うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
第44話
日本政府はこれまでの方針を180度転換し、新たな迷宮法の成立に動いていた。
与野党異論なし、異例中の異例で法案は本会議へとかけられ、このままでは史上最速での公布に至るのではないかと囃されているが、何故政府はこれまでとは真逆に舵を切ったのか、全ては桜が作成した偽神宝具によるダンジョンにて登場するアドバイザー、ミノさんからの情報が始まりであった。
「スライムから出たんだな?」
「はい、全国各地から報告が来ています。スライムから32000匹でスキルの獲得が確認できました。正しくは米国の十一層で見つかった粘体をスライムとしたいですが、わかりやすく今回の個体もスライムで良しとしましょう」
「めっちゃ早口。よし、出るならいい。これで話を持って行ける」
出る、出ないの話は技能核である。
ミノさんより情報を得た後に、自衛官を全国の迷宮へと送り込み、ただひたすら狩らせる試みをした所、本当に技能核が獲得できた。
それまで噂の域を出ず、国家レベルでは把握していたものの、特殊な条件が必要だのと様々な情報が錯綜していた為、日本は出遅れたままとなっていた。
しかしここで確実な情報を手に入れたのはデカい。
国はこの情報を元に次層攻略に関してはスキル獲得を絶対条件として法律を作りたいと考えたのだ。
スライムの残骸が様々な再利用に向いていることが発覚したので、大量に採掘したいが、人員をスライム狩りに割く暇はない。
各階層同条件で公務員を最前線に送り込み続け、再利用できる資源があらば民間人を使って回収ビジネスを立ち上げる。
例えば雑魚スラは合成樹脂に似た性質を持っておりながらも土に還る特性がある。
つまり環境に優しいポリ袋が作れるのだが、世界では既に常識となりつつあり供給過多、日本にだけ不足している事態を民間人に委託する事によって改善、更には雇用の創出にもなる。
ゴブリンなどは肉は全面的に上質な肥料となるし、睾丸は精力剤として優れていると先日アフリカのとある国が発表したばかりである。
その国での臨床結果により後遺症などが無いとわかれば非常に有用な魔物になる。
これまでは利益を独占したい理由も勿論念頭にはあるが、好き勝手に攻略して好き勝手に死なれると、アホのクレーマー達が政府に責任を追及する危険性も多分にあった為に、早急に封鎖した等の理由もある。
しかし各階層スキル獲得が絶対条件となれば、安全度は天と地ほどにも差が出るし、ライセンス獲得とした場合に潜行は個々人の責任としておけば、モンスター金くれ身内と揉める事があっても負ける事はなくなる。
超高額の保険屋なども出てきて後押ししてくれる場合もあるだろう。
ランク分けによる潜行深度管理を明確にし、それに付随した雇用。
例えばスライム回収やゴブリン回収など、層が増えるたびに経済規模が拡大して行く。
ほぼ同時に全国区で活性化が始まる。
そして迷宮が稼げると広まれば、多くの人員が殺到する。
運転免許同様にライセンス獲得に料金設定をしておけば、無限に金銭の回収ができる。
一人15万円の受講料としておいても1万人で15億、1000万人で1兆5000億になる。
ライセンス受講料が支払えずとも迷宮に潜行するしかない状態に追い込んでしまえるので損はない。
スライム、ゴブリンは二束三文で小遣い程度にしか稼げないが、それより下層になればいきなり稼げるようにしておけば、我先にと潜行人口は増えるだろう。
そして最終的には日本が最も合理的に最深層を攻略する国になる。
敢えて情報公開はしないが、そのうち直ぐに広まってしまうだろう。
だからこそ自衛官を作戦行動中であるとして情報漏洩を阻止しつつ、迷宮内で生活させながらにガンガン進めさせている。
新制度がスタートする頃には、最もスタートアップが遅かったが、最も効率的に攻略している国として迷宮推進国の仲間入りができる。
「よし、警察の関係者からも人員を送るように段取りさせよう。そのうち超人だらけで警察なんぞ何の役にも立たなくなってしまうからな」
「了解しました。元より役に立っていそうもありませんが、国家の威信云々を保つ為のわかりやすい治安装置として機能して貰わなければ税金の無駄ですしね」
「めっちゃ悪い言い方するな」
