うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

第47話



「はてさてテツミチの仕事を手伝った後、皆で銭湯にでも行こうかと盛り上がっていた最中に、乗用車やらバスやらの車が突っ込んできてはあわやまさかの大惨事となりかけた所で、皆でピンチを脱出。
安心したのも束の間、色黒の目が赤い悪魔チックなあんちゃんとテツミチが決闘する流れになっちゃったんですけどぉー?! こんな感じ」

『そうかい。じゃあ頑張れって言っておきな』

「鬼かよ」『よくわかったね、雑魚の部類だけど鬼だよ』

ばあちゃんに助けて貰おうと連絡してみたが、ごく普通に頑張れと言われてしまった。

テツミチは謎に腹を決めて装備を整え始めてるし、相手もやる気満々だしで意味がわからん。
こんな時は質問でもして問題を遠ざけよう。

「鬼さん鬼さん、なんでこんな事するの?」

「ゲームのルールに従ったまでだぁ! ここは黒の陣地だ! お前ら山神陣営は出ちゃダメだろぉが」

「なるほどわからん」

どうやら薄黒赤目鬼さんは、件の自衛隊の残骸では無く、この近辺のダンジョンに住まう関係者っぽい。

「んでだよ! わかるだろ! お前らはイベント的な立ち位置だろ! 守りを固める側なんだよ!

「つまり戦略シミュレーションゲームを開始して初見で堅固な守りで有名な強国がぶっ込んで来た的な?」

「わかってんじゃねぇかぁ。これでもレア魔族引いてるからなぁ、お前らぐらいわけねぇ……一人ずつ殺してやるよぉ?」

完全にソシャゲ的な感覚で生きておられる。
我々は仕事帰りに銭湯に行って、大宴会としけこみたいだけであるが、車を潰されたりなんだりと、冷静になればなるほどイライラしてくる。

「ところで鬼さん。あんた界門のぬし?」

「そうだよ、廃屋で見つけたんだぁ、へへへへ」

狐山と同じパターンかな? 
ホブゴブリンになっちゃった的な、返しを食らったことに本人は気付いてないんだろう。
俺が鬼になったらこの面子には絶対喧嘩売らないけど、スキルとかで色々調子に乗っちゃったのかな?

「オテツは俺の持ち物だし変わってあげれたりするのかな?」

「ダメに決まってんだろぉ。弱い奴から順番に食ってやんだよぉ」

「大丈夫でございやすよ。死んだら骨は拾ってくだせぇ」

車の座椅子の下から鉈を取り出しては臨戦態勢。
心配過ぎるが謎スキルに巻き込まれてしまっているので、どうしようもない。

「じゃあ行きやすよ」

「ふひゃひゃひゃ! 死ね死ね死ねぇ!!」

鬼が後方に飛ぶと、一陣の風が吹き荒れては竜巻が起こる。

テツミチは至って冷静に死角に入り側道から鬼の影を追う。
自称イトコのキョウコちゃんが奥歯をガリっと噛み締めているが、テツミチはモノは試しと転がっているホイールカバーをフリスビーのように鬼へ投げた。

