うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

60話


 さて、茄子層までやってきた。

 行動指針が決まったのはいいが、やはり収集途中のスキルを諦めてまで力を求めて十八層を目指す俺ってば、やっぱブレだしてるってか感覚がバグりだしてる。

 でも、バグってるって自覚できてるって事はまだ大丈夫だと信じたい。

 階段を降りると再び一層同様に迷宮ステージ。

 蛇の体に先っぽが鶏のコカトリスの層になるが、こいつらは【石化】を持っていて厄介ではあるが、ばあちゃん曰くサングラスでもしていれば大丈夫らしい。

 永劫燃焼を続ける謎松明の光だけでサングラスなど視界が悪くて仕方ないが、石化するぐらいなら安いリスクだ。

 三十三層のバジリスクともなればサングラスなんぞしていても意味はなく、発動された時点で石化する【絶対石化】を持つらしいが、コカトリス、バジリスク双方、石化を食らっても血を飲めば大丈夫らしいので、前知識があれば心配はない。

 ばあちゃんが持ってたゴル◯みたいなサングラスをしていれば安心。

 と思ったら背後から蹴り飛ばされて首に巻きつかれた。

「うぐっ、ぐっ……」

 意識を持っていかれそうであるが、鉈は毎日カミソリかってぐらいに砥いでる。

 ガッチガチの筋肉の蛇の部分をゴリゴリと切る。
 突かれないように鶏部分を鷲掴みに腕の疲労が限界を越えても引き離す。

 背中が攣りそうだ。

 胴体が切れたと同時に地面に叩きつけて蹴り上げて爆破。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 周囲警戒、他の個体が駆け寄って来てるので鰐ガブで粉砕。

 命中で鉈を投げて首を飛ばそうとするが、同じ速度で鉈は反転して俺に襲いかかる。

 ファック舐めんな。

【操糸】で受け止めて鰐ガブ。

「クソが! 鰐ガブしか通じねぇ!」

 確かにばあちゃんは鰐ガブを持っていれば十八層までは楽勝だと言っていたが、これは楽勝ではなくゴリ押しだ。

 ここまで戦力差が明白であるのに意気揚々とオーク攻めに出られる程に楽観的な考えは持っていない。

 気は張っていた。
 警戒もしていた。
 それでも殺されかけた。

 あの状況で石化させられていたら手遅れになっていた。

 殺す、もっと確実に殺す。
 一瞬の隙も見せず、ピンピンに張り詰めろ、集中しろ。

「鶏ごときが……キモい鶏ごときがぁ!」

 ペットボトルの水を頭からかぶる。
 コカトリスの血を満たして全集中で周囲警戒、壁を背にしながら気配を感じたら鰐ガブ。

 きっちり粉砕までかまして肉片にする。
 確実に行け……鰐ガブが通用してるだけで負けかけてる。

「くっ」

 悩む……そうこうしている間に十八層への階段を見つけてしまった。

 視界が悪い中でコカトリスを狩るのとオークを狩るのは何方がいいのだろうか……。

 どんなステージなのかを見るだけ見ておきたい気もする。
 ばあちゃんが言うようにオークを狩るのが最短であるなら、信じるべきか……それとも確実にコカトリスに神経を擦り減らして真面に戦えるようになるべきか……。

 ダメだブレる。

 ブレてばっかりだ。

 決めた直後にアレコレと目移りして思考が邪魔をする。

 ええいままよ、一度見てくれよう。
 ばあちゃんのプランでは鰐ガブからオークで、そこからは纏めてスキルを稼げると言っていた。

 コカトリスを見るたびに先程の苦しさが思い浮かぶ。
 これまでで最も死を身近に感じ瞬間だった。

 そうだ、気分転換だ。
 一度リセットしよう。

 考えを曲げた自分に言い聞かせながらに階段を降りると、そこは雲一つない快晴の荒野だ。

 遠目に緑っぽい豚人間がいる。
 正しくオークといった見た目であるが、実際にこの目で見るとなんとも悍ましい。

 身長2m越えの関取とかはコレぐらいの威圧感を持っているのだろうか?

 見た目が人間なだけマシな気もする。

 悍ましい醜悪な豚の顔面に肉付きがいいながらにもパンパンに張った筋肉。

 あんな巨体から丸太を降り抜かれたら一発で脳漿撒き散らす自信がある。

「だが……」

 ばあちゃんを信じて良かった。

 これだけ視界が開けていて、ベージュと茶色が目立つ荒野の中に深い緑色の巨人は目立つ。

 木が生えてるように思える巨体の群れは全てオーク。

 だとすれば遠距離から鰐ガブで確実に仕留めていける。

 作業だ。

 いつも通りの作業ゲーが戻って来た。

 良かった、コカトリスが強すぎて焦ったが、やはり鰐ガブ有能説は不動だ。

 オークに異力で形成された透明な鰐が食らいつき一瞬でミンチにする。

 オーク達ら慌ただしく周囲を警戒するが、気付いたとて遅い。

 あいつらの鈍足では俺の元までは辿りつく前に肉片になるのは確定事項。

 お前らは原因不明の爆散粉砕でグチャミソにされて死ぬ。

「ふわっ、ふわーっはっはっは! 鏖殺だ豚共が!!」

 急激な位階上昇。

 久々の感覚。

 ダンジョンハイだ。

 山っぽく言えば界門高揚?

