うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
75話
「お前ら食い残したら許さねぇからなぁ!!」
ハメラレタ。
ハメラレタハメラレタハメラレタ。
抜け出せてラッキーとは思ってたけど何一つ幸運な事などない。
下手したら界門潜るよりしんどい。
ひたすら不特定多数の人員に料理を振る舞い続ける。
馬鹿である。
正気の沙汰でもバッドボーイズの佐◯でもない。
馬鹿なのである。
特大バーベキュー串を焼きながらに、鉄板で次から次へとステーキを焼いて行くと、セルフと間違えているのか生のままに持ち去られてしまうので、再びクーラーボックスからサシの入った霜降り牛を鉄板にズラッと並べてから串を返して隣の焼き台へ回して行く。
ステーキをひっくり返そうと動けば、既に絶対に譲らんと客が焼き加減を見ているので、新しい串を焼き台に並べる。
ステーキが無くなったので、再びステーキを載せると見ず知らずのシェフが登場した。
「私に任せなさい」
「いや、誰やねんお前」
「社長!! いいんですよ! 皆々が家族で皆々が神様なんですから!」
それにしたっていきなりニョイーンって長い帽子かぶったシェフが出てきたら突っ込まずにはいられんだろうに。
しかし塩、コショウを手際よく振って目にも留まらぬ速さで切り出したかと思えばわさびと粗塩を添えて紙皿に盛り付ける姿は美しくもある。
ちょび髭のコックさんたるや無敵である。
気になる。
めちゃくちゃ気になるけど忙しくて相手できん。
てかこいつ凄いぞ?
鉄板に隙間なく牛ステーキ並べたかと思えば牛カツの仕込み始めやがった。
手際よすぎるのも怖いな。
次々に仕込み終えたかと思えばバケツで手を洗ってステーキを完成させては並べて、また牛カツを仕込んでを繰り返してる。
こっちみんなドヤ顔やめろ。
しかしドヤ顔をしてもいいぐらいに手際が良すぎる。
すると風巻のサッカー部の少年が登場して牛カツを回収して行く。
「揚げ方は雁絵に聞いたらいいからね」
「はい! ありがとうございます!」
あ、雁絵ちゃんの関係者かな?
でも雁絵ちゃんの両親は海外で働いてるし疎遠になってるとか言ってたけど……。
「気になって仕方がないようだね」
「ええまぁ」
「焼きね、熱が漏れるのが勿体無いからピラミッドみたいに積み上げて、温くしておくといいよ。少し代わってごらん」
するとシェフは焼き台に一列に串を並べると、その上にピラミッド状に並べて放置したままに再びステーキを仕上げて行く。
「触っちゃだめだよ。煙で燻すぐらいの勢いで放置していれば、肉が焼けて縮小するから、その隙間に二段目を並べる。蓋をしたら早く焼けるだろう? それと同じ方法で焼いて行くんだ」
一見時間が掛かるように見えて焼き上がり始めると次から次へと焼き上がり、最後の一列となれば再び山積みにして行く。
「焼き台に押し付けちゃ駄目だよ。串の重さでナチュラルに圧をかけるんだ」
「あ、はい。あざます」
凄ぇ……凄ぇけど誰やねんお前。
気になってるのは焼きじゃなくてお前やねんて。
「絶対に何処かで流れは止まるから、その時に改めて挨拶しよう。それまでは作り続けるしかないよ」
「うす!」
よくわからんけど、シェフと見習いみたいになってしまったが、このおっさんがいればなんとかなる。
そんな気がして仕方ない。
しかし落ち着く時間などは訪れもしない。
21時頃から始めて既にカウントダウン目前である。
『オラァ! 祭りがはじまるぞぉ!』
学校の上から神化ゴリゴリの筋肉バキバキの鉄拳のカズ◯みたいな奴がスピーカー越しに叫んでる。
『飲んで歌って騒ぎまくれ!! 連なる山々の神々に感謝しろ! 共に楽しめ笑え叫べ!! 後15秒で新年大宴祭はじまるぞ!!』
バンッ、バンッバンッ、バンッと、それまで激しかった祭り囃子が太鼓のみのアイドリング状態となる。
『立て立て立て立て立て立て立て立て立てオラァ!! ごぉぉぉ! よぉぉぉん! さぁぁぁん! にぃぃぃぃ! いぃぃぃち!』
同時に季節外れの花火がボンボコ上がる。
『大ぃぃぃ!!』
『大っ!!』
『宴んんんん!!』
『宴っ!!』
『祭ぃぃぃぃ!!』
『祭っっっ!!』
男の掛け声に来場者が合いの手をいれ、大宴祭と言い終えた後に、それまでが嘘のように祭り太鼓が激しく鳴り響く。
『新年明けまして!! おめでとぉぉぉうございます!!』
男はそのまま大太鼓の前に立つと、雷にも似た乾いた重低音を響かせながらに単独で演舞を始める。
