うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
52話
本日はすっかり呼び名が定着してしまった赤髪界門で竹狩りをします。
サッカー部と居候組達が怒涛の勢いで竹狩りを行っていたので、数日遅れてとなりましたが、サクサク竹狩りをしていこうかと踏み込んだ今日この頃。
テツミチが何を企んでいるのかもわからないので、不動産屋に行ったり、魚介類販売業許可の相談と申請をしにいったりとバタバタしたが、どうなるかは知らん。
居候組は忙しそうに釣りをしているので、何かしらのアクションを起こしているだろうとは思うが不安極まりない。
やはり俺が自分で動くべきだったと思い返しているところであるが、全ては語るまい。
「しかしつまらん」
竹スキルは既にジュンペーが全てコンプしてしまったので楽しみが無い。
蚕を倒すのが抵抗があるらしく、軍鶏狩りに移行しようとしたが、俺が待ったをかけて鰐狩りに送り込んでやった。
先にスキルをバラされると感動が半減するからな。
致し方ない処置である。
平山界門が女性達の楽園と化しているが、鶏を狩る人員が減ってしまって困って候。
今は居候組が午前中に狩ってくれるからいいけど、人員増加は急務になって来てる。
因みに竹のスキルは【釣り】【刺突】【鞭打】の三つである。
効果はそのまんまである。
ジュンペーから散々説明を聞いてしまったので特にこれと言った感動もないが、便利なスキルである事は間違いない。
特に四層の釣りではマヒルやミッちゃんよりジュンペーとミナミの方がサクサク釣れたらしい。
戦闘にも使えるが釣り特化とか勝手に思ってる。
因みに、全員真面目に竹とヒットアンドアウェイの攻防を繰り返してたようだが、俺は裏庭から一際長い竹を採ってきて、貫通でブンブン振り回してる。
界門は常識に囚われて真面目にやると遠回りをするハメになることは多々あるのだ。
一番いいのはテツミチに蚕の糸を持たせて一斉にズシャーーーって伐り倒すのが一番だが、奴はいないのでタラレバは言うまい。
「んで、ばあちゃんさっきから何してんの?」
「何って竹の回収してんじゃないさ。もったいないだろ」
「いや、そんなに使う?」
「炭にするんだよ。炭化を持ってるからね」
ずっっと無視してたんだが、俺が竹を薙ぎ倒す横でばあちゃんがダイソ◯かってぐらいの吸引力を見せつけて来てたので我慢できずにツッコんでしまった。
「ほら。便利だろ?」
ばあちゃんは手に持つ竹を一瞬で竹炭に変える。
本当に便利なびっくり人間? である。
「便利だけども」
「蟹とか食う時に大量にいるだろ? あれを茹でられるような鍋を黒鉄山の連中に頼んでるからね」
「【煮沸】でやったら?」
「情緒風情が足りないじゃないさ」
確かにパンっと触れてポンってより仲間と囲んで焼いたり煮たりの方が美味そうではあるけど。
「ばあちゃんなら鍋でも楽勝作れそうだけどな」
「うーん、どうだろうねぇ。まぁ山付き合いもあるじゃないさ」
むしろ出来ない事を探す方が難しそうだが、仲間内で金を使いたいだけやもしれんので下手に止めまい。
地方で巨大鍋で芋煮とかパエリア作ったりするニュースを見た事あるが、見てる側と現場側の熱量の違いでいつもポカンとしてしまうが、やる側を体験できるなら喜ばしい。
「あれ?」
竹を薙ぎ倒していると、キョウコちゃんが兄貴達を連れて登場した。
「おー!タキオー!」
「せめてお兄ぐらいつけろ。どこいくんだ? 重装備で」
「うにだー。みてわかるだろー」
「お、おお、そうか、雲丹か」
3人の兄貴達も酸素ボンベやら何やらを背負って特大クーラーボックスまで用意している。
一切の妥協はせんと真剣そのものと言ったガチの面持ちである。
発想は密漁者だがな。
「雲丹なら沢山あるよ? 持って帰ったらどうだい」
「ぬおー! まじか婆ちゃんー! 」
キョウコちゃんは兄達に振り返り円陣を組んで作戦会議を開始。
そして下唇を噛み締めながらにばあちゃんの手をギュッと握る。
「ダイビングセットの費用がもったいないから行ってくる」
「本気で悔しそうだね」
いつもの気の抜けた喋り方でもない。
ガチのトーンである。
「ダイビングセットかぁ」
イトコ達を見送りながらに呟いてみたが、そういやばあちゃんはどうやって行ったんだ?
