うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

第50話

 

「宴もたけなわでは御座いやすが、お時間もそろそろと成りまして候えば、一丁締めにて締めさせていただきやす。よぉぉぉお!!」

 パンッと全員が締めくくる中、タキオだけは一本締めでパパパンパパパンと叩いて赤面をしているが、無事に飲み会は終了した。

 何故か大宴会へと発展し、綾子だけでなく、八百屋の源太や小嶋さんなどはまだしも、キャバ嬢の千花ちゃんやゲイバーのオッさんまでも駆けつける大惨事となったが、飲めや騒げやの大宴会も一丁締めと共に嘘のような静けさを持って閉会となった。

 80名規模の宴会の飲み放題4000円コースにて32万の支払いはテツミチが知らぬ間に済ませていた。

「なんでじゃゴラァ!!」

「いいんです殿!! 皆仕事を手伝ってくれましたので!」

 それを聞いたタキオは酔いに任せてブチギレ。
 そして後片付けを手伝ったり、個別の二次会について語り合う仲間達を見渡してから、大きく息を吸った。

「てめぇら全員キャバクラいくぞぉ!」

「待ちな! それじゃああたしらは楽しめないからね、あたしらはホストとやらに行ってみるさ」

 桜がマダム連中を連れてホストクラブへ行こうとするが、タキオは腕で一文字を切って完全否定する。

「全員でキャバクラ行ってホスト行けば良かろぉもん!」

 何弁かすらわからん。
 しかし流れは決まった。

 流石に80名もの人員が出入りできる店舗は市街にはないので、店舗を隔てての二次会続行たる謎の状況になったが、バブル期の再来を思わせる飲めや歌えやの宴は次の段階へと進んだ。

 その頃、平山では3つの界門が開いた事により、それぞれの神層に回廊が繋がれ改めて顔合わせが行われていた。

 絵面的には優しそうな日本人のオッさんとケモ巫女幼女と髑髏かぶった赤髪幼女の幼女成分過多な顔合わせである。

「やぁ鏡狐ちゃん。前に挨拶したぶりだね」

「ぁぅ」

 やはり度が過ぎる人見知りであり、狐山界門ケモ巫女さんはゴニョゴニョと話しながらに俯いてしまう。

 それに引っ張られるのは赤髪幼女である。

 山神陣営に引き摺り込まれ、即座に二柱の山神と遭遇しただけでも情報過多であるのに、その山神が吃ってしまっているのだから自分の場違い感に息苦しくなってしまう。

「ここは平山、古き名は平に等しき山。背比べをせずに皆が肩を並べ語らう山だ。だから怖がらないでいい。此処は皆が受け入れてくれるよ。勿論僕もね」

「ぅぅぅ、で、も……」

「そうだね、邪なる者の陣営に入ってしまったから黒に寄ってるかもしれないけど、それでも大丈夫だよ。もう君は山神の一柱だ」

 そこで居た堪れなくなったのか鏡狐は手をパンッと叩くと、一門の鳥居を創り出す。
 指を差して征一郎に何か伺いを立てるように上目遣いを見せるので、征一郎はよくわからずままに優しく頷くと、膝を折った狐面の男が登場する。

「神々の集いにお目汚しをお許し下さい。私は鏡狐様の下僕たる青面狐と申します」

「はい、こんにちは。それで、君はどうして呼ばれたのかな?」

「恐れながら申し上げます。鏡狐様の声をお伝えしたく存じます。かの新しき平山の柱となられた姫君は偽神宝具を使わずして所持しているようなので、洗って階層を増やしてあげてはどうかと申しております」

「へぇ、それはいいね。でも3つか。洗ってあげても十層ぐらいしか増えないけど……少しはマシかな」

 赤髪幼女は慌てて部屋に戻り、2つの髑髏を抱えては征一郎に差し出した。
 外は虹色が白を放ち、中は何処までも黒い漆黒。
 見た目は髑髏であるが、頭に乗っている分を含めて、きっちりと3つとも偽神宝具である事がわかる。

 征一郎が触れ、3つの偽神宝具が1つに重なると、それは小さな界門の鍵となる。

「鏡狐ちゃんの提案通りに洗ったけど、どうしようか? ウチは肉類は揃ってるし、鏡狐ちゃんは穀物や野菜がたっぷり。最初の十層は役に立つラインナップにしておけば、みんな喜ぶし下層の魔物も強くなるしでいい事尽くしだけど、赤髪ちゃんは? どうしたい?」

