うちのばあちゃんがダンジョンを攻略しつつ有効に活用しているんだが、一応違法であると伝えた方がいいのだろうか?
第2話
ガチで鉈だけを持たされたままにダンジョンにブッ込まれた。
最低限の防具は整えたいのだが、ばあちゃんもマーちゃんも「イケる! 」の一点張りだった。
何を根拠にしているのかわからなかったが、実際潜ってみると心配する必要は無かった。
ダンジョンは迷宮型で其処彼処に鶏がいるのだが、多分ばあちゃんがばらまいているであろう餌を喰らうに必死であり、此方の存在などお構いなしである。
かわいそうではあるが餌を一心不乱に喰らう鶏へ鉈を一閃すれば、首を失ったままにスタタタっと暫し走った後にコテンと倒れて絶命する。
グロシュールである。
草刈りでしかない。
狩ったら脚を持って血抜きをしながらに次、持ち切れなくなれば外に出て物置で宙吊りにしての繰り返し。
位階上昇、つまりはレベルアップ的な感覚もあるがステータスは体力測定からの数値化しかないので、実際のところはわからない。
都市伝説的な【鑑定】持ちがいれば別だが、存在の確認はされていないので原始的な測定方法しかない。
世界の誰かは持ってるだろうと思うよ、だけど情報の多くは秘匿されてるから何もわからない。
ネット掲示板は活発でも眉唾だしな。
俺にできることはばあちゃん……いや、ババアの命に従って鶏を狩ることのみ。
与えられた任務を無心で遂行する。
「グエェー!!」
丸々と肥えた鶏の首を鉈で切り落とす。
魔物のくせに赤い血を撒き散らしながらに走っては死ぬ。
生命の神秘を感じながらに狩る狩る狩る切る斬るキル。
ダンジョンって言うよりは養鶏場である。
一つだけダンジョンらしい点を挙げれば、鶏が撒き散らした血を地面が吸うと、そこから鶏が生えてくる点だろうか。
魔力の神秘と一言で片付ければ簡単だが、やはりダンジョンとは不思議が過ぎるプレイスである。
大した苦労もせずに無限に湧き出る鶏を狩り殺してはマーちゃんが焼き鳥屋で売る。
バレたら保健所まっしぐらの案件である。
「真面目すぎるんだよあんたは。うちの敷地にあるもんをうちが好きに使って何が悪いんだい」
「悪いとは言ってないよ。ただ、後に面倒事にならなきゃいいなって思ってるだけ」
「心配いらないよ。みんな今回のお上のやり方には一物抱えてんだ。ここらはみんな昔から自分達で守るって話で一致してるからね」
「昔? まぁ、確かに国の独占はどうかと思うけど」
国は極力国民に悟らせたくない。
ただ素直に馬鹿であれと宣う老害ばかりである。
利権特権天下り、選民思考の格差社会にて上位に居座り続ける事を至上とする民主主義と書かれたマントを羽織っただけの自己中集団でしかない。
彼らは国民がダンジョンで力を得るのを良しとしない。
長い年月を掛けて力を削ぎ落とし、世論操作に素直に従う羊飼いでいたいのだ。
狼が増えすぎると腹の内から食い破られると知っているから。
「あんたが仕事覚えたらばあちゃんは深く潜る段取りをするからね。さっさと牛まで狩れるようになりな」
「え……あー、うん」
多分ばあちゃんはかなりレベルが高い。
ダンジョンを有効活用して地域に根付いた銭儲けを確立しているのは見てわかる。
何処の勇者だよって装飾の大剣を軽々と振り回して巨大な牛をピストン運輸しているのだから間違いない。
アパートの解約と転出届の発行をしに東京に戻りたくはあるけど、そんな猶予すら与えられそうにない空気である。
「心配すんなタキオ。鶏狩りまくってたら勝手に強くなるからさ」
「マーちゃんもダンジョン潜ってたの?」
「今でも潜ってるよ。ほら、あそこの双子山あるだろ? あれには海系ダンジョンがあるんだ。そこで大規模養殖をしてる。また見せてやっから」
「あ、うん」
なんかダンジョンの存在意義が曲解されてるような気もするけど、暮らしに欠かせない私設的な扱いである事はわかる。
「じゃあ、明日から頼むなぁー! あればあるだけ助かるからさぁ!」
ブロロロとマフラーを改造した軽トラは消えて行った。
本音を言えば風呂に入って眠らせて頂きたいのだが、ばあちゃんが未だに突貫している姿を見せつけられては休むわけにもいかない。
首刈り族となり鶏を狩ってはぶら下げて、鉈を磨いては潜ってを繰り返す。
眠い腹減ったしんどい。
でも諦めるわけにはいかない。
竹か、いいね竹。
竹はいいぞぉー!
