うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
第12話
「うわぁ……酒のノリでバラしちゃったよ」
夜中のアラームで目が醒めると、ジュンペーがばあちゃんと楽しそうに喋っている姿が見て取れる。
「大丈夫ですよ。一宿一飯の恩義は勿論、社長に一生ついて行くって言ったのは自分ですから」
「うん、じゃあ社長のばあちゃんにデレデレするのはやめようかぁ」
「で、デレデレしてませんよぉ!?」
何故第一冒険仲間が野郎なのか、酒が抜けると後悔と呪詛しか出てこない。
だが悪い話ばかりでもない。
俺が【パリング】のスキルを手に入れれば、後は全てジュンペーに委託してしまえばいい状態になった。
1羽討伐100円支払っても利益は出るし、心置きなく豚狩りに行ける。
昼からの空き時間にでも狩ってもらえばいいだけなので完全に俺の手を離れてくれる。
問題は他の3人にバレないように狩りに行けるかであるが——
「社長。この件みんなに話しても大丈夫ですよ。マジで俺たち田舎のクソガキでしかないですけど、仲間意識だけは鬼ってるんで」
——なんか……大丈夫そうな気がしてきた。
一般応募の人達は注意せねばならんと思うが、バイト4人組ならぶっちゃけ大丈夫な気がする。
「じゃあ……話しちゃうか」
チラッとばあちゃんを気にして視線を送るが、何故かサムズアップを返してくれた。
不思議なババアである。
真夜中であるのに、ビャービーゴーとバイクバイク車の三台のエンジン音が聞こえた所で全員集合。
眠たい顔をしながらに作業開始。
馬達のご飯を用意して、一頭ずつ丁寧にブラッシングや蹄のお掃除をしてあげたら放牧。
厩舎を隅々まで掃除して完了なり。
鶏舎に行って餌の自動分配がされているかの確認をしてから補充。
孵化器の確認をしてから鶏捌きへ。
「えー、私も社長んち泊まりたーい。帰るのめんどいもーん」
「いやいや、たまたまだからな。酒飲んじゃったから」
「私も飲めるしなー」
ミナミちゃんが謎のワガママを言いだすが、ネタバラシはもう少し後である。
「はいはい、仕事仕事」
4人でネコ車で吊るしてる鶏を満載にして運び、ドラム缶で沸かしたお湯に鶏をぶち込んでは4人で仲良く毛をバシバシ引っこ抜いて産毛など細かい部分はバーナーで炙る。
ある程度溜まるとジュンペーとミッちゃんが禿げた鶏をサクサク捌いて行く流れ作業。
ミナミとマヒルは毛抜きを継続し、捌き待ちの鶏が溜まったら再びネコ車を走らせて鶏を回収、大ボウルに溜まった内臓を部位ごとに分けてビニール袋に入れ、空気を抜きながら縛ってから流水にさらす。
再び毛抜きをブッチブチ。
男連中はザックザク。
完全解体でなく中抜きするだけなのでサクサクと進んで行くが、途中からミッちゃんは包丁を置いて袋詰め作業に入る。
袋に入れて空気を抜いて括りつけてを繰り返し、それも流水に晒す。
湧き水流るる水路が鳥まみれである。
出荷分の毛抜きが終わり、4人で仲良く捌き始めてからゴールが見えてくる頃合い、ミナミ、マヒル、ミッちゃんが箱作りと箱詰めを開始。
その間もジュンペーは愚直に解体を続ける。
箱詰めが終わる頃には待ってましたと言わんばかりにクール便が受け取りに来てくれる。
残り僅かの山を残したタイミングでブロロロンと軽トラ登場。
マーちゃんもマイ包丁持参で解体に参加。
彼の参加はボーナスタイムである。
来るときと来ない時があるのであてにはしてはいけない。
奴がやるなら俺もやらねばなるまい。
「どーれ」
「最初っからおめぇも手伝っとけっての」
自分で言うのは恥ずかしいが、やはり俺とマーちゃんはレベルが違う。
4人の中で一番早いジュンペーが1羽捌く間に3は行ける。
細かく言えば3.6羽ぐらいである。
ジュンペーが2羽目に包丁をいれたタイミングで4羽目が終わるぐらいである。
これに関しては人間やめてる自信がある。
