うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
66話
タキオ達が駆け足ながらに攻略を進めている頃、桜は千四百層を越えた階層で端から端が見えない程の超巨大ネズミを一刀両断していた。
本当にタキオが言う通りに桜はそのままにひたすら千四百を越えて深くまで潜って行ったのである。
「ふーん。偽層でもうまくできてんだね」
当人はどうやら気付いているようであるが、何故か更に深層まで目指してアヒルを走らせて行く。
キラーグースはスキルで底上げされたままにひたすら走り続けて行く。
何がしたいのかわからない。
わからないが、何か目的があるのだろう。
「こりゃ多分三つとも使ってんね」
一条の光となりて駆けて駆けて駆け抜けた先には、次の階層へ抜ける階段は無く、ウロボロスのような身喰らいの蛇の彫像に囲まれた三つの偽神宝具がある。
「長かったねぇ……」
桜は何も躊躇わずに偽神宝具を回収すると、次の瞬間には十二層へと戻ってくるが、その場に他の面子が存在しない事に目を丸めていた。
「あのちんぷんかんぷんなトンチがわかるんだねぇ、あの子らは」
桜の優しさである。
龍の謎解きが溶けなければ、偽層にて延々ループの泥沼にハマることを見抜いた桜は、先行して偽層を潰して、普通に潜っただけで正規ルートになるようにしたのだが、誰一人とて十二層に戻っていないと言うことは、皆なぞなぞを解いた事に他ならない。
「これじゃあ先越されちまうね」
深層を目指しキラーグースを一条の光と変えて駆け抜けて行き三十四層。
【葉っぱ】
一層 子 
二層 丑
三層 寅
四層 卯
五層 辰
六層 巳
七層 午
八層 未
九層 申
十層 酉
十一層 戌
十二層 亥
【樹木】
十三層 子 
十四層 丑
十五層 寅
十六層 卯
十七層 辰
十八層 巳
十九層 午
二十層 未
二十一層 申
二十二層 酉
二十三層 戌
二十四層 亥
【葉っぱ】
二十五層 雄羊
二十六層 牡牛
二十七層 双子
二十八層 蟹
二十九層 獅子
三十層 乙女
三十一層 天秤
三十二層 蠍
三十三層 射手
三十四層 山羊
葉っぱの山羊層に到着すると見慣れた面々を発見する。
タキオ達とサッカー部と居候達である。
「大丈夫っすよぉ。もっと進むべきっすよ!」
「いや、もう三十四層だし、いきなり即死なんて事もあるかもしれないだろ!」
「そう言って煙草欲しいだけっすよねー!」
タキオとマヒルの口論の傍らでサッカー部と居候達が煙草を束にして持ち運び、ジュンペーとミッちゃんがロープで作られた紐でホールケーキ程の束に纏めてはゴミ袋に詰め込む作業を行っている。
桜は面白そうだと身を潜めながらに様子を見ているが、目の前にいるシシオを呼び込んで事情を聞く。
「桜様? なんでこんなとこに」
「謎解きしなくていいように細工してたんさ。で? あんたらは何してんだい」
「最初に煙草集めてたのはショーマさん達なんだけど、俺らが到着するなり手伝えって話になってさ」
事の始まりは先行して潜り続けていた三十四層で、居候組のメンバーの駄弁りからである。
『つか、この界門も平山来たらリニューアルされて赤髪みたいになるんじゃね?』
『って事はこのタバコは次にいつ手に入るかわかんないって事か』
『い、一応ですね。順に並べればタバコがドロップする最後の層になる可能性が高くてですね、あるとしたら次は四十九層でして』
『四十九層とか無理だろ。いきなり強くなったりも十分ありえるし』
『じゃあ攻略は桜様とかトキヤ君達に任せて、俺たちゃタバコ集めでもしとくかぁ』
そうと決まれば居候組の行動は早い。
体力は言わずもがな単純作業の繰り返しには定評のある男達はブルーシートを広げては次々とタバコを集めて行った。
あまり間を置かずにサッカー部が到着し、早々に三十五層へ降りようとするが居候達の丸太のようなバキバキの腕に羽交い締めにされたまま拉致。
済し崩しにタバコ集めを手伝う事になった。
そして暫くすると、出遅れていたタキオ達が登場。
事情を説明されると、愛煙家としての琴線に直撃したのか、全スキルを持ってして山羊煙草を搔き集めると宣言。
「で、今に至るって感じだな」
