うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
第36話
「浜の少年達に説明する時も言ったじゃないの! 社長さんウンウンって頷いてたのに!」
30代半ばにして前髪に白メッシュを入れた赤い紅を引いたマダムに詰められてます。
「いや、本当すいませんでした」
どうやら金色さんはダンジョンの中で産まれた雛の中に一定確率で入る友好的な魔物らしい。
養鶏場も鶏がパンパンになってしまったので、卵をそのまま放置していたら次々と雛が孵ったとのこと。
金色に育つ個体は人懐っこく、鶏狩りを手伝ってくれたりもするので初心者組は重宝していたのだとかなんとか。
自分とこのダンジョンなのに人様のペットを殺してしまったぐらいに居た堪れない気持ちになってくる。
「ちゃんと食べて供養します」
「ご相伴に預かります」
「お前も食うんかい」
早速出現条件はわかってしまったが、他に隠し要素とかは無いのだろうか?
流石に金色一万羽狩るのは難しくとも、たまに産まれてちょっと強くて友好的なだけって地味……ではないな、いや、むしろ盛り沢山だ。
友好的ってだけでも全然違う。
お馬さん達を見て明らかだ。
お馬さんも金色のが何頭かいたけど鶏の金色さんも同じ感覚なのかな?
とりあえずは殺ってしまったものは仕方ないと、毛抜き用のドラム缶の中に金色さんを突っ込むと、毟る必要もなく羽はスルスルと抜け落ちて、ドラム缶の底に落下するとコチンと硬質な金属音を鳴らした。
「うそやん」
ここに来て、ようやっとファンタジーファンタジーした展開である。
金色さんの抜け落ちた羽毛は黄金となってドラム缶の底へ沈んだ。
ダンジョンに潜れる環境にある事に素直に喜ばなければならないのは理解しているが、何につけても要求がシビアでピーキーだったので、御都合主義やチートなんてモノは存在しないと自分に言い聞かせながらに、ただ血生臭い毎日を過ごしてきた。
荒川で名も知らぬ馬鹿野郎達とバット片手に潜っていた時から、ダンジョンは厳しく血生臭いモノだと割り切ってきた。
しかしどうだろうか。
継続は力なりとはよく言ったものだ。
こうして己の信念を曲げずにひた走っていれば、ひょんな幸運に巡りあう事もできるじゃないか。
「グラム3200円みたいよ」
「は?」
「世界中に界門が出現して金もそれなりに見つかってるから暴落してるのよ。それに金売買を行うと公安の監視対象になるみたいだしねぇ」
「じゃあ売れないじゃん」
「500gあるとしても150万円ぐらいだものね。リスクとリターンが見合わないわ。金ピカちゃんがいればそれ以上は稼いでくれるもの」
確かにマーちゃんと達也を抜きにして鳥皇とネット販売で平均1500円としても1000羽売れば150万円だ。
若マダムが言うように働き手の手伝いをしてせっせと鶏を狩ってくれる存在なのであれば、潰して金に変えるより放置した方が賢い選択だ。
「それに、そこまでお金には困っていないでしょう?」
「おっしゃる通りで」
鰐の原皮でも養殖場が稼働したら1枚5万円になるが、現時点の3万円たる額面にしても3万枚売れば9億になるし、ばあちゃんに宝物庫の使用料を支払っても6億は残る。
鶏も順調に発注が増えているから月の売り上げも3000万ぐらいはある。
みんな魔物肉の虜だ。
一度食えばやめられない止まらない、文字通りに魔力を秘めている。
ただでも国に監視されてる状況で、微々たる利益の為に疑惑を確証にする軽率な事はするべきでない。
「でも、気になってはいたのよ」
「何がです?」
「金ピカちゃんはどんな味がするんだろうって、ね」
大変素直で宜しゅうございます。
妙に色気のあるウィンクをされるとクラっと来てしまうが、綾子さんを思い出して堪える。
寝取り寝取られNTRタグの活躍はさせない。
「じゃあ早速食べてみましょう」
咳払いをしながらに場の空気を流して七輪で炭を起こす。
「あら、それぐらいやるわよ」
「じゃあお願いします」
若マダムに火加減を見てもらいながらにサクッと部位ごとにバラしていく。
見た目は普通の鶏と変わらない。
だが、妙に光沢があると言うか、ぶりんぶりんの弾力がある。
若鶏のように柔らかさもあり、それでいて肉の密度が凄まじい。
一枚のモモ肉に五枚ぐらいの肉を詰め込んだような迫力がある。
生の状態でヨダレが出そうだ。
塩はアルペンザル◯、安くて美味しい最強岩塩だ。
