ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

幕間 BBQ



 アウラの性別が男性だと判明し、スミレやコルテ各々が親交を深めた後日。


 一行は鍛錬の休息としてヴィアーヌ湖にてバーベキューを楽しんでいた。事の発端はグレンがヴェンデ達から受け取ったホロホロ鳥を食べたいと声を大きくしてイルザに調理を頼んだからである。


 生肉特有の生臭いのが苦手なイルザは即、断った。しかし、たまたまその現場を発見したヴェンデによって「どうせ食うなら楽しく食おうぜ」という発言によって急遽、バーベキューが催された。






 「ガキ共はぁ湖で遊んでろ。だが、少年は別だ。俺の手伝いだ」


 年長者としてバーベキューはヴェンデによって取り仕切られた。手馴れた作業で手頃な石を集め、即席のコンロを作り上げた。


 「あっという間にコンロが出来ちまった。オッサンはなんでも出来るんだな」


 「何でもは出来ねぇよ、これも生きる為の知恵と技術だ。食事ほど生きて戦う為に必要なものは無ぇってこった」


 ヴェンデは魔術で木炭に火をおこす。淡々と作業をこなすが、どこか楽しんでいるようにも見えた。


 「ところでデッケェ方の嬢ちゃんは菜食主義かなんかか?」


 野菜と肉を交互に串に通しながら、イルザの肉嫌いについてグレンに問う。


 「菜食主義かって言われると微妙だな。肉を断る時はいつも、臭いからって言ってるから食うこと自体は問題ないと思うんだけどな」


 「ほう、そんで?  ちいせぇ方の嬢ちゃんも同じなのか?」


 食事はイルザ一人で用意している。なので要望がある時はイルザに言うが、エルザに対して肉食いたいと言っても意味が無い。故に、エルザが肉を食べることについてどう思っているか今の今まで考えたこともなかった。


 「その様子だと知らねぇみてぇだな。まぁ、少年に肉を渡した時の嬢ちゃんの様子を考えると、姉妹揃って臭いがダメそうだがな」


 「ていうか、何でいきなりそんなこと聞くんだよ。休息としてバーベキューはまだ分かるけど、何もイルザ達の肉嫌いまで追求しなくてもいいんじゃ」


 「少年よぉ、物事には何かと理由が付いてくるもんだぜ?  もちろん、エルフもといダークエルフは好んで肉を食わねぇ。だが一切食わねぇわけじゃねぇんだ。力をつけ、生きるために肉を食うことは必要で、生き抜くには避けては通れねぇ。嬢ちゃんらの反応はちと異常だ」


 「つまり・・・何かが原因で臭いが苦手になった。ってことか?」


 「その可能性もあるってぇことだ。まぁ無ければそれでいいんだがよぉ、肉を食わせるのは確定だがな」


 意地の悪い笑い方をするヴェンデ。その姿は完全にオッサンのそれだと心の中で毒づいた。


 「けどアイツらに食わせるのはなかなか難しいと思うぞ?」


 「なに、その点は心配いらなぇよ。追加で持ってきたこいつを野菜に詰め込んで焼けば見た目はバレねぇ。オマケに焼き上がると肉の臭いはほとんどしねぇから口に入るまでは絶対に臭いで悟られることはねぇさ」


 そう言いながらヴェンデは自信満々に肉を詰める。もし、バレたことを考えると背筋が凍りつく。イルザたちがその串を手にした時は少し距離を取ろうと、楽しげなヴェンデを余所にグレンは安全策を練っていた。






 一方イルザ達はコルテが用意してくれた水遊び用の衣服に着替え、水を掛け合ったり、潜水で競い合ったり楽しんでいた。


 「どうしてアウラは女性用を着ているのよ?  私達は知らないけれど、男性用はズボンタイプが普通ってコルテから聞いたわよ」


 女の子らしいつり目の整った顔立ち、肌は白く華奢な腕や足を見ると誰であろうとアウラが男性とは思わないだろう。実際、イルザらはヴェンデから教えてもらうまでは女の子と思っていた。


 「ボクは可愛いのが好きなんっスよ〜。自分でも特殊な好みしてるなーとは思うっスが、好きなものは好き。ってことで開き直ってるっス」


 アウラの活発さを表現したようなシンプルなセパレート式の橙色の水着は見事なまでに似合っている。だが、改めてアウラの体つきを見ると胸の筋肉の付き方や肩幅は、抑え目ではあるが男性の体格である。


 「アウラ、女装癖、変態」


 水面から顔を出したコルテはいつもの如く、アウラに対して毒を吐く。コルテの水着は白と黒を基調としたワンピース型だ。


 「やかましいっスよ!  だけど今のボクは機嫌がイイっす、寛大な心で今の発言は許すっスよ。コルテの少女趣味のおかげでイルザさん達の素敵な姿を拝むことが出来たっス」


 何故かアウラとコルテ二人揃って、イルザに向けて合掌した。コルテがイルザに用意した水着は黒色のビキニだった。胸元にフリルが飾われているが、抑え目なので大人らしさを損なわないデザインだ。


