うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
第10話
━━
え? お前まじなん?
マジで美味いやんこれ
お前の事やしブラジル産やらのクソ鶏かまして詐欺るぐらいしてくるか思てたけど、ガチでうまいねんけど
俺が修行してやっと教えてもらった卸先の鶏の方が余裕でクソやわ
これやったらガチで買わせて貰いたいねんけどってちゃうちゃう
お前こんなん赤字やろ?
考えて商売せなあかんぞ!
いくら俺とお前の仲やて言うても、親しき仲にも礼儀ありやろ
どっちも儲けるような話にせな意味ないぞ
別にブチられよったんも怒ってないし、昔みたいに普通にって、あーーーーーー
めんどい! 電話してこいや!!
話したいこといっぱいあるんやて!
後宅急便に嘘の番号書くな!
鮫洲とかよう知らん教習所のおっさんと小一時間話してもたやんけ!!
━━
売り込みは大成功である。
ご察しの通りに達也はよく喋る。
それは小さい時からずっと変わらず、俺はあいつとは一生分、いや、二生分は喋ったので話すことはない。
あいつが鶏を買う事によって、俺は1羽100円スパイラルから抜け出してバイトに給料を払っても1羽あたり400円の儲けが入るようになってお得。
あいつは安くて美味い鶏を買えて大繁盛間違いなしなのでお得。
マーちゃんは丸鶏を買わずして内臓を大量に買い込めるからお得。
みんな丸っと得してwin_win_winである。
これで達也とのロングトーク巻き込み事案が発生した場合には俺だけが損する形になってしまう。
それだけは避けなければならないのだ。
メッセンジャーが馬鹿ほど鳴り響き、通話モードでの着信も日毎に増して行くが勿論無視である。
唯一返信する内容は一つだけ。
━━
わかった買う。
買うから返事せーよ
とりあえず10本、毎日送り込んでくれてかめへんから
値段の話とかもつめたいから電話してくれ
さすがに500円はあかんやろ
━━
毎度おおきにありがとうございます。
従兄弟が毎日150羽買ってくれるから経営は全く問題ないし、地元で他所に売ったらあかんって話になってるから逆にしんどいんよ。
気合いいれて5万羽ペースで育ててるから逆に500円でも売れたら万々歳やねん。
つか、ごちゃごちゃ言うなら助けるとおもて買いまくってくれ。
今んとこ15:1で従兄弟の方が経営者として優れてるぞ
ええんか? 藤堂ごときに菅原が負けてええんか? お?
大阪の一等地で3年も店続けてるやつが10本だけてしょっぱい話やなー
━━
基本煽って行くスタイルである。
この後ブチギレて大量のメッセージが届いたが勿論スルーである。
しかしショボイ。
こんな好条件で10本しか買ってくれないとはなんたる事か。
IDBookのタイムラインを見る限りじゃ高級時計を買ったり外車を買ったりと儲けているようにも見えるが堅実と言うかシビアと言うか……。
もしやマーちゃんってすごい?
市街で焼鳥屋7店舗に唐揚げ屋5店舗ってのはやり手だなぁとは思ってたけど、よくよく考えたら飲食店経営で億規模の金をポンっと出せるのって凄いのかもしれない。
閑話休題。
とりあえずバイト様達に10羽の追加を伝えて、クール便に毎日来てもらうように段取り。
送料着払いの代引き。
手数料なども勿論達也に払わせる。
月でまとめて振り込みにしてくれともメッセージが来ていたが、たかが10本レベルの小僧が何を抜かしているのかわからない。
もっと買えるようになったら考えといてやると一蹴してやった。
「なんだい、楽しそうに笑って」
「いやいや、笑ってないよ」
しかし困ったな。
面倒な奴に連絡したにも関わらず10羽しか処理数が増えていない。
予定では100は増える算段であったので肩透かしを食らった気分である。
……普通にネット販売してみようかしら。
ばあちゃん達がシャカリキで用意したミニ解体場のおかげで食肉処理業の許可を得たついでに販売業の許可も得てるから、やろうと思えばすぐできる。
ヒヨコちゃん達が育ってから処分に困ったら利用してやろうかと目論んでいたのだが、ここらで一発かましてやってもいい頃合いかもしれない。
手数料とか月額云々で採算が合わないとか聞くけど、俺は元手がタダなので価格帯で他を圧倒してしまえば楽勝の気もする。
物は試しに漠天とママゾンに申請してみる。
必要書類は元より揃っていたのであれよあれよと段取りが進み、ほんの数日を置いて業者の回し者が登場した。
「今回はご連絡いただきありがとうございます。私、漠天出店アドバイザーの坂本と申します」
「まさかのバッティングですがママゾンの古賀です」
またもやチンポです最悪です。
スーツのやり手リーマン的な奴らの登場であるが、宣材の撮影とホームページのデザインを決めるだけの簡単な集まりであるのでわざと同じ日の同じ時間に呼び出した。
求人誌はデブだったが、こいつらはシュッとしてるなと関係ない事を考えながらにも段取りは進む。
どちらも慣れているのだろう。
フォーマットを使ってサクサクと仕上げて、撮影したばかりの写真を当て込んで行く。
俺としてはなんでもいいので値段設定だけして完全放置である。
「でも、こんな立派な鶏なのに2000円なんて本当にいいですか? こう言うとなんですけど、高くても全然売れますよ?」
「あー、いいんですいいんです。数捌きたいんで」
1500円でいいと言ったら彼らに大反対されたのだ。
デフレになるからウンヌンカンヌンとしつこいので2000円で設定した。
一応2kg越えの丸鶏では最安値であるので文句はない。
売れりゃあなんでもええ。
期待なぞ全くしとらん。
段取りが済めば早速出店開始であるが、いきなり売れるような事はない。
リーマン達を笑顔で送り出しては、次の策を練る。
他に何ができるだろうか?
