うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
第25話
日本政府がダンジョンの封鎖及び独占を開始してから約半年の刻が過ぎようとしている。
タキオは相変わらずに鰐狩りに勤しんでいる頃、政府より派遣された自衛隊員が彼らの目と鼻の先に集結していた。
事の発端は狐山ダンジョンの発見と没収であった。
余所者よりの一般参拝客が狐山神社にて、表裏一体合わせ鏡の本宮の違和感についてSNSで呟いたのがきったけだった。
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もふもぶ低浮上@mofumobjp
七五三以来に田舎の神社にお参りに来たんだけど、ずっと疑問に思ってた事を解明してみる。
#炎上覚悟 #ヤバめな実験
ちな中坊、燃やすな許せ
■動画■
コメ628 リツ6.8万 ハート12.4万
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激しくおバズり遊ばせたツブヤキであるが、内容としては本堂にマジックで落書きした後に裏本堂に行くと全く同じ落書きが鏡文字で書かれている動画を載せたバカなツブヤキ、通称馬鹿焼きである。
平時であらば炎上と共にフルボッコにされてアカウント停止、更には賠償まで追い込まれる案件であったが、炎上ではなくバズった理由が後日狐山神社が政府より封鎖されてしまった為に、国の横暴を知らしめる為のスケープゴートと仕立てあげられたのである。
無邪気な中学生の思い出の場が奪われただの、裏本堂が昔からあった証拠だの、信仰の自由が侵害されてるだの、怒りが全て国に向かったので、当人は比較的安全に火の手から逃れられたが、お陰で国を叩くまでのトピックに入るまでに一度もふもぶ君を叩いてからの踏み台とされ、数日間に渡り貰い事故を続けたのである。
それはさておき本題に戻ろう。
彼のツブヤイターがキッカケとなり、政府は即座に狐山を封鎖、警察官と自衛官を派遣し攻略を開始したが、狐山ダンジョンはこれまでのダンジョンの常識を覆す代物であり、政府関係者にも計り知れない衝撃を与えた。
何故ならダンジョンはただただ長閑な田園風景が広がっているだけであったからだ。
頭を垂れる一面を黄金色に染め上げる稲穂、間違いなく刈り入れ時であるにも関わらず、そこに住まう民は一人も存在しない。
家も無く電柱も無く、大きな道もない。
ただ果てなく続く田園と大豊作の稲穂のみ。
自衛隊員達は最大限に警戒しながらに調査を進めるが、稲穂が魔物であるわけでもなし、田畑になんらかの敵性生物がいるでもなし、ただ上質で美味い米が永久に収穫できるだけであると報告書を纏めた。
人海戦術で二層への入り口を探し、割と早い段階で不自然な赤鳥居を見つけたので通り抜けると其処は一面の大豆畑が広がっていた。
自衛隊員達は互いに見やって頷きあった。
何かを悟ったのだろう。
一層ずつ丁寧に時間をかけて調査をするようにと指示を出されていたが、自衛隊員達は念の為にと赤鳥居を見つけて三層へ向かった。
一層 米
二層 大豆
三層 大根
四層 人参
五層 胡瓜
六層 獅子唐
七層 ピーマン
八層 青ネギ
九層 白ネギ
十層 玉ねぎ
余りにも何もないので行軍訓練がてらにランニングをしつつ十層まで降りても尚、戦闘など起こる事もなくただ様々な畑の実りを眺めるだけに終わる。
各層其々の品を僅かながらに持ち帰り、パッチテストの後に問題ないと判断してから食す。
抜群のうまさであると報告書を提出するが、ただのグルメ番組的な内容となったのは言うまでもない。
十一層 アスパラ
十二層 じゃがいも
十三層 さつまいも
十四層 いちご
十五層 スイカ
十六層 メロン
十六層まで安全層が続き、自衛隊員達も完全に安心しきっていた。
「食料庫のような役割の迷宮なんでしょうか? 地元の奴らが隠れて売ったりしてそうですけどね」
「神主の聴き取りではダンジョンの存在は知っていたが神域として足を踏み入れてはいなかったの一点張りだ。この山の坂途中に住まう住民に米農家が多いが、金や品の動きに不審な点は無いようだ」
「勿体無い話ですね。大儲けできただろうに」
