ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

氷葬の棺


 「・・・グレン!」

 「エルザさん駄目っ、見つかったら封印できなくなってしまいます」

 「だけど――」

 「スミレさんの方を見てください。あの金色の輝きはいったい・・・」

 「あれは神界器デュ・レザムスの輝きだよ」
 
 イルザの様子を見ている背後から別の人物が話しかける。

 「老スヴィニナ! どうしてこんなところに!?」

 「バカたれ、映像晶石であんたらを見とるといっただろ! そんなことより、状況はかなり切迫しているね。あんたが居ながら何やってんだいまったく」

 「こ、言葉も出ません・・・」

 スヴィニナの叱責によりしゅんと身を小さくするリスティア。立場のせいもあるだろうが、何よりスヴィニナの迫力が凄まじい。リスティアでなくてもスヴィニナの説教は誰でも縮こまるだろう。

 「あたしゃあそこで寝てる坊主を回収してくるよ。あんた達は封印魔術の準備でも進めておきな」

 「は、はい! 了解しました!」

 そう言い残すと、ほんのひと蹴りで一気にグレンの傍まで近づいた。
 



 「スミレ! 動きを止めないで!」

 「はいです!」

 戦闘態勢に移行したベアゼルブの触手による乱打は休まるところを知らなかった。視界の中で三本、外から二本の組み合わせで薙ぎ払い、突きを繰り出してくる。二人は弓を引きつつ、攻撃の隙を触手を避けながら伺う。

 “極光の月弓アルテミス”を手にしたイルザは、今までの戦闘をイメージする。固有能力、自在具現化。あらゆるモノを矢に変換し、軌道・着弾の自在に操作できる。魔力を矢にすることも出来るが、外魔力が薄い空間では効果的ではない。ベアゼルブの攻撃を避けながら少しずつ小石を集める。

 「今っ!」

 小石の矢を射る。

 矢の軌道は触手を縫うようにくぐり抜け、ベアゼルブの胴体を捕らえる。

 矢は命中。しかし。

 「呑み込まれる! 威力が足りない」

 刺さった矢は胴体の泥が呑み込む。着弾と同時に胴体に纏っている泥が矢の衝撃を吸収し、威力を弱めた。

 ベアゼルブは怯むことなく触手による攻撃を再開する。

 スミレもまた小石を拾う。イルザの様子から単発では効果が無いことを察した。

 「イルザさん! 弾ける矢を射るです!」

 「弾ける矢・・・!? そういうことね!」

 イルザは小石を複数握りしめ一つの矢に変化する。

 (触手を少し減らさなきゃ)

 弓と矢を左に持ったまま、右手で剣を振るう。触手の先端は石のように硬い。中腹を狙い、切り落とす。

 「同時展開うまくいったわ、あとはお前よ!」

 剣を収め、矢を射る。

 難なく、矢は胴体を貫く。先程と同じように、泥が衝撃を吸収し、威力を消滅させる。

 「中から弾けろ!」

 突き刺さった矢は黄金の光を放つ。一つの小石の矢はベアゼルブ胴体の中で複数の小石が弾け、破壊する。

 「グォォォォオオオオオ!!!」

 痛覚があるのか、絶叫するベアゼルブ。背中の触手は激しく揺れ踊り、手当たり次第に壁を壊す。

 「内側からの破壊に弱いみたいね。どんどん行くわよスミレ!」

 着弾した部位は大穴が開いていた。この調子で攻撃を続ければ弱らせることができる。活路が見えてきたイルザとスミレは同じ手段で攻撃を続ける。

 “極光の月弓アルテミス”が敵であった時は厄介だったのに、今はこの上なく頼りになる。剣と弓、遠近両用の戦術が取れることに更なる成長を感じるイルザ。

 雨のように矢を射続ける。一方的な遠距離からの蹂躙。ベアゼルブの胴体はみるみるうちに弾け、分散していく。

 「イルザさん、様子が変です。もしこれが本当ならもう私たちに手段は残ってないです」

 分散した胴体の破片が、一か所に集まり形作る。

 「不死身・・・なの!?」

 攻撃を当てていた本体はいつの間にか消えており、別の場所に新たなベアゼルブが形成されていた。

 「もう一度よ!」

 完成しつつある胴体に矢を射る。だが、矢は弾けない。

 なんとベアゼルブは刺さった矢をすぐさま体内に取り込み、弾けると同時に矢の周りを硬化させて防いでいる。イルザの内部破壊を学習し、対策を取られた。

 (体力的に限界が近い・・・。新しい技を考える余裕もない・・・。この上なく絶望的状況)

 撤退の文字が脳裏に浮かび上がる。

 その文字を振り払い、今は目の前のベアゼルブの攻撃に集中する。だがイルザの中で決定的なものが折れた。

 (もうダメかもしれない)