「息止めて潜っただけだよ」
そうだよね、女騎士さんだもんね。
……スケルトンのスキルはもったいないが、水に阻まれて十層の越え方もわからないから、四層までスキル取ったら平山に戻るかな。
蚕も竹でズバッとして吸収すりゃなんとかなるだろうし。
牛も途中だしで忙しい。
「またみんなで他の界門攻めたいなぁ」
「楽しそうだね。ばあちゃんも行きたかったよ」
「それは反則すぎるだろ」
「なんでだい? 中には平山みたいな強い神だっているだろうさ」
「そうなりゃしゃーなしばあちゃん降臨だな」
いきなりばあちゃん連れてったら外の神様もたまげてしまうだろう。
赤髪ちゃんの界門ならトキヤで神層到達出来るんだから、物語序盤に魔王飛び越えて裏ボス連れてくようなもんだ。
「ほっ、おわた」
「おつかれぇい!」
21,000本の竹伐採完了に御座いまして候。
地味にばあちゃんが回収してくれたお陰でめちゃくちゃ楽チンだった。
「じゃあ2万と千円だねぇ」
「金とんのかよ!!」
金持ちなのにがめつい限りにございます。
その方がこっちも割り切ってお願いできるってメリットもあるけども。
「お蚕様はどうするんだい?」
「普通にやっつけるよ。吸収するから掃除婦はいらぬがな!」
「ばあちゃんを掃除婦扱いすんじゃないよ!」
「理不尽か!」
まだ時間に余裕があるので早速二層へ。
しかし当たり前のようにばあちゃんも付いてくるのは何故だろうか。
「じゃあ可哀想だけどばあちゃんがお蚕様集めてきてやるよ」
「え、なんで? なんかさせたい事あるの?」
「へぇ……よくわかったねぇ」
「いや、わかるだろ! 明らかにおかしいもん!」
互いに目を見やって無言の時間が続く。
ばあちゃんが何も言いださないので無視してお蚕様をズバッとやって吸収。
チラッと見ると、眉尻を垂らして困っていらっしゃる。
「……なんやねん! 気ぃ散るわ!」
「お願いっ!!」
ばあちゃんはお願いと言って合掌で拝んでくるが内容を聞かなければ了承などできるはずもない。
可愛い声だすなしばくぞ。負けるけど。
「だから何が? 聞いてからじゃないと返事できないよ」
「……寄合に出ておくれ!」
「え? 絶対嫌だけど?」
「ほらぁー!」
何がほらぁー!だよ。
行くわけないだろ。
様子がおかしいと思ったらそれか。
せっせとお蚕様集めたって無駄だっての。
「行かないけどなんで? 今までなんも言わなかったのに」
「年寄衆は前からうるさかったんだけどね。今回ほら、外の神を降したって聞いちまったらいよいよね……寄合に行っときゃ人を雇うのでも楽になるよ? それでもダメかい?」
「いや、いつかは行こうと思ってるけど今日じゃない。他にもやる事一杯あるし」
「ふん、いつかは行こうと思ってるんならいいじゃないかい。なんでダメなんだい」
なんか逆ギレされてる?!
山で暮らす以上は絶対に避けては通れない道だってのはわかってるつもりだが、別に今日言われてイキナリってのはしんどすぎるだろ。
「じゃあ来月と来年の3月、4月の寄合は絶対出ておくれ!! 奉納祭の取り決めもあるからね」
「奉納祭?」
「山のお祭りさ。5月にあるんだよ」
「あー、誰か言ってたな。祭りがどーのって」
ジュンペーだったかな?