「こんな迷宮が存在している以上、国としては助かったと言うべきだがな。迷宮封鎖に舵を切っていなければ農家が全員自殺しかねん」
自衛隊員達は世間話をしながらに当たり前のように十六層を潜った。
すると其処は、何故か地上の表本堂であった。
「警戒しろ。状況が変わった」
銃を構えたままに本堂から出ると、地上同様にテントなどが建てられ活動拠点が築かれているが、活動しているのは警察官や自衛官の格好をしたホブゴブリンであった。
「ゴブリンの進化種だ! 耐久値が高いぞ。気を抜くな!」
「くそっ! あいつらもオモチャ持ってやがりますよ!」
「散開! 自衛官ゴブリンは手練れだ! 警官の方は弱いぞ!!」
白昼堂々に神社敷地内での銃撃戦。
探索班として様々な迷宮に送りこまれてきた自衛官は強く、敵性ホブゴブリンを殲滅する事に成功した。
「この層から本番という事でしょうか?」
「恐らくな。俺たちに似せた魔物を嗾けるとはタチが悪い」
「どうします? 一度戻りますか?」
「だが裏本堂にも表本堂にも出入り口がなくなっている。恐らくはまたもや赤鳥居を探さねばならんだろう」
「あるじゃないですか、目の前に大きいのが」
自衛官達は物は試しと狐山神社の赤鳥居を潜ると、再び世界が切り替わる感覚を覚えた。
「グギギギ、グギ?」
「グゲッ?! グゲゲゲ!?」
振り向いた先には警察官と自衛官の死体が其処彼処に転がる光景が広がり、空気感はダンジョンのそれから現実のものへと切り替わっていた。
何を喋ろうとしても、言葉を発することは出来ずに醜い鳴き声が漏れるだけ、自身の手がドス黒い緑色に変化していることに気が付き恐る恐ると仲間へと振り返ると、皆が皆ホブゴブリンの姿である事に気が付き銃を向けあう。
「はいお待ちください自衛官の皆様方」
混乱から銃撃戦に展開しようかとした直後、本堂から青白の式服に身を包んだ狐面の男が登場する。
現実には見慣れないプラチナブルーの長髪を風に揺らしながら石の階段を軽やかに降りると恭しく一礼を残す。
「この度はおめでとうございます。見事な無作法故に雑魚鬼へと転じてしまったのは残念でありましたが、見事魔入りましてございます」
『なにを、なんの話を、お前は』
「おや、ご存知ない? 我らが山神たる鏡狐様はお優しい方であるが故、山主に染められた一族であらば飢知らずの恵み、貪欲たる試練、神へ至る修羅への道を開いて下さりますが、なんと許しを得ずに忍び込む痴れ者にまで恵みはお与え下さる! さらに!!」
狐面の男は大興奮でバク宙をしては青い化け狐の姿となり、コロコロと笑いながらに続きを述べる。
「この狐山界門は古くより心写しの境界として存在して参りました。鏡狐様は醜さもまた人の美しさの一つであると、痴れ者を受け入れて下さるが、余りに強欲であると手に余る故、十六の逡巡を越え、礼を失する不届き者には魔に転じて心写しの姿として捨てられるのだ!」
一人、いや、一匹、また一匹とゴブリン達は放心状態で座り込んで行く。
「仏の顔は三度までらしいが、鏡狐様は十六層を越えねば永劫に受け入れて下さる。人が好きそうなものを散々に並べ、果ては御自身の大好物の苺に西瓜にメロンまで! 鏡狐様はありがたいお言葉を下さりました『メロンより上があると思ってる人なんていない』と!! なんと、なんとなんと愛くるしいお方でしょうか!! 人見知りのあのお方が私に本音を話してくれたのです!!」
青狐は少し壊れ始めたところで再びポンっとバク宙をして狐面の男の姿に戻ると一歩踏み出す。
「だがご安心なさい。醜き雑魚鬼よ。確かに魔の者となってしまいましたが悪い事ばかりでは御座いません。そこの雑魚鬼さん、ちょっとこの人間に触れてご覧なさい」
仲間の誰かが撃ち殺したであろう警察官の死体が投げられると、座り込んでいたホブゴブリンは悲しそうに死体の頬を撫でた。
「そして念じるのです。我が力になれ、俺の力になれと!」
直後に警察官は燐光となりホブゴブリンに吸収されてしまう。
残されたのは警察官が纏っていた衣服のみである。
「人が界門にて魔の者を倒せば力を得るのと同様、魔の者が人を倒せば力を得ます! 元が人であったから同族を手にかけたくない気持ちはわからなくもないですが、人はあなた達を全力で殺しに来ます。何をせずとも生理的嫌悪感で親の仇のように殺しにかかります。生憎ここには沢山の武器弾薬もありますし、御誂え向きな生贄も多量にある。力を得れば私のように人にもなれる」
