81話

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　学歴高めのニート@gakuneet69
　わい、やっとこさ就職に成功。
　なんと新年大宴祭で平山テントを張っていた藤堂ファームが経営するキッチンカーを任せられた。
　ウニが食えなかったおまいら、花岡駅に来い。
　1500円で爆盛りウニ丼食わせちゃる。
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　チョコレートドーナツとコーヒーでも売っていそうなキッチンカーでPCの操作をしながらにウニ丼の販売をしているのは我妻良寛、通称東大である。

　彼がSNSで呟いた後にPCを操作すると、何故か無数のリツファボがボコボコに加算されて行く。

「うまくいった」

　放置アカウントや乗っ取りアカウントを利用して強制的にバズらせるシステムを組み込んでいるのだ。

　海外サーバーを経由して他人のアカウントからオートでアクションを起こしまくるだけのシステム。

　才能の無駄遣いその①である。

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　学歴高めのニート@gakuneet69
　謎にバズったので告知をば！
　花岡駅前でウニ丼売ってます！
　普通なら6千円ぐらいする内容ですけど1500円で売ってます(*ﾟ∀ﾟ*)
　毎日いるから食べにきてね！
　│uni.jpg│
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　これで実際に人が来るかどうかはわからない。
　わからないが、数万の人間の目に触れる事によって一人でも客が訪れたのなら大勝利である。

　やらねば500円の利益はないのだから、やらないよりはやる方がいい。
　だが、東大は一つのSNSだけのアクションには終わらない。

　IDBookなるSNSを開くと、彼とリアルで交流のある人間達が、やれ海外に行っただの、やれ高級ホテルに泊まっただの高級料理を食っただのと人生を謳歌している瞬間を投稿し、自分の価値を高めようと必死であるが、東大はごく普通にキッチンカーの外観やウニ丼の写真と、エプロンにタオルを巻いた姿の自撮りを投稿する。

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　りょ かん

　わい、東大理III次席で卒業した勝ち組のはずが、院にも行かず就職もせず 東北の田舎駅でキッチンカー乗ってる件。
　わいを馬鹿にして勝ち組感に浸りたい奴はちょっと食いに来い。
　爆盛りウニ丼1500円で食わしちゃる。

　▼
　J D.
　嘘でしょ？！
　そんな暇あったらラボの手伝いしてくださいよ！

　みおん 崎守
　なんたる才能の無駄遣い

　Rick Dom
　Come to America right now.
　I'll let you help me with my research.

　板谷 敬三
　君が語る自由は本当にそれでいいのかい？

　Ed Griffith
　Japan lost an excellent human resource.

　黄 明美
　来北京吧
　非常欢迎

　Akari Hayashi
　ツブヤイター見たよ^ ^
　花岡行くから待っちょれ

　天野 篤
　お前の論文見たよ。
　心臓外科を次のステージに押し上げる画期的なものだった。
　冷静になれ、そこはお前の居場所じゃない。

　…………………etc.

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　ゆるめの自虐ネタである。
　こちらはナチュラルに話題となる。
　彼がどれ程の人物であったのかが垣間見えてくる。

　彼は高校デビューでも大学デビューでもない。

　23歳にして、ようやっと自由たる泥沼に咲く一輪の花になろうとしているのである。

　彼はこれまでにコンクリートで整備された成功者の道を悠然と歩いてきた。

　医学と理工学の学士を確実視されていた文字通りの天才であるが、当人は全く興味を持っていない。

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　りょ かん

　わいを賢いと勘違いしてる人間多杉内ワロタ。
　昔から散々言って来たけど、ただ記憶力がいいだけなんやで。
　コンピュータでファイル分けするみたいに必要な情報をいつでも出し入れできるようにしてるだけ。
　1ペタバイトぐらいならみんな楽に収納できるはず。
　記憶容量の復元再生も覚えておくと便利。
　もっと記憶できる。
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　独自理論である。
　それができないから彼が賢いとされているのだが、本人はただ記憶力がいいだけで、別に賢い訳ではないと言い張る。