「ちゃんと馬鹿だねぇ。でも間違ってないよ。ここはあたしでもわかるぐらいに下手くそな作りだからね、多分いじくられちまうさ」
攻略を進めたいシシオとしては一番必要のないお墨付きであるが、両手でタバコを抱きかかえていたタキオはたまたま話を盗み聞きしてしまう。
「ばあちゃんが言っていた! やはりこの界門は改造されるらしい!」
「なーにー!? メシ食ってる場合じゃねー!」
桜は微笑ましく孫達を見届けている。
いくら奉仕型の界門であるとは言え、彼らの実力で三十四層は頑張りすぎとしか言えない階層である。
桜としても自分達が強くなったと勘違いして欲しくないので、ここでセーブしてくれるのは喜ばしくもある。
「まぁ、ゆっくり潰してくるから好きなだけ集めなぁ!」
その頃最前線を突っ走っているのはトキヤ達である。
三十五層 水瓶
三十六層 魚
【樹木】
三十七層 雄羊
三十八層 牡牛
三十九層 双子
四十層 蟹
四十一層 獅子
四十二層 乙女
四十三層 天秤
四十四層 蠍
四十五層 射手
四十六層 山羊
四十七層 水瓶
四十八層 魚
ぶっちゃけ楽勝の層がひたすら続き、そろそろ神層かと思った四十九層。
目の前には黄金の神殿に金色の鎧を纏った戦士が一人佇んでいる。
「セイントセイ◯みたいでやすねぇ」
「ちょっと、危ない感じはするね」
あっさり最高到達深度を更新したが、金色の鎧を纏った戦士が神では無いとするなら十二層五倍層が確定。
つまり六十層クラス、神としても高位の者の界門である事が確定するわけだが、ここで一つ問題である。
この界門は一層から四十八層までの間、多少なりとの抵抗はあろうとも献身的な階層しか存在して来なかった、特殊効果無効層なども使用せず、フルドロップでやりたい放題が四十八層続いて空気が一変。
「これまずいなー。あいつ最低でも10個以上スキル使うかもなー」
つまりそれまでに分配するはずであった力を四周捨て層にして五周目に集約しているとしたら、目の前の戦士の討伐は四十九層クラス相当の戦士を魔改造した厄介な個体である可能性が高い。
三十六層が限界のキョウコとトキヤでは太刀打ちできないのは目に見えている。
ここで気合と根性でなんとかなると突っ込んで行くのは子供向けの主人公だけであり、文字通りに自分の命をBETしているキョウコ達としては、ここで打ち止めとの判断になる。
これは致し方無しと階段に座りながらに皆で軽食を楽しんでいると、おっきなアヒルさんに乗った女騎士さんが登場しました。
「へぇ……黄金宮かい。うちにも牛の奴が一個だけあるよこれ」
そこで真打登場と言わんばかりに、一足遅れて桜の登場。
「桜様、あれはまずくありませんか?」
「あー、大丈夫だよ。強いったって斬りゃ死ぬんだからね」
桜はキラーグースから降りて腰を伸ばすと、神殿に足を踏み入れずに特大の日本刀を何処かから取り出し、何の躊躇も無く真横に薙ぎ払った。
全員ポカンとしている。
ルール違反も甚だしい。
先程まで威風堂々たるやと戦いの刻を待っていた金色の戦士が、ゴングが鳴る前に真っ二つにされてしまったのだ。
「あいつらとまともにやったら時間かかるからね。これが一番早いんさ」
「そんなこと誰もできやせんよ」
「あたしができてんじゃないさ」
結果として誰も見せ場を作る事が出来ぬままに全ての黄金宮を横薙ぎにした後、六十層双魚宮にて横薙ぎに斬り倒すと、彼が守っていた祭壇の上から中綿の抜けた不自然な凹凸のあるウサギのぬいぐるみを抱く幼女がゆっくりと降りてくる。
「ちゃんと戦ってほしかった」
「そんな暇ないんだよ」
桜は籠手越しに姫ロリをわしゃわしゃ撫でる。
少し不服そうではあるが、平山界門三十五層の金牛宮で苦戦した嫌な思い出があるのに、四十八層捨て層でブーストアップした四十九層から六十層までの黄金宮フルコンプは流石の桜でも御免被る内容である。
その身に纏う黄金の鎧が、平山界門三十五層で手に入れたまま、今でも大切に使っているのだから、その性能たるや凄まじい物であるのは間違いない。
「まぁ、そのうちちゃんと潰してあげるよ」
むぅっと頬を膨らませながらに姫ロリはトキヤの足に抱きつきながら桜を睨む。
「泥棒さん、約束どおり待ってたよ」
「ははっ! 懐かれちまってんじゃないかい! って事は一回会ってんのかい?」