皆食い入るように屋上を見上げているが、それでも俺達が休まる時間はない。
7分程の演舞が終了し、音がスパンと消え人々も静寂に包まれるが、次は会場の彼方此方から声が響く。
『今日ばかりは無礼講!! 飲んで歌って騒ぎまくれぇ!! 』
『おらぁ!! 酒だ酒だ酒だぁ!!』
ククリ山のジジイやらセフィロ◯さんが当たり前のように法被を着て騒いでる。
ただでも激しかったのに、どんちゃん騒ぎが始まったかと同時に、更に客が増える。
「これ……死んだかも」
「県外からのお客さんですね。一応大宴祭は年明け開幕って事になってますからね」
米盆地の彼方此方で投光器が焚かれて、昼間のような明るさになっている。
空のクーラーボックスが裏に下げられるが、ばあちゃんが山積みに寿司を握ってから他のブースの様子を見に行けば、いつの間にやら山盛りになっている。
エンドレス。
終わらない。
いっそ殺せ。
せめて金取れ。
「シェフ、逃さねぇからな」
「そっちこそ。逃げたら駄目だよ」
シェフが誰かなんて関係なくなってきた。
極限状態の中で同じ苦しみを味合う人間には仲間意識が生まれる。
このオッさんが誰であろうと、仲間である事は間違いないのだ。
「おー、めっちゃ頑張ってんなー」
そんな所に串焼きを両手一杯に掠め取った脱力系少女が登場する。
「おいキョウコちゃん。なんで仕事してないのかな? ブチギレそうなんだけど?」
「あははー! わしは法事には出なくていいんだー」
「え、なにルール? クソ羨ましいんだけど。じゃあ兄貴達連れて来てよ」
「おにー達は雪見山のテントだー。人足りんらしー」
「うちかて足りてないわい!!」
「あはははー! たのしーなー! ほれ、お前もくえー」
馬鹿ほど楽しんでやがる。
いつも兄貴達といるから知らなかったが、キョウコちゃんにも友達がいるらしい。
なんか地味っこい女の子達を連れて食べ歩きをしている。
地味っこい女の子の友達しかいないんだなって昔なら口走ってたろうな。
今となっては言わないぜ、大人だからな。
「なんか憐れんでないかー?」
「そんなはずありませんとも。姫、ステーキはいかが?」
「うおー、くれー」
理不尽であるが、仲間が楽しんでる姿を見れると、自分達がやってる事も間違いじゃない気もしてくる。
後ろでミッちゃんが串打ちをしてくれた側から山積みにして焼いて行く作業も慣れた。
俺はトンカツを仕込んでやろうか、それぐらいの段取りは出来るようになったぜオッさん。
「ご察しの通りに私は雁絵の父なんだがね」
「いや、全然察してないけど」
「……あの子がグレて数年前の正月に勘当半ばに追い出してから早数年、疎遠になっていたんだが、使っていない別荘に住み始めたと聞いて、色々と影ながらには支えて来たんだ」
「全然聞いてねぇな」
急に自分語りを始めたけど、恐らく彼も察したんだろう。
この地獄に終わりが無いという事を。
「それでも追い出した手前、どうにも歩み寄り方もわからずでね、私も妻も海外で仕事をしているから、そのまま何もできずにいたんだが、今回久しく連絡が来たんだよ。ビジネスの話ついでに助けて欲しいってね」
「外国で洋食屋を?」
「洋食屋は趣味の範疇だね。貿易関係のついでに食材を仕入れて米国を中心に世界各国で鉄板料理店を少々とレストランをやってる」
「で、ビジネスの話とは?」
「この牛だよ。世界一の牛肉があるから、それを扱ってみて納得出来たら買えと言われてね。なるほど確かにこれなら文句なし」
なんかいきなり凄い話が飛び込んできた。
それが可能であらば確かに大助かりではあるが、俺も調べてない訳じゃない。
食肉の輸出に関しては色々ややこしいんだ。
認定施設の屠殺、解体、衛生証明書となんだったかな? 兎に角ごちゃごちゃしてたはずだ。
うちで一からやるとなると、牛の牧場から始める事になるし、申請関係でごちゃごちゃしすぎる。
それなら大伯父の牧場からって話になるが、人が間に噛むと値段も面倒もあがる。
結果平山としてはこれまで通りに牛を売るだけとなって旨味はない。
手を離れる商売でごちゃごちゃしたくないのが本音だ。
「いや、やめといた方がいいですよ」
よって興味なしと判断を下すが、雁絵パパも海外のやり手社長である。
「勿論、事情は理解しているつもりだ。世界を股にかけていると世界の裏側の構造が見えてくる。何か必要な書類なども全面的に都合しよう」
「いや、本当ややこしいですし」
「ダンジョン産品であるからかい?」
おっとバレテーラースウィフ◯。
いや、当てずっぽうか。
それとも海外に界門持ってる奴とツテとかあるのかな?
