うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

85話


 市街にて大規模な捜索が開始された。

 荒川初期メンは物々しい街の雰囲気を感じ取り、各々に別行動を取りながらに目眩しをする作戦を取った。

 メインに捜索されているのは赤鬼くんであり、彼らはノーマークでありながらにも、いつ何処で情報が出回るかもわからないので万全を期しての行動である。

 バールさん、ボーガンさん、Aの祖父、息子、孫設定のチームと、スコップさんとBの親子設定、そして鉄パイプが単独で観光客設定である。

 同じホテルで別々に部屋を取り、夜間に集まっては話し合う毎日であるが、緊張感ばかりが高まって行く。

「観光客としても限界があるな。同じホテルに泊まり続けるのも怪しい」

 ナイロン生地の真っ黒なセットアップに合わせたガタイのいい金髪坊主たるボーガンさんが切り出すと、寝癖でボッサくれた頭を掻きながらに鉄パイプも頷く。

「漫画喫茶とかは捜査の対象になるし、個人情報をすぐに提示するから論外。ビジネスホテルなら偽名でも泊まっておけるから、一週間ずつぐらいなら泊まるのもありかもしれないが、ナンバープレートから所有者が割り出されたらボーガンさんはピンチかも」

「早い段階で鬼くんが外してくれてはいたが、時間の問題だろうな」

「ボーガンさんだけ新幹線で戻って車の盗難届を出しに行くとか?」

「悪くないが全員の身元判明のきっかけを与えるだけの結果にもなりそうだな」

 国も権威を示す為に本気で捜査を開始しているので足がつくのも時間の問題であるが、どうせ凶悪犯罪者として裁かれてしまうなら、せめてタキオにまでは辿り着いておきたい。

 しかし荒川初期メンには、他にも爆弾が仕込まれている。

 それがデスサイズ兄弟の2人である。

 道中襲いかかってきた人間を殺しまくっているし、中には吸収できずに放置した個体も存在する。
 手口が同じとの事で殺人の容疑をかけられた上に、このままでは中学生の誘拐沙汰にまで発展しかねない。

 デスサイズ兄弟はどちらかと言えば不良よりの人材であり、親も放任主義であるので自由裁量で決められる部分は多いが、週に何度かは親から連絡が来るし、どれだけ好き勝手しても構わないが学校には行けとのスタンスを双方の親が選んでいる。

 つまり門限なく泊まり歩いて遊びまわるのは構わないが、学校だけはちゃんと行かなければならないのだが、すでに冬休みも終わってしまっている。

「これ以上リスクは背負えない。AもBも先に帰った方がいいだろう」

「絶対いやだよー。もうみんなで逃げるしかないって。下手したら死刑だよー?」

 どんな罪状になるのかもわからない。
 だが、死刑囚とされる可能性もなきにしもあらず。
 鬼が主犯としても鬼の存在を公表するわけにもいかないので、結局は荒川初期メンに罪がなすりつけられる可能性もある。

 考えられる可能性を全て拾えば、楽観視できない状況にあるのは間違いないのである。

 そしてSNSで一つの投稿が話題になる。

 警察が情報公開を行なっている赤鬼くんの動画と、平山テントでメロンを配っている鬼達の動画を載せ『こいつら同じサークルだろ。意匠が一緒』との呟きが爆発的に広まってしまったのである。

 この投稿は国にとっても荒川初期メンにとっても大きな意味を持つ事になる。

 国としては平山は厳重監視対象ではあるが、不干渉を貫く方向にシフトされている。

 それは桜が用意した偽神界門のミノさんより与えられる有力な情報を踏まえて、山神を相手取るのは現時点において得策ではないと判断されているからである。

 白陣営、黒陣営の炙り出しに躍起になり、偽神界門では無く神界門を探し出す為のライセンス発行計画なども行われている為、この案件で平山に捜査の手を伸ばすのは得策ではない。

