ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

師範


 グレンとスミレのペアで行っている演習は戦術の取り方によって素早く終了、あるいは長期戦となる。

 イルザが小隊長レギルを撃破した頃、グレンペアは四戦目で苦戦していた。演習場所は氷の樹海、闘技場のように囲いはあるがそれなりに広く視界が悪い。スミレの弓で二人撃破、という訳にもいかず罠をしかけ索敵の繰り返しだ。

 この演習のルールはペアのどちらかに矢が当たる、罠にかかる、の二つの内ひとつでも達成出来れば勝利である。剣での攻撃は無効である。

 なんとか三連勝できたが、相手はプロである。罠にかけるだけで勝利というのもそろそろ厳しくなってきたと感じるグレン。

 そんな中、不思議な力を右手の紋章から伝わる。

 (この感じ・・・イルザのやつ、新しい力を得たのか・・・!?)

 「どうかしたですか?」

 スミレがグレンに様子を伺う。草陰に二人で潜伏しているので声は最小限にして言葉を返す。

 「イルザが強くなった・・・たぶんだが。ちょいと試してみたいもんだが迂闊に動けねぇもんなぁ」

 今の対戦相手は索敵に特化したペアだ。開始とともにグレン達は敵に見つかってしまい、逃げ隠れを繰り返して今の状況である。もちろん敵は発見出来ていない。

 神界器デュ・レザムスの性質のひとつ、主が新しく力を得るとレプリカも同じ能力を扱えるようになる。しかし、その能力をグレン自身が見ていないのでどんな能力なのかは使うまではわからないビックリ箱状態である。

 新しい能力を使用することでこの状況を打開できるか。

 グレンの予測では体を晒すだけで見つかってしまう。罠を仕掛けるのは不可能、スミレの矢を当てるにも索敵はできていない。実際詰みである。

 「しかたねぇか。スミレ、速攻を仕掛けよう。同時に飛び出して走る、恐らく相手は矢を撃ってくるから警戒してくれ。撃ってきた方向へ走れば接近戦へ持ち込むことが出来る。俺が連結刃で拘束してその隙に弓矢で仕留めてくれ。かなり運任せだがこれしかねぇ」

 「了解しましたです」

 「よし、行くぞ!」

 二人は草陰から飛び出す。それと同時に"妖精の輝剣アロンダイト"を握り、走りながら飛んでくる矢を警戒する。

 「きたっ!」

 予測通り姿を現しただけで見つかった。矢をギリギリのところで避け、飛んできた方向を確認。

 「俺の後ろから着いてこい!」

 「は、はいです!」

 ジグザグに撹乱しながら走る。そろそろ場所替えを終えて二撃目の矢を撃ってくるだろう。矢を撃ち落とすには剣の面で叩くと当たる面積が多くなるので比較的安全。

 「新しい力を見せてくれよ!」

 グレンの予測は気持ちのいいくらい当たっていた。矢を撃つタイミング、方向、高さ。ただ外したのは。

 「っげ!  短っ!  てか、この剣、面がほとんどねぇ!!!」

 "武器破砕"の形状は短剣型で、面は二又となっている。正確な予測は仇となり、飛んでくる矢は"妖精の輝剣アロンダイト"の中央をくぐり抜ける。

 「ぐふぁ!!」

 「ググ、グレンさん!?」

 幸いにも矢は非殺傷の物、だが当たると痛い。矢は見事にグレンの胸部へ当たり、へんな声を上げて仰向けに倒れてしまった。

 「試合終了!」

 小隊長による終了のお知らせ。

 新しいものはとりあえず先に確認しましょう。今回グレンとスミレが受ける教訓だった。






 王都グリシノゼルグは正午の知らせを中央広場の鐘で知らせる。イルザの演習が終わって数分後に、その鐘の音は鈍く大きく響き渡った。

 「午前の演習はここまでです。お昼休憩を各自取ってください。あと、伝言で皆様の客室に荷物があるとのことです」

 剣士隊小隊長レギルの指示によりお昼休憩を取る事になった。とりあえず、皆と合流するため他の小隊の演習場所を教えてもらい、一番近いグレンの演習場所へ向かった。

 「よ、よう」

 落ち込んだ様子のグレンとスミレ。

 「演習はどうだったの?」

 「ええっと・・・、四戦目で負けたです」

 「俺的には勝てたと思ったんだがなぁ、まさかあんな場所に伏兵が潜んでるとは思わなかったぜ」

 「正面から矢を受けていたと思うのですが・・・」

 「つまり、普通に負けたのね」

 「うるせぇ!  なんだよあの新しい形状は!  おかげでビックリ人間ショーだぜ!」

 興奮気味に怒りを撒き散らすグレン。スミレが言うには、針に糸を通す作業を剣で行ったとかなんとか。

 負けたとはいえ、それなりに得たものはあったらしい。グレンをなだめつつエルザの演習場所へ向かうと、エルザが地面に大の字で転がっていた。

 「大丈夫!?  ていうか寒くないの?」

 「・・・大丈夫。ちょっとだけクールダウンしていただけ」

 ちょっぴり悔しそうな表情を見せたエルザ。きっと負けたんだなとイルザは察し、それ以上は聞かなかった。

 「おいおいおい、ボロッボロじゃねぇか。  もしかしてエルザも負けたのか?」

 仲間を見つけた喜びなのか上機嫌になるグレン。感傷的になっているのだからあまり刺激しない方がいいとイルザ注意しようとした。

 「ほら、いつまでも寝てたら雪に濡れて風邪ひくぞ」

 グレンは手を差し伸ばした。こういうことが出来るのがグレンのいい所だとイルザとスミレは感心した。

 「・・・ありがとう」

 戸惑いをみせるエルザはグレンの手をしっかりと握り体を起こす。

 「あとこれも着とけよな。ん?  なんか顔赤くねーか?」

 着ているコートをエルザの肩に被せ、流れるように手のひらで熱を測る。

 「――っ!」

 「んー・・・あるような、ないような。とりあえず部屋に戻るか」

 「そうね、なにか荷物が届いているみたいだし戻りましょう」

 「これが、オトナですか・・・」

 スミレがよく分からないことを納得したように独り言を呟いている。イルザたちの中で一番年少なのがコンプレックスなのか、最近は大人について研究している。それもそのひとつなのだろう。