「おし、えて、くださぃ……」

「じゃあ、ちょっと因子を覗かせてもらうよ?」

 征一郎が新たに作り出した小さめの界門の鍵を赤髪幼女と共に触れると、鏡狐も申し訳なさそうにピトっと指を触れた。

「へぇ……いいなぁ。山の界門の因子を勢揃いさせてるんだ」

「ち、ぃと」

「ちいと? でも、さすが遊戯といいきるだけはある。これなら選り取りみどりだけど」

「さかな」

「お魚、いいね。桜も肉食っぽくなっちゃってるから、もっとお魚を食べて欲しいし……あっ、赤髪ちゃん? いい? お魚で設定しちゃってるけど」

 赤髪幼女はコクコクと頷いて了承を示す。

「鶏みたいに忙しなくされるのも嫌だし鮭の一本釣りって感じにしよっか」

「ときしらず」

「あれは夏の海で獲れる鮭だけど…〆悪くないな。最高級トキシラズが釣れる謎川とか熱いし。それだと三層、四層の方が美味しくできるかな」

 何処まで行っても素を出せばタキオの爺ちゃんである。
 優男を辞めて顔を出す軽いノリは本当に良く似ている。

「じゃあ一層に竹の魔物を設置しよう。筍も採れるようにして、青竹で釣竿を作る材料にする」

「みんな、たけ、すき」

「そうだね。毎度家の裏の竹林を生やしたりしてるみたいだからあった方がいいしね」

「いと」

「うん、二層は釣り糸だ。となると蜘蛛かな? 爪を釣り針っぽくすれば一石二鳥」

 すると赤髪とケモ巫女は首をブンブンと左右に振った。

  「ダメか。じゃあお蚕様は? 虫だけどシルクになるし」

 幼女達は致し方なくと頷くと、背後で狐面の男が『尊い』と悶えているが無視。

「じゃあ桑の葉を食べさせたら糸を吐いてくれるようにしよう」

 二層はお蚕様で決定し、釣り針が無ければ意味が無いので三層は爪が釣り針となる特殊な軍鶏となった。

「外から釣り具を持って来られたらつまらないから」

 軍鶏の爪に【透過】が与えられ、鮭川には【透過でしか破れない障壁】が張られた。

「気がつくかな? 竹に【釣り】をつけておこう」

「いと」

「そっか。【製糸】とかでいいよね。これなら気付くはずだ。でも【透過】だけだと軍鶏の針だけ使えばよくなるから【透過】の範囲を狭めて【連動】も軍鶏に与えておこう」

 結局軍鶏からスキルを習得したら自前の釣竿で釣りができてしまうが、一層の竹、二層の糸、三層の針を使えば、スキルを持たずして釣りが出来る仕組みとなった。

 そして四層は切り立った崖の谷底に流れる清流にて鮭が無数に泳ぐ階層となり、滝壺の裏手から五層へ降りられる仕組みとしたが、そこで三者腕を組んだままに沈黙。

「鮭に【潜水】と【水中呼吸】をつけて、五層からは海にしようか」

 幼女達もうんと頷く。

「五層は雲丹、六層は鮑、七層は蟹、八層はタコ、九層はマグロ。普通のサイズだと面白くないから、全体的に大きくしよう」

「なんで」

「あぁ、桜が好きなものを選んだんだ。きっと喜ぶ」

 ゲロ甘である。
 折角ならもっと釣りを活躍させろと思うが、完全に征一郎の趣味で赤髪界門の一層から十層が追加された。

「ぁの、なんか、これ」

「ああ、元よりの階層が深くなるから、色々変化が起こるんだよ。簡単に言えばみんな強くなる。だけど、そうだな」

 征一郎は赤髪の階層の設定を変更して行く。

「元々【貫通無効付与層】をつけてなかったよね? こういうバランスを崩しかねないスキルを無効にする付与を早い段階ですると、次周で整合性をとらされるんだ。だから僕なら二十層から有効にして一段上の【特殊効果無効付与層】の設定を可能にする」