 「ちょ、ちょっとやめなさいよ!  そう言われると恥ずかしいでしょ!」
「イルザさん、ナイスバディ、羨ましい」


 羨望の眼差しとはこういうことなのか、コルテの眼差しはキラキラと輝いているようにも見えた。


 「・・・当然よ、私の姉さんは世界一の美貌の持ち主なのだから」


 「エルザまで何言ってるのよ!」


 「でもものすごく似合っていると思うです」


 「スミレまで・・・」


 浮き板に並んで座るエルザとスミレまでもがイルザに拝みだした。この状況を客観視すると、まるで信者に崇められる教祖のようだ。


 「一体何なのよこの状況・・・。というか、エルザは私とそんなに変わらないじゃない!」


 身長差はあってもボディラインはイルザと同じように出るところは出て、引き締まっているところは引き締まっている。水着は無地の黒色のビキニだが、腰に白色のパレオを巻いている。


 「確かに・・・姉妹お二方はなかなかどうして大人っぽい艶やかな肉体美をお持ちのようっスね」


 「アウラ、その発言、セクハラ。可愛らしさでは、スミレ、負けてない」


 「ふぇっ!?  わ、私はそんなことないですよ」


 「・・・わかっているわねコルテ、流石だわ。あなたがスミレに選んだ水着はナイスセレクトよ」


 と、親指をあげてグーサインをコルテに送る。それを同じグーサインでエルザに返す。この二人は互いに趣味が合うのか、時々このようなやり取りを行う。


 「私の、とっておきの逸品。胸元に、花飾りたくさん。大きさ、気にならない」


 瑠璃色のセパレート式であるが、シンプルなデザインのアウラとは違って胸元には立体的に装飾された花飾りがある。花飾りのおかげで胸の大きさはさほど気にならないどころか、可愛らしさも両立させるデザインだ。


 「こんな美女たちをガキ呼ばわりするヴェンデは一度痛い目にあうといいっス。それとは正反対にグレンさんは正直っスよね〜。完全に目が泳いでたっス」


 プンプンと怒ったり、ケラケラと笑ったり感情表現が豊かなアウラ。すっかりムードメーカーとして会話の中心になっている。そんなアウラだからこそ喧嘩っ早いヴェンデと組めるのだろう。


 「逆にアウラは清々しいくらいに私たちを見てくれるわ」


 「そりゃあ美しいものが目の前にあったら見ないと損っス、失礼極まりないっス。男女問わず可愛いもの、美しいものは芸術っス。美しいものには美しい魂が籠っているっス。逆に醜いものはダメっスね、魂までも醜いっス」


 「うん・・・、なんだかよく分からないけれど下心はないのは何となく分かった気がするわ」


 「めっちゃあやふやに理解されたっス!?」


 などとアウラ特有の芸術感を聞かされたが、理解できなかったイルザ。感性はそれぞれ違うのだから仕方ないと思うことにした。


 「おーい!  そろそろ焼き上がるから戻ってこーい!」


 グレンの呼び声が響いた。


 「おおっ!  ようやくお昼っスね!  いっぱい遊んだからお腹ペコペコっスよ〜」


 「・・・そうね、美味しそうな匂いもしてきた」


 「ってなわけで!  ここから泳いで競争っス!  最下位は誰も着なかった紐ビキニを着てもらうっス。はい、よーいどん!」


 アウラを止める間もなく競争が始まってしまった。


 出遅れた四人は着たくない紐ビキニを巡って必死にアウラを追いかけるのであった。






 「お前ら何やってんだ・・・そんなに腹が減ってたのか?」


 完全に息を切らした女性陣(男一名)は膝をついていた。結果として最下位になったのはスミレだった。


 「グレンさんグレンさん」


 「ん?  なんだ?」


 「今のは競争で最下位の人は紐ビキニを着るっスよ」


 「ぶはっ!?  紐!?  ってことは・・・」


 競争を最後まで見ていたグレンは、もちろん到着順を把握していた。


 頭に紐ビキニに姿のスミレが思い浮かばせる。


 「ふっふっふー。グレンさん、今えっちな想像したっスねー?」


 「おおおおい!  そういうこと言うのやめろ!?」


 「変態、この腐れ汚物」


 「イルザ!?  やめろ、そんな目で見るな。つーかお前ら大人気ないぞ!  スミレが可哀想だろ!?」


 「嫌なものは嫌なんだから仕方ないでしょ」


 「おいおい、おめェら何やってんだ。せっかくの食材が焦げちまうだろ?  ほら皿を持て、そして食え」


 ヴェンデは騒ぎ立てているイルザ達に取り皿をそれぞれ押し付けた。そして気を利かせてくれたのか、イルザとエルザには野菜だけが刺さった串焼きを皿に乗せてくれた。


 「ありがとう、いただくわ」


 グレンの「助かった・・・」という小声が聞こえたが、聞かなかったことにしてあげよう。差し出された初めて見る野菜に興味津々のイルザは串を口に運ぶ。


 一口目にかじったのは、ごつごつとした緑色の野菜だ。程よく焼き目がついており、塗られたタレと香ばしく焼かれている。独特の苦味を初めに感じたが、旨みへと変化していく。


