うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

79話




「クソッ! クソクソクソ! 次は絶対説明させるからな! 五月の奉納祭も絶対来るからな! 覚えとけよほんま!」

「おー! じゃあなー!」

 騙し騙しに適当にあしらっていると、達也は帰ってくれました。
 仕事があるんだから仕方がない。
 やっとこの日が来たとテンションが上がり気味である。
 ここでテンションに任せて二度と来んなと罵れば滞在延期を決めるのは目に見えているので笑顔で送り出す。

 あいつは大阪生まれの大阪育ちで平山なんぞ1mmも関係がないのに、これから毎年大宴祭と奉納祭に出るのを生き甲斐にするらしい。

 5月に催される出た事は勿論、見た事も聞いた事も無い祭りを生き甲斐にすると決めるなどぶっ飛んでると思うけど、元よりぶっ飛んでる事を思い出して納得した。

 ここ数日あいつのトークの相手をしただけで3kgぐらい痩せた気もするが、体重計に乗れば2kg太っていたので正月の恐ろしさを噛み締めている今日この頃。

「ばあちゃん、鬼くんってそろそろ出てくる?」

「もう出てるよ。自力でこっちに向かってるから放っときな」

「なんか申し訳ないんだよなぁ……結局替え玉のままにしちゃったわけだし」

「理由どうあれ人殺しの鬼を匿おうってんだから汚れ仕事は全部やらせたらいいのさ。32匹もいるんだから気にする必要ないだろ」

 微妙なラインである。
 アニメチックなコスプレ鬼軍団が謎に俺に懐いて軍門に降ってくれているのは素直に厨二心が擽られて喜ばしくもあるが、実際は警察や自衛隊やらマフィアを殺しまくってるバチバチの人殺し集団と聞けば引く。

 話せばみんないい感じの人達だし、ホブゴブリン時代は生きる為に必死だったと聞けば同情の余地もあるが、怖くもあるのが本音だ。

 いくつかの約束事をして匿う事にはしたが、みな働き者であるので割り切って付き合って行こうと思う。

 てな訳で人員も増えたし、年も明けた
 ので心機一転で制服を作り直す計画を打ち出した。

 以前にお蚕様より【製糸】スキルをゲットした際に、鶏の羽毛を糸にしてみたのだが、これを布に出来ないかと画策している。

 綾子さんが言うには業者で簡単にやって貰えるらしいので、早速糸を大量に送り込んでみた。

 鶏の羽毛を捨てずに服にできるとなると無駄が省けてテンションが上がってくる。
 ロゴとかのプリントとかもしたいがデザインなどのセンスが壊滅的なのが玉に瑕。

 デザイナーさんとかも紹介して貰おうかな。

「あぁ……日常が戻って来た」

 普通に平山の事を考えられる時間が幸せだと実感する。
 達也は幼馴染であるのに、彼がいるだけでアウェーに感じてしまう程にストレスを感じるのだから不思議だ。

「社長、なんかキッチンカーの求人の電話すごいわよ」

「あ、先着で受けちゃってください」

 そういえばウニ丼のキッチンカーの準備もしていた。
 世間様は仕事始めをしてるかどうか微妙なラインであるのに、求人が寄せられるってのも大宴祭効果だと思いたい。

 むしろ、それぐらい振り切って考えなきゃ、あのしんどさは割り切れない。

「じゃあ明日面接に来て貰うわね」

「ほいーす。それでお願いです」

 さて、界門での活動はどうするか。

 ばあちゃんはミノから下を全制覇してしまえと言われているわけだが、今はそんな気分にはならない。

 明日面接で上がってくるなら深くは潜りたくないのも本音であるが、少し懐に忍ばせたメモ帳を確認しよう。

 ━━━━

 平山界門

 一層 鶏
【貫通】【壁歩き】【パリング】

 四層 唐黍
【乾燥】【射出】【破裂】

 八層 トマト
【冷却】【命中】【膨張】

 九層 鴨
【水歩】【空歩】【加速】

 十一層 鰐
【顎門】【咬合】【粉砕】

 十二層 南瓜
【真空】【発育】【吸収】

 十六層 茄子
【煮沸】【加熱】【爆破】

 十八層 オーク  
【誘引】【絶倫】【豪腕】

 十九層 ミノタウルス
【無効解除】【斧撃】【怪力】

 赤髪界門

 一層 竹
【釣り】【刺突】【鞭打】

 二層 蚕
【製糸】【操糸】

 ??層 スケルトン
【決闘】

 ━━

 メモ帳の獲得スキル一覧であるが、我ながらにキチったラインナップだと思ってる。

 これで牛さんから【貫通無効】でもとっておけばと雑魚とは言わせない変態的なスキル群になると思う。

 特に怪力と豪腕の合わせ技とか、既にチートの領域と言ってもいい。

 あのミノタウロスが持ってる馬鹿デカい斧を平然と振り回せちゃうんだから困ったものだ。

 それでも貪欲にスキルが欲しい俺としては、少し気分を変えて赤髪界門でお蚕様狩りの続きとしけこみたいのだが、折角黒い毛が生えだしたのに再挑戦すると染め直しに美容室に行くみたいで抵抗がががが。

