うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

第48話

 

 本能的に敵対する界門であると理解している故の蹂躙であるが、当人達は気付いていない。
 ただ力の渇望故の興奮であるとしか思っていないのだ。

 界門の守護者も必死である。

 突然32名もの山神陣営の者が乗り込んで来たのだ。
 来たる善邪の決戦の際に、もののついでに潰す予定の者達が攻めて来るなど思いもよらない。

 即座に足止めしてくれようとスケルトンを無数に送り込み続けるが、タキオ達からするならば、それはジャックポットでしかない。

【貫通】が有効なのだ。

 それ即ち、オモチャの剣であろうとも敵を容易く切り裂けてしまう程の破壊力を持つ事となる。

 15年前に神々の遊戯などは関係なく、神を殺す者を育てる為に自重なく作られた界門のスキルは凶悪の一言に尽きる。

 詰められれば鰐ガブで粉砕し、後詰めでテツミチが骨どもを粉砕して行く。

 たかが骨である。

 胴を薙ぎ払われれば崩れ落ち、頭蓋から斬り倒されれば真っ二つで身動きが取れない。

「しゃがめオテツー!」

 錆びた剣を拾いあげて次々と投げるとスケルトンの群れに突き進んでは爆破を起こす。

「キリがない。助力する」

 ヒョロ兄が一歩前に出て拳を振るうと炎の鞭がスケルトンを蹂躙して行く。

 一瞬で炭化して全てを燃やし尽くした。
 骨も残さずとはよく言ったものだ。

「ヒョロ兄強いやん」

「ひょ、ひょろ?」

「いや、名前知らないしさ」

「まぁ、それで構わんが」

「いいのかよ」

 冗談を交わしながらに即座に湧き始めるスケルトンをすれ違い様に叩き壊すと、互いに照れくさいのか中指で鼻っ柱を掻く。

 そして角刈り兄がテツミチを操り人形のように操作して骨を打ち砕いて行く。

「やっぱり兄妹で御座いやすねぇえぇえぇえ」

 そして早々に技能核が出現する。

 体感で3500にも到達していないが、出現したのには理由がある。

 それはタキオとテツミチの間に交わされた家臣の符丁に関係する。

 家臣となると臣下の討伐計数は主君の討伐としてカウントされる。
 つまりテツミチが回収した存在因子は自動的にタキオの存在因子として加算される。

 その代わりと言ってはなんだが——

「おお、これすごいな。オテツ【爆破】使ってもいいぞ」

「え、えええ! おお! 使えてしまいやすね」

 ——主君の技能を自在に貸し出す事ができる。

 当然別行動であればテツミチの討伐はテツミチのものとして計上されるが、主君と共に戦う場合に於いては、捧ぐ代わりに力を授かる事ができる。

「後7000余裕っぽいから行ってみるかぁ!!」

 そうとわかれば潰すだけじゃなく、全てを奪い切ってやろうと躍起になるのがタキオである。

 その頃、タキオ達とは別に先行していた28名の内8名のテツミチ一派、チーム居候は二層スケルトンメイジと対峙していた。

 先行組のジュンペー達、サッカー部、トキヤ、キョウコ、ハゲ兄の怒涛の攻めにスケルトンを容易く破り、二層に降りてから自分達に都合のいい相手であるからと群れから離脱したのである。

 何故都合がいいかはシンプルだ。

 スケルトンより数が圧倒的に少ない。

 その一言に限る。

 確かに魔道士然としたスケルトンが繰り出す竜巻は凶悪そのものであるが、一度発動してしまえばスケルトンメイジは身動きが取れない。

 4名の2チームで別れているので、2名が対峙して竜巻を起こさせて残り2名が背後から貫通を叩き込むだけで簡単に討伐できる。

 そしてスケルトンメイジが使用しているオンボロの杖に小指の爪ほどの緑色の宝石がついているのも、彼らは見逃さなかった。

「集めよう。集め尽くして社長に買って貰おう」

「風の魔石とか、そんなノリか?」

「ただのクズ魔石だろ。弱すぎるしな」

 弱くはない。
 竜巻を起こせる魔法使いが弱いわけがない。
 彼らはただ、感覚が麻痺しているだけである。

 無力な鶏を狩っているだけとはいえ、その鶏により身体能力は爆上げされ、その鶏のスキルにより、スケルトンが豆腐のように斬れてしまうのだ。
 敵を最弱と侮ってしまうのは致し方ない。

