うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
第42話
茄子狩りをしながらスキル検証をして行こう。
今回検証するのは、
四層 唐黍
【乾燥】【射出】【破裂】
八層 トマト
【冷却】【命中】【膨張】
十二層 南瓜
【真空】【発育】【吸収】
ワニさんが便利すぎて放置気味だったスキル群。
これらのスキルで何ができるのかを試しながらに茄子を狩る。
【乾燥】【冷却】は茄子に効果が無かったので一旦スルー。
てな訳で【射出】からだが、ばあちゃんが以前射出は役に立たない技能であると言っていたが、俺はかなり便利だと思ってる。
例えば右手でおもいっきりボールを投げる場合、助走をつけたり左足を踏み込んだり腰の回転と腕のしなり、手首の返しなど様々な動作を経て、全ての力を指先に集約させる必要があるが、
【射出】スキルの場合、対象目視で真っ直ぐ飛んで行く。
飛ばしたい方向に向けて射出すれば文字通りに射出される。
重力など関係なくの直線軌道が素晴らしい。
欠点など何も無いようにみえるが、挙げるとするなら【バランスが良すぎる】一点だ。
スキル範囲は広い。
目視できる範囲であれば直線軌道で狙撃出来るが、いかんせん『お行儀』が良すぎる。
100m程先の茄子の茎にナイフを射出してみよう。
勢いよく射出されたナイフは重力に左右されずに狙ったままの直線軌道で刺さる。
この速度、飛距離が出るのなら、近距離だと威力が増すに違いない。
試しにナイフを回収して目の前で撃ちます。
はい、ナイフは同じ深さにしか刺さりません。
つまり距離関係なく威力が一緒なのだ。
ある意味強力であるが使い道が限られ過ぎる。
てなわけで【射出】単品で他に何が出来るかの仮説を立てて可か不かの検証をするわけだが、次はどれぐらいの重量または大きさまで射出できるかを試す。
まず身近な茄子の蔦をぶった切ります。
温泉から引き抜くのを忘れて真っ赤に染まり上がってしまった。
また爆発すると怖いので放置。
次は温泉から出して蔦を切ります。
指先で軽く触れてみても熱さは感じないので、持ち上げて射出。
爆破、歓喜、大喝采。
茄子は大きさに反して軽い。
何キロかまではわからないが30kgも無いかもしれない。
位階上昇と共に筋力値も増加しているので細かい数字はわからないが、持ち上げて射出するのは苦にならない。
となると此処には他に大きくて投げられそうな物がないので、大きさ重量に関しては茄子を上限に記録して一旦終了としたいが、御誂え向きな重さの物が一つだけある。
「ふぅ……怖いけど」
自分を射出できるかどうか。
これができれば加速に続く第二の加速系スキルとしても使える。
少し怖いので、まずは靴で試すが射出対象は一つしか設定できないので右足を選ぶ。
何も起きない。
しかしスキル発動の感覚は残っているので、靴飛ばしの要領で軽く飛ばす。
安全靴は射出される。
まったく安全じゃない。
触れてから離すのが条件?
ならば自分自身を射出対象とできるか。
問題ない。
ごく普通に自分自身が射出対象になった。
そのままでは発動しそうにないのでジャンプしてみる。
「おほっ、おおおおお?!」
発動したのはいいけど、射出でぶっ飛んでる時は水の中で息を吸い込んだぐらいに苦しい。
スキル効果が切れると嘘のように正常な状態に戻る。
自分に使うのは良しとしても栗毛ちゃんには使えそうにない。
次は対象を靴にする。
勿論待機状態のままで発動しない。
ジャンプしてみる。
この場合は発動しない。
やっぱりなんらかの条件がありそうだ。
まぁいいや、次は射出と併用できそうな【命中】も試して行こう。
取得してから軽く使ってみた感想としては読んで字のままに【命中】するスキル。
使用すると自分にしか見えない透明なレーザーポインターが出現するのでロックオン設定。
後は石を投げようともナイフを投げようとも吸い込まれるように命中する。
射出と違うのは、設定後に自分で攻撃を行うアクションが必要な事。
射出と併用する事で、より確実に遠距離から狙えるのは勿論だが、やはり射出はスキルが上限としている威力となるので、自身の攻撃威力が反映される通常攻撃を活用するのがいいかもしれない。
で、あるからして今回は茄子の茎に近距離戦を仕掛けた際にどうなるのかをやってみる。
命中発動で茄子の茎に標的を設定。
ナイフを抜いて攻撃に移ろうとした直後——
「ファッ!?」
——突然待機中のまま放置していた射出が発動した。
まるでスケーティングをしているような感覚である。
射出の発動と共に、地面を滑るようにして茎に吸い寄せられ、体が最小限の動きで的にナイフを貫く。
【射出】の利用時に行う様々な動作設定がより明確になった感覚だ。
対象設定が【命中】により、より確実になったと言うべきか。
「悪くない」
片足だけしか適用できないが地面を滑るようにして移動する事ができるのがいい。
ガチガチに縛り付けるタイプのブーツとかだと更に使い勝手が良さそうだ。
暫く右足射出の疑似スケートを楽しんで感覚を体に叩き込んで行く。
【命中】【射出】茄子の蔦ぶった斬り、【命中】【射出】ぶった斬りを繰り返す。
これは日頃ちょっとした移動でも練習しておこう。