 わからん、どうでもいい。

 殺す、殺し尽くしてやる。

 殺して殺して殺し尽くして深呼吸。

 肉の吸収はゆっくり落ち着いて。

 群れを潰したら深呼吸しながら吸収。

 全身がムズムズするが我慢だ。

 ダンジョンハイに飲まれ過ぎると気がつけば気絶なんてことも珍しくない。

 こんな階層で気を失えば全て終わる。

 遠目に群れが見える。

 焦ってはいけない。

 先ずは潰した豚共を吸収し、己が糧とする。

 その存在の全てを俺の力とするんだ。

 おーけー、冷静に。

 頭は冷静に、心は熱く。

 吸収……吸収が良くなってるな。

 これまでは手で触れながらに吸い上げていたが、肉片と血液が辺り一面に散乱してるので、纏めて吸い上げてみたら掃除機のように周囲から掻き集められる。

 素晴らしい……スキルが確実に進化している。

 使えば使うほど進化するのは知っているが、吸収は本当によく使っているので進化が早い。

 ただ一つの掃除機だ。

 また時間短縮、時間短縮は良くない。

 ダンジョンハイのクールダウンができない。

 あぁ、そうか、こんな時の為のタバコだ。

 何かをしていなければ、震えが止まらない程の殺戮衝動を和らげる。

 あぁ…………これだ。

 メシの後、性行為の後、寝起き。

 タバコがうまいと感じる三つのスペシャルタイムのどれよりうまい。

 ダンジョンハイとタバコは平和協定が結ばれている。

「あはぁ……いたぁ……」

 また群れを見つけた。

 巨体の癖に根性は家畜なのか奴らは群れでいる。
 大体100から200のえげつない群れだ。

 鰐ガブが無ければ蹂躙されるしか道はなかっただろう。

 だが俺には鰐ガブがある。

 人様の家に重機関銃を持って強盗に入るようなもんだ。

 死ぬ為だけに配置されてる。

 晴れ渡る青い空、果てなく広がる荒野、そこに散乱する豚の肉片。

 急速に力を得ているのがわかる。

 ただ俺自身は異力こそ使えど、歩いているだけなので消耗は少ない。

 この狩りは間違いない。

 鰐を持ったらオーク推奨は100%マジだ。

「飲まれてんのかい?」

「いや、ギリギリ保ってる」

「ふーん、まぁ、大丈夫そうだね。とりあえず一つ目の【誘引】をとるまで頑張りな。そしたら楽になるから」

 ばあちゃんがいきなり登場するのは慣れた。
 アドバイスをくれたのちに右手を挙げるとオークの津波が起こる。

 四方八方がオークが攻め寄せてくる。

 アレに飲まれたら確実に死ぬ。

「近い所から鰐で粉砕して一定距離を保つ。【誘引】があればこれで一気に稼げるからね」

「サンキューばあちゃん。頑張ってみる」

「飲まれてブっ倒れんじゃないよ」

「深呼吸は忘れずに、ね」

 多分、死と隣り合わせの危うい状況下でダンジョンハイになりかけていたから心配して来てくれたのだろう。

 照れ隠しで5〜600のオークの群れの津波を起こすのはやめて欲しいが、この荒野であれば鰐ガブのディレイも余裕で間に合う。

「落ち着きを取り戻したね」

「おかげさまで。やっぱ飲まれてたわ」

 ばあちゃんが来なかったら危なかったかもしれない。

「【誘引】がとれたら、探しに行く手間が省けるから狩りが格段に楽になるよ。あんたが今までいう事聞かずにあっちゃこっちゃと集めて来た技能も全部楽にね」

「そういう細かいプランも説明してくれてたら助かるのになぁ」

「全部言ったらつまらないだろ。自分であれこれ考えるから新しいことができるんだよ。実際鰐に鰐を食わせて興奮させるなんてばあちゃんでも知らなかったからね」

 攻略方法も十人十色って事かね。

「オークが終わったらどうしたらいいの?」

「【絶倫】の次が【豪腕】だからね、豪腕を取ったら牛人間に行って【無効解除】を取りな。無効解除を取ったら1周目は全部取っちまいな。そしたら牛人間も簡単になるからね」

 よし、当面のプランは決まった。

 いつも言ってる気がするが、今回はオークとミノ狩りまでは頑張ろう。

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