竹はなんにでもなれる。
ふへ、ふへへへへ。
「タキィィィィ!!」
突如ばあちゃんに本気のビンタをかまされる。
痛いとかの次元じゃない。
頭が弾け飛んだと思わせる衝撃のままに意識が刈り取られ、意識を取り戻したのは翌日の朝だった。
「起きたかい。ご飯用意してるから食べな。風呂はこの石を入れたら熱くなるからね。薪はつかうんじゃないよ」
「あるぇ?」
確実にばあちゃんにビンタされてノックアウトされたのだが、何事も無かったかのような扱いである。
「ばあちゃん……あのさ」
「だまらっしゃい。外見りゃわかるよ。加減ってもんを考えな。あと、居間の窓から出入りしな。玄関から出ちゃダメだからね」
「あいよー」
よくわからないが生臭さが尋常ではないので風呂に入る。
赤い石ころは多分魔石的な何かだろう。
五右衛門風呂で旅の疲れと血生臭さを洗い流して朝食を頂く。
唸るほどうまい。
恐らくはダンジョン肉だろう。
朝から生姜焼きかよとハードルを下げて食したと同時に頭の先から爪先まで旨味が突き抜けていく。
ばあちゃんは料理が抜群にうまい記憶はあるが、素材の良さが相俟って高級料亭でも食えない絶品となっているのが恐ろしい。
一升炊きの飯櫃の銀シャリを全て平らげてしまった……。
怒られないかな?
多分、位階上昇による過度の空腹が原因だと思うけど、またビンタされないかが心配だ。
「しかし、なんとまぁ……」
家の至る所に武器がある。
玄関の傘立てに魔剣的な見た目の凄いのが乱雑にブッ刺さってるし、野菜を入れるようなプラ箱にも武器やら薬品やらなんやらファンタジー成分多量の物品が盛り沢山である。
廊下は勿論、二階まで階段、そしてオトンとおじさんの部屋に至るまで、ダンジョン系の物品で溢れた宝の山だ。
「どんだけ冒険してんだよババア」
食後は庭で軽いストレッチの後に、セブンスターを点けて一服。
煙のうまいことうまいこと。
そろそろ働きますかねと歩き出すと、何がどうなってこうなったのかはわからないが、無数の鶏がぶら下がっている。
物置だけに留まらず、竹で組まれた簡易な物干し台がズラリと並び、其処にも見渡す限りの鶏鶏鶏鶏鶏鶏。
「あぁ……そうだ……そうだった」
其処で朧げな記憶が蘇ってくる。
確か俺は鶏狩りに集中し過ぎて、ナチュラルハイになったついでに竹林を薙ぎ倒して物干し台を作りまくった。
そして鶏をスズランテープでぶら下げるのが楽しくなって無心で鶏を狩りまくった。
「ダンジョンハイだ」
過剰な魔素吸収による自己陶酔による精神離脱、一種の中毒症状である。
寝不足と疲労でナチュラルハイのままにダンジョンハイを併発させておかしくなっていたのだろう。
300羽近く鶏を狩っていたとは予想外にも程がある。
これはバラしに集中する他ないだろう。
腐ってないかな?
心配だけど、急いでやろう。
命を奪った代わりに無駄にはしないのがせめてもの礼儀だ。
お湯にぶち込んで毛を毟って解体の繰り返し。
無駄にしないように丁寧に。
心臓と肝はそのまま。
砂肝は割って餌を洗い流す。
肉身は丸鶏のままでオーケー。
繰り返しているとより効率的に的確に解体できるようになってくる。
丸鶏でいいのにぼんじりを切り離してモモ胸ササミ手羽先手羽元と分けてネックや背肝まで無意識にバラしてしまう。
楽しくて仕方がない。
もっと早く、もっと速く、もっと疾く。
的確に、寸分の違いもなく。
「う、うぉぉぉ!! 頑張り過ぎだろタキオぉぉ!!」
「あぁ、マーちゃん。でも昨日に狩ったヤツなんだ。大丈夫だと思うけど大丈夫?」
「あぁ、魔物肉なんぞどんだけ放ったらかしでも問題ない。むしろ熟成されて上手くなるから大歓迎だよ」
「良かった。じゃあ残りも捌いちゃうから」
「手際良くなってるな。解体スキルでも覚えたか?」
「わからない。けどバラすのは楽しい」
マーちゃんはカカカと笑いながらに解体を手伝ってくれる。
ババア程じゃないにしても凄まじい手際の良さである。
スキル……スキルか。
俺は荒川のダンジョンが登場した当時は、市販の金属バットで突入しただけであるからスイングのキレは増したが、これと言ったスキルは覚えられなかった。
反復行動による習熟は以前よりネットで話題になっていたが、ラノベよろしくの目に見えるステータスなどがある訳でもないので眉唾であった。
しかし今回の解体に至ってはスキル習得が出来たと確信せざるを得ない。
作業効率が先日と比べれば何十倍とも言える程に上昇しているし、先日までは丸鶏にするまででもドギマギしていたのに、今は何をどうすればいいのか自然とわかってしまう。
「スキルってさ、なんか、調べたりできるの?」
「ダンジョンに潜りまくってるとレベルアップするだろ? そのタイミングで同じ事を繰り返してたら天才かってぐらいに段取りが良くなる。そうなりゃまず間違いなくスキル持ちだ。今の感じ、わかるだろ?」
わかる。
めちゃくちゃわかるからこそ惜しい。
ステータスカードなんかで文字起こししてくれていれば、レベルアップを目論んで作業に没頭できるんだが、感性のモノでしかないのは厄介な話だ。
「なんでもやり続けてりゃいい事あるさ」
なんか上から目線なのがムカつくので、当面の目標としてはマーちゃんクラスにまで解体スキルを磨く事とする。
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ばけねこ
魔剣は草も生えない