うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
第34話
ぬほぉー! 帰って来たぜ平山! 
何をどうやったのか知らんが自衛隊は綺麗さっぱり撤退している。
あれこれと考えた自分が情けなくなってくるぐらいにスカッと解決してる。
事務員さんから電話を貰って、人気の無い所でババアにサクッと迎えに来て貰ったが、活気があっていい。
通常営業なのだろう。ごく普通にみんな鶏捌いたりダンジョン潜ったりしてる。
地下に潜りっぱなしだった俺には見覚えのない光景であるが、ラノベなどでダンジョンのある土地は栄える説が良く持ち出されるのが納得の活気である。
「ばあちゃん、次は豚人間? オークでいっか、オークを狩ればいいんだよね?」
「それが手っ取り早いね、けど働き手も増えたし、このままじゃ一層が鶏で埋め尽くされちまうよ」
「モロコシは?」
「徐々には動いて貰ってるけど、なかなかねぇ」
となると牛と豚か。
ばあちゃんが身内での庭先取引でかなりの利益をあげてるから、あまり触りたくないのも本音だ。
元々は鶏の次は豚の予定であったが、鶏で大々的に設備を整えたので、下手に手を出すと再び多額の借金ががな。
豚も牛も施設を用意したり許可を取ったり仔牛を買いそろえたりと多額の先行投資が必要になる。
「ばあちゃんはいいの? またお金かかるよ」
「老い先短いんだ。あったって無駄なだけだね」
絶対長生きすると思う。
ばあちゃんの小遣い稼ぎのままにしておけばバレる要素もないから安心だが、ゴーサインが出たならやりたい気もする。
ただ、馬と鶏と鰐を育てて、更に豚も牛もとなるといよいよ動物園の様相だ。
平山は奥にだだっ広いので、土地は十分にあるけど、今必要なのは金儲けより狩り場の増加。
急速な人員増加の弊害で鶏だけでは人が余るようになってしまっている。
金儲けは勿論大事だが、牛肉なんぞは一撃商売であるから、どれだけ段取りを組んでも潰せる数が限られる。
となれば下準備だけしといて、次にやりたかったことを先に済ませる。
「いや、先に鶏の処理場を、ついでに屠畜場と解体場を作ろう」
「鶏の処理場? 別に今のままでいいんじゃないのかい?」
「一応許可は養鶏場の奥のなんちゃってミニ処理場で通ったからいいけど、自衛隊の件もあったし、保健所とかに見られたら一発アウト。元より作る予定だったから、それと併設して屠畜場と解体場を作る。ばあちゃんの獣医師資格を使うにも限界があるから専属の人も雇いたいし」
「いや、ばあちゃん先が短いったってまだまだ生きるよ」
「いや、ばあちゃんはもう完全に日本人に見えないし80歳越えてるとか無理あるから」
やりだせばキリがない。
金にモノを言わせて段取りを組んだので、突っ込まれたらどうしようもないことが多すぎるのだ。
「ほらタキ、これならどうだい。ばあちゃんだろ」
「お、お、おおお! 俺のばあちゃんだ!」
「ずっとあんたのばあちゃんだよ。変化の腕輪さ。これならいけるだろ」
突然ばあちゃんが俺の知ってるばあちゃんになった。
小ちゃくて細くて弱々しいばあちゃんだ。
「そ、それがいいよ!そのばあちゃんがかわいい!」
「これ使うと異力も全部使えなくなるからね。あまり使いたくないのさ」
容赦なく腕輪をポンッと外し、すぐにピン髪の女騎士さんに戻ってしまった。
自分のばあちゃんを普通に可愛いと思ってしまうダメな感覚が復活する。
くっ、殺せ。
「ではそんな感じの段取りで。借りたお金は頑張って返しますので、じゃ」
「いきなり素っ気なくするのやめな!って何処いくんだい!」
「何処ってダンジョンだけど?」
「先やる事やってからにしな! どうせ潜ったら出てこなくなるんだから」
身に覚えがありすぎる。
仕方ないのでアパートを作ってくれてる大工さんに用件を伝えて、後日ミーティングを取り付けて完了。
申請の類は事務員さんに調べて貰ってスケジュールを組んで貰った。
事務員の若奥様達、本当優秀。
もうできる事は何もない。
そんな事より冒険である。
折角ワニさんスキルをゲットしたのに寝かせておくなんて勿体無い。
綾子さんが置いていってくれたモトクロスのエンジンを掛けて出発。
本当に壁一面至る所に鶏が吊られてるが無視。
豚、牛、モロコシ、馬層と来る。
すっかり相棒となった栗毛ちゃんがいつもなら大喜びで駆けつけてくれるのだが、今日はいない。
「あ……え?」
よく考えると最後にばあちゃんに転移させられてから栗毛ちゃんがどうなったのか聞いてない。
馬好きのばあちゃんなら放置するような事はしないと思うが心配である。
「少し離れた所にいるのかもな」
最悪の想像はしない。
もしかして十一層にいるのではと、猪、鹿、トマト層を越えて鴨層。
そこには見覚えのないバンブーハウスと無数に鴨が吊るされた光景が広がっていました。
