うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
54話
ばあちゃんに言われるがままにセフィロ◯さんの元へ。
「はじめまして瀧雄です。よろしくお願いします!」
「赤ん坊の頃に何度も会っているんだがな。しかし傑作だった。賛否あるが狐守が独断で界門を放棄したのは皆思う所があったからな」
「なんか自分じゃないみたいにスルスルと」
「いや、ちゃんと自分の言葉だ。【鳴り】と言って思考の中で共感を得られる言葉が選ばれる。【共鳴】とも言うが、神化が弱いと鳴りの影響を受けやすい。恐らくは私と鶴屋と篝と久遠寺に桜は確実に鳴りを起こしてた。螢光院は狐守を降したから認めたんだろう。他は皆様子見と言った所だったしな」
不思議だ。
山に詳しくないのに、苗字を聞いて誰がどの山か大体わかってしまう。
鶴屋=ククリ山、篝=雫山、久遠寺=久遠山までは元より少しは話に聞いていたからいいが、けいこういん=斑目山とわかるのが不思議。
「さて、牛だが……どうするか? 数を捌きたいなら少し安くして貰えると助かるな。今はバラして製品化して高めに売ってるからな」
「ぶっちゃけ買ってくれるならいくらでも助かる。【貫通無効】はみんなにも持っといてもらいたいし」
「あまり技能の事は他で喋らないようにな。私は知っているから構わんが」
一応身内ノリ出してみたんだけど遠回り過ぎて伝わらなかったようだ。
「では一頭50万で日に10頭でどうだ? 心配せずとも【亜空間収納】があるし、毎日受け取りに行ってもいい」
少しドヤ顔でスキルの話を振って来た。
どうやら先程の俺のノリを理解したようである。
しかし月に300か……年に3600だとしても三年に一人【貫通無効】は厳しい。
【吸収】を取らせればそれまでの話だけど、もう一声どうにかならんかな。
「時にセフィロ◯様、亜空間収納って沢山はいるの? 時間経過はする?」
「せふぃ? いや、範囲は自在であるし、時間経過はするが【固定】しておけば問題ない」
「なるほど。じゃあ売れた後に入金って形で、無制限に受けて貰ったりできないかな?」
「どれだけ頑張っても日に10頭捌くので限界であるし、そうなるまでに多少時間が必要だが……それでも良いのか?」
よかもよかでよかよか。
どれだけの期間が必要かはわからないが、いずれは日に500万が継続的に入って来るだけでなく、皆のスキル獲得もできて万々歳。
ばあちゃんに借金返済もできてお小遣いすらあげられようになりそうな予感。
ばあちゃんの小遣い稼ぎを奪ってしまっていいのかなと振り向くと、サムズアップで笑いかけてくれた。
「元より豚も牛もあんたに任せたいって言ってたじゃないさ。ばあちゃんはこう見えても他にも色々やってんだよ」
「瀧雄、あれは気にするだけ無駄だ。その気になれば今この瞬間に地球の裏側へも行けるような存在だからな」
たしかしたかはし。
「だが、条件がある」
おっと来ました条件。
「気絶させて太い血管を切って放血で殺してほしい。いくら魔物とは言え血溜まりができると肉に臭みがでる」
「ばあちゃんみたいにモロコシで殴れと?」
「はは、いや、眉間に「あーはいはい、次はミカン頭が待ってんだ。牛のバラし方は教えておくから!」」
セフィロ◯さんと話してる途中なのにばあちゃんに回れ右のままに拉致られてオレンジ髪少女の元へ。
「豚さんは桜ちゃんから5万円で買ってるよっ!」
「左様でっか」
だからなんやねん。
一言の主張から何を読み取ればいいか考えるのが面倒だ。
今はばあちゃんが5万円で売ってるけど、安くしたら沢山買ってくれるって事かな?
「4万円にしたら毎日何頭買う?」
「10頭!」
「3万5千」「20頭!」
「3万」「30頭!」
こいつめちゃくちゃ適当だ。
このまま行けば2万円で50頭になるだろうけど、それだけの数さばけるのかな?
「2万5千」「うーん、50頭!」
くそっ、なんか面白い。
後5千円下げたらどうなるんだ?
60か?70なのか?
