うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
65話
さて、やっとこさ風巻の界門攻めと相成ったわけだが、今回は行けるとこまで行ってやろう作戦なのでサクサク進む。
「植物のネズミ?」
「面白いですね。害意は無いみたいですけど」
一層は樹木の迷路だ。
道をそれようとしても枝が密集していて抜ける事は出来ない。
ただ迷路と同様に定められた道を進む事しかできないが、葉っぱのネズミが降ってくる。
全部が葉っぱのネズミだ。
射出で小石を打ち出して貫通させればすぐに粉砕する程脆い。
「え、技能核?」
「まさか」
小石で貫かれたネズミは身を散らすと技能核発生と同様の光を放った。
近づいてみると、そこには一本の無銘の煙草が転がっている。
「ドロップって事か?」
「他のも倒してみましょうか」
ジュンペーが足元のネズミに手刀を入れると、やはり目の前には一本の煙草が登場する。
臭ってみるが普通の煙草かのように思える。
物は試しだ、吸ってしまえ。
「タキオさん危ないですよ」
「ブっ倒れたら適当に寝かせといてくれ。ここなら大丈夫そうだしな」
火を点けて肺に届けてみると異様にうまい。
俺として、この上ないと烙印を押してるセブンスターとタメ張る……いや、申し訳ないが勝負になっていないほどにうまい。
ジュンペー達は以前まで勧めれば吸っていたが今は完全に界門に適応すべく無駄な匂いを拒むので、ここはドレッド君に一本。
「ぶふぃー……うめぇよ、なんだよ、なんなんだよこれはよ」
「な。下に行くにしろ何本が持っておきたいな」
「ダメだよ。俺気合い入れてピン箱二つだもんよ」
「俺のは残り10本ぐらいだからちょろっと足しとくか」
と、言った直後にはマヒルが束でネズミ煙草を渡してくる。
「とりあえず進むっすよ。桜様がいるからすぐ終わっちゃうかも知れないっす」
「だな。サンキューマヒルちゃん」
煙草の補充がサクッと終わり、次の層に抜けると植物の牛がいる。
此方も敵意が全くない。
「大丈夫なんかこれ。守る気全くないぞ」
「楽でいいですけどね」
ジュンペーが鉈を振るって首を落とすと葉っぱの牛は葉巻になった。
葉巻はよくわからんがピンキリだと聞く。
調子に乗って火を点けてみるとチェリーのような甘い香りが漂ってくる。
「悪くないな」
「いいよ、いい匂いだよ」
何故かミッちゃんが走って行って10本ほど回収しては胸ポケにしまっている。
「気に入ったの?」
ウンウンと頷いている。
気に入ったのなら良い。
ミッちゃんには全てにおいて自由に楽しんで頂きたい。
なぜならミッちゃんは嫌いになる要素が何一つないからな。
三層は葉っぱの虎。
此方も倒せば葉巻が出る。
葉巻はよくわからないが、ミッちゃんが再び回収しているのでいい葉巻なのだろう。
「干支だね。ここまで来たら間違いないと思うよ」
「と思ったら、またネズミーとかもありそうじゃん?」
ミナミちゃんが警戒を解いて先々進んだ次の層は葉っぱのウサギさんだった。
サクッと討伐すると、またもや煙草。
俺とドレッド君は急いで拾い上げてすぐに吸ってみる。
「ぶはぁー! なんじゃこりゃあ」
「鼻抜け喉ごく最高だよ」
「一瞬ビリってするけど、速攻で満足感が勝つな」
「高級って感じの味がするよ」
「千円ピースとかも、こんな感じあるけど一味違うよな。それよりも補充を……」
さて、狩ろうかと振り向くと、再びマヒルが怒りながらの困り顔で煙草の束を渡してくる。
「急ぐっすよ」
「だね、急ごう」
赤い特攻服の少女が少し不機嫌と言うだけでご機嫌を取るために頑張ろうとしてしまう俺な色々アウトだと思う。
次の階段を見つけて降りると、広い空間に出る。
樹木のドームであるが、野球場の4、5倍はあるだろうか。
中央には葉っぱの龍がいる。
シェンロ◯かな?