スキルが増えて来たからこそ死にスキルにせずに自然と使えるレベルまでは慣らしておきたい。
移動スキルとして応用ができるのはわかったが、攻撃スキルとしての能力を探って行こう。
前から目をつけてた【破裂】を使って、対象に【射出】して【破裂】させてみる方法を早速試す。
バックパックの中から割り箸を取り出し、先端をナイフで尖らせてから【破裂】を使用した状態で茄子に射出。
なんの問題もなく大爆発するが、茄子は元より爆発するので、効果はよくわからん。
ダメージを与えられたのは良しとして獣型で要検証。
併行して試したいのは【膨張】だ。
トマトは自身の皮を膨張させて風船のようにして飛び回っているが、あの状態を【膨張】とするなら自分に使うのは避けたい。
尖ったもので素早く突かれてしまえば皮が破れて中身が曝け出されてしまう。
グロ注意は免れない。
だからこそ、攻撃対象に【膨張】、【破裂】を使用すれば、それなりにダメージを与えられるんじゃないかと愚考する。
最低条件として、膨張が皮膜だけでなく指定対象の至る所においても使用できるとした場合のトラタヌだが、目から突き刺して脳を膨張させて破裂させるなんかも胸熱だ。
よくある目ん玉弱点説を地で行く攻撃手段である。
試しに茄子にかましてみよう。
残り一本の箸に【膨張】【破裂】を使用して射出。
当然のように爆発。
しかし破裂だけの時よりは激しく爆発したように見える。
「ふっ、ナイス爆裂ですね」
頭の中の高橋さんがサムズアップしてくれているので、爆裂に属する爆発に達していたと思う。
これも獣で要検証だな。
残すは【真空】【発育】【吸収】だが、【真空】から行こう。
【真空】は見えない魔力の、山っ子ダンジョン用語で言う所の異力の皮膜を与えて真空状態にする強力なスキルだが、【乾燥】【冷却】同様に対象に触れていなければならない欠点がある。
一応ワニさんでは試したけど、ガチガチのままに動けなくなって暫く放置すると死んだ。
直ぐに窒息死とかではなく、じっくり時間をかけて息絶えたのでワニさんが特別なのか、それとも脱気程度の能力しかないのか超真空なのかの判別も難しい。
茄子では更に判別が難しいので【真空】も保留。
ここに来て使わずのままであるのが【発育】と【吸収】だ。
よく服を買って店でそのまま着替えて『俺、おしゃれ』『俺、無敵』のテンション爆上げの見せびらかしたい症候群の状態を関西では【うれし】と言うのだが、揶揄や嘲笑を多分に含んだ言葉であるにも、敢えて俺は胸を張ってうれしである自覚がある。
週末に釣りに行くので平日の仕事帰りに釣り具を買いに行くと衝動が抑えられずにそのまま竿を垂らしに行く事などザラにある。
そんな俺が二つものスキルを使わずじまいに眠らせていた状況、これは雪が降ってもおかしくないぐらいの珍事としか言えないのだが、連日ジュンペー達と野菜狩りをしたり、綾子さんとデートをしたりと過密なスケジュールの中で、合間合間に軽く使用してみたりとしているうちに一週間も放置してしまったのだ。
いや、綾子さんは悪くない。
ジュンペーが全て悪い。
ただ、大体どのようなスキルであるかは把握している。
【発育】はカボチャの種が持つ急成長する能力に近いスキルで、ばあちゃんが家の裏の竹林を常に多い繁らせている能力である事は予測がついているし【吸収】は蔦がカボチャの残骸などを絡め取って成長する能力、鴨を捉えて瀕死においやるアレだと睨んでいる。
早速だが【吸収】を茄子に使ってみよう。
切り離した茄子に触れて吸収。
……なんか、ほわほわした気の流れ的なものを感じる。
あ、死んだ。
茄子の生命維持が途切れたのが理解できる。
「めちゃくちゃ瞬殺で収穫できたな」
これまでスキルを試しながらに茄子爆発の地獄を描いてきたのに、吸収で綺麗に瞬コロできました。
でも、まだ吸収できる感覚があるので続行します。
ほわほわを掃除機みたいに吸い上げて行くと、茄子がスルスルと小さくなって行って、最後はヘタすら残さずに消えて行った。
「え?」
よくわからん。
鰐狩りし過ぎたせいで位階上昇もピーキーなラインを攻めているので、普通に倒した場合と吸収した場合の違いがわからん。
わからんけど、魔物肉とか体の調子を多少良くする的な事を聞いた事もあるので、余す事なく吸収できるって事なのかな?
処理に困る獣で試してみるのもありだな。
猪とか鹿あたりで試してみよう。
結果をメモ帳に記して、これから本気で茄子改めナス兄さんを狩ります。
と言ってもワニさんガブリンチョで根っこから伐採して更地にしてから連鎖爆発させるだけの繰り返しですけどね。
もう動かない的には用事はない。
スキルゲットできたら吸収で茄子を収穫して再び実験に移る。
雉に茄子粉、蛇にナスシャーベット、羊にナスのフリーズドライを与えて繁殖期に入るかどうかを調べる。
繁殖せずとも狩りが楽になれば万々歳だし、蛇なんかは立派なニシキヘビがいたので綾子さんに見せたら喜んでくれそうな気もする。
それだけで頑張れるのだから、俺は本当に単純で馬鹿な男だと思う。
あ、差し当たり様式美として、これからの予定でしかないが、この言葉を持ってして修羅に入ろう。
「この後めちゃくちゃ茄子狩った」
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