 「・・・・・・?」


 野菜とは思えない溶けてなくなるようなジューシーな果汁(?)のようなものが口の中いっぱいに広がる。かじった部分を見てみると、野菜の中に茶色い具が詰められていた。


 「これは・・・変わった料理ね。でも美味しいわ。なんという料理なの?」
味のアクセントにスパイスが効いている。旨みと苦みが見事に溶けあう料理だった。


 「その緑のは南の方で採れるパプマっつー木の実だ。んで、中に詰まってんのはホロホロ鳥のモモ肉だ」


 「・・・・・・」


 肉を食べた自分自身に絶句するイルザ。苦手だった生臭さを微塵も感じさせない料理。不意にとはいえ美味しいと感じてしまった。


 「うめぇだろ」


 ヴェンデのしてやったというような表情に腹が立つが、美味しいものは美味しい。認めざるを得ない。


 「ええ・・・。美味しいわ」


 「ちっせぇ方の嬢ちゃんも気に入ったみてぇだな」


 イルザが戸惑っているほんの僅かな時間の間にエルザは受け取った串焼きを素早く頬張り尽くした。


 「・・・美味しかった」


 「ほうほう、ヴェンデもたまには粋なことをするんスね」


 「たまには余計だ。まぁ嬢ちゃんらの肉嫌いが解決して良かっためでたしめでたし」


 「ちょっと、勝手に終わらせないで。どうして隠してまでお肉を私に食べさせたのか意図を知りたいわ」


 ヴェンデのことだ、イルザが問い詰めることも予想しているだろう。飄々としているが何か考えがある筈だ。


 「ああ?  焼いたら臭くなくなったってぇだけだ」


 「嘘ね」


 はぁー、と特大のため息を吐いたヴェンデ。


 「嬢ちゃんらはちと世界が狭すぎる。武であれ食であれ、知見を広めるっつーのは大事なこったぁ。たった一度の生なんだ、世界中の美味いもん食ってみるのも生きるスパイスになるっつーことだ」


 「またまた分っかりにくいことを言うっスね〜。要はただ単に、イルザさんにお肉の美味しさを知って欲しかっただけっスね」


 「そういう事にしておいてくれ」


 「何よそれ、まるで私が子供みたいじゃない」


 「長命なだけで精神はまだまだ俺からしたらガキっつーことだよ」


 イルザの何かが切れたような音がした。飛びかかろうとするイルザを止め、イルザを煽ったことを咎めるアウラ。そんな様子をほっとした様子で遠巻きに見つめるグレン。


 (本当のことは言わないんだな)


 もちろん、意図のひとつとしては本当のことを言っている。だが、イルザが肉嫌いに、生臭さに敏感になってしまった原因。


 ただの苦手であれば問題ない、しかし、ヴェンデが言うには神界器デュ・レザムスを手にしている時点でイレギュラーなのである。そのイレギュラーをとことん追求していくという点では、ほんの些細な出来事でも掘り下げて考えなければならない。


 ヴェンデは今は言う必要はないが、その可能性もあるということを認識しておくように。とだけ言い残した。


 (考え事というか、悩み事というか、どんどん増えていくな・・・)


 「グレンさん!  グレンさん!  お肉ですよ!  美味しいです!  イルザさんがこれからはお肉の料理もチャレンジしてみるって言ってたです!」


 スミレもグレン同様に肉を口にするのは久しぶりだったようで、それはそれは年相応のはしゃぎ具合だった。考え事はひとまず置いておくとして、今はスミレのように今目の前にある肉を楽しむことにした。


 「やったな、ああ、でもそうなると捕獲から下処理は全部俺の役目になるのか」


 「・・・よろしく頼むわグレン。あなたは今日から肉取り奴隷よ」


 「物騒な肩書きはやめろ!」


 「・・・冗談。おかわり焼けたみたいだからもらいに行きましょう」


 「行くです!  鳥さんのお肉なのにじゅわっと脂がでてきて美味しいです!  滅多に食べられないかもしれないですから、どんどん取りに行くです!」


 「スミレ・・・お前そんなキャラだったか?」


 「・・・グレン。スミレはこのあと開催される紐ビキニショーを忘れようと必死なのよ」


 ギクッ、と青ざめるスミレ。どうやら図星だったようだ。


 男として、年上として、イルザとヴェンデに頼んで紐ビキニショー罰ゲームは取り止めとなった。さすがに幼女に紐ビキニは、背徳感を感じてしまう。


 だが、影でエルザとコルテは紐ビキニを着せる算段をこっそり練っていたとかいないとか。





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