うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
51話
凍え死にそうになって起きる。
大丈夫だ、飛び飛びだが今回は何となく覚えてる。
特に問題もなく暴れてもいない。
酒に溺れてベロンベロンのままに起きたらビジネスホテルである。
俺の記憶では漫画喫茶のフラット席で寝たはずなんだが、何かしら思うところがあったのだろう。
酒に飲まれ過ぎるのはいかんな。
大量にメシを食えるようになったと同様に酒も自身が樽ではないかと思うほどに飲めてしまうので、ついやらかしてしまう。
スマホを覗くと充電は24%。
なかなか強気な残量で安心させてくれる。
アルバムを覗いていると先日の記憶が走馬灯のように蘇ってくる。
そうだ、そうだそうだ。
漫画喫茶で寝た後に綾子さんが家に呼んでくれたんだ。
だけど色々我慢できる自身が無いって言ってビジネスホテルに泊まったんだ。
いやぁ、馬鹿騒ぎだねぇ。
キャバクラに行って次は女性陣の為にホストにって話で、普通に行くのもつまらんと量販店でコスプレをして突撃したんだ。
その時の写真が腐るほどある。
特にサッカー部達にドレス着させてメイクバチバチに女装させたのはナイスだった。
さて、着信がかなり多いのだが不穏な気配もあるので、安牌から攻めて行こう。
まずはライナーでメッセージチェック。
皆それぞれお疲れ様メッセージやお礼メッセージや先日の写真交換ばかりであるが、一つだけ気になる内容がある。
━━
︎じゅんP ︎
お疲れ様です!
昨日はご馳走様でした(`・∀・´)
先日は先に平山に帰らせて貰ったんですけど、新しく迎えた界門が少し変わっていて面白いのでご報告しておきます。
一層が竹林ですが、例によって竹は魔物です。
近寄ると軽く攻撃してきますが驚異度は極めて低いです。
伐り倒すと竹はそのまま利用できますし、直ぐに次が生えてくるので、試しに掘ってみたら筍が沢山採れました。
【写真】【写真】
━━
あら立派なタケノコさん。
昨日の赤髪神ちゃんがなんかしたのかな? けど、なんで竹なんだろ。
竹ならばあちゃんが無限増殖させて管理してるんだけどな。
━━
︎じゅんP ︎
伝え忘れてましたけど、桜様が先導してくれたので安全面に関しては全く問題ありませんでした。
二層は特大の桑の木が鬱蒼と茂る層で、特大の蚕がいました。
震え上がる程に気持ち悪かったのですが、桜様が桑の葉を与えると繭を作ろうと糸を吐き出したので竹で巻き取っておきました。【写真】
━━
お蚕様か。
シルクとか高級なイメージはあるけど合成繊維が主流の時代で需要あるのかな?
一定の利益が見込めるなら製糸工場とか作ってもいいけど……いや、厳しいか。
養蚕業の隠れ蓑とか考えたらコスト対効果が悪そう。
━━
︎じゅんP ︎
三層は軍鶏? でした。
見た目は完全に軍鶏ですけど、爪が釣針みたいな巻き爪になっていて、背の低い枯れ木の枝から枝を走り回るのが厄介ですけど、慣れたら楽に狩れます。【写真】
━━
コッコさんだ。
赤髪ちゃん……迷走しちゃった?
アンデッド特化ダンジョンだったのに竹に蚕に軍鶏って。
あたち悪い神様じゃないよぷるぷるってこと?
━━
︎じゅんP ︎
四層はそれなりの広さがある渓流ですね。
超絶高い崖に阻まれているので、ただ渓流沿いに進むしかないんですけど、桜様が上の様子を見に行ってくれましたが、ある程度の高さを越えると反転して下に戻されるようです。
全力で桜様が走って降りてきた時は死を覚悟しました。
ここも魔物らしい魔物はいませんが、渓流には無数の鮭が遡上してます。
捕まえようにも障壁があって、桜様でも結構ヤバそうな剣で切り裂いて一匹捕まえるのが精一杯だったので、何か特殊な条件があるのかもしれません。
【写真】
━━
ばあちゃんが笑顔で鮭掲げてるのはいいけど、その傍にある目玉のついた気持ち悪い魔剣はなんだろうか……。
烈◯の炎のジョーカ◯さんの帝釈廻◯みたいな謎剣が怖い。
━━
︎じゅんP ︎
五層は降りたら海でした。
階段の途中から既に海だったので自分達は断念したんですけど、桜様はそのまま行っちゃって、小一時間したら戻ってきましたが、どうやら五層は雲丹、六層は鮑、七層は蟹、八層はタコ、九層はマグロらしいのですが、全て特大なので四層への階段の広さではそのまま持って上がれません。下層に降りる階段はかなり広くて簡単に運び込めるようですが、全面が海の階層となると厳しそうですね。【写真】
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ジュンペー達が軽箱、所謂軽の箱バンぐらいの雲丹、鮑、蟹、タコ、マグロと写真を撮ってる。
これは一刻も早く帰らなければならない。
綾子さんに帰る旨を伝えて即帰宅しよう。
━━
︎わしやで!タキオやで! ︎
おは。今から帰る。
それおいしいの?
