うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
第20話
折り込んだり雑に扱って傷をつけたくないとの理由で、綾子さんは後日に2tダンプを自分で運転して登場した。
俺は鰐狩りを続行していたので見れていないが2tダンプからモトクロスに跨って、そのまま荷台からピョーンと飛んだらしい。
綾子さんはそのままモトクロスに乗ったままダンジョンに突入したのだろう。
何故なら俺の目の前でモトクロバイクのエンジン音をブロンブロンと響かせているからである。
謎に前回乗った赤毛の馬も引き連れており、馬は俺に乗れとヤキモチを焼いているが、綾子さんはバイクを自分の手足のように扱って赤毛と追いかけっこをして遊んでいる。
一応湿地帯だから水溜りに落ちたりしないか心配である。
「お疲れ様ですタキオさん。皮の回収しますね」
「見た目清楚なのに結構ファンキーなのね」
「あはは! ファンキーじゃないとワニにツルハシ振れませんよっ」
それもそうだな。
でもバイク乗ってる女の子もいいな。
綾子さん26歳だから女の子って言いかたはおかしいかもしれないけど、女の子って言いたくなるぐらい無邪気だ。
「鰐皮は赤毛ちゃんの背中に掛けて運びたいんですけど、上まで連れて行って大丈夫ですかね?」
「全然いいよ。バイトちゃん達に渡してくれたら厩舎で面倒見てくれると思う」
「じゃあ次からは赤毛ちゃんと降りてきますんで、バイクは好きに使って下さい。私は他にも何台か持ってるんで」
「ありがたい……でも階段登れるかな……」
「思いっきりが大事ですよ。ブレーキとかせずにそのままアクセルを開けて行く感じです」
時間ができたら練習しておこう。
「すごい数ですね……とてもはこびきれない……」
日毎300は狩るけど、皮剥ぎばかりしてられないので鰐のままの姿で山積みになっている。
それでも剥ぎ終わった皮だけで200近くあるのだ。
安くして貰っているから協力すると言って態々取りに来てくれているわけだが、ばあちゃんに手数料を払って運んで貰って上で受け渡しする形にした方が手っ取り早い気もする。
「やっぱりばあちゃんに頼む? その方が楽だと思うよ」
「いえ手伝います。それぐらいしないと雑に扱ってしまいそうで怖いんです」
その苦労が付加価値となって高額商品として売られるなら楽に取引して安くて良いものを流通させてガンガン買い取って欲しいが、これを言うのは野暮がすぎるだろう。
俺としては余裕がでてきたから小遣い稼ぎを目論んだだけなので既に目的は達成している。
「でも綾子さんって、この鰐売るために他所から鰐買ったりしてるんでしょ?」
「そうですね。一応タイに強いルートがあるんでタキオさんからの枚数に応じて買ってますね」
「それじゃあ勿体無いから、ウチで鰐の養殖施設でも作ろうか? 」
「えっと……プロポーズですか?」
「ブフォ、ゴッホッ、ちょ」
お茶吹き出してしまった。
綾子さんはしてやったりとニヤニヤしている。
さすが美人である。
男を自在に操りおる。
「でも鰐の養殖は採算が合いませんよ。ここらは寒すぎるんで温室の設備は勿論、卵を生めるようになるまで7、8年必要ですし、結局海外から何百頭か買い付けて3年から4年育ててから売る形で初期投資がかかりすぎます。軌道に乗ればそれこそ毎年ウン千万の利益が出るとは思いますけど多分最初に5千万ぐらいはかかります」
「うん、真面目にやる場合はって話はそうなるよね。でもこっちは形だけ整えておけば、ただのペット扱いで殺す必要もない、鰐の養殖業者から鰐皮を十五万で買いましたって事にしておけば、1頭分の形状で5枚取引できるでしょ?」
「偽装で買わなくてよくなるなら五万円だせるので3枚分ぐらいですね」
「え、海外から二万円で買えるの?! 安くない??」
「小さくて程度の低い鰐か何かもわからないD革100枚単位で買った場合……ですけどね。殆ど輸送費と税金です。鞣し屋なのに出来合いの革を買うのは辛いですよ……」
ガックシと首を項垂れる綾子さんが不覚にも可愛いと思ってしまった。
「じゃあ養殖場作るから一匹五万円で取引しましょう」
「いいんですか……私ばかり儲けてしまいますよ? 」
「大いに儲けて下さい。将来的には俺が一番儲けますから」
初期投資5千万にしても千頭売ればペイできるし、年間100頭としても10年先からは満額の利益になる。
製品として売るのか素材として売るのかは知らないが、現時点で200枚だろうが平気で買おうとしているので初期費用はもっと早く回収できると思う。
できるのかな?
