うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
第38話
はてさて様子見がてらにカボチャ層に降りてきたんだが、どうしたものか少し困惑している。
通常であらば鰐層の次層であるならばそれなりに身構えるであろう。
ジュンペーに頼まれたので下見でもして戦い方を練ろうかと考えていたんだが……超ぬるいのだ。
わかるかい? 超絶ヌルゲーである。
まずカボチャはデカイ。
そして蔦に繋がれている。
人が近寄れば転がってきて轢き殺そうとしてくるが、蔦の長さに限界があるので活動範囲が決められている。
ジュンペー達でも狩れたのは、これだけでも十分理解できるが、俺の場合は鰐さんスキルでガブッとやって粉砕すると中から蔦が伸びて粉砕したカボチャから養分を吸って増えるので、無限増殖をさせながらに無限狩りをしていた。
流石にぬるすぎるので、モロコシ同様に、種全てを粉砕して1体換算だろうと、安全圏からガブガブやり続けてたら、普通に技能核来ちゃいました。
【真空】【発育】【吸収】
いいのだろうか……ダンジョン史上過去一楽勝なんだが。
いや、確かにばあちゃんが言っていた。
ダンジョン深層まで潜った経験を生かして、最短で強くなる方法は鰐さん狩りだと。
だからこそ過酷な二ヶ月を過ごした。
あの努力は確実に身になったと胸を張れる。
だが申し訳ない気持ちになってしまうのだ。
知らぬ間にドM気質になってしまったのか、シビアすぎるダンジョン生活を繰り返していたので、たった34時間でワンセットフルコンプとか本当に良いのだろうかと、ダンジョンの奥にいるであろう神様が居た堪れなくなるというか……。
これならトマトとモロコシも俺が回った方が早いような気がしてきた。
よくよく考えればトマトは風船を割って可食部分を抜けば倒せるのだから、カボチャまででは無いにしても早く済む気がする。
「神様ごめんなさい。楽してごめんなさい」
とりあえず空に向かってペコペコ祈ってから一先ず戻ろうかと栗毛ちゃんに跨ると、ユニークモンスターが登場した。
唐突すぎて何を言ってるのかわからないだろうけど、俺の目の前には黒装束の忍者的な格好をした般若の銀仮面が立っている。
慌てて栗毛ちゃんから飛び降りてケツを叩いて逃げるようにお願いしてから鉈を構える。
般若は首をコテンと傾げた後に、成る程と言わんばかりに頷いて、その背中から黒い曲刀を取り出した。
見た目的に日本刀か直刀あたりを持っていて欲しかったが、よりダンジョンで実用的な物を求めた結果だったのだろう。
クソッ、やはり楽勝すぎると思っていたが裏要素を隠してやがったか。
まず鴨さんの【加速】で切迫、般若さんも速度上昇系スキルで真正面から突っ込んで来るが、容易に鍔迫り合いなんてしてやらない。
【空歩】で飛び上がって【加速】で頭上を飛び越えて再び空歩で蹴り上がる、所謂スキルコンボを繋いで空に飛び上がり、安全圏から鰐さんガブガブを連発してやる。
視認操作ができるので手動追尾でガブガブ打ち込めるので使い勝手が非常に良い。
「ふははは! 逃げるで手一杯ではないか!」
般若さんは逃げるのに精一杯なので愉悦に浸っていたが——
「え、逃げられたらダメじゃん」
——かなりヤバい状況であると今更気付いてしまう。
カボチャスキルは手に入れたばかりなので検証もできていないので、下手に利用しても隙を作るだけになる。
なれば使用に慣れてきた鰐スキルで勝ち切るしか道は無いのだが、どれだけ緻密に攻めても全て紙一重で躱されてしまう。
接近戦で打ち合って隙を作ればやれん事もないかも知れんが、向こうが手の内を隠してる可能性も否めない。
つまりこの場合の最善手はこれしかない。
「逃げるが勝ちってなぁー!!」
空歩加速空歩加速と連発して上空まで飛び上がり、風を受けながらに落下速度を調整して指笛を鳴らすと、栗毛ちゃんが【疾風】を纏いて【襲脚】にて駆けつけてくれる。
栗毛ちゃんの姿が見えると同時に真下を向いて急降下する。
栗毛ちゃんの近くに来ると真横に空歩加速を打って勢いを殺してからもう一発空歩を踏み込んで背中にライドン。
「最高っ! 大好き栗毛ちゃん!」
「ぷるるん!」
楽勝で撤けただろうと振り向くが、やはりダンジョンは優しくない。
土煙を上げながらに腕をビュンビュン振りながらに親の仇でも追いかける勢いの般若さんが後方に見える。
鰐さんスキルが届かないギリギリの距離での鬼爆走である。
栗毛ちゃんの【疾風】と【襲脚】はどちらも加速系スキルであるのに、それでも尚食らいつく執念は素直に感服いたします。
でもな、俺だって今まで遊んで来た訳じゃない。
我々はもう一段階変身を残している。
そう、俺にも【加速】があるんだよ。
「行くぞ栗毛ちゃん、我ら人馬一体の疾風とならん!!」
「ぷひひひぃぃん!!」
俺たちは文字通りに風邪となった。
馬鹿め、何故俺が栗毛ちゃんと出会ったら何層であれバイクを捨てるかわかっていないようだな。
俺と栗毛ちゃんの間には綾子さんでも立ち入れない戦士の友情があるのだ。
楽勝でぶっちぎって鰐層に来たのでもう安心。
予想外のボスイベントであったが、これよりスキル蒐集に励み、ヤツを鉈の錆にしてやる。
今日の所は負けを認めよう。
