ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

再会


 港町クライステ。 

 二週間後に闘技大会を控えたイルザ達は移動の為に港町へと来ていた。初めて目にする海は壮大で、磯の香りがどこか懐かしさをかき立てていた。

 「これが海・・・。なんというか、家でもないのに帰ってきた気分になるわね」

 「なぁーにセンチメンタルになってんだよ」

 けけけとイルザを茶化すグレン。

 「我が国の学者によると、生物の全ては海から誕生した。という説があるそうですよ。なんでも体液と海の成分がほとんど同じだそうです。だからイルザさんの帰ってきた気分というのはあながち間違いではないかと」

 リスティアは海を眺めながら大きく深呼吸をした。ジュデッカ国内では転送魔道具で領内を行き来できるが、巨大クレバスの外に移動できない。王都からクライステまで馬車の旅で体のあちこちが痛かった。

 「船の出発までまだまだ時間があるみたいだし、どこかで食事でもとりましょう。リスティアさん、この港町のおススメのご飯ってあります?」

 ごはんという単語を聞いて疲れで陰鬱としていたエルザに活気が戻った。

 「そうですね、せっかくの港町ですし海産物なんてどうでしょう? 新鮮なので生で食べられるのですよ」

 「生・・・かぁ、焼いてある料理もありますか?」

 妹のエルザはすっかり肉の類は克服していたが、イルザは依然まだ少し苦手なままだった。加熱済みであれば問題なく食せるが、生食となると匂いが強くて耐えきれない。

 「もちろん塩焼きなんかも脂がのっていて美味しいですよ。さぁ向かいましょうか」

 港町クライステには何度も訪れているリスティアは慣れた足取りで町の中を進む。

 ジュデッカほどではないが、北に位置する港は海風が強く気温が低い。砂浜は伽藍としていて波の音だけが静かに聞こえる。海岸から町に移動すると、波の音から人々の喧騒が大きくなる。漁港も兼ねているようで、水揚げされた魚の取引を行う市場や取れたての魚をその場で食せる飲食店が立ち並んでいる。

 その飲食店の一つにリスティアを先頭にして中に入る。

 カラン。と扉を開けるとともに音が鳴り、いらっしゃーい! という店員の活気のいい声が店内に響き渡った。

 五人が据われるテーブル席に案内され、イルザとスミレの二人、エルザとグレンそしてリスティアの三人が横に並んで座った。

 「・・・どうしてリスティアさんはこちら側なの」

 「どうしてと言われましても・・・グ、グレンくんのよ―――」

 「よ?」

 もじもじ頬を染めるリスティア。そんな様子を見てエルザの表情がむすっとなった。

 「まぁまぁ、誰がどこに座ろうがなんだっていいじゃねぁかよ。そんなことより注文何にするかとっとと決めようぜ」

 エルザとリスティアの態度に気を止めるわけでもなくグレンはメニュー表を眺めている。

 「こ、これが大人の修羅場ってやつなのですね・・・」

 スミレは嬉しそうに三人のやり取りをみるなり小声でつぶやいた。

 「やーっと足止めから解放されるんスね~。待ちくたびれすぎて乾燥わかめみたいに体が縮こまってしまったっスよ~」

 「仕方ねぇもんはぁ仕方ねぇんだよ。俺達みたいなちっぽけな存在ってぇのは自然様には勝てねぇもんだ」

 注文していると店の入口の方から聞き覚えのある声と話し方が聞こえてきた。

 「イルザさんイルザさん、あの声ってまさか・・・」

 「ええそうねグレン。たぶんあってると思うわ」

 体を小さくしてひそひそと確認し合う二人。

 「?? どうかされたのですかイルザさん、グレンくん?」

 『しーーーーっ!!』

 「・・・二人の方がうるさい」

 そんな声に気がついた三人組がイルザ達のテーブル席に近づいてくる。

 「おーーっ! 聞き覚えのある声だと思ったらイルザさんたちじゃないスかー! どもども! ご無沙汰っス!」

 「なんでぇ、イルザの嬢ちゃんじゃぁねぇか。なにもこそこそするこたぁねぇだろう。なんだ? 一戦交えるか?」

 「久しぶりね、ヴェンデ」

 イルザとグレンの予想通り、声の主はヴェンデとアウラだった。もちろんその後ろには何故か獣人族のようにネコ耳肩のカチューシャとどこから生やしているのかわからないネコの尻尾のコスプレをしたコルテが立っていた。

 二人がどうしてこそこそとヴェンデから隠れるような行為を取ったのか。それは、ただ単に気まずかった。千年戦争の遺跡で謎を解いてヴェンデ達を驚かせてやろうとは思っていたのだが、遺跡を管理するジュデッカの騎士魔王ニルスが許可しなかった。遺跡の調査はイルザ達がラ・ヴィレス魔王国での闘技大会で戦っている間に騎士団が慎重に調査を行うとのことだった。

 「こんなところで飯食ってるってぇこたぁ遺跡の方は終わったのか?」

 「それが、遺跡に近づくと神蝕が起こるかもしれないって言われて、調査は後回し。今はそこを管理している魔王様からの依頼でラ・ヴィレスで開催される闘技大会に参加予定なの」