経済的にも潤い、内外にも顔が立つ指針が見つかったからこそ突き進もうとしているのだ。
そんな中、平山米盆地の偽神界門にてミノさんより更に衝撃の事実が齎される。
それは小森2尉が再び平山米盆地にやって来た際の動画記録。
『ほら、みんなが迷宮とかダンジョン
とか思ってるそれって、此処と一緒で偽神宝具でって、言ってもわかんないか、偽物の界門、つまり偽物の迷宮なんだよね』
「偽物ですか? ですが、どの迷宮、いや界門もあのようなものなのでは?」
『許可を得たから話しとくけど、例えば小森ちゃんと他のみんな一人ずつで、適当に魔物を選んで界門を作って、せーのって出すとするよね? それって一致する?』
「まずしないでしょうね」
『だよね。それと一緒で、アレは人を引き寄せて食らう為の装置なんだよ。前に話した存在因子を集める為の罠とでも言うかな? だから配置が一緒。設定が決められてるって感じかな』
差し入れのパイナップルを皮ごとバリバリ食いながらにミノさんは次々と爆弾発言を連発して行くが、小森2尉は慣れてしまったのか、ごく普通にパイナップルを切り分けている。
「誰が何のために配ってるんです?」
『配ってるのは神だけど、理由は色々あるよね。ただ力を集める為でもあれば、弱くなったり消えかかっている土地神なんかに力を持たせる為だったり』
「神様が弱くなったりします?」
『するよそら、神って言ったって、ほんの小さな力しか持たなくても信仰と神力を持ってれば神に分類されるからね。でも別の神様の教会なんかを建てられたりしたら、土地神は忘れられちゃったりするでしょ? 多分そんなので死んじゃうんだよ』
「多分?」
『あー、これ知識分けてもらって界門のみんなで咀嚼して言葉にしてる感じね。大まかには正解ってヤツ? で、本題なんだけど』
本題と言った所でネコ車で運んで来たパイナップルが無くなってることに気がついてガッカリするミノさん。
『ああ、神様お願いです。もっとパイナップル食べさせてクダバハァ!』
「ミノさん!?」
目の前でミノさんが爆散して肉片から大量のパイナップルの木が実り始める。
すると、ドシンドシンと足音が聞こえるかと思えばミノさんが普通に座って収穫を始める。
「ミノさん? ですか?」
『あー、コモリンごめんね、心配ないよ。多分さっきのより美味しいから食べてみ』
目の前でスプラッタを見せられた後で食べる気もしないが、ミノさんが無事であったならと切り分けて食べると、目を丸くする。
「おいしい!」
『だしょ? これも存在因子を集めた結果とも言えるわけで本題、その町の中の弱々界門があるって事は、その界門を配った神がいるはずなんだけど、その神の界門、神界門を見つけなきゃ、何の意味もないからね』
「意味? 」
『それは直ぐわかるよ。だけど、神はその土地の古い血を好むから、最初は土地に所縁がある人が行くべき。例えばコモリンが先祖代々住んでる家の庭に界門が開かれたなら、コモリンの一族が行くべき』
「それは何故?」
『それはね、あー! 駄目なんだって。本当の神様から駄目って言われしまったよ。でもそれは覚えといて。その土地に所縁がある古い血だよ……。そうだコモリン、パイナップル持って帰りなよ』
動画はそこでカットされている。
この情報が流れると同時に、都内では本物の界門の捜索が開始されるが、これまでに見つかっていないものが簡単に見つかるはずがない。
いくら関係省庁よりのお達しと言えど探してますと言っておけば問題がないのだから本気で探すわけもない。
現時点で見つかっていないと言う事は外にはないのだ。
都内900万の人員の目で見て見つかっていないものを有るから探せと言われても無いものは無いとしか言えない。
当然、その裏では既に人知れず恩恵を受けている者も少なからず存在するが、今は身を潜め続けているが、政府は何の実態も掴めぬままに迷宮法の設立を急ぐしか無かった。
「はぁ……本当ミノさんは毎度驚かせてくれる」
その頃、平山米盆地にてミノさんよりお土産に渡されてしまった巨大パイナップルを切り分けて仲間同志でパクついたと同時に、脳裏にミノさんの声と映像が流れた。
━━
動画に残しちゃ駄目って事だからパイナップル越しに伝えておくけど、ことの始まりはとある地方の限界集落のみが残る山村の山神達が、なんとか救いの手を差し伸べたいと開かれたのが界門なんだ。