「あひゃ! あひゃひゃひゃ! 誰がこんなもん喰らうんだバーハハハハ?」

【貫通】を使用したホイールカバーは鬼の首を飛ばし、通用しなかった場合に詰めていたテツミチは鉈を縦横無尽に振り回しては肉塊に変えて行く。

「うひょだ! うひょだぁぁぁ!!」

首だけになった鬼が、正しく鬼の形相で叫びまくるが、テツミチは「静かにしてくだせぇ」と頭を真っ二つに割ってしまう。

から竹割りとはこのことか。

鬼が死ぬと光を放ちながらに三つの技能核を落とす。

まさかのラッキーな展開である。

「あの、勝っちゃいやしたけど、これどうしやしょうか?」

「もらっとけもらっとけ」

「さすがテッさん!! 空気読まず瞬殺!!」

「弱いくせに! 弱いくせに!」

歓声の中で照れながらにテツミチは技能核を拾いあげる。

「【決闘】【竜巻】【速度上昇】でやすね」

「悪くなさそうだな」

「へぇ……ねぇ社長。探そうよ、こいつの界門。低層で属性系はアツいよ。桜様みたいに好き勝手出来るわけじゃなくても使えるし」

サイコ野郎がしゃしゃり出てくるが、今は界門云々ではなく、問題としては事故現場をどうするかである。

絶対にそろそろ警察が来るが、対応する人員を限定しておいた方が……いいねそれ。

「よし、サイコ野郎「トキヤね」トキヤ。ジュンペー達とサッカー部と住み込み軍団連れて界門探してこい。事故処理はこっちでやっとく」

「りょーかいっ。ヤッちゃっていいの?」

「おー、やっちゃえやっちゃえ。見つかったら教えてくれよ。この近辺の廃屋っちゃ、アレだろうけど」

顎と視線で指し示す先には廃墟となったホテルがある。
早速トキヤは全員を連れて行くと、何故かキョウコとスキンヘッド兄貴も行ってしまったが、事故処理はここにいるメンバーだけでいけるだろ。

「あー、来た来た」

「警察は嫌いでございやす」

「仕方ない。こっちは被害者だしな」

赤色灯が西日を切り裂きながらに登場し、濃紺の制服を着た男たちが駆けつけてくる。

「酷い事故ですね」

「はい、バスが突っ込んできました」

ここからが問題である。
バスのドライブレコーダーには、タキオ達の車両に突っ込もうとしたバスが押し出した車両が衝突事故を起こしては宙に舞い、不自然な軌道で直撃を避け、暴走族が木刀で車のボンネットを切り裂き、更にはスキンヘッドが自殺寸前の自棄を起こしては、鬼のコスプレをした人間を鉈で切り裂いたカオスドラゴンも目を丸くするような事態が映されているはずである。

死者は出ていないが、事故に関わった者達も動画を撮ってしまっているので正直詰んでいると言っても過言ではないが、諦めたら試合終了である。

「幸い此方には怪我人がいません」

「それは良かった。ではどのようにして事故が起こったのか説明願えますか?」

「まず、バスが急加速して前方の車を押し出し、右折車と左折車を掬い上げるようにして突っ込んで来ました」

適当である。
事故結果と身に降りかかった状況から見て、恐らくの結果として話しているに過ぎない。

「あ、死んだ、と思ったんですが、突然謎の男が現れて車を吹き飛ばしました。不思議な力があったとしか思えませんが、混乱していただけだと思います。こう、車と車が当たって弾けたのかもしれません」

「大丈夫です、落ち着いて下さい」

「次に背後でブンブン走っていた暴走族の元に車が飛んで行きました。すると暴走族は木刀で車をぶったぎったんです。あれ? 夢ですよね、おかしいな」

「大丈夫です。現実ですが、少し気が動転しているのでしょう。此方の車の運転手さんは?」

警察に聞かれるがままにヒョロイロン毛の兄貴が手をあげる。
白手袋とサングラスを外すと、普通に男前であるから驚きだ。

「何を言ってるのかわからないかもしれませんが、本当に起こったままの事なんです。そしてバスから降りてきた男が」

「そこからは自分が」

手を挙げたのはテツミチである。
テツミチはバスから鬼が降りてきた事、知人の山仕事を手伝ったりしているので、仕事に使う鉈を持っていた事、そして鬼に襲われて戦った事を話した。

真実に多少の嘘を織り交ぜ、ほぼほぼ事実を話しながらに、あくまで被害者であると言い切る。

「最近流行りのダンジョンから飛び出てきた悪魔だと思うんです。お前らを殺して喰らうなんて言うから、鉈で脅して外れ落ちたホイールカバーを威嚇で投げたんです。そしたら豆腐みたいに首が落ちて」

「大丈夫ですか? それなら悪魔の死体は何処に行ったと言うんですか?」

「消えたんです。本当なんです。本当に。あのバスのドライブレコーダーに一部始終が映っているかもしれやせん。こっちはみんなを守るのに必死で……」

話を終えると他の事故車、バスの運転手などに聞き込みを始め、第三者の撮影記録などを見てから、少し焦った警察が駆けつけてくる。

「詳しくお話をお伺いしても?」

「勿論です。全面的に協力させてもらいます」

被害者側の立場で話せるからと少し強気であるが、内心は焦りを隠せずにいる。
動画で残ってしまっている以上、開き直って全てを話し、核心部分は知らぬ存ぜぬで貫くしかないのである。