てか十層から先は?
━━
︎じゅんP ︎
よくわからないらしいです。
空中神殿みたいな場所で、誰もおらず魔物もおらずで、試しに飛び降りたらしいのですが、何度も同じ場所を落下するだけのようですね。
飛んで行っても戻されるようです。
━━
赤髪ちゃん、一丁前に謎解きなんか仕掛けようとしてるのかな?
創作では定番だが、一度破ってしまえば二度と触れられる事もなく、一層丸々無駄にする例の……。
あんなビビリの幼女が考える仕掛けなんて瞬殺で解けそうだけどな。
ちょっともったいないけどタクシー乗って帰ります。
サッカー部達に単車で送ってもらうぐらいなら喜んでオッさんに金を払おう。
移動がてら新しいダンジョン……いや、新しい界門に関しての算盤を弾こう。
竹はいい、竹は自分達で有効活用できるし界門であらば品質も一定だろうから安心して使える。
何かと竹にはお世話になってるし、タケノコまでいただけるとなったら感謝しかない。
問題は二層のお蚕様だ。
ネットで軽く調べたが、シルクは生地で1m千円ぐらいらしい。
どれぐらいの繭がどれぐらいの量になるかはわからんが、繭を採取して糸にして布にして1m千円となると、鶏ぶっ殺して一撃二千円の方が断然熱い。
シルクなる単語に騙されそうだが、過程を考えると投資をする価値は無さそうだ。
勿論蚕は馬鹿でかいし無限に湧いてくるのでやり出せば利率マックスで他を圧倒できるのは目に見えてるが、国内の養蚕業は細々とやってるところばかりでメインはインドブラジル、わざわざ潰しにかかる必要もないだろう。
競争率が高い業界に参入して俺tueeならまだしも、致し方なく細々としている方々を潰してしまえば呪われかねん。
てな訳で三層の軍鶏だが……これも微妙だ。
すっかり養鶏場の人となってしまったので色々調べたが、基本地鶏と呼ばれているものは鶏と軍鶏の交配種だ。
写真を見るに凛々しい姿であれば同じ鶏と言え闘いに特化した軍鶏であろう事はわかるが、現状鶏で馬鹿ほど儲けてて、今は鴨の販売もできるように段取りも組んでる。
特別美味いとかなら未だしも、わざわざ三層まで行って軍鶏の回収とはこれまた採算が合わない気がする。
四層に至っては論外。
ばあちゃんでも一匹捕まえるのでやっとな鮭とか無理ゲーすぎるし、ジュンペーが言うように何らかの条件を満たしたとしても、こんな内陸で鮭なんぞ売れん。
ククリ山形式で北海道から仕入れて差額で儲けてなんてのはできそうだが、鮭ごときが利益なんて……ん?
鮭高いぞ? 一番安いのでも一本5千円ぐらいしてる。
高いヤツなら10万越えなんてザラにある。
つまり5千円ぐらいで大量に仕入れて1万円で転売しておけば一撃5千円は儲かる算段か。
いいな……めちゃくちゃいいぞ。
本音を言えば北海道で漁師参入で浜で売ってからの仲買から始めて最大利率を手に入れたいが、今回はモノがモノだけにククリ山式が一番いい。
問題は誰に買って貰うかだが……って、獲れない魚の売り先考えてどうすんだって話だよな。
「つきましたよお客さん。本当に上まで行かなくていいのかい?