 何より国が転覆する可能性も考慮せねばならない案件となってしまう。

 僅かながらに国が及び腰となったタイミングで、荒川初期メンとしては朗報とも言える内容であった。

「これは確実に鬼くんの仲間だね」

 バールさんがタブレットを覗きながらに呟いた一言に全員が首肯する。

「つまり、この平山に行けば、鬼くん、もしくはティーさんに繋がる可能性もあるって事ですよね」

「その可能性は高いんじゃないかい? 問題は検問に引っかからずにどうやって行くか、だけどね」

 県道は未だに封鎖されている。
 その情報は調べればすぐに出てくるし、他のルートを辿ろうにも県外に出て遠回りするしかない。

 地元民しか知らない山道ルートは地図には出て来ない道であるので知りようもない。
 つまりは確実に検問には引っかかる事になる。

 まだ手配されていなければ問題ないが、こちらには中学生もいる。

 どう考えても出たとこ勝負で行動に出るには不確定要素が多すぎる。

「歩いちゃいます? かなり激しい道のりでしょうけど、山道があるみたいですよ」

「バールさんが死んでしまうんじゃないか?」

「馬鹿にしてくれるじゃないかい。こう見えてもダンジョンでそれなりに鍛えてるからね。山越えぐらいどってことないよ」

 荒川初期メンによる無謀な企みが浮上するが、呆気なく終わりの時を迎える。

 ボーガンさんのスマホに公衆電話よりの着信が鳴り響いたのである。

「もしもし」

『あ、もしもし。お待たせしました。合流したいんですけど、何処のホテルにいます? 』

「おお、今は駅に一番近い西横INだ」

 思いがけないタイミングで赤鬼くんから連絡があったのである。

 滞在ホテルを記すのは怪しいと思ったボーガンが『ボーガン 090-xxxx』と番号を記しておいたのである。

 危険ではあるが、この場面においては信頼と安心を与えてくれる鬼くんとの合流であるが、待ち合わせ場所に登場したのは彼らが知らない鬼であった。

 黒曜の如く一本角な額の両端から伸びる二本角となり、耳が隠れる程度のボッサくれていた赤い髪は腰まで伸びている。

 白地に赤であった瞳も黒地に赤い鬼らしい目となり、心なしか身長も高くなっている。

 小さくなったり大きくなったり忙しい限りである。

「鬼くん、だよな?」

「はい。お待たせしました」

 ツッコミどころ満載であるが、途方に暮れていた矢先に解決策が見つかったので皆一安心であるが、そう簡単に事は運ばない。

 赤鬼くんが一歩踏み出したと同時に駐車場の周囲一帯に赤色灯で照らされる。

「動くな警察だぁ!!」

 通報を受けて完全に包囲して待ち構えていたのだ。

 荒川初期メンは完全に終わったと目を瞑っているが、赤鬼くんは振り返って小さく頷く。

「大丈夫ですんで車に乗っておいてください。あっ! 動画を回して貰えませんか?」

 ボーガンはよくわからないままにスマホで撮影を始めると、赤鬼くんは芝居掛かった口調で歩み寄る。

「それ、撮影してます?」

「ああ、してる」

「じゃあ、少し貸してください」

 ボーガンからスマホを受け取った後、殺戮劇が幕を開けてしまうかと思いきや、赤鬼くんは普通に警察官の元へ両手を挙げながらに歩み寄って行く。

「止まれ、それ以上は近寄るな」

 鼻に大きな黒子のあるナマズに似た顔面の警察官が特殊警棒を構えながらに警戒するが、赤鬼くんは平然としながらにスマホのカメラを警察官へ向ける。

「あなたには家族がいますか?」

「お前には関係のない事だ。両手を頭の後ろにおいて跪け」

「質問に答えてくれないので腕を貰います」

 次の瞬間にはナマズの腕が地面に落ちては噴水のように血が噴出し、警察官達は慌ててリボルバーを手に取るが、赤鬼くんはニコニコと笑みを見せたままである。

「では、質問です。あなたには家族がいますか?」

「いる! いるから救急車を! 腕が! 腕がぁぁぁあ!!」

「大丈夫です。すぐくっつきますから」

「ほんとぉ? ほんとにくっつくぅ?」

 数瞬の沈黙の後に、警告発泡から連発で銃声が響き渡るが、その弾丸は即座に全てが鬼弾へと切り替えられるが、射出はされずに待機状態となる。

「ご心配なされるな警察官の諸君。私はこれでもかつて国に忠誠を誓った同胞だ! 無闇矢鱈にお前らを殺そうとも思わん! だが、一つだけ覚えていて貰おう!」

 赤鬼くんが高らかに声を張りながらに、切り落とした警察官の腕を己が血を垂らしてくっつけると、愉しそうに嗤う。

「世界は変わった!!」

 赤鬼くんが睨んだだけで誰もが動けなくなってしまう。
 彼は悠々と歩きながらに包囲していた警察官一人一人の階級章を引きちぎっては握り潰して投げ捨ててしまう。

「ただ銃で脅して法律を翳していれば国を守れる時代は終わったんだ! 見ろ! ただの鬼相手に何も出来ずに固まっているだけだ!」

 警察官の顔をペシペシと叩くと、動画を撮影している野次馬達に振り返る。

「皆々様! 呆けている暇などないぞ。力を求めよ! 選択せよ! 生きる道を選ぶ時が来たんだ! あははは! あはははは!」

 謎に爆笑しながらに立ち去ってしまうが、ボーガンは「俺のスマホが」と白々しい声をあげながらに赤鬼君を追った。

「じゃあ、それSNSに載せちゃってください」

「いや……いいのか? まずいだろ」

 街の外れて合流しスマホを渡されると同時に頼まれるが、流石にそれはまずいとゴネるボーガン。

「大丈夫です。多分積極的に炙り出す段階です。いや、遅いぐらいなのかも……とりあえずお願いします」

「これをすると、間違いなく俺が指名手配されるんだが……」

「ぬし様がなんとかしてくれるのでお気になさらず。最悪身代わりになってくれる人員は自分も含めて多く存在してるので……いや、身代わりを作れるようになればいいのか」

 赤鬼くんがブツブツと自分の世界に入ってしまったので、ボーガンはええいままよと先程の動画を各SNSにアップした。

「できれば誰の目にも触れませんように」

 ボーガンの願いは叶わず、動画は凄まじい勢いで拡散された。











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