結果として車はレッカーで運ばれ、他の事故車などは人身の処理などに追われ、俺達は人身も物損も過失を問わないとの流れで、緩やかにフェードアウトした。

当然の如く連行されそうになったが、被害者側であり会社の飲み会を控えていて急いでいる故に事故過失を問わないと決断をしているので、任意であらば同行はできないとの意見を通し切る事に成功した。

実質被害らしい被害はキョウコとトキヤが車を蹴破った点と側道に乗り上げて破片が降り注いだテツミチの車だけであり、ツッコまれて困るのはテツミチの斬殺ぐらいであり、それ以上の追求はされなかった。

されなかったのだが——

「あの人達なんか隠してますよ、だって他の人達のこと逃してましたから」

——余計に拗れる結果となった。

「今日の所は良しとして、後日改めてお話をお伺いするかもしれません」

「わかりました、それでは」

俺は極平然に今でも支払いを続けている東京のアパートと固定電話の番号を教える。
バックレる気満々である。

ヒョロ兄とテツミチは自身の連絡先を致し方なしに伝えるが、どのみち任意同行には応じるつもりがないので、呼び出したくば逮捕令状が必要となるが、案件が案件なだけに立件は難しいだろう。

「申し訳御座いやせん。もっと上手く立ち回れば良かったものを」

「いやいや、良くやったろ。技能核も手に入ったんだし」

移動手段を失ってしまったので致し方なしと皆で廃墟の方角へ向かう。
ジュンペーに弁償させられた黒いワンボックスカーと単車がズラッと並んでいる廃墟を発見する。

ここに界門があるのはまず間違いないだろう。

「場所だけ把握しといて後日来るかぁ。飲み会放ったらかしにできないしなぁ」

「で、ありやすね。まだ四時ですし、待ち合わせは八時、まだまだ時間はありやすが」

「ちょっとだけだぞぉ」

ノリノリである。
住居侵入なんのその、当たり前のように廃墟に入り、当たり前のように鎮座する界門に躊躇いなく踏み込んで行く。

武器も持たずにだ。

日頃散々自分は慎重だと言っておきながらに舐めきった態度であるが、先程の鬼が三つのスキルを有していながらもテツミチでも瞬殺できる相手であったからと安心しているのである。

界門を潜ると一層目には錆びた剣を持ち歩く骨、所謂スケルトンが闊歩していた。

「丁度いいじゃん。武器ゲット」

鰐ガブで粉砕して錆びた剣を没収すると、モノは試しと貫通で真っ二つにする。

「はいヌルゲー確定。RTAするぞ! 今から骨さんぶっ壊すから、剣拾ったら突っ走れ」

早々にダンジョンハイになってしまったが無理もないだろう。

これ迄で最も魔物らしい敵相手に無双できると理解してしまったのだ。

各々剣を拾い上げると、スキル配当を気にしてソロで走りだす。
原理わからずとも一人でやらばスキル獲得が早まる事ぐらいは知っているのである。

その背後から骨を吸収し、ぶっ壊しを繰り返す。
狩り散らした残骸も回収できるのでウハウハだ。

蹂躙、その一言である。

「骨の一片も残すな!! 壊して壊して壊し尽くしてやれ!!」

テンション上がる。
なんだろう、この高揚感。

平山の仲間達と他所様の界門をぶっ壊しに来てる感覚が震えるほど楽しい。

「かつてこんなにも楽しいことがあっただろうか」

「ないでやしょうね、一秒でも長く楽しんで一秒でも早くぶっ壊したくてたまりやせん」

「ふふ、あはは! 飲み会ブチッちゃうかぁ!!」

不思議だ。

不思議な感覚だ。

俺はこの為に生きて来たとすら思えるぐらいに震えるほどの興奮を覚えてる。

あぁ、そうか、そうだよな。

仲間は絶対に大切にしにゃならん。

「オテツ、ちょい待ち」

「なんで御座いやしょう殿!」

「【家臣として迎えよう】」

「!! ありがたき、ありがたき幸せに御座いやす」

これからも一緒にこの興奮を味わう仲間だ。

借金漬けの奴隷なんて扱いは愚かにも程があるだろう。

「強くなれよオテツ、誰よりも強くなれ」

「それが殿の願いであらば必ずや」



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