グルメなばあちゃんは様々な調味料を持っており、塩も各種取り揃えているので色々試したが、世の中必ずしも高いものが美味いとは限らない。
例えば最高級品の紅岩塩で鶏ガララーメンを作れば素材の旨味が引き立つが、豚骨ラーメンを作ればパーマ液のようなエグ味のある匂いが出たりする。
塩一つとっても、素材によって良し悪しが変わってくるのだ。
その点においてアルペンザル◯は鶏特化型の特殊能力を持っている。
塩が旨いんじゃなくて、鶏が美味しいとわからせてくれる塩なのである。
「ちょっと失礼」
七輪と網の間、両サイドにレンガを寝かせて高さを持たせる。
七輪にパチパチにいこった炭を詰め込んでそのまま焼いてしまえば、鶏の油が滴り落ちては炎上してしまう。
だからこそ強火の炭のまま、高さを持ってして遠火にしてじっくりと時間をかけて焼く。
その間に筋引きしたささみを鉄串に刺し、レンガによってできた七輪と網の間に通して片面ずつ白くなるまで焼いて氷水で冷ます。
「肝は刺身にしちゃいましょう」
「立派な白肝ね」
「食いすぎで脂肪肝になってたんですね」
肝は繋ぎの油部分を切り出してそのまま刺身に。
普通の赤肝であれば繋ぎの下っ面に変色した苦い部分を削がねばならないが、白肝であれば丸っといただける。
ありがたい。
小皿に胡麻油と塩を入れて、もう一つは溜まり醤油、おろしショウガと生わさびを添えて一品完成。
ササミの水気をとって適度な厚さでスライスをして、肝の横に添える。
こちらはササミのタタキである。
刺身にしても良かったが、ササミやムネの場合は肉肉しいのが苦手な人もいるだろうから敢えてタタキにした。
若マダムを考慮しての選択だ。
砂肝と心臓も一つしか無いので、そのまま刺身へ。
砂肝は割ってから中に餌が詰まっているので丁寧に洗いまくってヘタを全て切り落とすと、赤一色の切り身になる。
心臓は繋ぎの部分の油を落として三等分にするだけだ。
「じゃあとりあえず刺身で乾杯といきますか」
「一応仕事中よ? 」
「今日は金ピカちゃんに感謝して乾杯です。ささ、皆さんも」
事務員さん達と乾杯。
働き手さんが増えて、飲み物類のストックは多量にあるのでビールも勿論多分に漏れず。
肝刺の頭を突き抜ける旨さに震えが止まらなくなる。
次が欲しくて舌が暴走し始めるが、奥歯を噛み締めながらにグッと我慢してビールを流し込む。
「んはぁー! 幸せだぁ!!」
予想以上に美味すぎる。
普通の鶏でも世界最強ではないかと思うほどに絶品であったのに、更にその上を行ってしまっている。
肉にも期待しかできない状態でヨダレを飲み込みながらにモモと胸の一枚焼きを裏返す。
パリッパリの狐色で黄金の脂を滴らせている。
「では、私達も」
「はい。最高ですよ」
他4名の事務員さん達も割り箸を割ったので刺身はあっという間に売り切れてしまうが、命の恵みは分け合わねばならない。
一枚焼きができるまでに簡単なアテを一品。
醤油、酒、みりん、ザラメでタレを作り、とろ火で混ぜている間に、せせり、腹身、手羽元、手羽先を素揚げにしちゃう。
勿体無いけどやっちゃう。
180度の油でパリッと揚げたら、先程のタレをフライパンへ。
少量の胡麻油と一味唐辛子を入れて一気に加熱し、タレの縁取りが泡立ってボコボコいいだしたら素揚げにした素材をぶっ込みます。
一気に絡み合うようにフライパンを振ってまぜながらに照り照りになったら完成。
簡単甘辛焼きである。
金色ちゃんの素材であらばただ焼くだけでいいとわかるが、女性達に味濃いめの酒のアテを用意せねばならんと使命に駆られてしまった。
「おいしいですー!」
「ショックだったけどおいしい」
奥様方は其々に感嘆している。
さっきの気まずい空気が無くなって本当良かった。
さて、そろそろモモとムネが爆発しそうなぐらいにパンパンの焼き上がりを主張しているので、切り分けてしまいましょう。
「あぁ、これやばいわ」
塩だけだ。
塩で焼いただけなのに宇宙空間が見えた。
切り分けながらに一欠片盗み食いしただけで宇宙だ。
胸肉は丸焼きにしてしまえばパサパサになってしまうと思われがちだが、本物の胸肉はジューシーで旨味が深い。
鶏で一番美味い部位なのではないかと思わせるぐらいに様々な顔をもっている。
だからこそ俺は思った。
胸肉でこんなにもジューシーであれば、モモ肉は逆に脂っこくて食えたもんじゃないのでは?