 どうしたものかとお狐ハウスを見てからのお隣さん。
 雁絵ちゃんの家から連れ出した姫ロリ界門があるのだが……うーん。

 バタバタで放置してるけど覗いてみようかしら……。

 ちょっと覗くだけ、先っちょだけ、先っちょだけね。

「ヒーウィゴーっと」

 てなわけで姫ロリ界門一層に踏み込んでみました。

 一層は葉っぱの体の大きい羊さんである。

 ステージは迷宮タイプで葉っぱ大羊さんがウロウロしておられる。

 綾子さんに貰った小太刀ら腰に差しているが、使うのは少しだけもったいない気がするので鉈でズパンッ。

 力任せに首を切り飛ばせば普通に殺しちゃえるけどタバコは落ちない。
 タバコ屋さんは廃業したのかな?

 まぁ、いいや。次は貫通が効くかどうかを試そう。

 鉈の背で【貫通】を使いながらに軽めにドーンするが、軽い抵抗を感じる。

 試しに【無効解除】を使って【貫通】をドーンだYO! するとズパンッと首が落ちる。

 つまりここは貫通無効層って事だろうか?
 魔物が持つスキルでなく、階層が付与するスキルまでも【無効解除】は解除してくれるとばあちゃんは言っていた。

 わからん。

 葉っぱ大羊さんが【貫通無効】を持ってる可能性もあるし、階層付与の可能性もある。

 どちらにせよ【無効解除】を持っている俺としては楽勝である事には変わりない。

「次の層行ってみようか」

 この大羊さんの葉っぱって、前に風巻攻めの時に見た魔物達と同じ素材であるからして、恐らくはタバコの葉だと思うけど、タバコの葉っぱって使い道あるのかな?