　彼が残した偉業の中には、決して記憶力でどうこうできるような内容ではないものも多々あるが、それでも彼はDQNの負け組ニートを自称するのである。

　各種SNSにて宣伝をした後は、知人女性であるキャバ嬢の写真を複数保存し、勝手に女性無料の有料出会い系に登録しまくっては、男達にメッセージを送りまくる。

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　はじめまして香織です。
　花岡駅前でウニ丼売ってる19歳です(*´꒳`*)
　有料でメッセージ交換するのももったいないので会ってお話ししませんか？
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　コピーペースト乱送。
　極悪なれど弛まぬ営業努力である。
　数打ちゃ当たる戦法からソースを出してコードを組み込んで行く。
　送信上限に引っかからないようにして、全国の飢えた男達にメッセージを送信するとひっきりなしに返信が来るが、ウニ丼を売りながらであるので放置する。

　遊んでいるように見えて、この間もずっと行列を処理し続けているのだ。

　周囲一帯でウニ丼を食らっている老若男女で溢れかえり、更に客が訪れる循環である。
　ネットを使って集客など必要ないようにも思うが、彼なりの考えがあるのだろう。

　全て売り切った後に平山へ戻り、事務員さんの元で60万円の精算をして20万円の報酬を得る。
　彼の本日の稼ぎは25万円と凄まじい滑り出しとなった。

　車に乗り込んではなかなか帰ろうとせずにパソコンで出会い系のおっさん連中に返信しまくる。

　存在するはずもない香織ちゃんに会いに行くと約束するまでの会話を全て記憶させ、擬似的なAIをプログラミングして行く。

　そこはかとない尻軽感を演出しながらに、数百人規模でオッさんの相手をして行くと、気が付けば夜が明けて朝となっている。

　東大は脳の使用領域を切り替えて睡眠欲求を排除すると、再びキッチンカーへと戻り仕込みを開始して行く。

　髪の毛がカラフルなコスプレ的な鬼達がワイワイとウニ詰めをしていても気にした様子もない。

　先日に研いで冷やしておいた米を水に浸して、ウニを次から次へと積み込み、最終的には鬼達と共に瓶詰めまで手伝う始末である。

「お前さん、怖くないのかい？」

「なぜ？　大宴祭で何度もメロンを貰いに行きましたが？」

「あー、そうだったのか。ならいいや。瓶の発注してるけど一回で500本までだってよ。そこのヤツ積んで行っちまいな」

「いや、手伝います。要領は昨日覚えましたから」

　変わり者である。
　東大は鬼達と共にウニの瓶詰めを行い、鬼達が界門にはけていくのを見届けてから仕事に出る。

　市街に出てから銭湯により、サッと身支度を整えたなら、再び花岡駅前で商売スタートだ。

　火も使わない。
　ただ米にウニをぶっかけるだけ。
　単純で手返しが早い。

「お兄さん、香織ちゃんは？」

「香織ちゃん、風邪引いたかもって休んでるんです。ご友人の方ですか？　伝言承りますけど」

「いや、いいよ。こっちから連絡しとく」

　早速効果ありである。
　夜通し下ネタ混じりの脳チン出会い厨を相手にあの手この手で口説いて500円の利益とは安すぎるが、その努力あっての500円である。

　ステマと言えばそれまでだが、本来客になり得なかった人間に足を運ばせて商品を購入させる事には大きな意味がある。

　100人の人通りがある道で商売をしているとすれば、最高で100杯しか売れない。

　最初は物珍しさに75人、次は50人、次は25人と流行り廃りによっての売り上げも変わるだろう。

　ならば他所から引っ張ってきてしまえばいい。

　セックスが目的の下半身に脳みそがある連中を釣り上げて、目的の女子がいなければ、話を聞くためにウニ丼を購入せざるを得なくなる。

　休みだと言ってしまえばそれまでで、致し方なく購入したウニ丼を楽しむしか道はなくなる。

　10人釣り上げて10人とも怒りだけ覚えて帰ってしまえばそれまでだが、1人だけでもウニ丼の素晴らしさに気付いた場合はどうだろうか？

　こんなに山盛りウニが入って1500円、しかもめちゃくちゃうまい。
　わざわざ食いに来る価値あるな。
　今度友達を連れてこよう。
　すごいウニ丼が食える店がある、連れてってやるよ。