中には人界と繋がる事を嫌がった神様もいたけど、結局は大成功で若者も増え始めた頃合い、他の神々に人界への干渉がバレてしまった。
そこで怒った神々は、ただ罰するのはつまらないし、どうせ世界の仕組みを変えてしまったのなら、ゲームをしようと提案したんだ。
内容は善神・邪神陣営で白黒に分かれて土地を奪い合うこと。
所縁のある土地を選び古くより信仰を持つ者が入れば善神陣営。
神を滅する善なる者を育て、安寧と豊穣を齎す。
所縁のある土地を選び縁も所縁もない血筋、または他宗教や宗主替えをしていた場合は邪神陣営。
神を滅するを邪なる者を育て、不穏と破壊を齎す。
両陣営一柱につき3つまで偽神宝具を最初から使えること。
対価として開始地の人間から歳を貰うことになるので、90年回収できない場合は偽神宝具は無し。
世界に過度な干渉をしてしまった山神達の土地は白黒ハッキリ付ける際に全て滅し、土地の者も皆殺しにされるだろうが、ボーナスステージ的な立ち位置とする。
ただし神々は干渉しない。
その結果になるよう仕向けるだけ。
こんな感じのゲームなんだけど、この邪神陣営ってのが、人を強い魔物に変えちゃう魔入りって力の事なんだよ。
これが成されると界門に誘い込まなくても、外で人を殺して強くなれちゃうから極力阻止した方がいいし、どうせ滅されるなら善神陣営の方がいいしね。
これ全部踏まえた上で、さっきの話検討して。
ちゃんと本物の界門を探すんだ。
そしてできれば善神陣営を増やして欲しい。
━━
それは既にミノさんの言葉とは違うと理解できる内容だった。
深く事情を知る存在、神と呼ばれる者の代弁だったのではないか。
コモリンは徐に立ち上がって平山を見上げた。
「小森2尉、どうされるので?」
「俺は自衛官をやめる」
「……やめてどうされるので?」
「善神か邪神か知らんが気に入らん。俺は山神陣営に入る」
「蛇神に殺されますよ?」
小森は約束を破る事を良しとしなかったので界門へと触れながらに問いかけた。
「蛇神様、自分は山神陣営で神々とやらをブチ殺してこの地の住民を守りたいのですが、それでも平山へ行ってはいけないのでしょうか?」
そこへ面倒くさそう鼻から息を漏らしながらに緑色の髪を揺らす美丈夫が登場する。
「ではこうせぬか小森とやらよ。毎日貴様らじえいかんの話を聞いて理解したが、その立場を捨てるは余りに惜しい。なれば我が牙を扱えるよう加護をやる。そして偽神宝具を奪い集めてくる。山の民は内から貴様は外から守れば良いのではないか?」
「……それでも構いません。その宝具とやらはどうするのですか?」
「我が喰ろうてくれる。さすれば神界門の位置も探れようし、我も更に力を得る」
「わかりました、それでお願いします」
部下達は小森を必死に止めようとするが、彼は聞く耳を持たなかった。
そこまで自衛官として本気で国を守ろうなんて考えてきた事はない。
ただ進んだ道が自衛官だっただけ。
そんな小森でも、神々とやらが遊び半分に人を殺したり豊かにしたりをゲームで決める感覚が許せなかった。
「人様舐めんじゃねぇぞクソ神が」
「その心意気や良し」
直後に小森は世界を覆ってしまう程の超巨大な蛇を幻視する。
その姿は無色透明であるが、日本ですら容易く噛み砕けそうな巨大な牙が空からゆっくりと落下し、小森が触れると同時に手には一振りの真っ白な刀が握られていた。
「ほう、飛び道具を好んでいるように見えたが、より攻撃的な形を選んだな」
周りの者からするならば、当然振り向けば日本刀を持っていた状態である。
小森はガクガクと震えながらに膝をつき頭の上に刀を奉じて礼を述べた。
「有難うございます蛇神様。この牙に見合う働きを必ずや」
「そう怯えんでもよい。神を喰らう獣は少々でかすぎるでな」
蛇竜が界門に消えると、それまで刀身を剥き出しに白い光を放っていた刀は、真っ白な磨き上げられた象牙の如く鞘に収められた形を持った武器として顕現した。
「よし、偽神界門を責める前に……」
「小森2尉、どこへ?」
「ちょっとミノさんと遊んでもらってくる」
神に挑まんとする無謀な男が野に放たれた瞬間である。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
0
-
-
841
-
-
24251
-
-
35
-
-
23252
-
-
124
-
-
221
-
-
337
-
-
314
コメント