うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

80話


 ウニ丼のキッチンカーの面接である。

 まだ四台しか段取りできていないし、許可系統もようやく認可を頂けたので、後はやるだけの状態にまでは来ているのだが、なんとも怪しげな顔ぶれが揃ったものである。

 ばあちゃん家のリビングでローテーブルを囲んでの面接となったが、まず一人目のジジイたる馬渡 正一さん。

 見た目はごま塩頭のヒョロっこいジジイであるが、眼光だけは堅気のそれじゃない。

 一応で持って来てもらった履歴書を見ると、前職に有名な指定暴力団の名前が平然と記されている。

「山菱組系真旭会系宮脇商事ってのは、大阪のテキ屋の? 」

「ご存知ですか。はい、神農も暴排の煽りを受けましてね」

「なるほど。なら屋台なんかはお手の物と」

「なんならアレぐらいの車でいいなら安くで作れますよ。それなりのツテはまだありますから」

「はい、採用」

 元ヤクザで怖いってのはあるけど、こっちはゴリゴリの読んでそのままの殺人鬼を囲ってるぐらいなので、元ヤクザってだけで弾くには勿体無い人材だ。

 後からゾロゾロと柄の悪い連中を連れてきたら鬼達に食わせりゃいい。

 あれ? 違う違う違う。ジョーク、今のはジョーク。
 最近強くなって調子に乗るクセがあっていかん。
 人間らしさを忘れていってる気がしていけない。

「んで、次が矢沢 緋色さんね。嘘みたいな名前だな」

「キラキラネーム最先端きちゃってウィッス」

「あ、はい。前職のクリスタルにゃんにゃんってなに?」

「ソープっす」

「ソープってソープ?」

「うちは即尺生ハメの高級ソープだったんで、そこらのソープと一緒にしてもらうわけにはイカ臭い金玉スプラッシュですけど、まぁソープですね」

 なんだろう。
 履歴書に本来伏せるべきであろう事柄を馬鹿正直に書くのが現代の主流なのかな?
 嘘くそ書かれるよりは好感が持てるけど……。

 でも、このツイストスパイラルのタトゥーまみれ兄やん憎めない愛嬌がある……。

「てか高級ソープって言葉遣いとか一から教育されるんじゃないの?」

「されますねぇ……ヤクザの部屋住みみたいな環境で徹底的にやられちゃいますよ。自分逆に弾けちゃいましたけどねっ!ぶはははっ」

 笑うところなのか。
 合わせて笑っておこう。

「まぁ、いいや、採用」

 もう、どんな人材を切るべきかすらわからん。
 自由な働き方革命って事で、リアルに来るもの拒まずを実践できる気分になってきた。

「次は九斗 麻理さん。キュートって珍しいですよね」

「はい。昔ヤカラに絡まれて名前なんじゃって言われてキュートですって言ったらビンタされた事あります」

「ふふ、いや、それ持ちネタでしょ?」

「わかります? 実話なんですけど鉄板です」

 色黒の女子、一昔前の表現でいけばビーガールって感じだけども、普通に可愛い。
 でも、そこはかとなく不良感が強い。

「いいですね。前職は何も書いてませんけど、仕事は初めてですか?」

「一応パパ活ビジネスの元締めしてたんですけど、JK売ってた件でパクられちゃったって感じです」

「あ、みんな正直に話してるからって全部話さなくてもいいからね。伏せようと思ってたんなら、それでいいから」

「別に大丈夫ですよ。今は少刑あがりで無職で困ってます」

「はい、採用で」

 実は一瞬悩んだけど、悩んだ自分が烏滸がましいと思って即採用にした。
 可愛い女の子を切り捨てるなんて藤堂瀧雄にあるまじき行為。

 イキりすぎである。

 綾子さんが彼女であるからと言って同じラインに立ってると勘違いしているようなクソ男にはなりかけていたのかもしれない。
 俺みたいな基本女性に相手されないタイプの人間は女性に媚びて『いい奴』の烙印が無ければ生きていてはいけないのである。