　下半身から舌の客に切り替われば、口コミなるブーストがかかる。
　一人でも多くの人間に一杯でも多く売る事によって、将来的な売り上げに大きく影響を齎す結果となる。

　彼は80億人規模の財布をこじ開ける小さな歯車を回し始めている。
　目先の利益よりも社会実験的要素で人を集めては虜にしていくのだ。

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　わい、ウニ丼店主の妹の可愛さに咽び泣く

　パンチラJKの溜まり場見つけたンゴ

【朗報】バリちょうどええ女が発見される

　爆乳のパリピがウニ丼屋やってるってガチなん？

　キッチンカーの女がえっちすぎる。

　セクシー女優の握手会のはずが……

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　某大型掲示板の全てに、最終的にはウニ丼屋のキッチンカーに辿り着くように仕掛けがされている。

　実際にSNSなどでは同僚の九斗 麻理などがたゆんたゆんさせながらに踊っている動画が上げられたり、音遠や早苗などの事務員さん達がウェルカムメッセージを作ったりと、楽しんで動画を作成しているようで、下心溢れでるコンテンツを次々に世に送りこんでは、集客していく手腕は恐ろしいものがある。

　食欲と性欲が直結しているとされるならば、性欲から食欲に巻き込んで行く形である。

　そして遂には花を添える為の暴挙に出る。

『店主正直者故にJKのみ一杯千円』

　東大は遂にとんでもない看板を掲げた。

　普通に考えれば変態すぎておかしな看板であるし、マイナス面しかないように思えるだろう。

　しかし、これも考えあっての行動だ。

　実は周辺には不良サッカー部の通ってる橘工業のみならずに七つもの高校があり、花岡駅からバスで方々に散る通学システムを取っているので、ほとんどの店舗が高校生割引を行なっている。

　大学もあるので、大学生には値段は同じで量は倍などのサービスもあるが、高校生割引は普通。

　となれば正直者たるや、男の素直さを全面に押し出した料金体系であると理解も得られる。

　クソチンポなど知らん、JKに貢がせろ。

　地元民はそれで納得できるのである。

　そして割引をする事により彼氏を連れて来る個体が増える。
　カップルで換算したら一杯1250円で食べられる計算となるからだ。

　東大の利益は減るが、顧客は確実に増えるので、将来的に見ると大きな利益に繋がる。

　他の者が200杯平均で売るのに対して、東大が早い段階で800杯平均で売るようになったのだから、如何に効果的であるかは一目瞭然だ。

　炎上商法、六次の隔たり、なんでもござれで人間を集めまくりながらに売り捌く毎日を続け、ウニ丼屋の知名度が爆発的に広がり始めると、東大は次の手を打つ。

　彼は市が推進しているシャッター街の改善策による格安での物件貸し出しに問い合わせを行い駅前の空き店舗を契約し、イートインスペースを用意したのである。

　市街の最寄り駅でありながらに学園都市として分類され、廃れ始めているからこそできる荒技である。

　これまでは適当に駅前のベンチや噴水周りで食べていた者達がイートインスペースで腰を落ち着かせる事により、買いやすさが上がる。

　長机と丸椅子だけのシンプルな空間であるが、食べる場所があるだけでランクが変わる。

　駅前であるのに月4万円の3ヶ月契約で12万支払えば鍵を渡して貰える物件が花岡には沢山ある。

　イートインスペースの契約で段取りを覚えた東大は次々に契約を行い、キッチンカー開始から1ヶ月もしないうちに固定店舗をそこかしこに展開した。

　米とウニだけあればいいのだ。
　簡単に広げていける。

　そんな彼はタキオからひょんな一言を貰う。

「東大、お前頑張ってるしウニの仕事丸々振るわ」

「え？　どう言う意味ですか？」

「そのまんまの意味。ゆっくりでいいけどな。うーん、そうだなぁ……1瓶500円バックしてくれたらいいよ。その代わり瓶詰めの人員とかも全部そっちで用意して欲しい。もう鬼さん遊ばせてらんないの」