子・丑・寅・卯・辰と来てしまえば流石に十二支踏襲と理解できるが、ミナミちゃんのドヤ顔が気になる。
『貴様らに謎解きフォブォッ』
葉っぱの龍さんが何か喋り出していたが、試しに鰐ガブをしてみると、容易く噛みちぎれた。
出て来たのは勿論葉巻である。
ミッちゃんが悲しそうにしてるのでプレゼントするとめちゃくちゃ喜んでくれた。
俺は葉巻とブランデーってノリよりは煙草とビールが好きなので全く興味が湧かない。
「葉巻って肺に入れたらよくないんだろ? それが苦手なんだよな」
「ゆっくり吸って舌で煙の味を楽しんで鼻から出すのがいいんだよ」
「高校生に言われんでも、それぐらいは知ってるっつの」
吸い方も知ってる上で楽しむ前に肺に入れてしまう癖がある。
ふかして煙撒き散らかしてると、最低限の風情は感じても勿体無い気分になってくるのだ。
この貧乏性だけはどうにもならん。
こうやってタダで手に入った物なら気兼ねなく楽しめるかもしれないが、数千円クラスになってくると純粋な嗜好より邪推が勝ってくる。
このスパイシーさがいいのか、上質な煙ってのはわかるけど違いはあるのか、金持ちはこれを値段を気にせず楽しめるからいいのか……楽しみながらにも無駄な思考に邪魔をされてしまうのだ。
「いい機会だし葉巻覚えよかな」
ババアが攻めてる以上は界門が落ちるのは時間の問題だ。
これからは身近に手軽に葉巻が手に入る環境が整うのであれば、一つ大人の嗜好品として本格的に楽しんでみるのもいいかもしれない。
ミッちゃんもブンブン頷いているので、また色々教えて貰おう。
「てか誰にも会わんな。皆先々行きすぎだろ」
子・煙草
丑・葉巻
寅・葉巻
卯・煙草
辰・葉巻
巳・葉巻
午・煙草
未・葉巻
申・葉巻
酉・煙草
戌・葉巻
亥・葉巻
結果として十二層までは植物的干支モンで続き、煙草は鶏が最高であることが発覚した。
なんだろうか……鶏殺しまくって生計立ててると言っても過言ではないのに、煙草まで鶏最高とか納得いかない。
俺はどれだけの鶏を殺して生きなければならないのだろうか……。
馬が惜しいんだ。
馬も葉っぱだしいいやって倒して最高にうまい煙草が出て来たんだが、やはり鶏には勝てない。
煙草チャンプイズクックドゥルドゥドゥー。
そして十三層、一層では平和的であった葉っぱのネズミが一回り大きくなり、俺たちを見つけるや否や飛びかかってくるが、ジュンペーが鉈で一刀両断。
「残念ながら【貫通】使えます」
「煙草が出てこない方が残念だよ」
「さっさと行くっすよ」
ここからは普通に魔物扱いなのだろうか、煙草のドロップは無し、残骸が飛び散ったままであるが、ドレッド君は残骸を拾い上げてマジマジと観察している。
「これ煙草の葉だよ」
「お前なんでそんなの知ってんの?」
「一年の夏休みに煙草農家のアルバイト行ったんだよ」
「なにそのコアなバイト」
俺のツッコミは無視して、ドレッド君は背嚢から封筒を取り出してネズミの葉を詰め込んでネズミと書き込む。
「なんの封筒?」
「仲間内で金のやりとり増えてきたから一応いれてるんだよ」
「ドレッド君て語尾にYO!ってつけよね」
「本当はもっとYO!ってやりたいけど、馬鹿っぽいから我慢してんだよ」
本音としては封筒を持ってるなら煙草の回収の時に出して欲しかったけど、ドレッド君なりに考えがあるのだろうとスルー。
この階層から執拗に襲ってくるので戦闘も致し方無しに起こるが、サクサク倒して次へ進む。
ぶっちゃけ【貫通】は対策されていない場合は壊れ性能なので攻略は余裕の一言で終わってしまう。
どれだけデザインに拘っていようとも、貫通が通用してしまえば瞬殺できてしまうのだから仕方ない。
子・丑・寅・卯と一回り大きくなった葉っぱモンスターが頑張って襲ってくるが、パリングからの鉈貫通で瞬殺である。
「鶏最強説」
「貫通が通じちゃうとね」
ミナミちゃんも納得らしい。
最強でありながら死にスキルと決めつけられていたが、赤髪界門の登場らへんから神スキル化してる不思議。
株価急上昇である。
平山界隈ではストップ高まで評価が爆上がりしている。
そして次の龍さんは、五層よりもデカイのでシェン◯ン感が増している。
『待て! その鰐を出すな! 話し合えばわかる!』
てな訳で鰐ガブでサクッとやっつけて次へ。
巳・午・未・申・酉・戌・亥も似たような感じで、あっという間に二十五層に来たが、またネズミが大きくなっただけである。
ここで嫌な予感がしたが、勘繰りでしかないので口には出さなかった。
そのまま俺たちは走って走って走り続けた。
三周、四周、五周と敵がデカくなるだけのまま百四十四層まで来た所で、ようやっと違和感を確信へと変えて話し合い場を設けた。