少し心配ながらもモモ肉の一切れを口に入れた瞬間——
「ふぁっ」
——俺の小宇宙が爆発した。
腰が抜けた……美味すぎて腰が抜けてしまったのだ。
暫し放心。
「社長? どこ行くの?」
気がつけば俺は鉈を持ってダンジョンのにふらふらと歩を進めていた。
事務員さん達は何をしているのか気が付き、必死で食い止めようとしてくる。
「何を騒いでるんだい、喧しいね」
そこで箱を抱えたばあちゃんが何処からともなく登場。
本当、何処でもいるババアである。
「桜様桜様、金ピカちゃんがおいしくて! 社長が! 金ピカちゃんで! 金ピカちゃんをまた!またぁ」
「わかったから落ち着きな」
「わかるのぉ?!ってか、ばあちゃん最初の頃牛とか豚とかえっほらえっほら運んでたけど、最近ぴょんぴょん転移するじゃん? 手に入れたの最近なの?」
「いんや前から持ってたよ。ちょっと人に貸してただけさ」
「?! 貸せるの!?」
「宝具があればね。そんなことより金ピカの話だけどねぇ」
爆弾発言をサラッと流して、ばあちゃんは手に持つ箱を開けた。
「あらやだかわいい」
箱の中身は生育途中の金ピカの雛であった。
産毛ではなく、金色の羽毛が生え変わった個体である。
「これの育て方、わかったよ」
ばあちゃんはニヤリと笑った。
タイミング的にババアは元々知ってたとしか思えないけど、それを言うのは野暮であるから、素直に聞く。
「ばあちゃん、どうやんの?」
金ピカ鶏の育成、これを持って一切の鶏パートは皆に任せよう。
もう、クココココ言ってる奴なんか相手にしてられねぇ。
でも、量産できるとしたら売りたいな。
普通のダンジョン鶏でも自信はあったが、これは全く別物である。
鶏業界に革命を起こす絶対の自信がある。
1万円でも売れる自信あるけど、羽の黄金で目算100万から150万円相当なのに、一羽一万ってのも世知辛い話であるが量産できるなら問題ない。
年間10羽限定とかでセレブに売り込んだら馬鹿みたいな値段でもいけそうだが、そこまでのブランドを築くまでの投資を考えたら普通に売った方が儲かるのは間違いない。
「ついてきな」
そう言って桜はダンジョンに入り、すぐ左手に広がる放置により変わり果てた鳥の繁殖ゾーンに入るっては速攻で両手に鶏を持つ。
「これとこれの違いわかるかい?」
「いや、わかんね」
どちらもいつも通りの鶏である。
「よく見てもわからないかい?」
「……んん? うん、全くわからん」
「そうかい……じゃあばあちゃんがやるしかないね」
よく分からない事を言った後、ばあちゃんは鶏達を二手に分けた。
ちんぷんかんクッキングである。
「こっちはいつでも湧いてくる鶏が繁殖能力を持った個体、こっちは此処で新たに生まれた個体で、金ピカは繁殖個体同士の交配で産まれるんだよ」
「まじで? でもそれならもっと金ピカが増えそうだけど」
「そう。ばあちゃんも気になって色々調べてみたんだけどね、2代目からは雄鶏が圧倒的に少ないんだよ。女は取り合いの中で同世代はみんな1代目にやられちまうだろ? だから楽に交配できる1代目のお姉さん達に遊んで貰うのさ」
なんとも世知辛い。
風俗で人気嬢は予約がいっぱいであるからフリーの運任せで年増を抱かされるような感覚だろうか? 違うか。
「じゃあこれからは量産できると」
「問題はこれを絞められる人が限られてるってとこだけどね。【パリング】常時発動で反撃もしてくるし」
「じゃあみんなが強くなるの待たなきゃならないな」
「【パリング】も持っておかなきゃしんどいしね。それに閉じ込めてても逃げるからね」
「しばらくはラッキーモンスターもしくは非常食扱いかな。でもありがとばあちゃん。それがわかってるだけで動き方も変わってくる」
一つ疑問が解決すれば新しい問題に直面する。
販売は無理でも、たまに潰して食えるぐらいにはしておきたいし、最終的には金ピカさんでも余裕で売り払えるぐらいの団体にはなりたいものだ。
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