 トキヤとかジュンペーのように放っておいてもびしょ濡れのメスマンさんが、オヂンボォーと襲い掛かってくるタイプの人間には死んでも理解できないだろうがな。

 で、最後は社会不適合者三連発の後に大どんでん返しと言った人員である。

我妻 良寛あがつま りょうかんさんね。23歳……え? 東大卒?」

 スラッと長い手足に耳が出るように切り揃えられたサラサラの髪、黒縁眼鏡。
 いかにも頭が良さそうなイケメンである。氏ね。

「しかも理IIIて。理IIIって宇宙人しかいないってぐらいのカシコ賢い人の集まりでしょ? もっと身になる仕事あるんじゃ?」

「お気になさらず」

「うん、了解。ってなるか! 気になるわ!」

「いえ、基本私は人種として、右の彼らと同種です。法律なんて糞食らえ、やりたいように生きるべき、常々そう考えてきましたが、家族の巧みな話術に騙されたまま突き進んだ結果がそれです」

「巧みな話術?」

「はい。まず、小学生の時に髪を染めてピアスを開けました。すると両親は、頭髪とピアスが自由な中学に進学しろと言いました。友人と離れて中学受験をしましたが、高校でも頭髪とピアスが自由な学校へ行こうと思えば、県下でも三本の指に入る高校に行くしかなく、致し方なしに勉学に励みました。青春を勉学に捧げてしまったので、高校を卒業したら自由に生きようと両親に一人暮らしをする為の資金をせがみました。すると東大理III首席で卒業できたら1億の資金を提供してやると言いました。弛まぬ努力を続けましたが、次席での卒業となってしまい、気がつけば大人の仲間入りの年齢です。1億も青春も逃してしまった私は、これから全てを取り戻す勢いで遊びたいのです」

「お、おう、なら採用」

 なんか新卒で何処もが欲しがるような人材が街の求人誌で転がり込んで来たんだが……これは才能の無駄遣いも極まってしまっているのではないか?

 ぶっちゃけ車の免許があれば誰でもできる仕事なんだが……本当にいいのだろうか? おい、やめろ。お前みたいな優秀な人材が率先してそいつらと握手すんな。

「えっと、じゃあ仕事について説明するけど」

 一応元より面接が来ると聞いていたので用意していた牛乳瓶のウニ詰めを見せる。

「販売の許可を得ている駅前、ショッピングモールの駐車場などに行って、丼にご飯をよそって牛乳瓶のウニをぶっかけて完成。醤油、きざみ海苔、ワサビなんかは、備え付けといてご自由にって感じにしとけばいい」

 ささっと人数分のウニ丼を用意して頂きます。
 みんな幸せそうに食べているので、お茶を用意してあげる。

「一杯1500円で売って、こっちに千円バックしてくれたらいい。求人誌に書いてた通りだな。ガソリン代とかは領収書持って来てくれたら、その都度支払うから、ケチケチせずに満タンキープな。質問は?」

 大丈夫かなと思えば東大くんが小さく手を上げている。

「時間は好きなだけ働いても?」

「個人事業主扱いだから好きにしたらいいけど、飯時狙ってサクサク売り切った方が金になるとは思うぞ。知らんけど」

 知らんのだ。
 やってる体で求人は載せているが、こいつらが最初のスタッフなのである。
 ぶっちゃけ売れるかどうかもわからん。

「これでオッケーなら明日からスタートだ。各自経費袋に十万ずつ渡しておくから、帰りに銀行とかゲームセンターでバラしてお釣りにできるよう両替しておいて欲しい。千円50枚と5百円玉100枚で十分だろう。飛びたいなら飛んでいいぞ、手切れ金だと思って貰っていい。二度と平山には入れないけどな」

 これは一種の賭けだ。
 10万ぐらいの金で飛ぶような人員であれば、100%売り上げを持って飛ぶ。

 ウニ丼100杯売って15万、200杯で30万となるので、10万ばかりでそのまま飛んでしまう可能性もある人員は早めに切っておきたい。
 やればやるほど儲かる仕組みなのだから、逃げずに続けてくれるのが喜ばしいし賢い選択であるが、人間何が起こるかわからないので選別は大事だ。