「これ、一層から十二層までぐるぐる回ってない?」
「もうネズミも団地規模になって来ましたし、一度戻ってやり直した方がいいかもしれないですね」
もしかしたら間違っていないのかもしれない。
でも、明らかに百層越えとするにも敵が弱すぎる。
界門の中には条件討伐なるものが少なからず存在したりする。
今回に関しても、俺たちは潜り方を間違えたのではないかと思い直し、ひたすら走り続けて五層にまで戻ってきた。
『だから言わんこっちゃない。貴様らに謎解きフォブォッ』
なんかムカついたので一旦鰐ガブで葉巻に変えて、休憩しながらにしばらく待っていると龍復活。
『待てよ。鰐やめろよ、な? 』
「わかったから謎解きやれや。何時間も走って疲れてんねん」
『なんか、なんか嫌な感じだなぁ……まぁいい、では謎解きだ。朝は4本足「はい人間人間!」……いいだろう。だが次はそう簡単には行かぬぞ」
龍が消えると粗末で貧弱な錆びた鍵が青い光を放ちながらに現れる。
これで間違いないだろうと、慣れた道を駆けて十二層へ入ると、次は樹木のネズミがいた。
「次は樹木バージョンね」
「いや、まだわかんないじゃん」
「それ以外にないでしょ?」
「黒ギャルの癖に勘がいいとか誰得だよ」
「勃起しないでね」
「しねぇわ!!」
唐突に勃起とか言われると反応に困るが、言った本人も耳を赤くしているのは内緒だ。
無理にギャルを演じなくとも良いのじゃぞ?
「香木ですね。これはチップ程度ですけど、下の方で大きいのが取れたらかなりの価値になります」
「それは喜ばしい。今の状態から煙草と葉巻と香木売り出したらいよいよ何屋かわからんけどな」
「もう現時点でもわからないですよ」
「だな。けど、正規ルートだとドロップって事かな? スキルは無いって事か?」
「その可能性は高いですね。龍を殺すルートだと残骸が残るんで、試してみてもいいかもしれませんけど」
要検証って事ね、一応覚えておこう。
今回の潜行に備えて鍛えまくったが、サッカー部ですら余裕で行けてしまいそうな内容のままにあっさり十七層の樹木龍さん。
『では謎解きの時間だ。ある四文字の言葉に三文字の言葉を足すと前より短い言葉になった。何に何という言葉を足した?』
はい作戦会議。
全くわからんのでジュンペー達に助けを求めたがジュンペーも首を傾げている。
マヒルちゃんは鼻を広げたままに気をつけで固まっているし、ミナミちゃんはショートとロングなどを地面に書いて難しい顔をしているが、ドレッド君は煙草を吸いながらに樹木龍を見上げている。
「短い言葉に前よりを足したら前より短い言葉になるよ!」
『素晴らしい。正解だ!』
振り向けばドレッド君が瞬殺してた。
つか、そんなのありかよ。
なんのひねりもない。
「香木ゲットだよ」
「よくやった。ドレッド君天才」
「まぁねだよ。じゃあいこ」
見た目はドレッドの不良なのに、何故か背中が大きく見える。
いや、身長が190cmぐらいあるので物理的にも大きいのだけども。
「なんか……想像以上に楽勝ですね……」
「身構えてただけにな。そう考えると赤髪界門って極悪だったな」
「よくわかんないですけど、邪神と善神によって変わるのかもしれないですね」
「その辺もフワッとしかわかってないしな。ばあちゃんとか年寄連中は知ってそうだけど、寄合で知識求めたら見返りがめんどそうだし」
もう既に親睦会の様相である。
香木をパンパンドロップさせてから二十五層に入ると、次は葉っぱの雄羊が登場。
「次は黄道十二宮だね」
「違うかもしれないじゃん!」
ミナミちゃんがあっさり考察を述べてしまうが、十二支と来て十二宮と安直な流れも十分に想像出来てしまう。
「でもおかしいですよね? こんな簡単な界門なのにまだ桜様は落としてないんですかね?」
「案外謎解きしないで無限に潜ってんじゃね」
うちのばあちゃんクラスになると普通にありえる。
異常なまでに強いのはわかるけど、突拍子も無い事も平然とやっちゃう人である。
あのデカアヒルに乗って突っ込んで行くノリとかも何処からツッコんでいいかわからんし。
「んで、雄羊さんのドロップは?」
「また煙草ですね」
「なんか、あれかな? ヘビースモーカーにして殺す方針的な?」
「さぁ……?」
よくわからないままに俺たちは深層へ向けて歩き始める。
「うんめぇよ! 社長やべぇよ、これうますぎるよ」
「はいはい。わかったから行くぞ、ほら狩るな! いつでも狩れるから!」
締まらないままに二十六層牡牛層へ。
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