 「ほぅ? そいつはまた―――」

 闘技大会。という単語を耳にしたヴェンデは黙りこくった。闘鬼の闘争本能が刺激されて俺も参加するなどというのではないかと、様子を伺っていると。

 「奇遇も奇遇っスね~。 ボク達もその大会に参加するつもりだったんすよ。だけど天候が荒れるわ、人数は足りないわでこの港でずっと立ち往生してたっス」

 「天候が荒れていたのは恐らく精霊ですね」

 「おおっ? そう言えばお初の方がいらっしゃいますねぇ~?」

 「ええ、紹介するわ。こちらはジュデッカのから私たちに同行してくれているリスティア・フォックロイさん」

 イルザの紹介に合わせて軽く会釈するリスティア。そしてイルザは続けてヴェンデ達三人を紹介する。アウラの性別を聞いたときのリスティアの反応は、驚愕と羨望の様な声を上げてアウラをまじまじと見つめていた。

 今後のことを話し合うために大人数で着席できるテーブルに移動したイルザ達。

 「闘技大会で神界器所有者を集めるねぇ・・・。奴ならやりかねねぇなぁ」

 「奴・・・? ヴェンデさんは幻葬の鐘セクステッドのロウをご存じなのですか?」

 「ああ、ちぃと奴にはぁ借り・・・というか因縁がある。イルザの嬢ちゃんにはちっとだけ話したと思うが、俺が追ってるっつーのはそいつのことだぁ。奴は狡猾でてめぇの手を汚さずに利益を得ることに長けているとんでもねぇクソったれだ。
 闘技大会っつーことは当然、賭博が開かれるだろうな。欲望に漬け込む技術は天下一品。神界器を手にしたやつは力を振るい自己承認欲求を満たし、観客は一獲千金を夢見て懐を満たす。そんなところだろぅよ」

 「ええ、ロウはヴェンデさんがおっしゃる通り幻葬の鐘では賭博場運営を縄張りにしていました。メンバーの中でも表と裏の仕事を両立させているのは彼だけでした」

 「それにしてもリスティアさんってば随分とロウについて詳しいっスね~。実は幻葬の鐘からの刺客だったりしないっスよね?」

 楽天的な表情から一転、アウラは険しい表情でリスティアを睨みつける。誰にでも気さくに接するアウラがここまで敵意を剥き出しにしているのは珍しく、イルザ達はその気迫に飲まれそうになる。

 「安心してください。この身と心はジュデッカの騎士魔王ニルスさまに捧げています。私のことを信頼しろとはいいません。ですが、幻葬の鐘が気に入らないのは私も同じです。ご所望であれば情報を提供しましょう。諜報員として幻葬の鐘の情報はそれなりに持っているつもりです」

 毅然とした態度でリスティアはアウラの敵意を突き返した。

 「アウラ、ステイ、ハウス」

 「ボクは犬じゃねぇーっスよ!? ああもう、コルテのせいで締めるところを見失ったじゃないっスか~! 
 おほん、えーっとイルザさん。お邪魔でなければボクたちを闘技大会のメンバーに入れて貰えないっスか? 見ず知らずの人をメンバーにするよりも知っている人の方がめんど―――、戦術を組み立てやすいっスから」

 「はいはい、ヴェンデが誰にでも喧嘩売ってメンバーが見つからなかったのね。でもいいわよ、むしろこちらからお願いしたいくらいだわ」

 イルザ達の話を食事を取りながら聞いていたエルザとスミレはコルテとハイタッチをしていた。すっかり仲のいい友人にまで関係が進展していた三人は嬉しそうだった。

 「なら決まりだな、しばらく世話ぁなるぜ。イルザの嬢ちゃんよ」

 イルザとヴェンデは握手を交わす。戦力としては申し分ない。神界器の所有者が二人もいるチームは他にいないだろう。

 「ところでヴェンデさんといえば・・・老スヴィニナの?」

 すっかり失念していた。ジュデッカに滞在している間、あの老婆には血の汗をかくほどみっちりしごかれていたので、出来れば思い出したくなかった。

 「何ぃ!? あのクソババァまだ生きてやがったのかぁ!?」

 スヴィニナの名を聞いた途端ヴェンデの表情は青ざめた。一番弟子であるヴェンデはイルザ達以上に厳しい鍛錬を課されていたのだろう。

 「ええ、伝言も一応受けっとていますが―――」

 「いや、言わなくてもわかる。どうせあれだぁ、『早いとこ顔みせなきゃブチコロス』とか親指を地面に向けるオマケ付きとかそんな感じだろぅよ」

 ヴェンデの言う通り、非常に短い伝言は一字一句同じだった。伝言時の動作までまるごと同じというのはそれはそれで恐ろしい。

 外の通信晶石から出向時間を知らせる放送が流れる。

 ちょうど食事を終えたイルザ達は、新たに仲間として迎えたヴェンデ達と一緒に船乗り場へと向かった。



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