うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

第19話

 


 色々と街のお話を聞きながらのダンジョンお散歩であるが、マーちゃんが特殊であると聞いたので弱味でも握れるかと興味津々に聞いたが、内容は予想外のものであった。

 まずマーちゃんの親父、俺のオトンの兄貴であるから叔父にあたる人物なのだが、彼は元より建築業に従事しており、実家を出た後に嫁の一族が住まう双子山に土地を買って家を建てた。

 そして15年前にダンジョンが乱立した際に、なんの因果か叔父の庭にダンジョンが登場。

 ククリ山の鶴屋翁の支援を受けて街で鮮魚店と海鮮炉端焼きの店を開いて貰い、嫁の一族を働きに出しながらに自分は漁師の真似事をして中坊のマーちゃんとダンジョンに潜りまくった。

 嫁の縁戚は鮮魚店と炉端焼き店を買い上げる事に成功し一定の収入を得ることとなった。

 そして成人を迎えたマーちゃんは、人伝にばあちゃんが鶏を狩って鶴屋に卸している事を知ると激昂する。

 うちのか弱いばあちゃんになにさらしてくれとんねん。

 ブチギレである。

 恐らくは俺も昔のばあちゃんのイメージであればブチギレてただろう。
 腰の曲がった小さくて細っこいか弱いばあちゃんであったのだ。

 若気の至りでブチギレたマーちゃんはばあちゃんに鶏の供給を辞めさせるように説得。

 俺がばあちゃんを助けてやると、自分で鶏を狩って街でテキ屋まがいの商売を始める。

「人から聞いた話ですけど、当時お爺ちゃんは大興奮だったみたいですよ。あいつこそ山者だ、本物の男だーって」

 鶴屋翁を怒らせるわけには行かないので、双子山の連中は鳥の精肉店と焼鳥店4店舗を買い取り、精肉店は続けながらにも焼鳥店は炉端焼きに改装。

 マーちゃんは仕入れの偽装やら出店許可やらの書類面で陰ながらに助けられている事を知らずに、己の身一つで街一番の焼鳥店オーナーまで登りつめたらしい。

「面白かったけど聞いて損した。マーちゃんのカッコいい話なんて聞きたくない」

「あはは! これは立身出世もので寄合じゃ高い確率で聞かされますよ? 途中の修行話は省かれますけどね 」

「でも俺が来た時は数量限定って感じの店だったけどな」

「丸鶏はって感じだったと思います。後は魚とか豚とか牛とか」

「もう何屋かわからん」

 今度一回マーちゃんの店行ってみようかな……勿論鰐狩りを終えてからの話になるけど。

「てか綾子さん、馬乗れます?」

「乗った事はありますけど、乗れるとは言えないです」

「あ、乗った事あったら大丈夫です」

 さて、ここからはお馬さんタイムである。

 後ろから「あひゃー」とか「ぬおー」とか聞こえるが俺も通った道なので我慢していただこう。

 猪、鹿、トマト、鴨、山羊とひたすら走り続け、やっとこさ鰐層である。

「帰ったらマッサージした方がいいですよ。絶対筋肉痛なりますから」

「そうですね。今でも力が抜けちゃいます」

「なんか、すいません。無理させちゃって」

「いえいえ! 来たいと言ったのは私なんで。どうか気にせず!」

 てなわけで早速鰐を見せようと思ったが、知らぬ間にばあちゃんが回収しているようなので罠を確認。

「よしよしよし」

 午前中に仕掛けた罠に瀕死の鰐さん達が掛かっているので、面倒臭がらずに頭と首の間にナイフをグリグリ抉じ入れてトドメを刺す。

 これは20日間過ごして編み出した絞め方である。

 ツルハシを頭に突き刺したら即死するので、ばあちゃんみたいに腹を掻っ捌いて喉を切り開かなくとも楽に殺せるのを発見したのだ。

「すごい……大きいですね。わかってましたけど、想像とは全然」

 下ネタじゃないですよね?

