ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

開き進むは開花のため


 鬼種オグル

 彼らの起源は人間族があることに対して追及した者の末路という点である。闘いを追い求め極めた者、自らの才能をとことんにまで極めた者、存命に執着し、他者の生命を得ることで生を極めた者。

 それらを総じて鬼と呼ぶ。

 鬼種オグルは人間の亜種として誕生したが、現在では魔族間の交配において極稀に両親の種族とは関係なく鬼種が誕生することがある。その特異性として鬼種は忌子として扱われ、命を落とす者が多い。

 何故、彼らは突拍子もなく他種族の子として生を受けるのか。

 人間族の妄執が今この世界を生きる魔族たちに深く刻まれているからなのかもしれない。






 グレンは石柱に身を隠す。

 ジェラードの能力によって出血が治まらず、意識を失ったイルザは地下牢の隅に隠してある。ジェラードの意識は完全にグレンに向いているのでしばらくは見つからないだろう。

 一度目の奇襲は成功した。

 問題は次の行動だが、いくつか手段を模索する。

 グレンの戦闘センスは残念ながら高いとは言えない。剣術や弓術を次々とモノにするイルザや、膨大な魔力によって地形を変えるほどの魔術を行使するエルザとは違い、全てにおいて平均的な能力しか発揮できない。

 ジュデッカの訓練で何度も苦渋を味わった。

 『あんたは戦闘に向いてないよ、諦めな』

 あらゆる分野で才能を百パーセント発揮すると言われる傲鬼スヴィニナにもそう言われる始末だった。

 『だが、あんたの”躍進する者エボブラー”の使い方次第で格上と互角、いやそれ以上に戦うことができるよ』

 ようやく魔力をモノにした。

 そして力を得た。

 ”躍進する者エボブラー”強術系能力、”開進開花グロウ・ブルーム”。

 グレンは植物の種を一つ取り出し、胸へとしまう。

 「そこだね!」

 藤紫色の閃光が石柱に刺さり、炸裂する。破片は凶器となり、全身に打撃が入る。

 「・・・っぐ! 上品な面の割に下品な攻撃するじゃねぇか」

 「攻撃に上下もないだろ? 殺るか殺られるかの違いだけさ。まぁグレン君の場合は殺さないんだけどね。」

 「なんで俺だけ殺さなくて、イルザは殺すんだ? 食料としての価値は同じようなもんだろうがよ」

 「仕事―――と言ってしまえば簡単で味気ないが。グレン君の言う通りダークエルフの血も人間族の血もどちらも同じくらいに希少で価値あるものだ。だが所有者となってしまったイルザ君には死んでもらわなければならない。人間は死んでも所有者は変わらないが、魔族は違う。死ぬことで所有権が他者へ移る。だから殺すのさ。とても惜しいけどね」

 ジェラードはその場に屈み、指に挟んでいた藤紫色の閃光を地面へ刺した。

 「見ての通りこの針も神界器なわけだ。名前は”宵闇の叡針シャダイ・エル・カイ”、まさかとは思うが、ただ爆発するだけの針だとは思っていないだろうね?」

 突き刺した針は地面に飲み込まれた。そして、

 「うおっ!?」

 グレンの足元から針が突き出す。紙一重のところでのけぞり、回避した。

 (まるで縫い針みたいに出てきやがった。特筆能力はなんだ!?)

 文字通り地面を縫うように突き出しては沈んでいく。持ち前の身軽さで難なく回避はできるが、攻撃に転じる隙が無い。

 (地面から突き出る速度は同じ!)