「ちょい! ちょいちょいちょい!! 見てろ! 笑えるから!」

 そこでショーマは回収していた宝石を投げつけると、竜巻が巻き起こる仕組みを発見した。

 錆びた剣で杖からほじくって割れてしまった故に発見した事象であるが、それにより彼らは悪い笑みを浮かべた。

 ダメなやつらにピストルを与えてしまったようなものである。
 新しい遊びを見つけたと言わんばかりにショーマが貫通で風の魔石を叩き込み爆散するスケルトンメイジ。

「フォー!!」

 竜巻に巻き込まれて木っ端微塵となったスケルトンメイジは直後に二体に増えて復活する。

 全員が顔を見合わせる。

「っつーことは?」

「狩り放題かな?」

 口角を吊り上げて即座に風魔石を投げつける。
 四体に増やした直後に再び投げつけ、倍々でスケルトンメイジを増やして行き、風魔石のストックが無くなれば再び叩き潰して風魔石の回収。

 一度パターンを見つけてしまえば最効率化を図りながらに時間短縮を図りながらに嵌め倒す。

 鶏を出荷の為に綺麗に首を落として血抜きをするなどの処理も必要無ければぶっ壊しまくればいいだけだ。

 羽が生えたかのよう好き勝手に暴れ回れる姿は清々しくすらある。

「こいつらの棒の方が殴りやすいな」

「長さが丁度いいよな」

 棒を突き刺し振り抜きぶん投げる。
 もうやりたい放題である。

 そして三層、一層と二層の複合層となりスケルトンソルジャーが前衛、スケルトンメイジが後衛となるが、メイジは【速度上昇】のバフ掛けを行なってソルジャーが早送りのように俊敏に動き始めるが、この層ではサッカー部の面々が暴虐の限りを尽くしている。

 通常の迷宮型の階層は彼らの独壇場と言ってもいい。

 何故ならサッカーボールの可動範囲が一定に定められるので、回収に困るような事態にならないからである。

 二層のスケルトンメイジの杖で叩き潰しながらに駆け抜け、リポップゾーンを明確化し、2対2、2対2、2対3の三手に別れて挟撃する形でパスワークを始める。

 低弾道で蹴り出したサッカーボールはスケルトン達の下半身を貫通しながらに突き抜け、貫通をかけながらに蹴り返すとチュインと金属音に似た甲高い音を鳴らしながらに再びスケルトンをソルジャーメイジ共々砕き潰して行く。