「よっしゃ大成功だぜぇ」

「え? ええ?」

 新たな試みとは、これまでは一本のワイヤーとフックで釣っていた仕組みを、連結して一度に三体掛けられるようにやってみよう作戦である。

 まず最初に長めのワイヤーを木に巻きつけて、山羊の背中にガッツリ引っ掛けて力任せに水面に投げる。

「少しかわいそうな気もしますね」

「そこは魔物だと割り切るしかありません」

 お次は少し短めのワイヤーで輪っかを作って、一本目のワイヤーに通して山羊さんを軽めにポーイと、それをもう一発続けると完成。

 一度に三体ないし二体は釣れるのでは試みたが成功であった。

 これで時間短縮にもなる。

 仕掛け終わった直後から十層に戻って山羊を狩っておけば更に効率も上がる。

 至れり尽くせりである。

「じゃあ解体しますね」

「はい。やってみたいんですけど、難しいですかね?」

「いや、割と簡単ですよ」

「じゃあ、お腹が綺麗な子は背割りで傷があれば腹割りでお願いします」

 何それ知らない。
 知らないけど背中から割ればいいなら手順を変えるだけだ。

 綾子さんは遅いけど凄まじく丁寧な仕事で、俺は慣れているのでサクサクとバラして行く。

 38体の解体を終えて罠を新たに仕掛けようと思ったが、残念な事に空が紫色に染まり上がってしまっている。

 早すぎるタイムリミットだ。

「これ、急いで戻らなきゃマズイかもですね」

「じゃあ急いで次の罠を仕掛けなきゃですね!」

 俺よりやる気に満ち溢れてらっしゃる。

 戻るにしろやはり山羊も仕掛けも勿体無いので罠を仕掛け直した。

「やっぱこうなるよなぁ」

 既に夜になってしまっている件。

 失敗した。

 終電を遅らせる確信犯のような愚行を犯してしまった。

 行って帰ってくるぐらい楽勝だと思っていたが、やはり五層までの歩きが効いている。

「暗くなっちゃいましたね……急いで帰りましょう」

「いえ、折角来たので良かったら……あ、でも朝までいると桜様に怪しまれちゃいますかね? それに戻らなきゃならないって言ってましたし」

「あ、大丈夫よ。あれ毎日言ってる事だから」

 どうやら綾子さんはダンジョンで一夜明かすつもりらしい。
 今回はばあちゃんがガチトーンだったので少し後ろ髪引かれる想いもあるが、流石にこの歳でババコン拗らせてるとか思われたくないので笑顔で了承。

 いくら怒られようとも甘んじて受ける覚悟は出来ている。

「ってなると、夜狩りの仕掛けをしてもいいですか?」

「はいっ! 手伝ってもいいですか?」

「気合い入ってますね。怖くないんですか?」

「それよりも界門に入れた興奮が勝っちゃってます」

「はは、あまり酔いすぎないでくださいね」

 それから皮を剥いだ鰐の肉を使って夜狩りの準備である。
 ワイヤーとフックを買い足したので使い回しできるのが嬉しい。

 罠を仕掛け終われば、ばあちゃん謹製の竹ハウスで罠に掛かるのを待つだけである。

「陸地に上がって来るとど迫力ですね」

「最初なんか怖くて震えてましたよ」

 罠に掛かれば例によって背後から忍びよってツルハシアタック。
 グリグリとこねながらに絶命させると解体開始である。

「次、私がやっつけてみてもいいですか?」

「いいですけど気をつけて下さいね」

「はい! でも……大丈夫だと思います」

 謎の自身に溢れた綾子さんはツルハシを持ちながらに姿を消した。

 全くもって意味がわからない。

 スキル? スキルなのかな? 
 でもダンジョン初めてって言ってたし……。

「え?」

「え?」

 サクッと鰐を倒した綾子さんに驚いていると、綾子さんも驚いている。

「いや、綾子さんがいきなり消えたから」

「あ……多分これですね」

 そう言って綾子さんは胸元から黒い宝石が嵌め込まれたブローチを取り出す。

「おじいちゃんが界門で拾った宝具をプレゼントしてくれたんですけど、どんな効果かは教えてくれなかったんです」

「すごいな……それ」

「今度持ってきてみましょうか? 普段使いできない見た目のものが多くて家に置きっぱなしなんです」

「え、うん。是非とも見せて欲しい」

 なんて言いながらキャッキャウフフと鰐を交互に殺しては解体してを繰り返した。

 大きな月に照らされ、視界も闇夜に慣れてはっきりと周囲の輪郭が浮かび上がる深夜。

 腕を組みながらに仁王立ちする女騎士さんが降臨した。

「タキ! ばあちゃんに帰ってくるって言わなかったかい!?」

「えぇぇぇ…………」

「嫁入り前の娘御さんに何かあったらどうするんだい! 」

「なら良しって言ってたじゃん」

「そう言う意味じゃないよ! ったく仕方ないねぇ。間違いがないようにばあちゃんも一緒にいてあげるからね」

「中学生やないぞ!」

 鰐を殺し続ける殺伐とした内容であるが、綾子さんと二人だけの楽しいひと時は終わってしまった。


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