うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

第15話

 

 悶々としながらにも疲れから爆睡後、深夜3時にケツを蹴り上げられて起床。

「ケツ! ファー! 痛ファー!!」

「うるさいよ。早く起きな」

 ババアの朝は早い。
 いや、老人の朝は早いと言うべきか。

 時間が無さそうなのでマウスウォッシングで我慢して、ツナギを着てから家を飛び出すと、ばあちゃんは既にダンジョンの入り口でイライラしながら待っている。

「すまそすまそ」

「シャキッとしな。軽く走るからついといで」

 寝ぼけながらではあるが、ばあちゃんとダンジョンアタックを開始した。

 ばあちゃんは軽くスキップするような軽快さを見せながらにクソ速い。

「やっぱ転移は早く返して貰わなきゃだねぇ」

「なんか言ったー?」

「なんでもないよ。早く来な」

 俺はほぼほぼ全速力で走りながらに背中を追い続け、息を切らしながら四層に到達するとジュンペーとマヒルがモロコシガリヤの修羅となっている姿が見れた。

 軽く手を振ってから更に全力疾走。

 寝起きの運動としてはハード過ぎます。

 五層でお馬さんの楽園に到着。
 ばあちゃんはみんなに懐かれてるようで、一番大きい子に鞍を取り付け始める。

 俺には栗毛のお馬さんが懐いてくれた。
 頭をグリグリ擦り付けてくるのがカワイイ。

「その子が乗せてくれるってさ。ほら、鞍をつけな」

 やったことなどないが、先程のばあちゃんの作業を見ていたので、見様見真似のなんとなくでやってみる。

 焦れったくなったのか、結局はばあちゃんが全部やってくれた。

「行くよ」

「いや、わし馬乗れん」

「乗ってたら乗れるようになるんだよ」

 暴論である。
 正論はつまらないが暴論は恐ろしい。
 つまりばあちゃんは恐ろしい。

 ええいままよと飛び乗ると、何の指示も出していないのに栗毛ちゃんはばあちゃんを追いかけはじめた。

 楽チンである。

 六層に入ると岳陵地帯となり、岩山や急な傾斜なども増えてくる。
 ばあちゃんは比較的整えられた道を使いながらに猪達をスルーして七層へ。

 七層は森だ。

 木々が生い茂る童話の舞台にでもなっていそうな森。

 鹿の姿がチラホラ見えるので、七層は鹿エリアなのだろう。

 一層から意地でも降りなかった俺が公的には人類最高震度である七層に足を踏み込んでるだけで恐ろしいが、ばあちゃんは更に先へと進んで行く。

 そして八層。

 この感覚は四層の感じと似てる。

 自分が小人になったかのように錯覚する野菜エリア。
 この層はトマトのようである。

「トマトもいいんだけどね、今日は別のを準備してるから、まだ先に進むよ」

 トマト狩ってみたかったなぁ。
 運動会の大玉みたいなトマトがポヨンポヨン跳ねて襲いかかってくるけど、ばあちゃんは普通に手のひらで受けて投げ返してる。

「トマト? だよね? 風船じゃないよね?」

「そう見えるだろ? 結構甘くて美味しいんだけどね」