 「諦めるにはまだ早いよ小娘!」

 頭上を飛ぶのは老婆、スヴィニナだった。

 「ここからはあたしに任せな。リスティア! とっとと準備しな!」

 「ですがこいつに攻撃は――」

 「若いもんは黙っとれ! この亡霊はあたしじゃなきゃ手に負えないよ」

 亡霊、スヴィニナはそう言った。泥で形成されている肉体があるのに亡霊というのは矛盾がある。だが、スヴィニナの口ぶりからするに、倒し方があるようだった。

 「ほら! 巻き添え食らって殺されたくないならとっとと下がりな!」

 すぅ、と大きく呼吸。

 大気が揺れる。

 スヴィニナの存在感の大きさが比例するようにスヴィニナの体内の内魔力マナが膨張する。

 「――ッ」

 呼吸を止め、刹那。転送テレポートされたかのような速さでベアゼルブの懐に詰め寄り、掌底を当てた。そして再び転送テレポートされたような速さで元の位置へ戻る。

 「リスティア! 出番だよ!」

 「はい!」

 遠くから準備を整えていたリスティアの眼帯は外されており、両の瞳が開かれていた。

 「封印術式”氷葬の棺アイシクル・コフィン”」

 呪文名を鍵に術式が起動する。リスティアの銀の右目が左目にも移り、魔力が増幅される。

 『グォォォォオオオァァァァ!!』

 スヴィニナの掌底を受けたベアゼルブは硬直していた。そして、全身に亀裂が入り、風船が割れるように勢いよく霧散した。

 それと同時にベアゼルブの足元から魔法陣が出現し、霧散する肉片を氷が捕らえ、氷結させる。連鎖するような氷漬けはみるみるうちにベアゼルブのすべての肉体を氷の中に閉じ込めた。

 「封印・・・、完了・・・」

 目を閉じ、その場に倒れこむリスティア。エルザはリスティアを支えて、楽な姿勢で横にさせる。

 「ありがとう、エルザ、さん。眼帯。もらえますか」

 エルザから眼帯を受け取ったリスティアは震える手で装着する。

 「リスティアさん・・・その目・・・」

 「この目は呪いのようなものなんです。だからあまり気にしないでください」

 静かにほほえむリスティア。内魔力マナの消耗が激しいのか疲弊しきっている。

 「どうやら無事に封印できたみたいだね」

 「老スヴィニナ。一体どうやって――」

 「難しい話はあとだよ。先にやることやるよ」

 そう言うと地下広間の奥へと歩き出した。

 (一撃の掌底で倒すだなんて、確かヴェンデと初めて試合したときも似たような打撃をしていたような・・・)

 寸止めであったが、背後の森がめちゃくちゃになったヴェンデの打撃を思い出し、身震いする。

 「イルザさん、ここはエルザさんに任せて私たちはスヴィニナさんに付いていくです」

 「え、ええ。そうね」

 老スヴィニナの後を追いかけるイルザとスミレ。ベアゼルブを封印したことにより少しだけ空気が軽くなったことを感じた。






 地下広間を抜けると氷の小部屋へ辿り着いた。その部屋は手足が凍り付くほど寒く、奥には凄まじいエネルギーを放つ柱が立っていた。

 「これが、精霊セルシウス・・・?」

 「正確には精霊の力を留める要石だがね。さて・・・、うむ、やはり外魔力が荒れていた原因は先
の亡霊のせいだね。今はもう正常に機能しておるよ」

 「よかったです。これで無事帰れるですね」

 歓喜の声を上げるスミレ。どうやら外魔力オドの暴走が収まったおかげで体力の回復が早まったらしい。

 「それにしてもスヴィニナさん、亡霊とはどういう意味なんでしょうか?」

 用件も一応完了したので、イルザは先程から引っかかっていたことを問いかける。亡霊、古代魔獣ベアゼルブとは何なのか。

 「古代から現代にかけて本来の寿命を超えて生きているなら皆亡霊だよ。無駄な長生きを代償に肉体が液化しているのがその証拠さね。長生きし過ぎるというのも考え物だねぇ・・・」

 独り言のように呟くスヴィニナはどこか悲しげだった。

 「でも、スヴィニナさんはどうして、古代魔獣なんてものの倒し方をしっていたのですか?」

 「昔に起こったことは大体ニルスに聞けば解決するのさ。倒し方自体はあんた達と同じ内部破壊を手の平でやっただけだよ。問題だったのは封印するタイミングと内部破壊の規模だね」

 簡単に言ってくれるが、常人は手の平で肉体を内側からバラバラにできない。さも当たり前のように応えるこの老婆は種族の名前通り傲慢に満ちている。

 「そんな簡単に言われても――」

 「つべこべ言ってないでとっとと帰るよ! 老体にこの寒さは腰に応える」

 腰にダメージが行くのは明らかにベアゼルブへ近づいたあの動きでは? と密かに思うが、口にすると説教されそうなので内に秘めておくことにした。

 イルザ達は無事に精霊を守るという任務を達成した。

 王ニルスから特別報奨として千万ゼルグと勲章を受けとった。精霊を守るというのはジュデッカだけではなく世界をも救うということだと後から知らされた。そんな大規模なことを少数で解決させるとはかなり無茶だと抗議したが、ニルス曰く古代魔獣というのはそれほど脅威ではないから問題ないと返された。それよりも来る闘技大会まで技を磨けとの命令も受けしまうありさまだった。

 イルザ達の活躍はジュデッカの騎士団に風に乗る速さで噂が広まり、訓練相手を願い出る者が絶えなかった。

 しばらくの間は戦いには不自由することは無いだろうと、諦め半分。騎士団相手に己の技を磨くイルザ達であった。
 


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