「ありがとう。大丈夫です。運動不足ですからね」
タクシーに安くない料金を支払って我が愛する平山に到着。
理由はわからないが、赤髪ちゃんは平山界門の隣に入り口を設けたようだ。
ばあちゃんが掘っ建て小屋を新たに増築しているが、不自然極まりないので間違いないかと思う。
「お疲れ様ね社長さん」
「あんなに飲んだのに、みんな普通に仕事してるんですね」
「グデングデンのままだけどね」
「休みでいいって言ったのに」
「落ち着かないから来てみたらみんなも次々……ね」
それは都会で社畜と言う。
仕事が好きと魔法の言葉で納得しないで欲しい。
かなり好条件で無理なく働けるように配慮してるつもりだけど、何を間違ったのやら。
「ああ、いたいた。ちょっと来な」
前髪メッシュマダムと挨拶を交わして早速赤髪ちゃん界門に潜ろうとしたらババアに拉致られた。
連れられた先は何故か駐車場側であり、其処では界門探索の働き手達が勢揃いしており、神妙な面持ちで円となっているではないか。
「どしたの?」
「見ての通りだよ」
よくわからぬままに円の中心を覗き込むと、何のことはない。
特大の蟹の焼き上がりを待っているだけである。
「なんどい蟹かーい!」
心配して損したけど、テツミチがヨダレを拭きながらにも難しい顔をしているので、軽くケツを蹴ってみる。
「どしたん?」
「いやね。ジュンペー達が竹の伐採を朝から続けてやしてね、どうやら【釣り】スキルが出たってんですよ。だから四層で釣りができるんじゃないかって話なんでやすが」
そこでテツミチの舎弟的立ち位置の金髪が食い気味で参加。
「竹、糸、針って出来過ぎじゃないですか。明らかに釣りしろって事だし、それなら釣竿買った方が早いって言うんですけど、意見が二つに割れてるんですよ」
そこでテツミチはヨダレを飲みこんで真剣にアゴをしゃくらせる。
「殿、これ間違いなく技能核とらにゃ釣りできないって流れじゃありやせんか?」
「いや、100%そうだろ。考える必要もなく」
ぶっちゃけ何も考えてなかったが、丁寧にお膳立てしてくれてるし、相手はヘタレの赤髪幼女であるからして、釣りだよー、釣りなんだよー! だから攻めないでーと泣かされたくない一心で考えた浅はかな仕掛けと言われれば納得できる。
更に四層の鮭はババアが禍々しい魔剣でぶった斬らにゃいかんほどのキチガイガードがついてる。
特殊な条件を満たしてこそやっとこ釣れると考えるのが普通だ。
しかし何故か半数はガッカリしており、半数は喜びガッツポーズする謎の絵面が広がった。
「え、なに?」
「いやね、スキルコンプ派と素材コンプ派に分かれてやしてね、ミッちゃんとマヒルちゃんなんかは素材コンプで釣りができるってんで今も潜ってるんでやして、ジュンペーとミナミちゃんはスキルコンプだって、自分と一緒の考えなんでやすが」
「いや待って、それならわからん……いや、ちょっと待てよ……」
一気にわからん。
素材集めるだけでも良さそうな気がしてきた。
わざわざ一層のファーストスキルで【釣り】を用意してる理由は?
「ばあちゃん、蚕の糸もってる?」
「あるよ、ほれ」
俺たちの話などそっちのけで蟹の加減を見ていたばあちゃんが出した蚕の糸は、それ単体で既に柔らかく上質でありながらも、ピアノ線のように剛性がありながらにも繊細でか細く……まるで新種の天蚕糸……。
どうしよう。
このままでも全然釣りできそうな気がする。
「よし、蟹食ったら確かめに行こう」
「殿……?」
「いや、わからん。わからんけど、そのままでもいける気がしてきた」
特別条件討伐のノリだ。
一層から三層の素材でしか釣りが出来ないようにプロテクトしてますってノリも十分あるだろうし、スキルで特定条件を満たさにゃならんってのもあるが、前者の場合は直ぐにでも確かめられる。
んでもって特大ガニが焼きあがったので一心不乱に食い散らかした。
デカい癖に大味にはならずに、蟹の旨味が極限を越えて溢れ出す意味不明なぐらいに最高で気絶しそうなぐらいの美味さであった。
ばあちゃんがミソの中に蟹身をぶち込んで丼にぶっかけて食い出してから戦争が起こったが、十二分に楽しめた。
てな訳で釣りが出来るか確かめに行こうと、ばあちゃんから糸を貰い、一層で適当に竹を拾って三層へ。
軍鶏を追いかけ回してサクッと討伐しては爪を回収して四層へ。
餌なんてのは気にしてはいけない。
此方は邪道中の邪道の引っ掛け釣りで根こそぎ釣り上げてやる算段である。
働き手の皆も高校生達はジュンペー達の竹狩りに参加したが、テツミチ一派は昨日の連帯感の名残りなのか、何故か同じ仕掛けをセットして同行してきたので全員で意気揚々と……はぁ、野郎ばっかりで吐きそう。
「うおー、みんなきたっすね!」
四層に降りると、なんの心配をする必要もなくマヒルちゃんとミッちゃんがカツオの一本釣りかと言わんばかりに次から次へと鮭を釣り上げては竿を返して釣り上げてを繰り返している。
「鮭パっすよ鮭パ!!」
「鮭パーティってこと?」
「それっす!」
辛抱たまらんと早速俺たちも参加するがマヒルちゃん達のようには上手くいかない。
竿をピュンと振った勢いで針がフワッと川に入るので、彼女達の真似をしてギュンと引っ掛けるが、ギョギョ、ギョパパパパと魚が暴れたくって上がって来ない。
暫く戦うとなんとか引き摺りあげられるが、これが【釣り】のスキル持ちの差なのだろうか?