 各自部屋に戻るとテーブルの上に封筒と魔法石が置いてあった。

 封筒の中には紙束とリスティアからの手紙が入っており、中の紙束はジュデッカで流通しているゼルグ紙幣というお金らしい。客員騎士としての給金として二十万ゼルグを支給してくれたとの事だ。

 そして封筒と一緒に置かれている魔法石には"識別魔術マーカー"が込められている。"識別魔術マーカー"が込められた魔法石の魔力を取り込むと術者の任意で魔術の干渉をするかしないかを切り替えることが出来る。今回の場合、騎士団の関係者、ジュデッカの入国証として識別されるらしい。

 最後に一文、午後の予定について書かれていた。騎士団の師範役に会わせるのでトレーニング室前の部屋に集合。なぜ、トレーニング室ではなくその前の部屋なのかは疑問だったがすぐに解消した。






 「それにしてもこの国の飯なかなか美味いよな〜!  特に魚の脂のノリ具合がヤバい」

 「・・・同意。けどグレンの語彙力の低下が心配」

 「ヤバいに色んな感想がこもってんだよ。えーと、城内地図によるとそろそろトレーニング室に着くはずだが・・・。」

 昼食を終えて、メイドから城内地図を書いてもらった。その地図を頼りに城内を練り歩くイルザ達。

 「あれ、リスティアさんかな?」

 「多分そうだな、トレーニング室前もすぐそこだし。おーい、リスティアさーん!」

 「はわわわわわわっ!  み、皆さんいらっしゃったのですね」

 急に声をかけられて驚いたのか、リスティアは動揺している。

 「トレーニング室前で何しているんですか?」

 「ああ、えーっとですね。困ったことに師範役が出てきてくれないのですよ」

 とほほ、と肩を落とすリスティア。トレーニング室前にある部屋。そこに師範役が生活しているが、教えることは教えたという理由で引きこもりになったという。

 「スヴィニナ師範開けてください!  神界器デュ・レザムスの持ち主ですよ!」

 扉を叩きながら出てくるように説得を続けるリスティア。すると扉から声が響いた。

 「なに?  最近耳が遠くってねぇ、なーんにも聞こてこんわ!」

 「で、す、か、ら!  神界器デュ・レザムスの!  持ち主が!  いるのです!!  ここに!!」

 聞いたことの無いリスティアの大声。その声が城内に響き、しばらくの無音が続いた。

 「さっさと入りな」

 沈黙から浮き出るように扉から現れたのはスミレと同じくらいの背丈の鬼族の老婆だった。だが、見た目とは裏腹に鋭い目付きと厳格な覇気は力強い存在感を与える。

 老スヴィニナに部屋への入室を促され中に入ると、水晶で出来た部屋に不格好な草束で編んだ床板が二十枚くらい並んでいる。リスティア曰く畳という床らしい。

 「その小娘が神界器デュ・レザムスの持ち主かい」

 「は、はい。イルザ・アルザスといいます。今はこの国の客員騎――」

 「む、あんたからアイツの臭いがするね、アイツのことだから神界器デュ・レザムスの魔力に無意識につられたかね」

 老スヴィニナはイルザの匂いを嗅ぎ、「世間は狭いねぇ」と煩わしそうにいった。

 「もしかしてヴェンデをご存知なんですか?」

 「ご存知も何もアイツはアタシの弟子だよ」

 リスティアを除いてイルザ達は驚きの声を上げた。老スヴィニナの言う通り、世間の狭さとあのヴェンデに教えを乞う人物がいた事に驚きを隠せない。

 「うるさいね!  そんなに大袈裟に叫ぶことじゃあないよ、弟子のことは今はどうでもいいわい」

 「あ、あの・・・」

 恐る恐るだがイルザはヴェンデについて言わないといけない気がした。

 「なんだい!」

 「そのお弟子さん・・・神界器デュ・レザムスの持ち主ですよ・・・。しかも二つも」

 「―――――。  ・・・・・・。  はぁぁぁぁあああ!?  あのバカ余計なことに首突っ込んで本当に馬鹿野郎だね!?」

 「わ、私に言われましても」

 とんだとばっちりを食らうイルザ。どうやらヴェンデが神界器デュ・レザムスを手にしていたことは知らなかったらしい。

 「まぁいいわい、神界器デュ・レザムスの持ち主になったからには馬鹿弟子程度には強くなって貰わなきゃ宝の持ち腐れだね。リスティア、例の件はどうなったんだい」

 「はい、スヴィニナ師範のおっしゃる通り異常が起こっています」

 「そうかいそうかい」

 ものすごくストレートに皮肉を言われた気がする。そして、例の件。イルザは面倒なお使いを頼まれる気がした。

 「修行を兼ねて小娘たちには地下へ潜ってもらうよ。さっさと行くよ!」

 引きこもりの婆さんは予想以上にアグレッシブな鬼婆だった。



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