 ”妖精の輝剣アロンダイト”を手にし、後方に身を投げて針を躱すと同時に刀身を伸ばして針を斬った。

 「かかったね」

 ジェラードの不敵な笑み。

 斬られた針は強い光を放ち、無数の小針として爆散した。

 「さぁ! ”痛覚追跡ペインチェイサー”の始動だ」

 無数の針を正面から受けてしまったグレンは多数の傷から出血をしてしまう。

 「・・・はぁ・・・はぁ。痛ぇじゃねえかくそ。それに血塗れだぜちくしょう」

 全身に刺さった針は消えていた。そして止まる気配のない出血。実際にジェラードの能力を受けてグレンは理解した。

 強化された魔力によって肉体の再生を阻害し、涸れ尽きるまで血液を流しだす。もっとも効率よく、もっとも品質を高く保ち、もっとも長く抽出し続けることに特化した能力。血液を好んで摂取する吸血鬼ヴァンピリオらしい能力だ。
 
 決着を早くつけなければ失血死という運命。傷ついた個所から追うようにして死が迫る。イルザもグレンもあまり時間は残されていない。

 「その出血量じゃ立つのも限界だと思うけど、なかなか頑張るね。人間という種を見直したよ」

 「その言い方じゃ見下していたみてーじゃねえか」

 「もちろん、君たち人間族は脆弱で愚かな食料さ。まぁ僕の人間は仲間に玩具として遊ばれたけどね」

 ―――玩具、という言葉に全身が電撃を浴びせられたような衝撃を覚える。

 「お前、まさか、召喚した人間を―――」

 グレンの低く、沈むような声にジェラードは対照的にくくくと高く嘲笑う。

 「そうか、わかった。別に俺は正義の味方じゃねぇから顔の知らねぇ奴の為に戦うつもりはない。だが、手前の都合で手前勝手に命をないがしろにするのは許せねえ。敬意の無い殺しはただの虐殺だ。クソ以下のタンカスやろうのすることだ」

 「ほう、言ってくれるじゃないか? 意識を失いかけているその体でどう許さないっていうのかい?」

 グレンは胡乱げな意識を叩き起こし構えをとる。

 地面を魔力を込めた脚で複数回強く蹴り、動きを二重にも三重にも見せ気配を分散させる闊歩術。ジュデッカにて死に物狂いで唯一会得した”迅發闊歩じんはつかっぽ”はジェラードの周囲を歩む。

 ジェラードのいう通り、人間族は魔族に比べて脆弱な種族かもしれない。だからといって、はいそうですかなどと素直に引き下がるわけにはいかないのだ。神界器デュ・レムザスなんてものは関係ない。ただ守りたいものがそこにあるから強さを求め続けられる。

 「残像で僕を惑わせたつもりかい? ここはセオリーに乗っ取って対処させてもらうよ」

 ジェラードは”宵闇の叡針シャダイ・エル・カイ”を自身の胸に突き刺し、自らの肉体を引き裂いた。血液が噴水のように宙へ勢いよく吹き出す。

 「”烈血雨ブラッディ・レイン”!」

 吹き出したジェラードの血液は針の雨となり、降り注ぐ。

 血の一粒一粒は大したダメージは無い。だが今のグレンの肉体的ダメージはかなり大きい。微小のダメージも蓄積すれば槍で貫かれるのと同等の痛みを伴う。

 それでも”迅發闊歩じんはつかっぽ”を止めない。

 痛みを堪え、”妖精の輝剣アロンダイト”を強く握る。

 「セオリーなんて物語の中だけだろうがよぉ! ”迅發参閃じんはつさんせん”!」

 ”迅發闊歩じんはつかっぽ”からの派生技”迅發参閃じんはつさんせん”。

 生み出した三つの残像が対象を交差するように一閃する。

 「ぐぁはっ・・・!? たかが人間ごときに僕が斬られるだと!?」

 胴体、腕、腰。それぞれに深い切り傷を負ったジェラードは膝をつく。

 「その人間を侮りすぎだ吸血鬼ヴァンピリオ

 「くくく・・・、くくく・・・フハハハハハっ! ああ、そうだね! 正直格下だと思ってなめてたよ。ここまでコケにされると本気で殺すつもりで嬲りたくなるじゃあないか!」