そう言って男は狐面を半分だけズラすと、青と白が波紋のように広がる怪しげな瞳だけを見せて踵を返す。
「いつか本物の鬼となったあなた達と相見えること、楽しみにはしておきますよ」
ホブゴブリン達は当然であるように各々連携を取りながらに死体を吸収し、必要な武器弾薬の類を整え始めた。
きっと最後に見せられた狐の眼に魅せられてしまったのだろう。
さっさと準備を整えた後には、各々地形などを確認し、言葉が通じないながらに絵やジェスチャーで作戦を伝えあって行く。
定時連絡が無く、ヘリでの状況確認でも人影がない為、現地確認に派遣された隊員は胸と喉をライフルで撃ち抜かれて即死した。
偵察ヘリの死角になったタイミングでハンドサインと共に射殺し、死体を回収して吸収。
均等に食らえるように吸収した人数をそれぞれ正の字で手首に書き込みながらに次の獲物を狙って行く。
立て続けに隊員と連絡が取れなくなってしまえば不足の事態が起こっている事など容易に想像できるので、ホブゴブリン達は再度現確の為に低空飛行を開始したヘリに集中砲火を浴びせて墜落させる。
墜落を確認した後にはフェイスマスク、サングラス等で顔を隠しながらに車両へ乗り込んでの移動を開始する。
車両4台32名の大移動である。
無線での連絡がひっきりなしに届くが、一人の隊員がデバイスで返信を送り込む。
『武装集団に襲撃を受けた。戦線を離脱したが喉を撃たれて話せない。至急応援求む』
市街に抜ける道すがらの渓谷に大吊橋があるので橋の中央に囮として車を止めて各員は周辺の山間に散開。
各自車を狙える配置につくと、警察車両が横付けで内部の確認を始めるがグッと堪える。
もしやと橋の下を覗き込んだタイミングでヘッドショット。
そのまま橋の上に残ってしまうと狙撃がバレてしまうので、下に落ちてくれと皆が願う。
「ギッ」
脱力と共に前のめりに落下を始めた直後に足が挟まって宙ぶらりんの状態となると、舌打ちにも似た鳴き声を漏らした後に、足を撃ち千切ろうとアイサイトを覗き込むが、次の獲物となる警察車両が続々と訪れ、再び車両確認を始める。
じっくりゆっくりと泳がせる。
一人、また一人と車両から降りては軍用車とパトカーの確認を始めるタイミングでサインを送り合う。
誰がどの的を狙うのか。
全員の照準が合ったタイミングで四方八方から狙撃。
ほぼ同時に血の花を咲かせて崩れ落ちて行く。
アーミーゴブリンズの圧勝である。
不幸中の幸いは元より狐山ダンジョンを封鎖する為に県道を通行止めにしていたので、米盆地からも市街からも民間車両が通行していなかった事だろう。
お陰で国民には内緒で本気のドンパチができるのである。
警察官と自衛官に尊い犠牲が出てしまっているが、民間人を守りながらの戦闘であらば難易度は跳ね上がってしまう。
だが反面、軍人対軍人のシンプルな戦いであれば、どう落とすかのボードゲームでしかない。
国家の威信をかけて一人残さず殲滅してやると狐山に布陣を敷いたのだが、そこでさらなる衝撃の事実が発覚する。
「ダンジョンが消えている……だと!?」
狐山の代名詞たる、鏡合わせの裏本堂が、読んで字の如く姿を消してしまったのだ。
山間には謎の武装集団が潜伏しているはダンジョンは忽然と姿を消すはで現場は大混乱だが、なれば人員を増やせばいいと増員を決定。
対武装集団班とダンジョン捜索班とで別れたのは冒頭より一月程前の出来事、警察自衛隊の共同捜査の元、人や物の流れが活発になりつつある【平山】にあたりをつけ、近隣で最も大きな駐車場を有する雪見山麓の喫茶店にて結集していた。
「これより我々は平山地区にて山狩りを行い迷宮の有無を調査する。土着の宗教文化における禁足地に該当するらしく、地元警察の協力を得られなかったのは残念だが、抵抗する民間人等がいた場合には迷わず拘束して構わん。密に連携を取り合い迷宮を発見次第速やかに報告するように。では、任務開始だ」
彼らがあまりに無謀な決断をする様を見て、喫茶店の若女将は大きく溜息を吐き出していた。
「馬鹿な人達だわ、ほんと」
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