うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

59話



 テツミチがお狐様界門の十七層に踏み込んだと同時に、目の前は再びメロン畑が広がっていた。

「メロンでやすか?」

 隣にいたはずの鏡狐の姿はない。

 ただ、それまでと決定的に違うのは目の前に自分自身が立ち、鉈を握っている事である。

「これは自分と戦うってやつでやすか? んなっ?!」

 腰の鉈を抜こうとすると、そこで自分自身が全裸になっている事に気がつく。

 裸一貫、先程まで着ていた服は勿論、靴も装備も何もかも無くなってしまった状態で、目の前の自分は鉈を振り上げて襲いかかってくる。

『だいじょぶ、もっと自分を映して」

 更に流暢になった鏡狐の声が頭の中に響くと、咄嗟に降り抜かれた鉈を横っ飛びで躱して、砂利に擦れる熱を感じながらも次に備える。

 自分も同じ速さ、動き、パターン。

 大体こう動いた時は何をしようとしているか、行動予測からの対処。

 やっと生み出せた隙に蹴りを入れて貫通、だが【貫通】は発動しない。

『どうやったら勝てる? 何をしたら勝てる?』

 向こうはフル装備、自分は全裸、スキルも使えない。
 いくら自分が相手としても差がありすぎる。

 テツミチは考える。

 どうやったら勝てるか。
 一撃喰らえば致命症、敵にダメージを与える事すらできない。
 鉈を、鉈さえ奪えれば。

 しかしヒザ蹴りを入れられると【貫通】が決まり心臓を穿たれてしまう。

 同時に暗闇の部屋でポツンと座らされており、目の前にはメロンが置かれている。

『皮ごと、食べて』

 言われるがままにメロンを食べると、自分を殺したのは自分であったと理解する。

 ああ、俺は自分自身を殺し、この糧を得たのだ。

 皮ごと食べ終わると、次は鉈を持った自分が全裸の自分た相対する。

「わかってる。お前は俺で俺はお前だ」

 界門には層による強度がある。

 一層のゴブリンと十層のゴブリン、どちらが強いゴブリンであるかは明確。

 お狐様の界門は、非正規・無許可ルートであれば十七層より地上に戻り魔入りが起こるが、魔入りした状態で再び界門に潜れば非正規ルートの十七層が用意されている。

 十七層 メロン ホブゴブリン
 十八層 スイカ オーク
 十九層 いちご ゴブリンキング
 二十層 さつまいも オークキング
 二十一層 ジャガイモ トロール
 二十二層 アスパラ オーガ
 二十三層 玉ねぎ トロールキング
 二十四層 白ネギ オーガキング
 二十五層 青ネギ 下位悪魔
 二十六層 ピーマン 鬼人
 二十七層 獅子唐 中位悪魔
 二十八層 胡瓜 妖鬼
 二十九層 人参 上位悪魔
 三十層 大根 悪鬼
 三十一層 大豆 最上位悪魔
 三十二層 米 鬼神

 三十三層 米 魔神〜〜

 と、十六層まで捨てているだけあってぶっ飛んだラインナップであるが、これはあくまでも魔入りした状態での非正規・無許可ルートであり、元より狐山の働き手の者達もこのルートを辿っている。

 だが鏡狐の界門には、正規ルートが存在する。

 その正規攻略ルートこそが、テツミチが現状体験している、自分を殺し殺されと無限に強くなり続ける鏡合わせの界門である。

 十七層ホブゴブリン相当のテツミチを殺し殺され人間側、魔物側、両側の獲得因子を手に入れ、加速度的に強くして行く。

 食を与え生活を豊かにし、気に入った者には力を与える。
 気まぐれでありながらも、何より優しい界門であるが、正規ルートに招待された当人は溜まったもんじゃない。

 殺されて殺して、メロンと言う名前の自分自身を喰らう。

 交代交代に自分を殺し自分を喰らうので、疲れも眠気も感じない。
 ただ愚直に、ひたすら自分を映す。

 自分の中に自分を映し、そして自分を殺し、自分を喰らう。

「メロン、美味しゅうございますお狐様」

 まぁ、壊れるよね。

 対峙する相手が自分であるとわかっていても双方共に勝って終わりたい。
 武器があろうとなかろうと、どうにかして価値を納めて終わりたい。

 しかし首を落とされ、胴を真っ二つにされた体験はメロンを食べると同時に自分のモノであったと理解する。

 本当に今の自分は自分の知っている自分なのだろうか?

 存在が書き換えられてしまったのではないか?

「そんな事は関係御座いやせん」

 自分が自分である。
 和山哲通であると認識していれば、それは和山哲通なのである。

『タキオは変、だから好き。でも、テツはまっすぐ、だから好き』

「そのお言葉だけで何処までもやれてしまう自分がおります。ありがとう御座います、ありがとう御座います」

 自分で自分を喰らい続ける事により、通常の半分程の命のやり取りで技能核が生える。
 本来そこにいた筈のホブゴブリンを鏡としているので、ホブゴブリンのスキルを獲得できる。

 武器持ちテツミチはそれらのスキルを駆使し、全裸テツミチはそれらを考慮して応戦する。

 もう何度目になるかわからない黒の部屋で、次はメロンがスイカに変わる。
 つまりは鏡がオークに切り替わったのだが、テツミチは気にせずに喰らい、スイカ畑の畦道で自分と対峙する。

