うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?

慈桜

第3話

 

 鶏の出荷が終われば鶏狩りだ。

 ばあちゃんは昼から豚の解体を開始したが、手伝おうとしたら自分の仕事をやれと言われたので鶏狩りである。

 しかしもっと効率良く狩る方法はないものか……。

 ばあちゃんが餌をばら撒いてくれているので狩るのは簡単でいいのだが、一々探さなければいけないのは面倒だ。

 ……竹で養鶏場のような施設を作れないだろうか?

 簡易なカゴ罠を自作してセットしておいて捕獲、頭だけ出せる状態にして餌を与えておく。
 その日必要な鶏を絞めたら、再び罠を仕掛けるサイクルを繰り返しておけば時間短縮になる。

 良し、決めたら即実行だ。

 今日はキリよく100羽で打ち止め、竹林をバッサバッサと薙ぎ倒す。

 竹を細く割って編み込んで不細工ながらにカゴを作る。
 難しい事はない。
 紐でゴリ押しで編み込むだけのやっつけ仕事だ。
 中に鶏が入ればいいだけの作り。

 ばあちゃんは俺を一瞥するが、鼻で笑って家に帰って行く。
 今日はビンタされないようなので安心である。

 罠を組み込むような器用さは無いので、単純に入れば身動きが難しいカゴを量産する。

 非効率であるが完成したカゴにチリトリでゴミを掬う要領で鶏を捕らえて並べて行く。

 ばら撒かれた餌は竹箒で寄せておけばズボッと頭だけを出して食事を始める。

 これを300から400をコンスタントにリザーブしておけば、朝の仕事は楽になるし時間短縮にもなる。

 カゴを揃えるまでは大変だが、時間はたっぷりあるので頑張ろう。

「タキー!! 晩御飯いらないのかい!」

「たべりゅー」

 ばあちゃんの怒号が聞こえたら業務は終了である。
 体力が有り余っているので寝るまでの間にもカゴを作ろう。

「鶏1羽捌いたら百円ぐらいって考えときな。百捌いたら1万円、わかりやすいだろ」

 めちゃくちゃぼったくられてるのだけはわかるけど、なんちゃって養鶏場ができたら楽勝である。

 ダンジョンに潜れてスキル磨きもできて微々たる日当も貰えるとなれば文句はない。

「タキのお金はここに置いとくから好きに使いな」

 渡されたのは昔懐かしのクッキー缶である。
 ぱかっと開けると3万円の現金があった。

 恐らく今日のぶんを入れてくれているのだろう。

 ダンジョンハイで死ぬ気で走り回って狩りまくれば3万円は楽勝で稼げるってのがわかっただけで大儲けだ。

 使ってもいないアパートの家賃を払うのはアホ臭いが、それを支払っても余りある程には稼げるだろう。

「鶏に慣れたら豚も狩らせてあげるよ。豚なら1頭千円あげてもいいからね」

 どう考えても鶏の方が儲かる。
 豚で三万稼ごうと思えば二層から30匹運ぶ必要がある。

 それなら鶏を300絞めた方が楽である。

 いや、どうだろ……どっこいどっこいかな?

 まぁ、それは豚を狩れるようになった時に考えよう。

「ご馳走様でした」

「鉈の手入れ教えてやるよ。ちょっと来な」

 食後はばあちゃんに鉈の研ぎ方を教えて貰う。
 俺としては今日の炊き込みご飯の作り方を教えて貰いたいが、今後も役に立ちそうな内容なので素直に従う。

「しばらくはやってあげるからゆっくり覚えな」

 ふんふんと聞き流しながらに最後までやって貰おうと狡賢さを見せると、魂胆はバレバレであったらしい。

 ビンタをされるかと身構えたが、ばあちゃんはクククと奇妙に笑って俺の頭を撫でてくる。

「そう身構えなくていいよ。昨日のあんたはぶっ壊れてたから寝かせただけだからね」

「うん、知ってる」

 どう考えても普通じゃなかったのは実感してる。
 ビンタは恐ろしいけど、感謝はしてる。

 鉈がギュインギュインに輝きを取り戻した所で講義は終了。

 ばあちゃんの晩酌に付き合いながらにカゴを編み続ける。

「面白いこと考えるねぇ」

「最終的に楽かなって」

「やりたいようにやりゃいいさ」

 ニコニコしながらに慈しむ視線を送るのはやめて欲しい。
 見た目は美人の女騎士さんと言えど、中の人はばあちゃんだと思うと頭がおかしくなってくる。

「あんたは小さい時から手先が器用だったからねぇ」

 多分ガンダ◯のプラモデルの事を言っているのだと思う。
 小さい時はよく爺ちゃんにねだってガンプラを買ってもらったものだ。

 説明書通りに組めばある程度は形になるガンプラ程度で手先が器用と言われるのはこそばゆい感じがするが、褒めてくれているので素直に喜んでおこう。

「つぶつぶみかんしか飲まなかったタキがお酒飲めるなんてねぇ」

「もうオッさんに両足突っ込んでるからね」

 遠さを言い訳に会いに来なかった自分が情けなくなってくる。
 疎遠になっていたと言えばそれまでだが、こうして何年経っても可愛がってくれる存在を放ったらかしにしていたなんてどうしようもない。