 ジェラードの切り傷はみるみるうちに回復していく。吸血鬼の生命力の強さはどれほど肉体を損傷させようが衰えることを知らない。

 グレンはジェラードの傷が塞がる寸前に掌底を叩きこんだ。しかし、体の自由を取り戻しつつあったジェラードは容易く腕で防いだ。

 「なんのつもりだい?」

 鋭い針のような視線を向けるジェラード。

 「この通り剣を持つ力も残ってねぇんだ、悪あがきの一発ってやつさ」

 「清々しいまでに白々しいね。いいだろう先ほどの意向返ししとして奥の手をみせてあげようじゃないか。惜しいけど殺すことにしたよ」

 ”宵闇の叡針シャダイ・エル・ダイ”は強く藤紫色に輝く。 そしてジェラードの姿は瞬く間に消えた。

 「他の鬼種と比べて吸血鬼は戦闘力に乏しい。だが、それを補う余りある生命力! 多少無茶な肉体の動かし方をしても問題ないのさ!」

 ジェラードの姿を捕らえられない。血を流しすぎたらしく意識を保つのに限界を迎えている。

 「―――っぐぁ!」

 藤紫色の閃光が腕を貫通する。貫通してなお藤紫色の輝きは消えることはない。

 「鉄の処女アイアンメイデンという拷問道具は知っているだろ? 僕はアレが嫌いなんだ。なぜなら血液の抽出に雑味が混じりすぎる、要はまずいコーヒーのようなものさ。だからこの神界器デュ・レムザスを手に入れたときは興奮したよ」

 脇腹、太ももへと次々と閃光が貫通する。貫通した個所は身動きが取れない。

 「正確に血管を貫いて綺麗な血を抜き取ってくれるんだ! 最高と思わないか!?」

 「へっ・・・! お前とは飯を一緒に食っても楽しくなさそうだな・・・!」

 グレンのセリフに感情が沸き立つジェラード。

 「図に乗るなよ・・・死にぞこないガぁ!! とどめだ、”慟哭の抜針ウェイリング・アペガ”!」

 グレンの背後を取り、五寸ほどの大針を心臓目掛け貫こうとする。

 「―――な・・・に、?」

 ジェラードは糸を切られた人形のように崩れ落ちた。ジェラードの全身には絡みつくように植物の蔦がうねりを上げる。そして、心臓部には風船のように膨らんだ実が脈打っていた。

 「”透析植物”の種をお前に植え付けておいたのさ・・・」

 「バカ・・・な!? こん・・・な、透析植物なんて・・・みたことない、ぞ・・・!? それ、に、いつの間に・・・?」

 透析植物とは餌を求めてやってきた虫を蔦で絡めとり体液を吸収、不要な物質のみ栄養とし濾過された体液を元に戻す非常に小さい植物である。

 ジェラードを襲った巨大透析植物はグレンの”躍進する者エボブラー”によって急成長急進化した個体である。進化したことによって必要となる栄養が膨大となり、体液のほとんどの栄養を吸収してしまう。その結果、再び体内に戻る体液はほとんどが水分。そして一度に体液を吸い取る量はおよそ五リットル。

 その植物の種をグレンは掌底を放った隙に”妖精の輝剣アロンダイト”で斬った傷に植え付けた。

 「お前は自分の再生能力に慢心しすぎだ。いいじゃないか、吸血鬼らしい最期だぜ。それに奥の手というのは最後にとっておくもんだぜ? 物語でも、現実でもな」

 グレンを拘束していた藤紫色の針は光と消える。そして、傷から流れ続けていた血は凝固を始めた。

 「これで・・・イルザも・・・守れ、た―――」

 緊張が解けたグレンはその場に倒れる。短時間のうちに血液を失いすぎた。リスティアを助ける体力はもう残っていない。

 死ぬことはないだろうがしばらくは起きることは出来なさそうだ。後は任せたぜ、イルザ。

 意識を失う前に心の中でグレンは呟いた。

 「くくく・・・くくく・・・。僕の、負け、だよ・・・。ああ、ボス。すまないね。新世界・・・見たかったな―――」

 体液を全て吸い終え、透析植物は鮮血よりも鮮やかな真っ赤な花を咲かせた。


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