 金を渡されてしまえばサボれないだろって暗示も込めて、どうか明日は皆が揃ってくれますようにと願いながらに翌日。

 当たり前のように全員揃ってくれたので、米を研がせて水に漬け込んだままに、車へウニを積み込んでレッツゴー。

 牛乳瓶のプラスチックラックに氷を敷き詰めた単純な保冷でしかないが、冷蔵庫もそれなりにスペースがあるので、うまいことやってくれるだろう。

 先ずは200杯分のウニ丼の準備をして出陣させたわけだが、さて凶と出るか吉と出るか。

 朝一であるからお昼にいい感じに当たれば売れそうな気もするが……と、ウニを牛乳瓶に詰め込みながらに待っていると、3時過ぎには一台の車が戻ってくる。

「いやいや、親方。大繁盛ですよ。それ、持って行っていいですか?」

「え、あ、はい。先にテントで精算してくれます?」

 最初に戻ってきたのは元テキヤーサン
 の眼力凄まジジイである。
 事務員さんに30万渡して、10万円報酬で貰って空き瓶の計算。

 また次々とウニ瓶を積み込んでは米を五升炊き三発分十五升をセッティングしては入れ替わりでソープとビーガール。

 彼らは今日のところはここでやめるらしい。

「売れ売れっしょ。やばウィーなかんジィーですよ」

「ヘトヘトです。これから毎日来るよって言ってるのに一人で三杯も食べる人とかいるし」

「明日からは倍の量でお願いしまウィーす!!」

「行けそう行けそう。あの行列見たらクラっとするけど」

 激しい戦いであったようだ。
 だが売り切れて万々歳である。

 そこに東大も帰還。

 ニコッと笑って精算を済ませると、米を次々に研いでは袋詰めにして車の冷蔵庫に積み込んで行く。

「何してんのそれ」

「糖化現象を起こすんです。冷蔵庫で一晩冷やしておけば米はでんぷんが糖に変わって甘くなります」

「すごいな。研究でもしてたの?」

「いえ、祖母よりの豆知識です。それに米をストックしておけば、こちらに戻らずとも、そのまま夜の商いもできます。ではウニ詰めをやりましょう」

 何故か東大はウニの瓶詰めを手伝ってくれるらしい。
 別にやらずとも朝一に鬼達がせっせとやってくれるから構わないのだが、当人がヤル気になっているのだから無碍にする訳にもいかない。

 スキルで煮沸したら瞬殺であるが、いちいちグラス用のスポンジでゴリゴリ洗い流してからお湯に潜らせてから逆さまにして水分を飛ばす。

 後は適当におたまですくって満タンに注ぎ込んだらプラスチックのキャップをパチンと閉じるだけ。

 形が崩れようがどうなろうが関係ない。
 ぶっこんでおけば全て良しである。

「では夕刻の客足も見てみたいので行ってきます」

「結局行くんかい! 糖化現象どうなってん!」

「今日の分は既に炊きあがっています。念の為に全て持っていきたいのですが、氷は?」

「あ、あー、氷ね。ちょい待ち」

 慌ててばあちゃん家に飛び込んで、台所に袋を広げて水道の水を【冷却】でバンバン氷に変えては【破裂】で粉々にして行く。

 70リットルのゴミ袋を重ねて二つぶんの氷を用意して運ぶと、東大はメガネをクイッと上げる。

「およそ45kgの氷を片手で軽々と……力持ちですね」

「そうなの。インナーマッスルやば子なの」

 そこまで考えてなかったぁ。
 いや、持てるだろ。50kgぐらいなら片手で持ってても普通だよな? 多分みんな持てるはずだ。

「腰を起点に地面から僅かに上げたり、バランスを取りながら辛うじての重さです。風船を扱うように両手に軽々と扱うのはおかしいかと」

「あー、いや、これ実はそんなに氷入ってないんよね」

 怪しまれてる気もするが、気にしてはいけない。
 山の男は力持ちなのだと思わせておけばいい。

 ソープとビーガールはちぃーすと帰って行き、東大も第二陣に出かけたので自由時間突入。

 東大の前では下手な行動は控えよう。
 やはり山に関係ない民間人は扱いが難しいな。

 鬼達に瓶詰めの量の追加も伝えなきゃな。
 牛乳瓶も追加で発注しておいていいな。

 飽きられたら売り上げも落ちるだろうとは思うが、幸先のいいスタートで何よりである。

 全国展開したらかなりの利益になりそうな気もするが、今はまだその時ではないな。
 地元でキッチリと地盤を固めよう。

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