 トマト達は何故かババアを襲う。
 俺の所に来た個体も、何故か寸前でババアにターゲットを変えるのだ。

「あれ、なんで?!」

「刃物が怖いのさ。だからばあちゃんのとこに来るんだよ、ほれ」

 それまでは風船遊びをしていたばあちゃんは、いきなりトマトの体にズボっと手刀を刺し込み、破裂音と共に中からスイカ大のトマトを取り出して投げてきた。

「食べてごらん。朝ごはんだよ」

 かっこよすぎるだろババア。
 めちゃくちゃ美味いじゃねぇか。

「中指でいいから一本だけ爪を尖らせておいたら楽だね。外身は割れてなくなっちまうからさ」

 適当に収穫しながらに進み九層。

 長閑な湖に無数の鴨が群生している。

 襲ってくる気配は微塵もない。

 いいのだろうか? 普通、ダンジョンってもっと殺伐としているような気がする。

 どの層も普通に広大な飼育場なだけの気がしてきた。

「鴨は臆病だからね、狩るのはかなり大変だよ」

「うん、平和で何よりだよ」

 勿論何事もなく十層へ。

 ファンタジー定番のフロアボスなどと戦うイベントなどなく、普通に十層に辿り着いてしまった。

 十層は山岳と平原の複合ステージで魔物はなんと山羊さんである。

 いや、もう魔物が何かすらわからんくなってくる。

「さて、ちょっとかわいそうだけどね、仕込みに使うから山羊狩るよ」

「え、殺しちゃうの? かわいいのに」

「別に馬でもいいんだよ」

「よし、やったろう。やったろうぜばあちゃん!」

 ここまで俺を連れてきてくれた相棒を殺すなんてとんでもない。

 馬さんをやっつけるぐらいなら、見た目は愛らしいが山羊さんに犠牲になっていただく他ない。

「ブェー」

「おつ」

 合掌してから鉈で一閃、念の為に貫通も使用していたが勿論弾かれる。

 これが貫通無効か……聞いてはいたけど体験すると全然違う。

「ボケッとしてると噛まれるよ」

「え?」

 振り向くと首から血を流しながらにも山羊が噛みつこうとしていた。

 反応が遅れた直後には金属が弧を描いて山羊の頭を斬りとばす。

「貫通無効持ちに貫通使ったら刃が止まるからね。普通に腕力で叩っ斬ってトドメを刺すんだよ。下の方まで行けば【無効解除】が入るから、そうなりゃ貫通遊びもできるんだけどね、結局【解除無効】ってのも出てきてイタチごっこになるから、技能に頼りすぎるのは良くないんだよ」

「へぇ……でも【無効解除】があれば牛でも貫通できるってこと?」

「十九層の牛人間までは通じるようになるよ。牛から牛人間までは【貫通無効】持ちだけど、牛人間は【無効解除】の技能核を落とす。でも次の層のポップコーンがいきなり【解除無効】だからね。技能核落として全部わかった時は暴れまくったよ」

 いや、かなりいいぞ。
【貫通】は俺の中で革命スキルってぐらいに有能だったが、三層の牛から【貫通無効】で通じないと聞いて絶望していた。
 しかし【無効解除】によって【貫通】効果が復活するなら、ぶっちゃけ一層から十九層までの覇権も夢じゃない。