 既にシューティングゲームの様相だ。

 粉砕した直後に地面に座れては新しい個体が生まれるので的に困る事もない。

「はっはー! おら神様よぉ! どっちが折れるかトコトンやろうぜぇ!」

 シシオが興奮して叫び、全員がダンジョンハイの三層であるが、お次は四層。

 一層二層三層が完全制圧に近い状態で作業ゲーと化している最中、風景がガラッと変わる四層廃病院ステージ。

 そこで戦っているのはヒョロっと背の高い丸坊主の男、ミッちゃんただ一人である。

『よし、各層スキル調査をするから単品でわかれよう。危なそうなら直ぐに引き上げて合流』

 つい数刻前のジュンペーの言葉である。

 四層のモンスターはまたもやスケルトンソルジャーであるが、これまでと違う点を挙げるなら、軽鎧を纏い白刃の剣を所持しているところだろう。

 一層の錆びた剣を持つ剣士よりは気品があり、三層のメイジに操られている個体よりはより個を持つ個体となっている。

 寡黙な男であるミッちゃんは、スケルトンウォリアーから奪った剣を両手に持ち、適当に斬り結べば【射出】【貫通】で過剰分の剣を撃ち出し再び湧き待ちを繰り返す。

 堅実に確実に安全に。

 ミッちゃんらしい方法で、手順に一切の綻びを見せずに機械の如く単純作業の繰り返し。

 ミッちゃんは呪いで話せなくなってしまった分、何故か聴覚が異様に発達しているので、音の配列でこれまでとは違う敵のリポップ位置などを即座に把握出来てしまう。

 だからこそ瞬時に攻撃パターンを組み替え、必要とあらば多少に手順を変えて圧倒して行く。

 壁を背に半円形にデッドラインを決めながらに確実に敵を殲滅しているのだが、敵の残骸が一定ラインの全て外にある事から緻密に計算されているのがよくわかる。

 ミッちゃんはウンウンと頷いて手を返しては来い来いと誘い込む。

 ミッちゃんとほぼ同様の攻防が五層でも発生している。
 ここで戦うのはカチューシャで髪を纏めた黒ギャルたるミナミである。

 出現モンスターはターバンを巻き曲刀を持った盗賊風の身軽なスケルトンである。

 一丁前に気配を隠したりなどするが、廃病院ステージのエントランスたる開けた場所にいれば、何処にいるのか直ぐにわかる。

 ミナミはソファの両サイドに曲刀を山積みにして、スケルトンシーフが登場すれば【射出】【貫通】【破裂】でぶっ倒し、曲刀のストックが無くなれば一本だけを握りしめて回収しながらに敵を粉砕して行く。

 ミッちゃんとほぼ同じ戦法であるが、日頃自分から走り回って広い平原の中で逃げる敵を殲滅しているミナミ達からするならば、次から次へと殺意を向けて襲ってくれるなどボーナスステージでしかない。

 曲刀を拾い終われば、当たり前のように古ぼけた埃まみれのソファに座りこみ、再び射出でスケルトンシーフを粉砕するの繰り返し。

「湧きが遅いよ、ほら、もっと送り込まないと殺せないよ」

 煽れば煽るほどに湧きが良くなるのだから上質な狩場である。

 そして六層、四層スケルトンウォリアーを更に豪奢にしたスカルナイトの登場である。

 見た目的にはこれまでと一線を画した力を感じるが、この層ではジュンペーとマヒルが全力で金策に燃えていた。

 そう、金策である。

 スカルナイトは見た目は素晴らしくとも、やはり貫通が通用してしまう雑魚である。

 しかしこれ迄の個体とは一線を画した動きができるので先ずはジュンペーが数合打ち合う。
 動きが素晴らしくなろうともパリィの次発が間に合う程度の大振りであるので、マヒルが背後に回ってフルプレートメイルを傷つけないようにバラして行く。

 繋ぎ目に曲刀を突っ込んで掻き回したり、関節をへし折ったりと、既に解体屋さんの様相である。

 討伐が完了すると、さっさと鎧を脱がせては上層階段付近へ具足一式並べ、再び討伐に走る。

「桜様来てくれないっすかねー」

「くそー歯痒いな。絶対高く売れるのに」

 白銀の鉄鋼に銀細工の豪奢な全身鎧とそれに見合う装飾の両手剣、見て明らかに金目のものである為、二人の銭儲けレーダーに引っかかってしまった。

 今は無理でも、タキオが来たら桜を呼んで回収してもらうと見越して、スキル調査は後回しに金策に走ったのである。

 これには管理者もバンバンとデスクを叩いてしまいそうであるが、スキル構成を誤ったツケを支払わされているとしか言えない。

 ジュンペーとマヒルが目を¥にしながらに剣を振るっている中、トキヤ、キョウコ、スキンヘッド兄貴ことハゲ兄は既に十九層にてリッチロードと対峙していた。

 タキオの言う所のスキル獲得の為のRTAでは無く、正しくリアルタイムアタックで突き抜けて来たのだ。

「トッキン、お前結構やるなー」

「キョウコちゃんも、ねっ」

 皆が蹂躙を楽しんでいる最中、アンデッドの王たる存在との死闘が幕を開けていたのだ。






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