うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

第8話

 

『ばあちゃん、明日からバイトさん4人来るからお馬さん増やしてもいいよ』

『じゃあ懐いてる子達、適当に連れ来るよ』

 先日の日曜日にそんな話はした。
 したけど、なんか知らん間に厩舎に10頭ものお馬さんがいた。

 4人増えるって言ったんだから二頭ぐらいだろ常考。

 なんでいきなりハードモード突入させてんだよ。

「あの金色の子が可愛くてね、あの子を連れてきたらみんな付いてきたんだよ」

 ばあちゃんのスペックなら途中でどうとでもできたはずである。
 小学生が野良猫を餌付けして『ついてきちゃった』と言い張るアレと同じ言い訳をしやがる。

 爺ちゃんが使ってた厩舎は、ばあちゃんが定期的に業者を入れて綺麗にしていたからいつでも使える状態だった。

 それだけが僥倖で、馬達に部屋を割り振ることができたが、流石にいきなり10頭は驚きを隠せない。

「おっざーっす!!」

 厩舎で立ち竦んでいると、なんちゃって黒ギャルのミナミちゃんが125ccのスクーターで登場。

 デニムのショートパンツにTシャツ、そして極め付けはビーチサンダルたる何しに来たのかわからない服装であったので、念の為に用意していたツナギと長靴を制服代わりにプレゼントする。

 オリジナルのプリントとか入れたツナギとか発注するのもいいかもしれないな。

「かわいくないー」

「ピンクとかの方がいい?」

「それなら寅壱とかの方がいいかなー」

「センスが不良!!」

 そしてお次はMAXたる訳のわからん青い軽四で男組が登場する。

 髪の毛サラサラの色白にいやんがジュンペーで、坊主でひょろ長いのがミッちゃん。
 彼らはしまむ◯あたりに売ってそうな安物のジャージで汚れる準備は整えて来ている。

 女の子はかわいいからいいけど、男なんぞはかわいくないから最低限の礼儀を弁えていると好感が持てる。

「汚れていい格好してきてくれてありがたいけど、ツナギと長靴用意してるから良かったら使って。サイズも色々あるから」

「あざまーす」

 ミッちゃんは全力で感謝を示すモードで何度も頷いている。

 寡黙な男の子である。

 そしてラストはビィヤンビィヤンと森の中を切り裂くような轟音を搔き鳴らしながらに三段シートにロケットカウルを装着した戦闘機のような単車に乗った赤い特攻服の女の子が登場する。

