対笑うと思ったぞティーさん」

 目の前で退治すると無理だった。
 笑いながらに握手を交わすが、やはり余りの変わりようにツッコミどころが満載過ぎて我慢できなかった。

「みんな仕事やめちまったからね」

 ローテーショントーク?
 一人ずつ降りる必要なんてない。
 みんな纏めて降りて来いよ。

 と、思ったらゾロゾロ降りて来たけど、なんか変。

 二番目に留置場で奇跡的に同室であったバールさんが降りて来てから違和感があったんだが、こうして全員見ると何故かラフでありながらにもハイブランドのジャージなどで決めてやがる謎の光景に目が点に成らざるを得ない。

 バールさんなんて拾い物のラガーシャツかポロシャツしか持っていないはずである。
 一張羅と言いながらにも、結構毎日着回していたのでラインナップは熟知している。

 こんなカッコいいジャージが着れるような人間では無かったのは間違いない。

 デスザイズ兄弟も、いつ何時であろうとも学ランもしくは体操服なやつらであったのに、金もない癖に精一杯のお洒落をして原宿にストリートスナップを撮ってもらいに行く奴みたいな格好をしている。

 タイトなパンツにデカイ柄物着てるだけだが、それが安物じゃないのはわかる程度の判断なのは補足。

「お前ら童貞でも捨てた? なんかジャスティンビー◯ーみたいになってない? ベイビィベイビィ言うてみぃや」

「いじらないでよ。ファッション誌の通販でBと一緒に大人買いしただけだよ」

「エグチーズのぱねちーですヨイショってパリピっぽく言うてみ」

「いやだよ、頭キノコでそれやったらキチガイだし。てか頭白いの似合ってないよティーさん」

「黙れちんこ引っこ抜くぞエセショタが」

 懐かしい、懐かしい懐かしい。
 ほんで多分こいつらどっかの界門潜ってるのは確定したけど一々突っ込まん。

 でもなんか切ない。

 俺があのまま東京に残って、ビビらずに荒川に通ってたら、このメンバーと界門で小銭稼いで服を買ったりでにたのだろうか……。

「で、ティーさん、隠れてダンジョン潜ってたんだろ?」

 黙々とスコップ振りわしてた現場のにいちゃんであったスコップさんが、軽く前髪だけ染めてるのがイラッと来る。

 あんたは寝癖のままに仕事に行って寝癖のままに荒川ダンジョンに来て無表情のままに血まみれで帰る剛の者だっただろ。

 なんでちょっとイキったんだよ。
 どうせなら全部染めてキャラ立たせろよ。

「まぁ、でもどうしよ。何から説明しましょうかね」

 心の中でスコップさんをディスりながらも、何をどう説明したものか悩む。

 多分みんなが指名手配されるのは時間の問題だろうから匿うのは考えるまでもなく確定としても、なんかモヤっとキモいままで平山に置いておくのは嫌だ。

 多分黒陣営の人員であると本能的に感じ取れているのだと思う。
 正直そのままで彼らをここに置くのは勘弁願いたいが、そうなると符丁などを一から説明する必要もあるわけで……仕方ないか。

「長丁場になるかもしれませんけど、まず酒でも飲みながらに互いの話をしましょうか」

「うぉぉい、無視かよティーさん」

「ブスの癖にヤリチンの鉄パイプさん! いたんですか?」

「ブスって言うなぁ!!」

 お互いの素性を一切知らないからこそ、無茶な扱いも平気でできてしまう。

 彼らが平山にいるだけで震えるほどテンションが上がるのに、黒陣営であるせいなのかモヤモヤする。

 いち早く繋ぎを持ちたいが耐えられそうにもないので——

「ばあちゃん! ばーちゃんっ!」

「そんなデカイ声出さなくたって聞こえてるよ」

 ——おっきなアヒルさんに乗ったばあちゃんに仮契約をしてもらう。

「仮契約するのは構わないけど、ぬしがいないね」

「なんか変わるの?」

「ぬしの許可無しにやるのは喧嘩売るようなもんだよ。同じ山神ならまだしも黒の子らなら尚更ね」

 よくわからんが、どうせ敵なんだから喧嘩を売るなら早けりゃ早い方がいい。

「バールさん達が潜ってる界門、じゃなくてダンジョンって、誰か別の人が見つけたものですか?」

「鉄パイプさんの親父さんだよ」

 バールさんがうんと頷き鉄パイプさんにアイコンタクトする。
 自分が話すより当人の口からって事だろう。

「爺ちゃんが鉄くず屋やってて、そこにな。場所のせいか特殊なダンジョンでおいしいってんで国には報告しないで独占って感じだ」

「おいしい?」

「魔物が金属なんだよ。運べば爺ちゃんが買ってくれるって算段でさ」

 闇組織とかじゃなくて良かった。
 敵対する以上は最終的に安全にことが運ぶ流れが一番いい。
 鉄パイプさんの家の界門を攻めるにしても、立ちはだかるのか招いてくれるのかで話は変わる。