「あ、栗毛ちゃんいた」
エンジン音が聞こえると栗毛ちゃんが疾風の襲脚をみせながらに駆けつけてくる。
本当、めちゃくちゃ欲しいスキルだけど、お馬さん殺せない。
「栗毛ちゃんお待たせ!」
ここでバイクさんは置いていく。
おそらくバンブーハウスにはジュンペー達がいるだろうから、軽く挨拶でもと近寄ってみるが奴らの姿はない。
馬は普通にいるからみんないるとはおもうけど……で、直後に全員発見する。
「なにあれすごい」
四人は水上を走っていた。
そこまではいいとして(よくないけど)そのまま逃げる鴨を追いかけたままに一歩、二歩と空中を蹴り上げて鴨を捕まえている。
いみわからん、そのスキル欲しい。
鴨を両手に掴んだままマヒルちゃ……マヒルちゃんだよな? なんか先住民族みたいな女の子が水飛沫を上げながらに戻ってきては、バンブーハウスの隣に置かれた竹の檻に投げ込むと俺を見て目を丸くしている。
「しゃちょー!」
「やっぱそうだよね?」
ナショジオの裸サバイバル企画だろうか? バナナの葉っぱ的な物で胸を隠して、下だけはデニム地のショートパンツを履いているが、髪もボッサくれて顔も煤で汚れている。
「どしたんすか? ワニ終わったんすか?」
「ワニは終わったけど、どしたぁ。なぜそうなった」
「ふっ、一言では語り尽くせない色んな事があったんすよ」
「てか早くないか? みんな技能核とってるだろ」
「裏技を発見したんすよ」
そこで他のメンバー達も両手に鴨を生け捕りにしたままに戻ってくる。
「社長、元気そうで何よりです」
「安心していいよ。この階層はもう完璧だから」
「みんな元気そうで何より。えっと、ここアマゾンなん? なんでそんな格好してんの?」
全員野生児である。
理路整然とした説明が欲しい。
「服は山羊に食われました」
「あ、下降りたのね。あいつら超噛むよね」
「はい。危ないかと思ったんですけど、それでも試してみたい事があったんで、そのまま鰐層からカボチャ層まで行きました」
「あぶな。俺でも行ってないのに」
「はい。でも桜様が社長の馬を連れて来たのはいいけど、何度も下に戻ろうとするので、いない事をわからせようと思って、ついでに行ってきました」
栗毛ちゃんが頭をグリグリ押し付けてくる。
何処行ってたんだよぉとでも言わんばかりだ。
可愛い。放ったらかしにしてごめんよ。
「無事だったらなんでもいいけど、それで試したいことって?」
「四層ごとに野菜層があるじゃないですか? それでモロコシで鶏、豚、牛を無力化できているので、鴨もカボチャでどうにかしたら無力化できるんじゃないかって思ったんです」
確かに。
━━
一層 鶏
二層 豚
三層 牛
四層 唐黍
五層 馬
六層 猪
七層 鹿
八層 トマト
九層 鴨
十層 山羊
十一層 鰐
十二層 南瓜
十三層 雉
十四層 蛇
十五層 羊
十六層 茄子
━━
これがばあちゃんに聞いた1週目十六層までのラインナップであるが、配列は前からおかしいとは思ってた。
獣、獣、獣、野菜の配列になっていて、四層のモロコシを乾燥させて餌として与えると無力化できるのは確定としても馬・猪・鹿にトマト、鴨・山羊・鰐にカボチャはおかしいと思って放置してきた。
「そこでカボチャを試しに倒して、持って帰って色々試したんですけど」
そう言ってジュンペーはバンブーハウスに置いたバックパックの中から大きなカボチャの種を取り出した。
「見ててください」
ジュンペーは無造作に鴨の群れに種を投げると、着水前に鴨達は逃げずに種に群がり、我先にと突つき始める。
そして種が割れると同時に、蔦が急速に伸びて周囲一帯の鴨を絡めとってしまう。
「最初は怖かったんですけどね。この種一定以上育ったら成長止めて捕らえた獲物から栄養を吸収しようとするんですけど」
そのまま水の上を歩いて蔦を丸ごと回収すると、百羽ぐらいの鴨が瀕死でもがいている。
「どうぞ」
据え膳食わぬは男の恥。
差し出されたからには鉈の錆にしてくれると鴨さんをチョンパにする。
なるほど、これなら早い。
「カボチャ一つで千個ぐらい種が採れますし、鴨のリポップも大体決まってるんです」
1粒で100羽としても300粒なげるだけでフルコンプである。
ダンジョンハイになりそうな案件だ。
「それでスキルを覚えたんですけど、次は繁殖条件が気になって」
「あー、それな。俺も考えてはいた」
一層の鶏、五層の馬然り、何か一定条件を整えると繁殖期に入るのは俺も考えてた。
「それで鴨を生け捕りにしていたと」
「はい。余りに多量に狩ってしまったので、纏めて社長にレポートでも出そうかと思ってたんですけど」
「よしわかった。俺も手伝う。だからちょっと種分けてくれ」
この後めちゃくちゃ鴨さんやっつけた。
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