「え、いや……はは、どうなんでしょうか」
「もう、くだるからね! 泥棒さんはやく!」
「えっ、ちょっと待っ」
直後にトキヤは直立不動のままに前のめりに倒れる。
またもやトキヤが器に選ばれてしまったのだ。
トキヤの異力が体から抜け落ちては征一郎の姿が形成され、苦笑いのままに桜へとウィンクをする。
「征一郎さん」
『やぁ桜。朱鷺夜君は今回から暫く休んだ方がいいね。短期間で神層到達二回で、この子に至ってはそれなりに高位の神様だ。深い神化が起こるかもしれない』
「あたしにしてくれたら良かったのに」
『会うのを我慢してるのに無駄に削りたくないんだよ。それに、この子は朱鷺夜君を選んだみたいだしね』
征一郎は丸眼鏡の奥からキョウコにもウィンクを返すと、キョウコも丸眼鏡の奥からウィンクを返す。
謎のやり取りである。
『多分、朱鷺夜君は不特定多数の界門に潜ってるから懐かれやすいんだと思うよ。なんて言うか……尻が軽いと思われてる感じかな』
「アバズレかー」
キョウコが漏らした言葉に兄達が悲しそうに首を横に振るが、征一郎は『それだね』と返して姫ロリへ向き直る。
『気をつけてあげてね桜』
繋ぎを持つと同時に征一郎は消え、朱鷺夜は毛先をミルクティベージュに染め、髪を胸までの長さまでに伸ばし、その瞳の虹彩を黄金色に煌めかせながらに意識を戻した。
「うわ、髪長くなってる……」
「こりゃあ本当にまずいねぇ」
二十層程度とは言え、赤髪界門で自力到達した後、自力到達では無いにしろ六十層クラスで神層到達に付け加え降しの器にされてしまえば、神化が進むのは当然である。
「えへへ、泥棒さんとおそろい」
姫ロリは朱鷺夜の顎から下の毛先の髪色が自身の髪と同じだと喜んでいるが、桜はシビアにも首根っこを掴んでプランプランとぶら下げたままに持ち上げる。
「神層は歳食われちまうからサッサと出たいんだよ。早く閉じておくれ」
「ぶー。わかったよぉ」
姫ロリがウサギのぬいぐるみを掲げると空間が吸い込まれて行く。
タキオが爆速で駆け抜けながらにサッカー部、居候組と共にタバコを搔き集め、興奮している最中に気が付けば其処は雁絵の屋敷の一室だったのである。
「チクショー! もう終わりなのかよ!」
「俺のセリフだよ! タバコ集めて終わっちまったじゃねぇか!」
タキオとシシオが怒りを露わにするが、タバコ集めをしていて本当に良かったのである。
あれだけ楽勝のままに四十八層まで抜けてしまえば、彼らなら何も考えずに雄羊の戦士に一戦吹っかけていたかもしれない。
良くも悪くも桜に命を救われたのだ。
「終わったんだな……」
部屋で椅子に腰掛けていた雁絵が呟くと、たまたま近くにいたタキオがそっと手を差し出す。
「握手? なんの」
「これからよろしくな、雁絵さん」
「……そうだね、よろしく」
呆気なさに過ぎる終着であるが、この日を持って雁絵は平山の働き手となる。
勿論、形式としては桜との仮契約であるが、これより毎日気が遠くなるほどに鶏狩りをさせられるなど夢にも思っていないだろう。
そして風巻サッカー部の処遇であるが、原チャリの免許取得を条件に平山に通える結果となった。
「クソが! タキオさんが悪いんだからな!」
「なんだこらシシオ!俺なんてめちゃくちゃミノさん頑張って倒したのにタバコ集めて終わったよ!」
「そりゃあ自業自得だろぉがよっ!」
「んだと、んにゃろーめ!!」
不完全燃焼のシシオが遣る瀬無さをタキオにぶつけるが、結果としては煽られて終了する。
「まぁ、いいじゃないですか。危険が一つ減って金儲けの種が増えたと思えば」
「だよな。ジュンペー大好き」
「俺も車買ってくれたから社長好きです」
活躍できなかった面々は納得が行かない様子ではあるが、心無しかスッキリとしているようにも見える。
やはり皆で界門を攻めるのは最高に気持ちが良いのだろう。
そしてシシオと掴み合いをしながらに【豪腕】でブンブン振り回して圧倒している最中、視界の隅に映るトキヤを見て、彼は爆笑しながらにシシオを手放す。
「ぶわっは! トキヤなんだお前それ!!」
「うわぁ……これは相当神化しましたねぇ」
「おい! 吹っ飛んでんだぞ?! 壁に叩きつけといて無かった事かよ!?