売り込みに行くのも手間がかかるし、県外に行けても5日以内に戻らなければならないとするなら忙しなさすぎる。
そんなタイミングで達也からのまさかのメッセージ。
━━
こらボケナス。
俺の仕入れ先に話しに行ったったぞ!
1000円やったら喜んで買うって言ってくれてるけどどうする?
言うても自分らで育てとる鶏も売らなあかんから100ぐらいしか受けられんって言うとったけどな
いけるんやったら連絡したって
06-42xx-xxxx
鳥皇商会(とりこー)な!
とりわらの達也に紹介してもらったって言ったらすぐ伝わるわ!
━━
ありがたい。
千円で商談固めてくる辺りが達也のヘタレ加減が見え隠れするが、100追加はでかい。
なんら気にせず早速リンリン。
『はいトリコー』
「うお、声高いおっさんやな」
『やかましいな。気にしてんねんあんま言うなよ』
「ぶはっ、すいません。いや、とりわらの達也に紹介してもらって連絡した藤堂と申します」
『あー! 養鶏やってるお友達って話やな! 聞いてる聞いてる! さっきまで達也くんおったのに!』
いなくて安心してます、帰ってくれててありがとう。
『あんなええ鶏、kg500円で売ってんねやってな。いややわぁ、価格破壊もええとこやん』
「いやいや、身内だけですよ。言うても達也にしか売ってませんけどね」
『ほな僕は達也くんのお友達やって事でよろしく頼むわぁ。聞いてるかもわかれへんけど、とりあえず100からで頼むなぁ。番号放りこんだら住所出てきようから、そこに送ってくれたらええから!』
話が早い。
トントン拍子である。
「振り込みとかの方がいいです?」
『そないしてもうたら助かるわぁ。会社のホームページにアドレスあるから藤堂さんとこの口座送っといてぇ。週締め明け月曜払いで、月から土までの週6で送ってくれたらええから』
「あざーっす」
『こちらこそあざーっすやで。評判よかったら丸鶏の専門店でも出して、バチバチ買ってあげられるようなるかもわからんからな、大変かも知らんけど商売きばりやぁ』
「うぃーっす。感謝しますわー、マジで」
達也がどんな紹介をしたのかわからないが、商売をする以上は人と人の付き合いであるし、支え合いの精神は大切である。
オッさんが応援モードで取引開始をしてくれてる以上は素直に懐いておこう。
てなわけで追加で100捌く。
バイトちゃん達は午前の捌きを終えて休憩と言う名の乗馬遊びをしているので様子を見に行く。
鞍無しで鬣持って乗るとかぶっ飛んでるよな。
「うおーい! ジュンペー!」
「どしたっすか?」
ジュンペーを呼んだのに何故かヤンキーのマヒルちゃんが来てしまった。
「いや、追加で100羽入ったから、手伝ってもらおうかなって」
「それなら任せるっすよ。自分らがサクッと1万円稼がせてもらうっす」
「え、いいの?」
「勿論っすよ。二部の出勤まで遊んでるだけっすから」
二部とは15時からの馬の世話である。
みんな家に帰らず馬達と遊んでから仕事をしているのであわよくばと声をかけたら働いてくれるらしい。
今回は俺も手伝おう。
「ちゃんと2500円ずつ払うけど、俺も手伝う」
「ボーナスタイムっすね」
「はは、明日から260になるけど、みんなはどれぐらい行けそう? 無理なら110は俺がやるけど」
「全然余裕っすよ。今でも結構時間余ってるっすから」
マヒルちゃんがサクサク返事をしてくるのでみんなの意見はどうなのか聞きたいのだが、その通りだと頷いてくれたので安心である。
これで10万5千円の売り上げに捌きのバイト代を払っても一日9万4千円の利益になる。
これまでは150単独でバラして1万5千円であったのに天と地の差だ。
ただ、バイトちゃんの日当が一部、二部とバラし込みで2万6千5百円と高額であるので、全て合算すると純利益は1万4千円である。
いや、すごいな。
ゴリゴリに赤字覚悟してたのにプラスまで持ってっちゃったよ。
しかも漠天6件、ママゾン5件の注文も来てる。
幸先良すぎるだろ。
手数料とか無視したら3万6千の利益だ。
このまま順調に稼がせてもらいたいものである。
「しゃちょー、でもやっぱりおっきい冷蔵庫あった方がいいっすよ。いくら鮮度が落ちないって言っても限度があるっす」
「それもそうだなぁ」
現時点で肝、心臓、砂肝等の内臓類は袋にいれて垂れ流しの井戸水に晒して鮮度を保つようにしてるが、さすがに300を越えてくるとキャパオーバーである。
本来外で野性味溢れる解体なんてあり得ないだろうし、魔物だし関係ないね!と思っていたが、そうも言ってられなくなってきた。
しかし業務用冷蔵庫やらなんやらと大枚叩いて整えるなら冷蔵室とか何から揃った解体施設を建てた方がいい気もしてくる。
いっそのこと本格的な大規模の屠畜施設とか……いや、いかんいかん。
さすればまたウン千万もしくは億規模の話だな……アパート建て始めた直後であるから切り出しにくい。
本音としては騙し騙し頑張って頂きたいところだ。
「大丈夫だ。なんとかなる」
「うおー、開き直りっすね!」
「クール便の保冷ダンボールもまとめ買いで頼んでるし、ちょっと熟成されたぐらいの方が美味いだろ。知らんけど」
「知らんのっすか!」
単純な利益が出て楽しくなって来たところなので、今は自由に使える資金を溜め込んでおきたい。
解体施設はもう少し後でもいいだろう。
コメント