テツミチ一派の若者なんてそのまま上流に引き摺られて行っちゃいましたけど……あ、帰ってきた。
鮭抱えてる。良かったな、血塗れだけど。
「殿、こりゃあ釣りができるって言うんでやしょうか?」
「うん、ダメだな。最低でも釣りスキルはいる」
「しかし美味そうな白鮭でやすなぁ」
「白鮭?なんか種類あんの?」
「これはオオメマスと言いやして、まぁ、色々ありやすが、まずは持って帰りやしょう」
結果鶏用のスズランテープで鮭のエラ通しをして連結し、全員で大量の魚を背負って地上に戻った。
するとテツミチが突然魚の腹を裂いて捌き始めると塩水で丁寧に洗った後、俺に乾燥を頼んできた。
別に減るもんでなし、普通に乾燥してやったら、めちゃくちゃ美味い鮭トバが完成した。
「鮭トバって秋鮭のもんじゃないの?」
「まぁ、鮭は鮭でやすから」
「なんかめちゃくちゃうまいなこれ」
イメージするガチガチのトバではなく、芳醇な香りを持つ上質な脂が身を柔らかいままに保ちながらに乾燥していて、簡単に解れて旨味を感じさせるにも関わらず何度も噛めば深みが増すし、ちゃんと歯応えもあり……。
「酒飲みたいな」
「ビールとってきやしょう」
「よし、乾杯するか!」
軽い試食試飲会と言う名の宴会となった。
肌寒くなって来たが、ワイワイやってると割と気にならないものである。
居候組は基本ノリが軽いから飲み相手としては面白い連中である。
ジュンペー達はストイック過ぎるし、不良達も言わずもがな。
トキヤは怖いし、キョウコちゃん達は昼間しか山にいない。
地上にいる時間が最も長い連中であるので必然的に交流を持つとこいつらがメインになる不思議。
女性の働き手達やら通いの人達、解体メインの人達なんて仕事として割り切ってるから終わったら即帰宅である。
「で、本題なんだが、この鮭を売るために北海道から鮭を仕入れて転売名目で売り飛ばそうと思うんだが、何処に売ればいいと思う?」
「いや、殿。失礼やもしれませぬが、この時期の三陸沖は鮭が有名で御座いやすよ? と言っても馬鹿ほど放流して定置網で掛けるようなやり方でやすが」
「あ、そうなの?」
「えぇ、鮭と言えば北海道と思うかもしれやせんがね。ですから浜値で仕入れてネット売り払うなんてのもできやすし、町売りにも十二分に。これだけ美味けりゃマサヒコさんのとこでも高くで買い取ってくれやしょう」
刺身を食ってみたが大トロのように口の中で消えてしまう抜群の逸品である。
こんなのが食い放題ってだけでも生きてて良かったって思えるぐらいにうまい。
「目方が5kgを越えるぐらいと成魚のそれでありながら、味はまるで別物と言えるほどの絶品。食った事はありやせんが、幻と言われる鮭児にも引けは取らないんじゃありやせんか? 売れて当然に御座いやしょう」
「お前めちゃくちゃ饒舌になってんな」
「ええ、勿論に御座いやす。殿、このシノギ、自分に任せちゃあ貰えやせんか?」
「え、なんで?」
「家臣にして頂きやして、符丁の縛りでの借金は無くなりやしたが、次は忠義を示す時に御座いやしょう。必ずしやこの一件、先の借金よりは儲けさせてご覧にいれやす」
なんか暑苦しいモードでグイッと来たが任せていいなら任せたい。
「界門攻めなくていいのか? 色々荒稼ぎしてるだろ?」
「空いた時間にやらせて頂きやす。余りにアレもコレもとなると、流石に殿も大変で御座いやしょう」
「まぁ、やってくれるんなら、それに越したことはないけど」
あれよあれよと鮭の案件はテツミチに任せる事となった。
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