「……では他の皆様方も？」

「いや、他のみんなには東大から千円で売ってやればいいだろ？　こっちはウニだけならいくらでも用意してやるから、それをお前が一手に引き受けてビジネスにしろって話」

　急に飽きてほったらかしにしたようにも見えるが、実は東大の売る勢いが日に日に増して、固定店舗まで展開してしまったのに付け加えて、鬼が急に抜けなくてはいけない事態に平山の面々がウニの瓶詰めをする過密スケジュールとなってしまったのである。

　ウニ詰めだけに人員を雇おうかとの話も出たが、それなら東大に全部やらせればいいだろうと丸投げしたのだ。

「先程の言葉に嘘はありませんね？」

「ないない」

「では謹んで」

「良きに計らえぇい！　あ、そうだ。必要なら何億でも貸してやるから言ってこいよ」

　東大の快進撃はまだ始まったばかりであるが、彼も平山に寄せられてある種の力を得た人間である。

　力を求む者には力、富を求む者には富を、知恵を求む者には知恵を。

「なんでそんな……よくしてくれるんですか？」

　そして——

「それがお前が選んだ自由な遊び方だってんなら、もっと本気で遊べるようにしてやらにゃ嘘だろ」

　——遊びを求める者には遊びを与える。

　何処からどう見ても真面目に働きまくっているだけであるが、それが遊びだと言えば遊びなのである。

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　りょ かん

　今日は珍しく酔っ払ったから語る。
　多分起きたら消す。

　結局人間って個々の能力は二の次で、どんな人間と出会うかで大きく変わって来ると思う。

　確かに名門の高校や大学に進めば、将来を約束された多くの人間と知己を得る事ができるので、成功への道は開かれ易いとも理解できる。

　だけどそれは、無数に張り巡らせられながらにも先人が切り開いてくれたレールに乗らせてもらってるだけであって、限界がある。

　そう、限界があるんだ。

　世界的な心臓外科になろうと、脳医学の権威になろうと限界がある。

　地方でウニ丼売ってる奴が何を言ってるんだって思うかもしれない。
　遥か高みを目指す志を捨てた卑怯者だと罵る者もいるかもしれない。

　ならば一つゲームをしてみよう。

　シンプルにわかりやすく総資産で勝負だ。

　10年、いや5年でいい。

　5年後に、どちらが多く稼いだかで勝負をしよう。

　お金は二の次で大事なモノは他にあると道徳を説くなら、このゲームには参加しなくていい。

　そんな奴は総資産億越えあたりの有象無象として限界の檻の中でもがいていればいい。

　何故日本は総資産1億越えの小金持ちが世界で二番目に大いにも関わらず、世界の長者番付に名を連ねるような人材が存在しないのかは一目瞭然だ。

　レッテル貼りに忙しく、新しい事に踏み出す勇気が無いからだ。

　人に上下をつけて愉悦に浸ろうとするお前らは他の誰が認めても、俺がとことん見下してやる。

　ムカつくか？

　ムカついている時点で負け組だと俺を見下しているのだろう。

　黒歴史としてスクショするなら今だぞ？

　後でいくら晒してもらってもかまわない。

　その代わりにゲームには乗れ。

　持てる知識、人脈、財力、権力、その全てを使って本気で稼いで俺を打ち負かしてみろ。

　いいか？　今日から５年後だ。

　お前らみたいな勉強ができるだけの馬鹿が語る成功者たるは正しいのか否かを証明してみろ。

　細胞いじくりまわしてオナニーしている連中も偉そうに講釈垂れる教授さんも医学の権威さんもみんな参加しろ。

　人は人との出会いで成り立っていると俺が証明してやる。

　━━

　ベロベロである。

　ベロベロであるが、タキオと出会って面白いグレ方をしたのだ。
　これまで人に言われるがままに何となく全てをこなしていた東大……いや、我妻 良寛は自分の意思で動き始めたのである。