事情を理解した上で大量に購入してくれるなら嬉しい限りだ。
【貫通無効】はみんなに持っていて貰いたいし、いくらセフィロ◯さんが全部引き取ってくれるって言っても、やはり多少なりの申し訳なさもある。
海外であらば取引先がかぶったりもしなさそうだし悪い話じゃない。
「何よりコレをキッカケに雁絵と少し距離を縮めたい。勝手な父親の意見でしかないがね」
「そう言う理由の方が信用できていいですけどね」
確かにアメリカ人も以前は霜降りは体に悪いし脂っこいとか言っていたのに、何処ぞの舌の肥えたグルメ記者が、我々がこれまで食べていたのはサンダルの底だとまで言わしめてからは風向きが変わった。
輸出入で主張が合わずにオーストラリアが和牛の輸入を断念したのに、アメリカに持ち込まれた種がオーストラリアに渡ってオージービーフとの交配でアメリカンワギューやらオージーワギューを“アメリカン『コーベ』ビーフ”として販売している店舗が何店舗も存在しているとかなんとか。
うちの牛食ったらぶったまげるだろうな。
腰据えて商売しても楽勝できる牛だとは思う。
A-5って何? って感じで平山には溢れてるが、世界規模で見たって三層クラスの黒毛和牛なんて珍しいだろうと思う。
知らんけど。
「世界各国で次々に特殊なアレが見つかってるからね。優位に立つのはいち早くに動いていた者になる。娘が世話になってる会社の社長さん一人大金持ちにするぐらいの人脈は持ってるつもりだよ」
「なんかカッコいいですね。ちょび髭のくせに」
「伊達に長生きしてないし、カッコいいからこそチョビ髭にしてるのさ。父親失格と言われたら返す言葉はないけどね」
悪くない。
赤髪の鬼くんには悪いが、このまま雁絵パパとの商談を煮詰めた方がいいかもしれん。
「それは大事だけど、先ずはお客さんの腹を満たしてやらないとな」
ビフテキ、トンテキ、チキンステーキ、牛カツ、トンカツ、チキンカツ。
キチガイの如く山盛り用意していた竹串が残り僅かとなり、串打ち作業に人員を裂くのすら勿体無い状況であるので、メニューを一新したが、それでも忙しさは止まらない。
「見つけたでタキオぉぉぉおお!!」
そしてさらなる救世主が登場する。
本音を言えば会いたくなかったのだが、この状況下では救世主でしかない。
「達也、ちょうどよかった。さっさと手伝え」
「は? いや、かめへんけど」
「かめへんねやったらサッサと働け! 死ねほど忙しいん見てわからんのか!」
「おま、おまっ! 10年ぶりぐらいに親友に会って感動とかないんか!」
「ないわ! どないでもええから働け!!」
この松山ケンイ◯にローリングソバットかましてプラスチックバッドで形を整えたような髪型だけ震災刈りでイキッたフツメンが菅原達也、件の俺の幼馴染である。
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コメント
慈桜
今日バタバタしてるから1本なの(*´ω`*)ゴメス