うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

第22話

 


 寝る間も惜しんで鶏を捌き続けたのはご察しの通り。

 月が明けても捌き続け半月が過ぎようかと言う今日この頃。

 凄まじい現象が起こった。

「あいもしもしー。そうっすよ、求人見たんすね? 【そっちの山はよくないのかー】おけっす。今日から来れるっすか? 無理っすよね。いつ面接来れます?」

「お電話ありがとうございます藤堂ファームです。はい、ええ【こっちの山はいいぞ】。はい、畏まりました。それではご都合の宜しいお日にちを教えて頂いても?」

 求人誌に掲載している固定電話とスマホが引っ切り無しに鳴り響く。

 ミナミとマヒルに電話番をしてもらってるのだが符丁の返しが続いているので、やはり地元パワーがゴリゴリなのだろう。

「あいすー、ほい、ほいほい、わかったっす。じゃあ書類選考するっすからファックスかPDFか郵送か、別にライナーとかメールでもいいんでパシャって履歴書送って欲しいっす」

 そして数少ない一般人の場合は書類選考で躱す。

 一般人はアパートが出来てから俺が厳選するので、不採用と言うわけではない。
 今は自宅から通える人員を探しているのである。

「熱いっすよしゃちょー。今日明日でも行ける人も多いっす!」

「よーし! 通いで来れる人は山者だろうが抜け者だろうがみんな採用しちゃおう!」

 待ちに待った人員増加だ。
 鶏地獄から抜け出せるなら幾らでも払ってやる。

 そして運命の瞬間。

 現場職のあんちゃんが乗ってそうな銀色の軽箱が道悪の中を車体を揺らしながらに到着する。

「はじめましてぇ! お電話させてもらった和山哲通わやまてつみちです!」
  
 マヒルの今日から来いの無茶振りに応えられたのは明らかに現場帰りの野郎でござった。

 タオルまいて顎髭生やした何処にでもいるシャクレである。

「ぬし様はだれですか? 桜様ですか?」

「ちがうっす。この人がしゃちょーっす」

「へへぇー! 」

「嘘でしょ!?」

 なんかいきなり家来ばりの平伏しだしたんですけど?! 何時代!?

「ワテクシ生まれ育ちは久遠山で御座いまして土地を得てからは米盆地に居を構えておりました。中学卒業と共にカミさんを孕ましてしまいまして家を追ん出された挙句泣く泣く抜け者となった次第でありまして、現在自営で塗装工を勤しんでおります。この度めでたく愛娘が中学に上がりまして手もかからなくなった頃合い、今さら久遠山には戻れはしやせんがしがらみも一切御座いやせん。ここはどうかどうか【平山のぬし様】に【家来にして頂きたい】」

 あ、なんか最後の言葉だけ力がある感じがしたぞ? 符丁を使った時の感覚だ。

「【よく聞こえなかった、もう一度】」

 そこで謎にばあちゃんがしゃしゃり出てくる。

「いいねぇ、あんた。若いのに久遠の符丁を使えるのかい」

「ありがとうございます! 浅学非才の身で御座いますが、抜け者風情でありながらにも寄合にて殿方姫君の皆々様よりご教授頂いたお言葉は一言一句忘れておりませぬ。忠義を尽くすならば家臣の句の他御座いません。何が不都合に御座いましょうか?」

 すげぇなワヤマさん。
 普通にばあちゃんと鼻がつくぐらいの距離で視線そらさずに反論してる。
 ばあちゃんの言葉で符丁の力ある感じが消えたから、多分キャンセル的なことをしたんだろう。

「アレの場合は前句が入るから【平山のぬし様】が有効になって私になっちまうんだよ。だからタキに対しての前句か、目を合わせた状態での発句にしな。それとも符丁遊びがしたかったのかい?」

「ははは! 平山の桜姫ともあろうお方が異な事を申される! 符丁遊びにて久遠の符丁など使うわけが御座りますまい。久遠の抜け者は家臣とならねば界門は通れませぬゆえ、本気で降るつもりに御座います」

「わかった。それなら構わないよ。タキ、この子の符丁には二つ【家臣として迎えよう】と【家来などいらぬ】の二つがあるけど【家臣として迎えよう】で返してやんな」

 完全に俺が置き去りのままであるので、一度順を正して一つずつ聞いていきたい。

「【家来などいらぬ】だとどうなるの? 」

「義兄弟の句になるけど、知ってる符丁の数だけ攻撃と守備と返しが出来て互いの分が決まる【貶し】と漢字の裏表で点数を稼ぐ【表裏】がある。どっちも鶴屋の一族がやる符丁遊びだけど、血縁以外は基本やっちゃいけない暗黙のルールがあるんだ」