「多少強くなろうが、自分なら自分に勝たずしてどうしやしょうか!!」

 テツミチが修羅になっている頃、トキヤは風巻東のサッカー部の面々とバスに乗りながらに狸寝入りをしていた。

 正しくはトキヤが中に入った芋っぽい少年であるが、中身がトキヤであらば、側はどうであろうと彼である事には違いないだろう。

「どうする……あいつら絶対やばいぞ」

「あの白いのは勝てそうだけど、群青色的な人はやばい」
「あれ青じゃね?」「藍色だろ」

「くそ……国に隠したって結局誰かに盗られるのかよ」

「やりようはあるはずだ。敷地内だから不法浸入になるし。でも雁絵さんにこの話バレたら殺されるかも」

 バスの中では情報のオンパレードである。
 少年達は何一つ隠そうともせずにこれからの作戦を話し合っている。

「逆にあいつらのこと通報する? タチコーのサッカー部はダンジョン隠してるって」

「見つけてからじゃないと意味ないだろ」

「やっぱり寺開さんに相談するべきだ」

「いや、しばらくは近寄らない方がいい。あいつらが何処で見てるかもわからないし」

 真横で寝てます。
 わかっているのは、テラカイもしくはカリエなる人物が関係している事。
 そして誰ぞの敷地内にある事。

 トキヤは少し深読みして『しばらく近寄らない』のワードから『少年達の誰かの家にある』予測から関係者の敷地にある可能性が高いと渡りをつけた。

【転身】の技能は中身を入れ替えられるが、記憶までは読み取れない。
 もしかしたら芋っぽい少年の実家が界門のある家かもしれないし、もしくはその両方かもしれないが、先ずはテラカイカリエを調べる必要がある。

「よーし、ついたよー。ご苦労さーん」

 学校に到着すれば後は自由解散であるが、風巻サッカー部は部室で再び話し合いを始める。

「おいパフェ、シャキッとしろよ。ずっと寝てんぞ」

「んー」

 トキヤは頭を抱えて放っておいてくれと言わんばかりに腰を折って笑いを必死に堪えた。

 この少年、見た目はジャガイモに太い眉毛を貼り付けた、まさにジャガイモそのものであるにも関わらず、あだ名がパフェなのだ。

 意味がわからん。

 トキヤは日頃クールぶってはいるが、咄嗟に意味がわからないも爆笑してしまう癖がある。
 そんな彼が真剣に「パフェ」と呼ばれてツボってしまったのだ。

「おーい、何笑ってんだよパフェー」

「ちょ、やめて」

「パフェのぶんざいでーーーー!」

「ぶはっ!! 」「ふぁ?! きたな!」

 限界だった。
 ジャガイモは鼻水を噴き出したままに足と手をバタバタさせながらに爆笑し、息苦しくて倒れそうになったタイミングで【転身】を解いてしまった。

「ん、ぉぉお、めっちゃ寝たー」

「嘘つけこら!」

 気がつくとジャガイモ少年はいきなり友人に頭をシバかれてしまったが、その頃本体に戻ったトキヤは、畳をバンバンと叩きながらに涙を溜め込みながらに爆笑していた。

「ぐはぁっ、パフェっ……ぶふ」

 人のあだ名ではない。
 深呼吸をしながらに落ち着かせ、再び肩を揺らしながらにリビングの窓から外に出ると、タキオがやる気満々のフル装備で切り株に座りながらセブンスターをふかしていた。

「おー、起きたか変態。何笑ってんだおめ」

「ふふ、いや、私が【転身】していた少年を覚えてるかい?」

「おー、オニギリみたいなジャガイモみたいな」

「そう。情報を引き出す為に暫く寝た振りをしていたんだけどね、学校についてからは部室で作戦会議、今まさに大切な場面ってところで、彼のあだ名で呼ばれてしまったんだ」

 上がりっぱなしになってしまった頬を揉みほぐしながらに至って真剣な表情に切り替えていく。

「なに、どんなあだ名?」

「例えば社長さんなら、彼にどんなあだ名つける?」

「オニギリとかジャガとか? で? なんだった?」

「 パフェ 」

「ぱぁふぇ!? 」

 なにが面白いのかはわからない。
 別にジャガイモ顔の少年のアダ名がパフェでもいいではないか。
 しかし二人は爆笑している。
 手を叩いて子供のように鼻に皺を寄せてギャッギャッと爆笑だ。

「でも収穫もあった。テラカイカリエ、またはテラカイとカリエの人物名が関係してる」

「カラテカイリエ?」

「テラカイカリエね」

 トキヤは深呼吸してパフェの笑いをリセットしてから、次はタキオのモトクロスに跨ってはキックを踏みつける。

「もう出かけんの?」

「場所だけは掴んでおきたいからね」

 トキヤは我が物顔でタキオのモトクロスを走らせていった。

「またなんか面白いことしてるみたいねぇ」

「早苗さん、ずっと疑問に思ってるんですけど、トキヤって免許持ってますよね?」

「持っ……てるとは思うけど?」

 タキオは首を傾げた。
 そしてかぶりを振った。

「なんかノリで乗ってるような気がするんですよね」

「確かに運転は荒いかなぁとは思ってるけど」

 謎が増えたままであるが、考えても無駄だと、そのままダンジョンへと駆け込んで行った。













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