「まぁ、十七層の石化持ちの鶏からクソミソ難しくなるから十九層まで行けるぐらいになったら、それ以下の奴らなんて貫通なしでも殴り倒せるようになっちまうんだけどね」

 だよね、そんな甘くないよね。

 ここまでが楽勝すぎて一瞬調子に乗りかけてた。

 十七層からは以前の聞き取り調査から予測してコカトリス、オーク、ミノタウルスといきなりザ・魔物になるから
 絶対行きたくない。

 ばあちゃんから豆知識を聞きながらに山羊さんを惨殺すると、紐で脚と脚を縛り付けて馬の背に積んで行く。

「ばあちゃんは宝物庫にいれちゃえるけど、あんたがやる時はこうやって山羊を運ぶんだよ」

「俺、ばあちゃんいなかったらこんなとこまで来ないよ?」

「大丈夫だよ。あんた自分で思ってるより強いからね」

 そう言って優しく笑いかけてくれると、普段は忘れてしまいがちであるが、俺はこの人の孫なんだなって再認識できる。

 そして山羊を運んだまま十一層へ。

 なんだろう、湿地帯? アマゾン的な。
 深そうな水溜りが多くて怖い。

「この踏み固められて草が禿げた道を歩けば、なんの問題もないよ。目印のリボンテープを括り付けてる所に入って、これ」

 ばあちゃんは太くしっかりした木にワイヤーロープと馬鹿でかい釣り針を取り出しては山羊の背中にかけて水の中に放り込む。

 それを点々と繰り返して行く。

 仕掛けた罠は14。

 作業が終わると、ばあちゃんが用意したであろう田舎のバス停のような屋根付きのティーテーブルで休憩。

 緑茶とお菓子でまったりしていると、ドボゴーンと間欠泉でも噴出したかのような水飛沫と共に釣竿がわりにしていた木がギュインギュインとしなり始める。

「ばあちゃん、あれ」

「いいんだよ、しばらく放っておきな」

 それからも連発してドボゴーンドボゴーンと何かが罠に掛かるが、ばあちゃんは気にすんなの一点張りでお茶を勧めてくる。

 全くもって心休まる暇がない。

「さて、そろそろかね」

 立ち上がったばあちゃんの背中を追いかけると、山羊に食らいついていたのは大きなワニである事がわかった。

「いや、普通に怖いんだが」

「大丈夫だよ。あいつらは山羊を丸呑みにしたついでに針も飲み込んで窒息するのさ。腹を向けて浮き出したら身動きとれてないからね、手繰り寄せて腹掻っ捌いてやったらいいのさ」

「いや、ヒクヒクしてるよ。火事場のクソ力で暴れたりするでしょ?」

「心配性だねぇ。大丈夫だっつってんのに」

 ワイヤーロープを手繰り寄せて、顎を踏みながらにザクザクと腹を掻っ捌いては喉周りから顎肉を切り離して、謎の毛玉になった山羊を回収。

 鰐の死骸をズルズルと丘に引き摺りあげる。

「捌いてる時に水辺からドーンって出てきたりしないの?」

「この子達も臆病者だからね。気になっても遠目に確認してから引き波立てて反応を見るから、来たらゆっくり離れたらいいよ」

「いやぁ、怖いし大変だなぁ。効率いいと思えないよ」

「でもね、それをやって余りある恩恵があるんだよ。見せてあげようか」

 そう言ってばあちゃんはまだまだ暴れる鰐の元へ向かい、なんらかのスキルを使った。

 何かが起こったのはわかる。

 何故なら目の前の鰐が噛み砕かれたようにズタズタに斬り裂かれグチャミソのミンチにされたからだ。

 しかし何がどうなってのかは全くわからない。

「鰐の技能核は【顎門アギト】【咬合コウゴウ】【粉砕】の三つなんだけどね、顎門は異力で見えない大きな鰐の口を作れる。そして咬合で自在に咬みつかせられるし、粉砕を使えばミキサーみたいに粉砕してくれる。これが覚えられたら十七層の豚人間までは怖いもの知らずでいけるよ」

「…………」

「どうだい? 欲しくなっただろ」

「…………すっっげぇぇえええ!!」

 ヤバすぎる。
 28にもなって頭弾ける程テンション上がった。
 マジか、マジなのか、これこそチートスキルではないか。

「大体山羊一頭で三発持てばいい方だから手間はかかるけどね、1日80ぐらい目安に頑張れば一年で狩れるし、オマケに鰐は身体能力がグングン上がるからね。牛とかも簡単に持てるようになる」

 まさに至れり尽くせりやないか。

 これはやはり最優先するべきか……。

「しかし一年かぁ……」

 リーチかかってる鶏のパリングは取得しておきたいし、トウモロコシのスキルも欲しい。
 怯えながらに鰐狩り一年は長い気もする。

「心配いらないよ。鰐の技能核が全部とれたら、かなりの技能核が時短できるからね」

「……信じていいんだな、信じるぞババア」

「おばあちゃんな! あんたたまに心の声漏れてるからね」

 ならば腹をくくろう。

 我これより鰐狩りの修羅に入る。










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