しかし生かして帰らせた事は貴様の敗北であると知れ。
「はぁ、はぁ、オッケーです。もうやめましょう」
「うそでしょ?!」
バンブーハウスの水瓶から栗毛ちゃんと俺の水分補給をしていると、振り向いた先には肩で息をする般若さんがいた。
これには流石の俺もぷっつんである。
「いやおかしいだろ! フロアボスとかイベントモンスターなら、そのフロアから出るなよ!! ここ十一層だぞ! 帰れよ! 十二層に帰れ! 最低限のルール守れやクソが!」
「違う、違うんだ。ほら」
そう言って般若さんは仮面のベルトを緩めて頭巾ごと脱ぎ捨てると、藍色のゆるふわのミディアムヘアの神顔したイケメンが登場した。
「……どこぞの年寄ですか?」
「いやいや違うよ。私は久遠寺朱鷺夜。桜様に仮契約で繋ぎをしてもらって貴方の会社で深夜の事務員として働いてます。つまり雇用主と従業員の関係だね」
こいつ、ほんま。
「こ……」
「こ?」
「殺すぞワレ!! どないしてくれよんねん! なんやねんそれ!頭おかしいな! なぁっ!? おかしいよなぁ! 」
「これ宝具だからあぁ、やめて、服伸びちゃうから」
思わず胸ぐら掴んでギャンギャンに振り回してしまった。
いい歳して情けないと思うが、コレぐらいは許してほしい。
「マジで怖かったんだからなぁ!!」
「その割には割と本気で殺しに来てたけどね」
「なんだその優男キャラはぁ!!」
ブチギレたぜ、久しぶりに、地上に行こうぜ。
「最初に鉈抜いたの社長だよね?」
「よし、栗毛ちゃん、こいつ殺せ」
「ぷひっ」
栗毛ちゃんは優男の首根っこを咥えて鰐さん池にぶん投げた。
「友達になろうよー、社長さーん!」
「はひふへほーやろがい!!」
着水と同時にドパコーンと鰐さんが襲いかかっていたので「南無」と唱えて上層を目指したが、空がやけに暗いなと見上げると、其処には無数の鰐が浮かんでいた。
「えぇ……」
直後、空一面にボゴッとこもった音が鳴り響くと、全ての鰐が首を反転させて縊り殺された。
「社長さーん! これいるよね?」
「あー! いるなぁ! よし、これは社長命令だ! これから鰐三万体殺して解体するまで話しかけんな!」
「それできたら友達ってことでいいのかな?」
「あーそうやなぁ!! 俺が忘れる前にできたらの話やけどなぁ!!」
「りょかーい。じゃあまたね」
ぶっちゃけ俺は彼を遠ざけたかったんだと思う。
見た目もばあちゃん系の神化? 的な顔面であるし、明らかに格が違う存在であるのに、俺と交流を持とうとする姿に違和感と悍ましさを抱いたからだ。
蛇に睨まれた蛙将又鷹の前の雀。
いや、純粋に捕食者の目で見られている方が楽だ。
捕食者が腹を見せて懐いてきたら、獲物側も釈然としないだろう。
つまりそれ。
しかし悪夢の延長サービスに拒否権はないらしい。
「解体が大変だったけど仕事はこなしたよ。事務のバイトを何度断ろうと思ったか」
般若さんは俺の決死の二ヶ月を、事務員兼守衛さんの仕事の片手間に、僅か6日間の時を持って完了させた。
あぁ、神様、貴方はなんと残酷な方でしょうか。
どうしてこのような危険なチート野郎を私の所へ遣わすのでしょうか。
「じゃあ社長さん、友達になる約束はこれで満了って事でいいんだよね」
「頭狂ってんのか? 話しかけていいかどうかって話だろ」
「約束を忘れる前にできたら友達って言ってたけどね」
「あぁ、マジで忘れてたわ、残念だったな」
目の前で優男は眼鏡の位置を直しながらにニコニコしている。
アホなパンパンの女ならコロッと騙されるかもしれんが、俺の過酷な青春の経験が嫌と言うほどに警鐘を鳴らし続ける。
こいつは間違いなくサイコパスの類いだ。
「それなら仕方ないか。じゃあ、次は何をしたらいい?」
あかん、これエンドレスのやつや。
こうなったら無理難題を仕掛けるしかない。
「じゃあ、この界門の神層到達して山神様に一筆もらってこい。この子はよく頑張りました、友達として極めて優ですってな!」
「ははは、流石に無理だよ。十六層倍層だから仮契約じゃ三十二層までしか行けない。社長が本契約で働き手にしてくれたら、どれだけ時間をかけても成し遂げてみせるけどね」
……これは悪くない条件、むしろ好条件ではなかろうか?
ばあちゃんがやってる仮契約の繋ぎがあればダンジョンに普通に潜れるようになるのは知っていたが、限界が定められる等のルールは知らなかったが、俺が繋ぎを持てば一応の直系となるので制限は消えるだろ。
繋ぎを持てば般若さんは正式に平山の子となるので、俺に危害は加えられなくなる。
キチガイばりに強いので駒として最優秀であるし、邪魔になれば神層到達を命じておけばつきまとわれずとも済む。
完璧な作戦ではないか。
「よし、オッケー。うちの子になりなよ」
「社長……ありがとうございます……」
「え? なんで泣くの? キャラじゃないよね? 」
「いや、本当、感謝しかないよ……」
よくわからんが、いつ暴発するか不明の核弾頭を腹に抱える夢見の悪い毎日からの解放に胸躍らせ、俺は般若さんこと久遠寺朱鷺夜と符丁を交わした。
そういや、久遠寺ってなんか聞いたことあんな。
まぁ、いいか。
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