 簡単に平山界門で説明するなら、一層で鶏が【貫通】を落とすが三層の牛で【貫通無効】を作り、その後四層から十八層までは【貫通無効付与層】となり、階層に貫通無効が付与されている形となるが、十九層のミノタウロスが落とす【無効解除】により、三層から十八層までが無力化される。

 これが征一郎の話す整合性である。

 簡単に言えばレベルアップしたら過去の強敵は雑魚でした状態と一緒である。

 整合性の為に【無効解除】を余儀なくされるが、征一郎に界門を託した元山神は、最初期に【貫通無効】を使用した為にジリ貧の特殊効果付与を余儀なくされてしまうが、敢えて一周捨ててしまえば【特殊効果無効層】なる極悪の付与層が作れるようになる。

「桜みたいな神化が酷いのが来たら意味はないけど、普通の働き手なら必ず躓くよ。これにするかい?」

 赤髪はうんうんと嬉しそうに頷く。

「鏡狐ちゃんみたいに十六層倍増で一周目を完全に捨てたりすると、もっと深いのが使えたりするけど、それは流石にね」

 鏡狐は耳をピクンピクンと動かして若干のドヤ顔を見せる。
 狐面の男はさらに悶えるが、征一郎は存在しないものとして話を続ける。

「深層収穫で神力が減るから驚くかもしれないけど心配ないよ。自分が消えてしまうかもしれないと思った時には倍増するから。ね? 鏡狐ちゃん」

 ケモ巫女はもじもじしながらに狐面をチラ見すると、男は待ってましたと起き上がる。

「赤髪のお柱様。我らが鏡狐様は十六層まで完全開放しておりますが、許可なく十七層に踏み込んだ者は【魔入り】なる返しを喰らうよう作られておりまする。 なんとこの魔入り、陣営に引き込み存在改変しただけでなく、その人間持つ存在因子全てを奪える利点が御座いまして、長らく人が生き行くだけで多大なる成長を遂げる神界を更に強化できまして御座います」

「まいり、わかるょ」

「おお! そうでしたかそうでしたか! なれば話は早う御座います。深層収穫にて人が間を捨て神に寄れば寄るほど、属する柱が増えますれば、存在するだけで神力を溢れ出させます。山神界門は神々が身を削り神を生み、そして力を増す仕組みとなっております故」

 赤髪幼女はパチパチと手を叩いた。

 結論身近な例としては、桜が既に神層到達を果たし、存在は既に神の領域にある。
 既に条件は満たしているので山神にとって変わるもありだが、眷属として界門の管理者になる事も出来るほどに神の力を持つ。

 そんな存在が自身の管轄にいるだけで力が倍増するのは当然至極。
 これまでは身を削り続けていたものが神の力を溢れさせるだけでなく回復の猶予すら与えてくれる。

 本音を言えば【老い】を捧げて貰えればその時間の分だけ回復が早まるのだが、征一郎としては桜と一言でも多く話せる時間が欲しいので考えるだけ無駄なこと。

「持ちつ持たれつだからね。土地を豊かにした分、神を殺そうと思う者は現れにくい。神々の言い訳としては人に不死の苦しみを与え、その者の過ごした記憶を覗き見できて暇潰しになるだとか言うけど、実際は力と知恵を与え、自らも力を取り戻すのが目的だ」

 そして征一郎は丸眼鏡の奥の細い目を開いて赤髪ちゃんの目を真剣に見つめる。

「正直戦えば負ける一つの界門を制した程度の者に負ける事はない。聞き分けが悪ければ力尽くで眷属にしてしまえばいい。でもね……赤髪ちゃんみたいな弱い神を殺しまくった働き手なら、僕達にも刃は届く。君は不安かもしれないけど、もう大丈夫だよ。山のみんなを強くしたら、みんなが赤髪ちゃんを守ってくれる」

「ぅぅ……ぁぃ」

 こうして第一次平山三神面談は終了した。

 その頃タキオは壁歩きで壁に立ちながらにカラオケを熱唱していたのは余談である。




コメント

  • ノベルバユーザー326478

    なろうで消えてて焦りました。
    こちらでの更新お願いします。

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  • ノベルバユーザー350583

    なろうから消えていたので捜索しました。まさかの垢バン。

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