できると信じよう。
「私の腕の見せ所ですね! 直ぐに儲けさせてみせます! 倒産したらごめんなさい」
「その時は宝具ください」
「あははは! お爺ちゃんに怒られない為にも頑張りますっ!」
ビシッと敬礼を頂いたので、此方も敬礼を返すと仲良く解体を楽しみました。
途中何度かドボゴーンと罠に掛かってワニさんがもがいていましたけど勿論無視です。
「じゃあ、今日の所はこれで」
「りょです。養殖施設の件、月明けぐらいから動くんで、都度進捗は伝えます」
「わかりました! あまり無茶はしないでくださいね。タキオさんなら大丈夫だってわかってますけど」
「罠狩りですからね。大丈夫です」
赤毛ちゃんを連れてバイクで帰って行ってしまった。
寂しい。
ずっと付け入る隙を与えられている気がするんだが、アプローチをしても良いのだろうか?
鈍感系主人公ではないので、彼女が多少は俺を好意的に捉えてくれているのはわかるのだが、やはり東京に飛び出してまでして燻ったまま何も出来なかった自分が綾子さんのような美人さんと恋仲になるなど烏滸がましい気もする。
若い時はもっと積極的に当たって砕けろの精神を持っていたのに、知らぬ間に守りに入ってしまっているのだと痛感する。
「あんた、惚れてるね?」
「いつからそこに!?」
感傷に浸りながらに鰐絞めをしていると我が愛しき祖母が木の上に座りながらに見下ろしていた。
ばあちゃんって少なくとも3人はいるんじゃないかってぐらいフットワークがいいんだよな。
いつもいつの間にか其処にいる。
「話は聞かせて貰ったよ。それもあんたの借金って事でばあちゃんが出してやるから、一回帰ってきな。鰐が大切なのもわかるけど、そろそろあの子達ぶっ倒れるよ」
「まじかぁ……じゃあ皮剥ぎ終わらせるから上まで運んでくれる?」
「1枚一万だね」
「ははーっ! ありがてぇありがてぇ」
五千万出してくれるんだから安いもんである。
養鶏場の返済もマーちゃんの鶏の解体の分から差し引いてくれてるし、馬に至ってはばあちゃんの無茶ぶりなので俺の財布は痛んでない。
「鰐の返済プランはどうしよっか」
「タキだっていつまで経っても鰐狩りしてるわけじゃないだろう? あの子達にもやらせるなら1枚一万円で全部引き受けてあげるよ。それが返済プランさ」
「おおおお、神様やぁ、神様がおられるぞぉ」
「あはは! あんなもんと一緒にしないで欲しいねぇ」
……それはつまり神様にお知り合いがいると受けとってよろしいので?
いかんいかん、ばあちゃんに関してはツッコミだしたらキリがない。
これで行く末は寝てても一枚四万円が確定した。
ボロいもんやでしかし、ダンジョン様には足向けて眠れまへんわ。
「でも、何もかも地上に戻るのが先だからね」
「わかってるよ。戻るよ、戻りますよ」
すまんな鰐達、お前達まだ死ねないってさ。
コメント
いぷしろん
なんで伸びないんだ