「2万」「100! でもこれが限界っ!」
「そんなにさばけるの?」
「なんとかなるよっ! 日本だけで豚は一日あたり1500頭ぐらいは屠殺されてるからっ!」
だからなんやねん。
全国で1500頭だとしたら片田舎の養豚場が毎日100頭売り出したら怪しすぎるだろ。
何から突っ込んでいいんかわからん。
わからんけど任せなさいと胸を張っているので任せる。俺は知らん。
「心配ないよ。お糸ちゃんはカネカネ煩いけど、金生むコネだけはしっかりしてるからね」
「それならいいけども」
これでやっとこ牛豚解禁と言いたいが、狐山からどれだけの人員が送られてくるかわかっていないので、今すぐどうこうってワケにもいかない。
「じゃあ瀧雄、明日来るから」
「ちょ、まっ!」
「明日の朝にくるからねっ!」
「ちが、おい! おーい!!」
セフィロスさんはビョイーンと隣の山に飛んで行ってしまったから良しとしても、オレンジ頭は普通にトテトテ走って帰って行ったから絶対聞こえてたはずだ。
お蚕様の続きをやりたかったのに、多少なり牛豚を狩らなければならないらしい。
「ちょうどいいじゃないさ。絞め方教えてあげるよ」
強引に寄合に巻き込んだ引け目なのだろうか?
いつもならすぐ何処かに消えていなくなるばあちゃんが、今日は終日手伝ってくれている件。
先ずは牛層にカムバック。
ばあちゃんは下準備をばと丸太を取り出してサクサクと何かを作り始めるが、それは次第に牛の吊るし台の様相となる。
両サイド三本ずつで上に二本の丸太を通した頑丈そうな造りである。
「これなら4頭かけられるからね」
いつかは圧し折れるかもしれないが、今はびくともしなさそうだ。
「牛だけどね、眉間にとんがった金槌打ち込んだら気絶するから。よいしょっと」
当たり前のように巨体の牛を持ち上げ、後脚を縛り上げては吊り上げるとロープを張りながらにグルグル回って柱に固定すると、上に登って違うロープで縛りつける。
降りてきたら太い血管を切って血を垂れ流しにする。
うん、絶対無理だよね。
まず500kg越える牛さん持ち上げられないし。
無理と首を振ると「困ったねぇ」とニヤニヤしながら返される。
「なんかいい方法ないかな?」
「一人じゃダメならねぇ」
誰かに頼らなければならないか。
くそ、臨時でみんなを集めて緊急で対処する必要がある。
だがテツミチは出かけてるし、居候組は魚釣ったり箱詰めしたりで忙しい。
となると鰐狩りしてるジュンペー達と……いや、サッカー部だ。
あいつらならどんな扱いをしてもいい。
「ばあちゃん、丸太ってどれぐらいうるの?」
「幾らでもあるけど、これ一台分で10万だよ。手伝ってやるけどね」
「わかった。喜んで買わせてもらう」
ぼったくりも甚だしいが、自分で切って運ぶ手間を考えたら何倍もマシだ。
そこからは吊るし台作りに終始、50台、計200頭分の台を作り終え、二層にも20台の吊るし台を作りに行った。
ぶっちゃけヘトヘトであるが、タイミングよくサッカーボールを蹴りながらにサッカー部達が登場する。
「じゃあお疲れさん」
「ありがとばあちゃん」
もうそんな時間かとスマホを見ると23:16分。
おそらく今日の鶏ノルマを達成したので豚でもしばいたろうかと降りて来たのだろう。
そうは問屋が、いや豚屋が卸しまへんえ。
「よーし少年達よく聞け! 今日はお前らに特別ボーナスのミッションをやろう!」
これより豚の屠殺作業に入る。
ばあちゃん的には電気ショックで気絶させて頚椎から血を抜くのがベストらしいが、そんな手段はないので【真空】で動きを奪ってから窒息状態にして、皆でエッホエッホと運んだ後に吊るして心臓に一突きと昔ながらの方法で〆る。
勿論トドメは俺が刺す。
「運んで吊るしたら2千円やるからなぁー!200頭限度だぞー! 頑張れよー!」
120kgの豚をせっせと運んでいく。
毎日只働きで豚を集めさせているからかなり体力がついてきている。
俺も頑張れば370〜80ぐらいは持ち上げられるだろうとは思うが牛はキツい。
途中で何をしても動かない飽和状態になってしまうのだ。
「おらぁ! シシオ!! 運びながらドリブルせんかい!」
「タキオさん毎度俺にだけキツすぎ!」
レオくんの弟の癖にボス格だからな。
いじめたくもなってくる。
「つーかタキオさん、日曜日試合見にくる? 練習試合だけど」
「え、いく。なんで? なんの練習試合?」
「新人戦って一年だけの大会で敗退したチームに片っ端から練習試合申し込んだらしい。不良校の下手くそにビビってるんかーって。うちの顧問も頭飛んでるからさ」
「へぇー、面白いじゃん。けどスキル使ったら殺すからな」
「使わねぇよ! 相手死んじゃうじゃねぇか!」