あるかどうかは知らないが、恐らく所持しているだろう解体スキルは磨きに磨かれているからな。
人の枠に収まるジュンペーに負けるわけがない。
「はいおわりー」
「くそが!!」
それでもまだマーちゃんには勝てない。
こいつの解体スキルは底が知れない。
同じ数で分けたのにまだ1.5羽ぐらいの隔たりがある。
陸上競技の1.5秒は絶望的な差があると同様に、解体での1.5羽差は勝ち筋が見えないぐらいの差がある。
「9羽差からかなり縮めてきてるな」
「この上が見えん」
「後は細かい所作だな。配置、段取り、思いっきりの良さと道具の手入れ」
マーちゃんは出刃包丁の刃を爪に当てる。
刃が立っているのでギュッギュッと止まるが、俺の包丁は鶏の油を食い過ぎてつるんつるんである。
「多分俺には研ぎスキルもある」
「……ばあちゃんに教えてもらう事にする」
適当にやりながら刃を立てられるようにはなったが、スキル獲得案件であるならば教えを請うのも吝かではない。
事情を知ってるジュンペー以外は俺とマーちゃんの厨二感満載の会話に引いているが、楽に稼げたのだから許して欲しい。
解体が終われば袋詰め作業を仲良くやって、コンパネで積載量をカサ増しした軽トラにクーラーボックスを満載して見送り。
さて、ここからが本題だ。
「実はみんなにもう一つお願いしたいバイトの案件がある」
切り出すには勇気のいる内容だ。
「まず約束して欲しいのは、絶対に此処にいる4人だけの秘密にすること。約束が破られた場合は俺は厳しく対処しなきゃならない。それを踏まえて話を聞くなら残ってくれ」
半ばキョトンであるが、皆そのまま残留している。
本当に言ってもいいのだろうか……犯罪に巻き込む事になるので抵抗があるのだが、ジュンペーは力強く頷いてくる。
「じゃあ行こうか」
もう知らん、どうなろうと知らん。
この子達なら大丈夫だろうと謎の信頼感はあるが、1人でも多く知る者が増えればリスクは倍増する。
わかっていながらに急には止まれない状況に陥ってる。
信じるぞジュンペー、落とし込みは任せるからな。
「ここは秘密の放牧場だが、もしかしたらダンジョンかもしれない」
「いや、ただの洞窟っしょ」
「うん、俺もそう思ってる。だけど、ここで育てた鶏は何故か美味い。だからダンジョン認定されて国に盗られたくないんだ」
逃げちゃいました。
昨日は酒も入っていたので馬鹿正直に全て話せたが、全てジュンペーに丸投げする方向に舵を切る。
「そしてバイトって言うのは、ここの鶏をこうやってサクッと締めて吊るして欲しいんだ。わかりやすく色付きの紐で括ってくれたら1羽100円の報酬を払う」
「こんなにあるのに?」
「本格的なスタートはストック分の消費が終わってからだから、来月ないし再来月ぐらいからになると思う。だから興味があったら声をかけてくれ」
逃げの一手を打ったタイミングでまたもやばあちゃんの登場である。
今日はいつも通りに黒毛牛を軽々担いでの登場である。
今回ばかりは間が悪い。
「おーう、頑張ってんねぇ。シャキッとしなよジュンペー」
「はい! シャキッとします!!」
どうしよう、ジュンペー以外みんな無表情で見つめてくる。
「あれはほら、玄海師範的な」
「社長、ちゃんと話しても大丈夫です。みんな社長の仲間ですから」
そうだよな、上手く騙せてもばあちゃんが登場したら一撃でバレるよな。
よし、全て話してしまおう。
「うん、実はな、ガチでダンジョンなんだ」
コメント
慈桜
鶏の羽毛を糸にするところまでは描写したのに放置してたので感謝です(*゚∀゚*)
ナイスアイデアです(*゚∀゚*)笑
慈桜
それいいですね(*゚∀゚*)
かなり先に、それが可能な下地が出てくるんで、その方向でかましちゃうのも楽しいですね(*゚∀゚*)
ばけねこ
今ふと思ったんだが
抜いた毛も魔物のものだから使えそう
それで従業員専用の装備(制服)
作るのも良さそう