忘れたけど、何回か聞いたことがある。
お祭りって嫌いじゃないけど、一緒に行く人居なかったから縁遠いものだと思ってたけど、綾子さんと行きたいなぁって思ったりもする。
「寄合っていっつもやってんの?」
「毎月末日にやってるよ。例外なくね」
「いや、来月って大晦日だよ?」
「だからこそ集まるんじゃないさ。来月のは顔見せでいいよ。だけど、3月、4月には正式に平山の二代目として出るんだよ」
「……それ決定事項なの?」
「なにさ、ばあちゃんが死んだら東京に戻るってのかい?」
ズルい言い方である。
明らかに俺より長生きしそうではあるが、ぶっちゃけ東京に戻るって発想は微塵もなかった。
「そんなつもりはないけどさ」
「じゃあ二代目でいいじゃないさ正義も義憲もあたしの事なんて忘れちまってんだ。ばあちゃんにはタキオしか居ないんだよ」
正義は親父の兄貴で義憲は俺の親父だが、正義おじちゃんは帰って来てから会ってないけど双子山の人間だし親父は大阪の人になってしまって田舎は無かったノリで生きてる。
俺しかいないと言われるのは素直に嬉しいが、山の主になるってのはどうにも現実味が感じられない。
今日明日の話ではないから別に構わないが、むず痒いと言うか何と言うか。
「東京に未練があるから家賃払い続けてんのかい?」
「いやいや、それはない。それは仕方なくの話だから」
アパートは無駄に家賃を払い続けてるけど、それだって家具一式にパソコンとかテレビとか漫画とか釣具とかゲームとか、俺の東京の八年間の全てが置いてあるから倉庫代として割り切ってるだけだ。
前は家賃を払うだけでヒーコラ言ってたのに、随分と金銭感覚がぶっ壊れたものである。
「じゃあ寄合に出る。それでいいじゃないか。ばあちゃんだって簡単にはくたばらないから安心しな」
「うん、そこは全く心配してない」
結局なんだかんだと言いながらに、ばあちゃんはお蚕様集めを手伝ってくれた。
戦うつもりがない魔物を単純作業で狩るってのは毎度どうにも気が引けるが、例によって魔物だと割り切る。
竹で撫でるように斬り倒すと、キモ汁を垂れ流しに暫し暴れてから動かなくなるので、放置しながらに次々討伐し、合間に吸収を繰り返していく。
「ばあちゃん、もう手伝わなくていいよ? どうせ今日は行かないし」
「どうしてもダメかい?」
「さっき話終わったよね?」
「うん、でもね……本当困った話なんだけどね」
ばあちゃんは頭を揉みくちゃに長いピンク色の髪の毛をバサバサと揺らすと、視界の上からニョキッと若草色の髪の毛のショタが登場する。
「やぁお孫殿。何をしておるんじゃ? 皆々既に集まっておるぞい」
「うそでしょ?」
謎に空間の裂け目から鶴屋のショタがニョッキしてきた。
焦ってばあちゃんに振り向くと既に姿は消え失せている。
逃げやがった。
「鶴屋翁、何故ここに?」
「聞いておらんのか?」
「いや、寄合があるとしか」
「おかしいのう。綾子との婚約に邪神を降し雫山の跡取りを奪った平山の二代目ともなると、顔見せだけはしておこうかと……」
鶴屋のジジイは親指を立てて上を示しながらに邪悪に嗤う。
「今日の寄合は特例で平山で執り行うことになったんじゃがな?」
「そうか。じゃあ、ゆっくり楽しんでってくれ」
「待て待てぇい!! 皆々お孫殿が目当てじゃ! もう逃げられん! 観念せぇ!」
「ば、」
「ば?」
「ババアァァァァアアア!!」
俺の叫びは虚しく響き渡り、鶴屋の爺さんに諦めろと腰を叩かれた。
非常識にも程があるが、山に常識を求めるのも間違いだなと諦めて地上へ向かった。
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