サクサクっとランニングを済ませたら本番。
「よーし! 今日はもっと稼がせてやる! これは全員で協力しろ。牛200頭運んだら一人15万やる!!4、5人で運んで吊るすだけだ!」
1頭あたり1万円の計算で200頭運べば200万円、13人で割れば15万4000円ぐらいの所を15万と割り切って5万2千も掠めとる二度美味しい作戦。
豚運びランニングで脚ぷるぷるしてる子供達を更に追い込んでいくスタイル。
トンカチ振り抜くだけなのは本当に簡単。
サクサクやって行くと、全員息を吸い込みながらに立ち上がっては牛の元へ走って行く。
俺の理想としては四人、四人、五人で担いで行って欲しいが、あいつらは皆で群がって御神輿モードを選択したらしい。
大八車でも用意するかな。
そしたらかなり楽になりそう。
やってからじゃないとわからないことって多いよな。
時計の針をググッと進めまして、明け方を迎えた頃合い。
「はぁはぁ……もう、だ」
サッカー部達は全員ぶっ倒れてしまいました。
「おい頑張れよ!! この振り上げたトンカチはどうしたらいいんだ!」
俺はタバコを吸いながらに監督していただけである。
運び終わって吊り上げれば、血抜きを行い次を叩いて走らせる。
気合いと根性で頑張っていたのに180頭を迎えた所でぶっ倒れてしまった。
「できると思うんだ! 何故簡単な事ができない!」
「…………」
「お前達の知り合いに盲目の者はいるか?」
「タキオさん、それ昨日やってたサッカーの映画のやつでしょ」
クソッ! パクるのが早すぎた。
全盲のクライマーさんの素晴らしい言葉を届けてやろうとしたが失敗した。
A.何故目が見えないのにエベレスト登頂が成功できたのですか?
Q.私はただ一歩ずつ進んだだけさ。
この話を持ってして、許してやっても良かったが、時に雄弁は銀どころか毒にもなる事を教えよう。
「喋れるなら立てる。立てるなら歩ける。歩けるなら運べる。さっさと行かんかい豚共が!」
「いきなりスパルタ?!」
全員生まれたての子鹿のように身体を引きずって動き出したので、さっさと牛さんをシバいて走らせる。
「カムヒアカムヒア! ハリハリハリー!!」
「ファーーーーー!!」
まさに最後の力を振り絞ってラストスパートである。
学校の準備をさせようとトキヤが迎えに来るが、彼らの様子を見て笑いを堪えている。
「今日も一段とシゴいたね」
「下ネタ?」「え?」
「ううん、なんでもない」
「そろそろ用意させなきゃ間に合わないけど、どうしよう。手伝ってもいいのかな?」
「ギャラでないよ」
「構わないよ。遅刻させないのも私の仕事だからね」
その後トキヤは二頭ずつサクサク担いで、後は子供達に吊らせるだけの状態にした。
やはり神化ってのは化け物ばかりのようである。
「トキヤ、俺がスキル取ったら、これ引き継ぐか? ちゃんと吊るして血抜きしといたら無制限に引き取ってくれるぞ」
「是非。是非とも。じゃあ取得まで手伝うよ。同じ台でも増やしておけばいいかな?」
「おー、なるべく頑丈にな」
「了解。ギャラは1頭1万」
四人でやれば2500円、鶏100円、豚1000円、牛2500円と考えれば妥当だ。
トキヤなら一人でできるからかなり稼ぎが良くなる。
「社長さん大丈夫なの? 桜様に結構借金してるって聞いてるけど」
「あー、支払いとか毎日ポンポン金が飛んでくからな。けど、気付いたら入金で倍増してるらしいからな。なんの問題もない」
問題は鰐で出る赤字を牛がどれほどカバーしてくれるかである。
「じゃあ明日からは少年達が学校に行ったら牛狩りを手伝うよ。今日は台を作れるだけ作っておく」
「マジ気で助かる」
そんなこんなで吊るし終了なんで血抜きで完了。
自前の背嚢の中からコピー用紙を取り出して195万円の出金書類を書いて、日付と印鑑を押してから記念撮影をパシャり。
「これ事務員さんに渡して金のやりとりしろー」
「あざま……す」
「じゃあ学校行く準備しようか」
「トキヤさん、マジで、マジで休ませてください」
「大丈夫だよ。動けなかったら車で送ってあげるから」
寝返りを打つのですらしんどそうだが、時計を見てから無表情になったトキヤは全員を縄でふん縛ってフヨフヨと浮かせながらに地上へ走っていった。
「まだ眠くないしお蚕様に戻るかね」
【製糸】も試してないし、赤髪界門に戻るか、吸収込みで牛を終わらせてトキヤに任せてしまうか……。
うん、お蚕様に戻ろう。
トキヤが手伝ってくれたら効率も上がるだろう。
少年達も日曜日に試合だと言ってたし、ちゃんと鍛えてやるべきだ。
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