「ちぃーっす。汚れると思って無地の特攻着てったっす」

 うーん……。

「マヒルちゃん、この前結構パリピっぽい感じだったのに」

「どっちかっつーと、こっちが素っす。もう18なんで引退っすけどね」

 どうやらマヒルちゃんは珍走団方面の方であったようだ。

 先日の写真撮影の時はキャップとサングラスが似合う赤紅引いたパリピちゃんって感じだったのに、普通にレディースさんである。

 10個も歳下なのに姐御って呼びたい不思議。

 とりあえずペコペコとビビりながらにもツナギに着替えて貰おうとしたけど、特攻服もブーツも汚し上等らしいので、彼女はそのままでお願いした。

 チューブトップとロングの赤特攻服っていいな。

 昔は怖かったけど、この歳になると無理に突っ張ってる隙が見え隠れするのが可愛らしく見える。

 慈しむ顔を見せると金的でもされそうなので控える。

 働いて頂けるなら服装や見た目云々に文句をつけるつもりもない。

「若者は身軽でいいなぁ」

 数日分の着替えだけを持って帰省して以来、終日鶏を狩りまくってる身軽極まりない身分でありながらに、ふと口から溢れ落ちた言葉である。

 俺なんかが経営者の仕事に身を投じてくれるなんて感謝しかない。

「仕事内容は簡単で、出勤したら馬さん達を厩舎から出してあげて放牧する。顔の前に手を出さないでね、噛まれるかもだから」

 そんな心配はない。
 ばあちゃんが王権を握っているので馬達は従順でかわいい。
 だけど彼らが普通の馬だと思われてはいけないので、一応の注意点は伝える。

「馬を放牧したら厩舎に戻ってきて、寝藁を回収する」

 馬のションベンとクソに塗れたベッドである。
 放置していると蹄が腐ったりして死んでしまうので清潔に保ってあげなきゃダメらしい。

 ババアに教えて貰ったばっかりだけど。

「まぁ、控え目に言って最悪だな」

 糞尿の処理たるや、やはり最もプロとして試される部分である。

「寝藁と馬糞を捨てたら新しい寝藁を敷いてあげて第一段階終了」

 てなわけで、みんなで一つずつ協力して掃除をして行く。

 みんな意外に黙々と頑張って働いてくれる。

「ミナミちゃんイヤじゃないの? 臭いでしょ?」

「臭いけどみんな慣れてるよ。学校で馬飼ってたし」

「え? マジで」

「当番制で回ってくるの。しかも小中と地獄は続いたから」

 そこで色白サラ髪のジュンペーも苦笑いである。

「俺とミッちゃんなんて農業高校選んじゃって高校まで続きましたからね」

「どうりで。みんなプロ並みの手際の良さだもんな」

 俺なんて鼻くそである。
 位階上昇した身体能力のおかげで騙し騙しにできるフリはやれても、フォークの返し方とかが慣れてないとできない領域だ。

「後はヒヨコと戯れるぐらいしかやる事がない」

「えぇ……それなら夜中から来るよ。飼い葉つけたりブラッシングしてあげたりもしなきゃでしょ」

「そんな、深夜の三時とかからだよ? 寝藁の交換してくれて、鶏の様子見てくれたら十分なんだけど」

 俺の言葉にミナミちゃんは苦笑いである。

「仕事をして貰いたいから人を雇うんでしょ。みんなが無理でも私は夜中から来る! きめた!」

「自分らもそれでオッケーすよ。さすがにこれで日当1万円は申し訳ない」

 ジュンペーの言葉に続いてマヒルちゃんは何故か握り拳でファイティングポーズで私やれるよっと示唆する。
  
 謎の多い少女である。

「じゃあ、シフトで別れて貰おうかな。3時から8時、15時から20時でワンシフト1万ってのはどう? 」

「こっちとしては嬉しいですけど5千円ずつとかでよくないです? 」

「いや、これから忙しくなるし、バイトの人が増えたら仕事とか教えてあげて欲しいってのも込みの値段。朝晩で二勤してくれたら二万円だったら辞めずに頑張ってくれるかなって下心もある」

 必殺お金ばら撒き大作戦である。
 もし自分が東京で燻ってた時代にこんな仕事があったら神と崇めたであろう内容である。

 そして獣の糞尿の処理など、本来忌避感のある仕事から逃げない為のバフがけだ。

 うん、4人ともいい感じに目が¥になってる。

「親分、一生ついていきます」

「イケメンキャラなのに似合わない下っ端感」

 色白サラ髪センター分けの泣きぼくろとか貧弱系王子がセオリーじゃないの? なんかジュンペーは普通に田舎の若者が自分の素材の良さに気付かず純朴な青年に育った感じだ。

 まぁ、金でどっぷり引き込んで焦らずゆっくりと落とし込みをしてみましょう。

「じゃあ、明日からはそんな感じでお願いします。今日は短いですけど研修会って名目でちゃんと日当つけておくんで」

「社長はこれから何をするんですか?」

「これからマーちゃんの、昨日いたマサヒコさんの所に出荷する鶏を捌きます」

「暇なんで見学してもいいですか?」

 いいねぇジュンペー。
 男はかわいくないからな。
 こうやって懐くかどうかが鍵になってくる。

「勿論大歓迎だよ」

 そして皆を地獄へご案内。

 厩舎と鶏舎の方からは見えないばあちゃん家側に到着すると、数百の鶏が逆さ吊りになっている悪魔の儀式としか思えない光景が一面に飛び込んでくる。

「すごいだろ、あれ全部鶏なんだぜ」

 流石に田舎慣れしたエリートでもポカンとしている。
 小さい丘と竹林一つ越えただけで急激に血生臭い光景になったのだから仕方がない。

「このドラム缶に鶏をぶっこんで、引き揚げてから羽をバシバシ引き抜く」

 外に乱雑に置かれたステンレスの作業シンクの上で慣れた手つきでスパスパ鶏をバラして行くと、4人は何も言わずに流れ作業で羽を毟った丸鶏を渡してくれた。

 恐ろしいまでに有能なのね。

 しかも仕事が丁寧である。

 流れ作業でサクサクと150羽の鶏んバラしてしまった。
 恐らく過去最短タイムを叩き出した。

 ニコニコしたミナミちゃんが近寄ってきます。

「社長? これも手伝った方がいいよね?」

 どうしよう。
 この仕事事態は150羽捌いても1万5千円にしかならないから別に雇う必要は……いや、待てよ。

「1羽捌いたら100円なら委託してもいいけど」

「4人で割ったら3750円、うん、いいですね社長。いいですねぇ」

 ミナミちゃんが急にタメ口キャラから敬語キャラにチェンジした。
 なんちゃって黒ギャルは銭ゲバである。

「ちなみに時間の余裕ってどれぐらいなの?」

「昼の1時前後にはマーちゃんが来るから、それまでに最低150捌けてたら全然オッケー」

 そこで4人組は一旦離れて円陣を組んで作戦会議、スタコラサッサと此方に戻ってきては、再び貼り付けたような笑みを浮かべる。

「誠心誠意頑張らせていただきます」

 こうして俺の仕事は鶏の補充のみとなった。

 つまり、基本750羽はストックとしてぶら下げているので、5日は何もせずに自由に過ごせるようになったと言っても過言ではない。

 ダンジョンの中にも血抜き台設置しようかな……。

 自由な時間を捻出する為に試行錯誤するのがこんなに楽しいなんて想像した事もなかった。

 さっさとスキルをゲットして二層の豚に挑戦しよう。

「じゃあ、その他諸々明日からどうぞお願いします」









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