 さすがミナミちゃん物知りである。
 教えてもらっても意味わかんないけど。

「別の誰かの家臣になればチャラになるから言葉遊びで分を決めて、ぬしに降って分を差で金を払うって遊びさ」

 ばあちゃんは正座をするワヤマさんを見下ろして愉しそうに嗤う。

「あんた、タキに降るんだったら分百万で遊んでみるかい?」

「謹んでお受けさせていただきます。では【平山のぬし様】、【家来にして頂きたい】」

 早速言葉遊びが始まった。
 うちのばあちゃんと余裕で喧嘩できるレベルの人とか普通に怖いんですけど……。

「【家来などいらぬ】」

「【なれば義兄弟はどうか】」

 おお、すごい。
 ワヤマさんが言葉を返すと5枚ずつ金貨を乗せた天秤が現れた。
 ここからスタートなのだろう。

「貫【目】が違う】」

「目【方】が壊れている」

「方【向】が違う」

「向【上】するかも知れぬ」

「上【向】きな馬鹿だねぇ」

 そこで金貨がばあちゃんのところに一枚増える。
 ちょっと意味がわかってきた。
 二文字目の漢字を頭に持って行って会話をしながらに、裏表どちらの意味もある言葉を引き出せたら勝ちって事かもしれない。

 でも、ばあちゃんの最初の言葉の貫目の裏は目貫で行けるよな?

「向【学】に励みます」

 そこでまたばあちゃんに金貨が増えた。
 やっぱりわからん。
 禁止ワードとか? なんで表裏取られてないのに金貨が動いたんだろ。

「学【僧】たるや勤勉に励めよ小【僧】」

 また増えた。これで8:2になった。
 一度の問答で重複させるのもありなのか?

「僧【伽】欄間はどうでもいい」

「伽【集】でも要らんぞ」

「集【塊】なる知恵の塊ぞ」

 ここで塊が二つ入ったのに金貨は動かない。

「塊【然】たる不要な知恵の塊よ」

 ばあちゃんの言葉でも動かない。
 文脈的におかしいからかな?
 ワヤマさんの言葉なら知恵者と言うべきだし集塊と塊で重複してる。

 ばあちゃんが爆笑するのを堪えてる。

 ワヤマさんのHPは2しか残ってない。

 あー、ガリッて、ガリって奥歯噛んでるよシャクレさん。
 更に顎がシャクレてきてるよ!

「然【計】り寒き夜もすがら」

 やっぱり意味ない事言ったら金貨は動くようである。
 シャクレの言葉で金貨が9:1になった。

「計【慮】配【慮】思【慮】貴【慮】遠【慮】賢【慮】足らずして万【慮】考【慮】せず愚【慮】苦【慮】【集】【慮】する様、無【様】であったぞ小【僧】」

 ルールがわからん。
 わからんけど、ばあちゃんが言葉を重ねるたびに既に10:0で勝ってる状態で金貨がチャリンチャリーンと降り注いで21枚の金貨が積み重なった状態で符丁遊びは終了である。

「年寄りと遊ぶにはまだ早いね」

 ワヤマさんは白目を剥きながらに膝下から崩れ落ちてしまった。

「2300万貸しになったからね、好きにこき使ってやりな。家臣にしてやるのも借金返してからでいいよ」

「恐ろしい人っ」

 俺の手のひらに勝ち取った金貨を纏めて落とすと、手のひらに乗った側から何処かへ消えてしまう。

「本来は、コレを帳消しにする為に家臣になるんだけどね、符丁遊びに乗るような癖の悪い子は其の儘こき使ってやるのが一番さ」

 一つだけわかるのは今日から働いてくれる人にギャンブル吹っかけて多額の借金を背負わせたことだけである。

「お、おーい。ワヤマさーん、シャクレさーん」

 ビンタをしまくると慌てて飛び起き、その場から逃げようとするが首根っこを掴んで捕獲。

「む、無理で御座いやす! 2300万なんて金は逆立ちしても出てきやせん!」

「大丈夫だよシャクレさん。うちは稼げるから。それに無理のない返済プランを提案するからさ」

「ほ、ほんとぉ?」

「うん、ほんとほんと。とりあえず鶏の倒し方から教えてあげるよ」

 奴隷ゲットである。


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