 タバコって干したり薬品につけたりと、色々ややこしい行程がある的な事を聞くし、個人で作るには葉巻が限界かもしれんが、あまりそそられないな。

 ━━
 一層 煙草の大きい羊さん 迷宮
 ━━

 とりあえずメモっておこう。
 サクサクズパンッズパンッして二層へ。

 我ながらに生意気になったものである。

 鶏にビビっていた時代が遥か昔のようだ。

 んでもって二層は葉っぱの牛。

 クビズパンッしてチェック。

 レタス……ですね。
 レタスの牛さんのようです。
 これはテツミチに教えてあげよう。
 あいつなら喜んで狩りに来るはずだ。

 試しに【無効解除】【貫通】【怪力】等を使用せずに、素面のままで鉈を振り抜いてみる。

 うん、レタスだもんね。切れるよね。
 了解しました、レタス屋さんと。

 ━━
 二層 レタスの牛さん 畑
 ━━

 早くも三層まで来てしまいましたが、こちらも畑ステージとなりまして、歪な形のキャベツが無数に転がってる件。

 大きさは大きめのキャベツと言った所だが、形はシジミ系の二枚貝みたいな形だ。

「ツンツーンっおわ、あぶな!」

 鉈でツンツンして見るとぱかっと開いてガブリンチョしてきやがった。
 気を抜いたら虎鋏み的なトラップになりかねない。
 注意事項も記しておこう。

 ━━
 三層 キャベツ貝 畑 ※噛むよ 虎鋏
 ━━

 楽しくなって来たので四層にまで突っ込んで来てしまったが、四層は白い蟹がいたので期待して刻んでやったが、内容は白菜だった。

 タバコ屋さんは完全に八百屋さんにジョブチェンジしてしまったようである。

 白菜などは鍋シーズンであるし喜ばしくはあるが、デカい蟹とくりゃ赤髪界門のスーパータラバ君を想像してしまう。

 マーちゃん達の双子山が出してた毛蟹が欲しい。

 なんかムカついてきたな。
 双子山も降してやろうか。

 違う違う違う、身内身内身内。

 今のなし。

 ━━
 四層 白菜の蟹 畑 ※毛蟹が欲しい
 ━━

 このままだと深くまで潜ってしまえそうなノリだ。
 余裕ぶっこいてるとドツボに嵌められるから、気を引き締めて調査だけしてすぐ帰ろう。

 五層はニラのライオンさん。

 六層はパクチーの女の子。

 七層はわさび菜の空飛ぶ目ん玉。

 八層はギョウジャニンニクの蠍。

 やばい……雑魚すぎてサクサク進んでしまう。
 てか、まるで金にならないラインナップに震えてくる。

 自己消費用なのかな?
 それなら安全でおいしいお狐産の野菜で十分ですけどって……これテツミチ達の食料庫的な立ち位置になるのは決定だな。

 とりあえずは一周だけ回ってみよう。
 野菜相手であらば恐るるに足らず。

 九層は紫蘇の弓兵さん。

 十層は高菜の山羊さん。

 十一層は水菜の妖精さん。

 十二層はわかめの魚。

 クソファック楽勝でござる。
 むしろ、よくここまで雑魚に仕立てられたと感心したくなるほどに雑魚い。

 ノリに乗って十三層に降りた瞬間、樹木のバカっ速い雄羊に体当たりされて吹き飛ばされた。

 ヤバいと察知して即座に十二層へ逃げようとするが、既に二発の頭突きを敢行しようとしているので怪力で鉈を振り抜くが、衝撃波で十二層まで弾き飛ばされてしまった。

「あっぶなぁ……」

 例によっての界門の洗礼である。
 気を抜きすぎたら死にかける。

 ━━
 一層 煙草の大きい羊さん 迷宮
 二層 レタスの牛さん 畑
 三層 キャベツ貝 畑 ※噛むよ 虎鋏
 四層 白菜の蟹 畑 ※毛蟹が欲しい
 五層 ニラのライオンさん 畑
 六層 パクチーの女の子。
 七層 わさび菜の目ん玉 迷宮
 八層 ギョウジャニンニクの蠍 斜面
 九層 紫蘇の弓兵さん 平原
 十層 高菜の山羊さん 畑
 十一層 水菜の妖精さん 森
 十二層 わかめの魚 浅瀬

 十三層 馬鹿強い雄羊さん ※あかん
 ━━

 調査はここまでにして戻りましょう。

 どんなスキルが取れるかはわからないが姫ロリ界門は十二層まではスキル稼ぎに適しているとだけ知れただけで儲けものだ。

 役に立つけど、売っても安く終わってしまいそうな品目であるのは切ない限りだな。
 野菜が高騰しているとは言っても、一撃の破壊力が足りないし、野菜の販売には畑を作ったりなんだりとコストばかりかかってよろしくない。

 個人売買でも出来るならまだしも……いや、個人売買できるのか。

 マーちゃんから伝って市街の飲食店に対して野菜の販売を行えば、それなりの利益は見込める。

 農家→農協→市場→八百屋→客のサイクルを農家→客にズバッと省略してしまえば、それなりに利益を出しながらにもスキル稼ぎができるはずだ。

 悪くない……悪くないかもしれん。

 ザックリと算盤を弾きながらに地上に戻ると、プラチナブルーの髪の変態が鮭の箱詰めをやっているので観察。

 こいつあんまり知らんけど話だけは聞いてる。

 狐山界門の山神の舎弟的な立ち位置の奴だ。

「なぁ、なんでそれ撫でたら魚出てくんの?」

「【分解】と【再構築】でございますよ二代目様。上位悪魔から分解と最上位悪魔から再構築を獲得すれば同じ事はできます」

「へぇ……便利そうだな」

「便利ですよ。何しろ」

 目の前に馬鹿でかい鮑が出てくるが、光の粒子に変換されると、それらは顔面ほどの大きさの鮑に変わる。

「これができるからこそ、鮑も雲丹も売れているのでございます」

「いいなぁ……でも悪魔とか絶対イヤだしな」

「ご心配なく。他の誰かが手に入れるまでは、この青面狐が責任を持って手伝わせていただきますゆえ」

 って事は形が無茶苦茶でも姫ロリ界門の野菜を運びまくれば、こいつが製品化してくれるって事か。

 便利な3Dプリンターがいたもんだぜ。

「じゃあ今度仕事を頼んでもいいか?」

「……ええ、構いませんとも」

 少し血管ヒクヒクしてるけど言質はとった。
 後は行動するだけだが……鬼達の仕事にでもするか。

 赤髪の鬼が戻って来たら狐山の界門に潜らせて欲しいとは言われてるが、雑用をさせておくだけには勿体無い人員だ。

 まずは車屋に連絡して軽トラの段取りと、県外から頼んでたキッチンカーがいつ頃届くかの確認だな。



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