 赤髪界門のぬしだった雑魚鬼さんみたいなのは面倒。
 雁絵ちゃんみたいにツンツンしながらも待っててくれるのが可愛い。

 ばあちゃんと目があったので頷きあうと、なんとか仮契約は完了したが、それでもやはり違和感がある。

 電源をいれてないテレビの画面に映ってるような、フィルターを一枚挟んだ感覚が気持ち悪い。

「よし、このままじゃ愛すべき馬鹿野郎達を嫌いになりそうだから、その界門潰しに行こう」

「はぁ?」

 バールさん達は俺の宣言に首を傾げているが、トキヤも赤鬼くんもばあちゃんも納得を示すように小さく何度も首肯してくれる。

「必ず一から全て説明しますけど、今のままだと皆さん気持ち悪すぎるんで、それをどうにかしたいと思います。もうゴキブリかお前らマジで」

「なんかめちゃくちゃdisってる?!」

 狐山のハゲはいつまで経っても界門の情報を持って来ずに平山に寄り付きもしやがらんので、ここらで一発東京に行って界門回収しちゃう。

 でも全員連れて行って数日空けるとなると平山の運営にダイレクトに響くから……。

「よし、トキヤと鬼くん達連れて行こう」

「いいよ、楽しみだね」

「駄目だよ何言ってんだい。トキヤは暫く休みだ」

 ばあちゃんが食い気味でくる。
 そういやダブルで神層到達してなんちゃらって言ってたか……トキヤばりに丁度いい奴っていないよな。

 キョウコちゃんも強いけど自由気儘が過ぎるし、兄達もセットだから個別に頼めないし、他の面子は俺と大して変わらんしな。

 ばあちゃんがベストなんだろうけど「今回は行かないよ」と目が合う前に切り捨てられてしまう。

「自分に任せて下さい」

「あ、うん。赤鬼くんには色々頑張って貰いたいけど、帰ってきたら鬼のみんなで狐山に潜る段取りだったからさ。先にそれ終わらせて」

 青面狐たる変態さんが五月蝿いのだ。
 早く奉納させるべきだとかなんとか。
 無視しているんだが、いい加減鬱陶しいので鬼くん達には予定通りに狐山界門に潜って貰いたい。

 つまり残されたのは俺だけと……。

 うん、無理。

 努力をしてるつもりではあるけど界門攻めに関してはこちらのアドバンテージを生かしたいからイケイケなだけであって基本的には他力本願。
 単独で攻め入って、シャアオラァ! できるほど狂ってない。

「殿、話は聞かせていただきやしたよ」

「嘘つくなよ。お前どこにいたんだよ」

 忘れて貰っちゃ困るとばかりにテツミチが登場したわけだが……俺とテツミチで神層到達は無理ゲーだろ。

 やっぱりトキヤに来て欲しいのが本音だが、ばあちゃんに阻止されてしまうので諦めざるを得ない。

 なんかいい方法は無いものかと悩んだタイミングで、これまた示し合わせたかのように黒塗りのワンボックスカーが登場。

「おー、手伝ってやるぞタキオー」

「今来た癖に何を知ってんだよ。しかも夜中だぞキョウコちゃん。子供はねろ」

「子供じゃねー。じぇーけぇーの代じゃけぇ」

「紅鮭」「塩鮭」「荒巻ぃ鮭ぇ!」

「うん、待って、三兄さんあにお前らプライドある?」

 いきなりオニーマンズがテンポ良く合いの手を入れ出して困る。

「キョウコちゃんがして欲しい事は全力でやる。それが兄たる存在だ」

 見た目いかついのに健気すぎて泣ける。
 どれか一人がシスコン拗らせるならわかるけど三人全員ってのが改めてキモい。

「トッキンの代わりに暴れてやるぞー」

 なんとかなりそうな気がしてきた。







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