 ただ、少し気合を入れて足を運ぶだけでいいのに。

 休日引きこもってスマホとにらめっこしている時間があるなら、もっと会いに来ていればよかったと今更ながらに後悔。

 こんなパワフルな女騎士さんじゃなくて、イメージ通りの小さくて優しいばあちゃんに会いに来るべきだった。

 爺ちゃんが天国に行ってから、ずっと側で見守り続けてくれたマーちゃんには足を向けて眠れないな。

 上から目線なのはムカつくけど。

 てか、マーちゃんって何歳なんだろ。
 同じぐらいだって思ってたけど、見た目的には年下っぽいんだよな。

 明日にでも聞いてみよ。

「どれ、ばあちゃんにもやらしてみ」

 湯呑みで日本酒を傾けながらにカゴを量産した。
 ばあちゃんのカゴは中に入ると蓋が閉じるカゴ罠になっていて見た目も綺麗で俺より作るのが早いので理不尽に憤りながらも素直に教えを請う。

「難しく考えなくていいんだよ。適当にぶっさ刺して編み込んどけばいいんだから」

 遊びのノリで既製品みたいな仕上がりでポンポン作られると立つ瀬がない。

 俺が一つ完成させるまでに100倍のクオリティで三つ仕上げてきやがるのだ。しかも片手間。

 ドヤ顔が凄まじいが、ババアの作業を見ながらに真似をしていると、解体の時のような閃きが次々と襲いかかって来る。

「技がついたねぇ」

 スキル習得したようである。
 どんな割り振りになっているのか気になって仕方がない。
 無駄とは思わないが数値を選択式に割振れるのなら、是非スキルボードを提示して頂きたいのだが、そんなワガママは聞き入れて貰えるはずもない。

「じゃあばあちゃん寝るよ。無理すんじゃないよ」

 ばあちゃんは欠伸をしながらに奥の部屋へ寝に行った。
 俺はリビングに布団を引いて最後に一つだけ作っておこうとした所で知らぬ間に眠っていた。

 起きると装備を整えたばあちゃんが出掛ける場面である。

「ご飯置いてるからちゃんと食べるんだよ」

 馬鹿としか思えない量の卵焼きと味噌汁と鮭の丸焼きが置かれているが余裕で食えてしまうのが怖い。

 昨日は100羽しか狩っていないから位階上昇も小さかったはずである。
 にも関わらず力士でもぶっ倒れるような量の飯をペロッと食べてしまえる自分が怖い。

 ストレッチがてらにタバコに火を点ける。

 この不健康な煙が体を活発化させてくれると思ってしまってる時点で、おれはもう色々ダメなんだろうな。

 粘膜に疾るセブンスター独特の味に満たされると、今日も今日とて鶏捌きである。

 ばあちゃん優しい。

 なんとドラム缶でお湯を沸かしてくれている。

 朝一のタイムロスが無いだけで、ロケットスタートが決まった気分である。

 解体スキルも絶好調で100羽の鶏なぞ速攻で解体がおわる。
 と言っても昼は余裕で過ぎているが、マーちゃんが到着して肉を回収してくれる流れ作業は気分がいい。

「百あったら最高だ。今まで限定にしにゃならんぐらいだったからな」

「そりゃよかった。てかマーちゃんって何歳になったの?」

「お? 今年30だ」

「あー、そかそか。二個上だったのか」

「二個しか変わんねぇんだな。ちっこい時はもっと下だと思ってたけどな」

 くそ、歳上だったのかマーちゃん。

 生意気言ってすいませんでたぁ!!

 軽くショックをうけながらにダンジョンアタック。
 先日完成させたカゴに鶏を捕獲してから、明日の出荷分を狩る。

「……日持ちするなら先に300狩っておいてカゴ作りに集中しよかな」

 悩みどころである。
 多分俺の性格上、先に狩っていたとしても狩ることになる。
 ストックを絶やしてはいけない症候群たる謎の病気にかかっているので一度ストックを開始すると、歯車として回り続けてしまう変態癖があるのだ。

 自分が定めたストックがないと落ち着かない変態性。
 こればっかりは子供の頃から続く癖であるのでどうしようもない。

 ゲームなどでも回復薬各種が×99じゃないと落ち着かないと言えばお分かり頂けるだろうか?

 必要以上に備えてしまう癖があるのだ。

 そんなしょうもない事を考えながらに鶏無双をしていたら150羽も狩ってしまっていたので、予定通りに残り150羽も狩る。

 食事もしっかりしてるし睡眠も足りているのでダンジョンハイにはなっていない。

 しかし300羽の鶏が吊るされている姿を見ればババアに何を言われるのかわからないとビクビクしていたが『がんばったね』の一言だけであったので安心した。

 残された時間は再びカゴ作りである。

 またもやババアも手伝ってくれたので量産に成功する。

 この調子で続ければ一ヶ月で700羽は抱えられる規模になりそうである。
 少しテンションが上がるが、取らぬ狸の皮算用はよろしくないので堅実にいく。

 千里の道も一歩からってやつだ。

「あれだったら養鶏施設整えてやろうか? あんたがやりたいんだったら構わないよ」

「いや、大丈夫。乗りかかった舟だしやり遂げたい」

「それなら好きにすりゃいいけどね、別に金には困ってないんだから要るものがあったら言うんだよ」

 甘々に甘やかされています。
 だけど大丈夫。
 与えられた条件だけで、十分過ぎるぐらいには稼ぐ自身がある。

 今はただただ解体と竹細工? スキルを磨く事に集中する。
 歳上であったが、やはりマーちゃんには負けられないのである。

「朝ご飯足りてるかい?」

「足りてる。でも後五合ぐらいなら食べれる」

「細っこいのによく食うねぇ」

 そういや腹回りがスッキリして来た気がする。
 これもダンジョンの存在改変の恩恵だろうか?
 スマートになるのは喜ばしいが、ばあちゃんみたいに日本人離れした見た目になるのは勘弁願いたい。

 どうしてそうなったのかも近いうちに聞き出そう。







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