そこには変わり果てたトキヤが苦笑いのままに小さく項垂れている。
シシオは完全に無視である。
「お揃いなんだよ!」
「なんじゃこのちみっこいの」
「神様じゃないです?」
「おおー、またもやロリロリやないかい」
タキオは神と聞いても何も気にした様子もなく、脇腹に手を差し込んで持ち上げては揺らしながらに遊ぶ。
「ほれぇー! 飛行機じゃーい!」
「やめて! はなして!」
「楽しいだろぉー。幼女は飛行機が好きだろう!」
「そんな子供じゃないの!!」
その割にはメチャクチャ楽しそうにニコニコしているが、次の瞬間には平山に戻っており、桜はサッと姫ロリを没収しては連れ去って行く。
「好きなとこにぶっ刺しな。家は壊すんじゃないよ」
「うーん、じゃあ、ここ!」
そう言って姫ロリが選んだ場所はお狐ハウスの隣であり、鶏の血抜き干し台が並んでいる場所であった。
「いや血抜き台があるだろう」
「いーだ! しらないよ!」
「こんのっ、メスガキがっ!!」
姫ロリがウサギをぶっ刺すと、吊られた鶏達すら巻き込んで界門の入り口が開かれてしまう。
「ったく、神様ってのは本当に勝手な連中だねぇ」
「神様にメスガキはダメっすよ桜様!」
「いいんだよ、メスガキなんだから」
一仕事終えたと桜は自宅へ戻って行くが、キラーグースは家に入れないので玄関先で座り込んでガッカリとしている。
「つかババア! このデカイ鳥どうすんだよ! 」
「飼うんだよ! カワイイじゃないかい!」
「結構な頻度で食ってるのにカワイイとかおかしいだろ!!」
「それはそれだよ! ブツクサ言ってないで風呂でも入りな!!」
タキオと桜の口論はいつも通りの平山の光景であるが、ここで一人手持ち無沙汰に何をしていいのかわからずにオロオロしている人物がいる。
「おっ」
それにいち早く気が付いたのはタキオである。
「雁絵さん、とりあえず慣れるまで鶏狩ってくれてたらいいから。寝泊まりはばあちゃん家の一階は割と女の人多いから暫くはそこで。来春にはアパートもできるしね」
「……できるならバイクで通いてぇんだけどな」
「いや、もう来ちゃってるし、善は急げでしょ。大丈夫大丈夫。女の人も結構多いから。つかジミー! ちょっと来い!」
呼び出された銀髪君が小走りで駆けつけると、完全アウェーで困り果てている雁絵を見て、大体の事情を把握する。
「雁絵さんに鶏狩り教えてやってくれ」
「りょーかいす。でも意外すね。てっきりタバコ集めでもさせんのかと思ってたす」
「それにつけても貫通はあった方がいいだろ。赤髪は平山にぶっ刺してから、ちょっと変わったから、暫く様子見たいしな。安全第一ってやつ」
十二月も真っ只中、後数日でクリスマスであるが、彼らはサンタを狩るより魔物を狩ろうと、再び各々の仕事へと戻って行く。
地上は寒くとも界門ではステージにより春の陽気や夏日和であったりするので、中で過ごす方が心地いいと言うものも多い。
「終わっちゃったなー」
元より桜が参戦すると言っていたので、今回は瞬殺で終了するとは予測していたが、本当に何の見せ場もなく終わってしまったので脱力感が半端ないのだが、仕事をして忘れ……否、不完全燃焼感を界門にぶつけたくてたまらないのだ。
「界門降せてスッキリしやしたが、やっぱりどうにも暴れたりないでやすね。みな力をつけてきていたようでやすから」
「そう言うお前もなんか結構変な感じするけどな」
「それなりには頑張ってやすからね。殿のお力になる為に必死で御座いやす」
「オテツはよくやってくれてるよ。で、どうすんの?引き続き魚か?」
「ありがたきお言葉に御座いやす。魚もそうでやすが、またしばらく」
テツミチは覚悟を決めたと口を真一文字に結んだままに一礼を残してお狐ハウスへと戻って行った。
タキオはよくわからんと首を傾げていたが、彼が再び狐山界門に潜る覚悟を決めたなど知る余地もない。
「クリスマスプレゼントでも買いに行こうかなぁ」
少し浮ついた空気を残しながらに、平山は再び通常運転へと戻った。
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37
コメント
慈桜
あれ? セブンセンシズに目覚めてます?
ノベルバユーザー326478
黄金の鎧ってゴールドクロスでしたか…